愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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5.縮まる距離

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 捨ててもらっても構わないものばかりだ。

 泊まる時用の部屋着やスキンケア用品なんか。


 小花ちゃんを部屋に入れる前に、片付けてるといいけど。


 余計なお世話だ。

 わかっているけれど、慶太朗はそういうところに気が回るタイプじゃないから、少しだけ気になった。

 そういう意味では、奈都の言う通りお宅訪問は意味があるかもしれない。


 でもなぁ……。

 まだ、恋人ってわけじゃないし……。


 違う。

 恋人になってから他に女がいたとかわかっても遅い。


 いやいや、いきなり疑ってかかるのはどうなの。

「何考えてるの? 美空」

「え?」

 ぐるぐる考えているうちに、奈都は食事を終えてにまにまと不気味な笑みで私を見ていた。

「峰濱さんとは? 食事をキャンセルしてから連絡きた?」

「うん」

「で?」

 奈都がテーブルの上で腕を組んで、前のめりに聞く。

「で? って?」

 神海さんから聞いて知っているのでは、と思えるほど確信めいた表情の奈都。


 峰濱さん――というか男の人って友達に恋愛話するんだろうか……?


 それはさておき、こうして二人で向き合っていて、奈都の質問攻めをかわせる気がしない。

 そもそも、奈都に隠そうという気もないのだが、先に報告されてしまって言いにくいのが事実。

「土曜の夜、食事した」

「峰濱さん、めげずに誘ってくれたんだ?」

「うん」

 食事に至った経緯を詳しく話す必要はないだろう。

「で?」

「鉄板焼きご馳走になったの」

「そう! それで?」

「また会いましょう、って」

 奈都の上がっていた口角がわずかに下がり、ワクワク感やドキドキ感がトーンダウンしたのがわかる。

「……で?」

「それだけ」

 親友の表情から笑みが消えた。

「……は?」

 がっかりを通り越して怒っているかのような、低い太い声。


 奈都のコレ、神海さんが知るのはいつかな……。


「次の約束は?」

「忙しいみたいで――」

「――時間てのは作るのよ。予定ってのはこじ空けるのよ! 仮病でもなんでも使いなさいよ!」


 そこまでされるのは、ちょっと……。


 奈都はコップ半分の冷たいお茶を飲み干して、興奮を冷めやる。

「どうしたの? やけに私と峰濱さんをくっつけたがるのね」

 奈都が唇を捻らせて、俯く。

「美空が支倉と別れることになったの、私のせいよね」

「え?」

「美空は違うって言ったけどさ? 私が合コンに連れて行かなきゃ――」

「――今も慶太朗の浮気を知らずにいたかもね?」

「……そうね」

 それがいいことではないと、奈都もわかっている。

 そうは言っても、責任を感じているのだろう。

「合コンに行ってなくても、慶太朗とは別れていたと思う」

「どうして?」

「奈都と鈴原くんが別れた時、慶太朗は怒ってたの。男同士だし友達だから当たり前なんだろうけど、鈴原くんが可哀想だって、別に生むなって言ったわけでもないのに別れるって酷いって、怒ってた」

「でしょうね」

「うん。私もムキになっちゃってね? じゃあ私が妊娠しても、慶太朗は狼狽えるんだ? って聞いたの。あの瞬間とき、違うって思った」

 正確には、しまった、と思った。
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