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5.縮まる距離
3
しおりを挟む捨ててもらっても構わないものばかりだ。
泊まる時用の部屋着やスキンケア用品なんか。
小花ちゃんを部屋に入れる前に、片付けてるといいけど。
余計なお世話だ。
わかっているけれど、慶太朗はそういうところに気が回るタイプじゃないから、少しだけ気になった。
そういう意味では、奈都の言う通りお宅訪問は意味があるかもしれない。
でもなぁ……。
まだ、恋人ってわけじゃないし……。
違う。
恋人になってから他に女がいたとかわかっても遅い。
いやいや、いきなり疑ってかかるのはどうなの。
「何考えてるの? 美空」
「え?」
ぐるぐる考えているうちに、奈都は食事を終えてにまにまと不気味な笑みで私を見ていた。
「峰濱さんとは? 食事をキャンセルしてから連絡きた?」
「うん」
「で?」
奈都がテーブルの上で腕を組んで、前のめりに聞く。
「で? って?」
神海さんから聞いて知っているのでは、と思えるほど確信めいた表情の奈都。
峰濱さん――というか男の人って友達に恋愛話するんだろうか……?
それはさておき、こうして二人で向き合っていて、奈都の質問攻めをかわせる気がしない。
そもそも、奈都に隠そうという気もないのだが、先に報告されてしまって言いにくいのが事実。
「土曜の夜、食事した」
「峰濱さん、めげずに誘ってくれたんだ?」
「うん」
食事に至った経緯を詳しく話す必要はないだろう。
「で?」
「鉄板焼きご馳走になったの」
「そう! それで?」
「また会いましょう、って」
奈都の上がっていた口角がわずかに下がり、ワクワク感やドキドキ感がトーンダウンしたのがわかる。
「……で?」
「それだけ」
親友の表情から笑みが消えた。
「……は?」
がっかりを通り越して怒っているかのような、低い太い声。
奈都のコレ、神海さんが知るのはいつかな……。
「次の約束は?」
「忙しいみたいで――」
「――時間てのは作るのよ。予定ってのはこじ空けるのよ! 仮病でもなんでも使いなさいよ!」
そこまでされるのは、ちょっと……。
奈都はコップ半分の冷たいお茶を飲み干して、興奮を冷めやる。
「どうしたの? やけに私と峰濱さんをくっつけたがるのね」
奈都が唇を捻らせて、俯く。
「美空が支倉と別れることになったの、私のせいよね」
「え?」
「美空は違うって言ったけどさ? 私が合コンに連れて行かなきゃ――」
「――今も慶太朗の浮気を知らずにいたかもね?」
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それがいいことではないと、奈都もわかっている。
そうは言っても、責任を感じているのだろう。
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「どうして?」
「奈都と鈴原くんが別れた時、慶太朗は怒ってたの。男同士だし友達だから当たり前なんだろうけど、鈴原くんが可哀想だって、別に生むなって言ったわけでもないのに別れるって酷いって、怒ってた」
「でしょうね」
「うん。私もムキになっちゃってね? じゃあ私が妊娠しても、慶太朗は狼狽えるんだ? って聞いたの。あの瞬間、違うって思った」
正確には、しまった、と思った。
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