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9.同期会
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詰め寄られて後退るも、伸びてきた慶太朗の手が私の肩を掴む方が早かった。
がばっと抱きしめられ、咄嗟に押し退けようとするもびくともしない。
「もう二度とあんな馬鹿なことはしない! だから、頼む! もう一度俺と――」
「――やめて! 私はもう――」
「――頼む、美空! 好きなんだ! 俺が愛してるのは美空だけなんだ!」
自分の気持ちばかり押し付けて、まるで話を聞こうとしない慶太朗が怖くなる。
「やめて!」
身を捩っても逃れられず、私は思いっきり彼の足を蹴飛ばした。
「いっ――!」
そんなに高くないとはいえヒールのある靴で蹴られるのは、痛いだろう。
慶太朗の手が離れ、私は三歩離れた。
もっと離れようとしたが、それ以上はできなかった。
背中が何かにぶつかったから。
蹲って足を押さえた慶太朗が表情を歪めて顔を上げ、目を見開いた。
「成悟」
上半身を捻って見ると、険しい表情の成悟が立っていた。
彼の手が私のお腹に回される。
出張から戻るのは明日のはず。
昼過ぎに帰るから会いたいと言われていた。
「なんで――」
「――ただいま」
おかえりなさい、と言いたいのに言えないのは、慶太朗の前だからではなく、成悟が怒っているから。
「俺が殴るまでもなかったか」
「せい――」
「――次に美空に触れたら、同期ですらいられなくする」
「――――っ!」
ピリッと空気が尖った。
慶太朗がグッと奥歯を噛んだのがわかる。
「俺は美空を離す気はないから、諦めろ」
慶太朗が足を庇いながらゆっくりと立ち上がる。
「酒のせいだろうが気の迷いだろうが、美空を傷つけた事実が謝って許されると思うな」
「なんでそんなこと――」
「――今はもう、彼女は俺の恋人だ。二度と触れるな」
「……っ」
成悟の手が私の肩に添えられる。
「行こう」
肩を抱かれ、成悟の大きな一歩に引きずられるように私は足を前に出す。
背後の慶太朗が気にならなかったわけじゃないけれど、とてもじゃないけれど振り返る余裕はなく、けれど、そうしてはいけないと理解する余裕はあった。
心配そうに、基、楽しそうに私たちを見ている奈都と神海さんの元へ行く。
「ねぇ、帰るのは明日だったんじゃないの?」
「急用ができて三時間前に帰ってきたんだ」
「それで、どうしてここに?」
「吉良と飲んでて」
肝心な部分を聞く前に、奈都が手に持っているスマホを顔の横で振ってみせた。
なるほど。
神海さんと飲んでいる時に奈都から居場所を聞いた、と。
「俺たち、今日は帰るよ」
「ああ。俺も、なっちゃんに話があるし」
「その呼び方――」
「――お仕置きだよ」
そう言った神海さんは、冗談っぽい軽口に似合わない鋭い目つきで奈都を見ている。
奈都は同期会のことを言わなかったのね。
言わないとは言っていたが、本当にそうしたかは聞いていなかった。
私たちはその場で別れ、私と成悟はタクシーに乗り込んだ。
窓から、私たちを見ている慶太朗が見えたが、その表情まではわからなかった。
「気になる?」
「ううん。ただ――」
がばっと抱きしめられ、咄嗟に押し退けようとするもびくともしない。
「もう二度とあんな馬鹿なことはしない! だから、頼む! もう一度俺と――」
「――やめて! 私はもう――」
「――頼む、美空! 好きなんだ! 俺が愛してるのは美空だけなんだ!」
自分の気持ちばかり押し付けて、まるで話を聞こうとしない慶太朗が怖くなる。
「やめて!」
身を捩っても逃れられず、私は思いっきり彼の足を蹴飛ばした。
「いっ――!」
そんなに高くないとはいえヒールのある靴で蹴られるのは、痛いだろう。
慶太朗の手が離れ、私は三歩離れた。
もっと離れようとしたが、それ以上はできなかった。
背中が何かにぶつかったから。
蹲って足を押さえた慶太朗が表情を歪めて顔を上げ、目を見開いた。
「成悟」
上半身を捻って見ると、険しい表情の成悟が立っていた。
彼の手が私のお腹に回される。
出張から戻るのは明日のはず。
昼過ぎに帰るから会いたいと言われていた。
「なんで――」
「――ただいま」
おかえりなさい、と言いたいのに言えないのは、慶太朗の前だからではなく、成悟が怒っているから。
「俺が殴るまでもなかったか」
「せい――」
「――次に美空に触れたら、同期ですらいられなくする」
「――――っ!」
ピリッと空気が尖った。
慶太朗がグッと奥歯を噛んだのがわかる。
「俺は美空を離す気はないから、諦めろ」
慶太朗が足を庇いながらゆっくりと立ち上がる。
「酒のせいだろうが気の迷いだろうが、美空を傷つけた事実が謝って許されると思うな」
「なんでそんなこと――」
「――今はもう、彼女は俺の恋人だ。二度と触れるな」
「……っ」
成悟の手が私の肩に添えられる。
「行こう」
肩を抱かれ、成悟の大きな一歩に引きずられるように私は足を前に出す。
背後の慶太朗が気にならなかったわけじゃないけれど、とてもじゃないけれど振り返る余裕はなく、けれど、そうしてはいけないと理解する余裕はあった。
心配そうに、基、楽しそうに私たちを見ている奈都と神海さんの元へ行く。
「ねぇ、帰るのは明日だったんじゃないの?」
「急用ができて三時間前に帰ってきたんだ」
「それで、どうしてここに?」
「吉良と飲んでて」
肝心な部分を聞く前に、奈都が手に持っているスマホを顔の横で振ってみせた。
なるほど。
神海さんと飲んでいる時に奈都から居場所を聞いた、と。
「俺たち、今日は帰るよ」
「ああ。俺も、なっちゃんに話があるし」
「その呼び方――」
「――お仕置きだよ」
そう言った神海さんは、冗談っぽい軽口に似合わない鋭い目つきで奈都を見ている。
奈都は同期会のことを言わなかったのね。
言わないとは言っていたが、本当にそうしたかは聞いていなかった。
私たちはその場で別れ、私と成悟はタクシーに乗り込んだ。
窓から、私たちを見ている慶太朗が見えたが、その表情まではわからなかった。
「気になる?」
「ううん。ただ――」
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