愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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9.同期会

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「お前はどーなんだよ。若くて可愛い子が待ってたろ? 合コンでお持ち帰りとか――」

「――してない!」と慶太朗が少し大きな声で言った。

「持ち帰りなんてしてない。あの子とも付き合ってるわけじゃない」

「そうなのか!? けど、モテモテは同じじゃねーか」

「鈴原は優しいからモテるのわかるわ」

 このみがニコリと笑う。

 彼女は総務部で、受付担当をしていた。

 来客対応や電話応対など、社の顔とも言える存在だ。

 奈都のようなデキる女感を漂わせる美人と言うよりは、小花ちゃんのような可愛らしくておっとりした印象の美人で、思えば入社時は小花ちゃんに似ていた気がする。

 だが、性格は全然可愛くもおっとりもしていなくて、それを買われて仕事を与えられたようなもの。

 とはいえ、それは半月前までのこと。

 四月の人事異動で、このみは総務部総務課の主任となった。

 受付業務を後輩に任せ、今後は新人教育をする立場だ。

 仕事がデキるという点においては、奈都と同じ。

 ただ違うのは、このみはずっと秘書課への異動願を出していること。

 このみは入社時から秘書課を希望していた。

 ところが、秘書課に配属になったのは、希望していなかった奈都。

 その時からライバル心が芽生え、鈴原くんを巡ってヒートアップした。


 けど、鈴原くんはこのみみたいなタイプは苦手なんだよね……。


 鈴原くん自身が言っていた。

 裏表がある人間は嫌いだ、と。

 だからこそ、慶太朗とも仲がいい。

 このみが奈都に挑発的な視線を向け、奈都はそれを無視する。

「営業の合コンに連れて行ってもらったら? 白井も若くて可愛い子をお持ち帰りできるかもよ?」

「ちょっと、奈都!」

 鈴原くんと慶太朗が青ざめている。

 二人にしたら、元カノを前に合コン話なんて、無理にも笑えないだろう。

「合コンを否定する気はないけど、お持ち帰りなんて言葉は好きじゃないな。女性に失礼な気がするし、もしかしたら男は持ち帰ったつもりでも持ち帰られているのかもしれないから」

「……」

 河内くんが無表情で、淡々と言った。

 全員が息を止めて彼を見る。

 その視線に気づいた彼が、首を傾げた。

「変なこと言った?」

「正論すぎて言葉がないよ」

 鈴原くんがハハハと苦笑いしながら言った。

「そう?」

「そうね。女性を擁護しているのかどうなのかよくわからないけど、わかったわ」

 このみも笑う。

「河内が最初に結婚できたのも納得だな」と慶太朗が言った。

 私と奈都は、顔を見合わせて笑った。

 それからは、河内くんの奥さんの話や、互いの仕事の話で盛り上がった。

 私と慶太朗、奈都と鈴原くんも軽い口調で会話を交わしたりした。

 私たちはそれぞれ恋人になり別れてしまったけれど、顔も見たくない、話しもしたくないと思うほど憎み合って別れたわけじゃない。

 これからは同期として、こうしてたまに会って近況報告をしながら付き合っていけたらいいなと思った。
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