愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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9.同期会

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「河内くん、おめでとう!」

 入社時には十人いた本社同期も、今は七人となった。

 私たちの年は他の年に比べて、生き残っている方だ。

 私たちの前五年間に入社した先輩たちは、同期が半分残っているかどうか。

 とはいえ、三人目の退職者の送別会となった前回の同期会はしんみりしてしまったから、今回はおめでたいことを兼ねられて良かった。

 全員で乾杯した後、各々が河内くんに声をかける。

 河内くんは経理部所属で、それはもう超真面目。

 性格をそのまま表している容姿は、眉の上で切り揃えられた前髪と横の髪は耳たぶにかからない長さで、顔の半分を覆うほど大きな黒縁眼鏡はトレードマークも同然。私と同じくらいの身長で細身。

 学生時代にはネクラとかオタクとか揶揄われていたと、いつか飲み過ぎた時にぼやいていた。

 同期会にはそんな風に揶揄う人はいないから、すごく楽しいのだとも話してくれた。

 入社後の研修で一人でいた彼に最初に声をかけたのは慶太朗で、時々二人で飲みに行く仲になった。

 私と付き合っていたことを彼に話していたかは聞いていないが、知っていたとしてもそれを口外するような人じゃない。

「それにしても、俺たちの中で最初に結婚するのが河内とはなぁ」

 企画部の白井しらいくんがジョッキ片手に言った。

 大学時代にアメフトをやっていたと言う彼は、今もムキムキ。

 いつもスーツがはち切れそうだ。

「正確には二人目じゃない」

 奈都がサラダのレタスを咀嚼しながら言った。

「男では、だよ」

 最初に退職した同期は女性で、入社半年で妊娠したのが理由だった。

「羨ましいの?」

 私が聞くと、白井くんはジョッキに残ったビールを飲み干した。

「羨ましい!」

 低くて太い声が部屋に響く。

「なんだよ、俺以外はモテモテじゃねーか」

 いじけた口調でそう言うと、白井くんはビールのお代わりを注文する。

「モテモテなの?」

 そう聞いたのは、私の正面に座るこのみ。

 奈都はこのみの言葉には無関心で、カキフライを頬張った。

 実はこのみは鈴原くんのことが好きで、彼と付き合い始めた奈都に随分辛辣な態度をとったせいで、今日も二人は目も合わせない。

 このみも奈都と鈴原くんが別れたことは知っているだろうけれど、彼女が鈴原くんにアプローチしているのかはわからない。

「モテモテだろ? 河内は可愛い後輩と結婚、支倉は若い子がお迎えに来て、鈴原は秘書室のお姉さまに誘われてさ?」

「秘書室のお姉さま?」

 奈都とこのみの声がハモッた。

 鈴原くんは白井くんを睨みつけた後、気まずそうに隣の河内くんを見つめた。

「断ったんだよ」

 河内くんが言った。

「誘われたけど、断ったって言ってたよな?」

 鈴原くんが頷く。

「あれ? メシ行ったって聞いたけど?」

「え? そうなの?」

 河内くんに聞かれて、鈴原くんが俯いてしまった。

「みんなで! だよな?」

 慶太朗が言った。

「押しが強くてな? 断り切れなかったけど、二人きりは免れたんだよな?」

 鈴原くんがブンブンと首を上下に振る。
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