愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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9.同期会

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「じゃ、お疲れ!」

 主役の河内くんより上機嫌で手を振る白井くんは、河内くんの目いっぱいの力でタクシーに押し込まれた。

 二人を見送り、鈴原くんにもう一軒行こうとせがむこのみを横目に、奈都と歩き出す。

 いつもなら二次会もあるのだが、白井くんがあの調子だし、河内くんも遅くならずに帰りたいと言ったからお開きにした。

「どうする? もう一軒行く?」

「ん~、そうね。『SHINFO』は? 歩けそうじゃない?」

「いいわね」と言いながら、奈都がちらりと振り返る。

 気になる? と聞きたいが、やめた。

 聞いても、気にならないと言うのはわかりきっている。

「支倉」

「え?」

 足を止め、振り返って奈都が見ている方向を見る。

 慶太朗が横断歩道を走って渡って来ている。

「美空!」

「なに?」

「話がしたくて」

「え?」

 慶太朗が奈都を見る。

 奈都はじっと慶太朗を見返す。

「謝りたいんだ」

 慶太朗は私じゃなく、奈都に言った。

 奈都が私に、どうする? と視線で問う。

「け――支倉く――」

「――美空、頼む」

 今にも泣きそうな表情と、縋るような声。

 彼が私に何を謝ろうというのかはわからないが、断りにくい必死さが伝わってきて、私だけでなく奈都も困り顔。


 奈都もいるし、大丈夫よね。


「少しだけね」

 私がそう言うと、奈都は「私はここにいるから」と噴水横のベンチに視線を向けた。

 噴水は夏だけで、今は水は溜まっていない。

 私と慶太朗は肩を並べて、ゆっくりと歩き出す。

 駅まで続く広い歩行空間は、昼間はキッチンカーがきて、ベンチでランチする会社員も多い。

 今は、私たち同様金曜の夜を楽しんで行き交う人々ばかり。

 通行人の邪魔にならないように端に寄ると、慶太朗ががばっと頭を下げた。

「ごめん! 小花ちゃんが酷いことを言って」

「え?」

「今更だけど……」と頭を下げたまま慶太朗が呟く。

 小花ちゃんが私に言った酷いこと、とは恐らく『おばさん』発言だろう。

 三か月前のことだし、忘れていたが。

「小花ちゃんから聞いたの?」

「ああ」

「会ってるんだ?」

 慶太朗がゆっくりと頭を上げ、とても困った表情で頷いた。

「……ああ」

「隠さなくてもいいじゃない。さっきも、付き合ってないって言ってたけど、別に――」

「――本当に付き合ってない! ただ、会社に来られるのは困るから……」

 肩を落とし、背中を丸めて項垂れる彼は、どう見ても若くて可愛い恋人とラブラブな様子ではない。

「つきまとわれてるの?」

「……」

 私が心配することじゃない。

 慶太朗と小花ちゃんのことは二人の問題であって、私は関係ない。


 そうよ、関係ない。


「あの子の言葉を、け――支倉くんが謝る必要ないわ。付き合っていないのなら、なおさら」

「そう……かもしれないけど……」

「私もお説教みたいなこと、言っちゃったし」

「……」

「怒ってなかった? ちゃんとフォローして――」

「――美空!」

 ばっと顔を上げた彼が、ぐいっと私に顔を寄せる。

「もう! 無理なのか? 俺、俺は今も美空が好きだ! 俺が悪かった!」

「はせ――」
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