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9.同期会
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しおりを挟むお人好しだ。
わかっている。
それでも、心配になる。
「――困ってるみたいだったから」
シートに置いた私の手に、彼の手が重なる。
成悟は何も言わなかった。
彼が運転手に告げたのは、自分のマンションの住所。
私は黙って彼について行った。
部屋に入るなり抱きしめられ、私も抱きしめ返す。
「怒ってる?」
彼のぬくもりにホッとして、ようやく私は聞いた。
怒っていると言われても、成悟の腕の中にいられるのなら構わない。
「ムカついてる。美空に触れたあの男に」
彼の前髪が首筋をくすぐる。
「驚いたわ」
「うん」
彼の頬に自分の頬を摺り寄せる。
成悟が首を傾げて私の頬にキスをした。
「もう、二人きりにならないで」
「うん」
私も首を傾げ、彼の唇にキスをした。
「会いたかった」
「俺の方が会いたかったよ、きっと」
トンッと壁に背中を押し付けられた。
重なった唇は互いにわずかに開いていて、どちらからともなくさし出されて触れた舌同士は熱い。
「ん……っ」
息苦しさに喉が鳴る。
互いのコートを脱がし合う間も、唇が離れることはない。
私の腰を抱いていた成悟の手が背中や胸に触れると、ピリッと痺れるような刺激を受けた。
ようやく唇がわずかに離れ、浅い呼吸が少しずつ深くなる。
彼の手が急くように私の服を乱していく。
服の隙間から冷たい空気が素肌に触れ、思わず身震いした。
何日か留守にしていたせいで、部屋の空気は冷え、乾いていた。
「ベッドに行こう」
「ん……」
言葉とは裏腹に、成悟からのキスは止まない。
とはいえ、さすがに廊下で、はシたくないし、できればシャワーを浴びたい。
「ね」
「ん?」
「シャワー浴びたい」
「後じゃダメ?」
「ダメ。ベッドに入ったら、出たくなくなっちゃうでしょ」
「確かに、な」
漫画やドラマと違い、盛り上がってベッドに入っては、絶対に後で後悔する。
メイクが落ちてベッドを汚してしまうし、そもそも気持ち悪くてそのままなんて眠れない。
彼がすぐにでもベッドに行きたいと思ってくれているのは、生理的な反応からもわかっているが、私は身体を捩って成悟の腕から抜け出した。
「部屋を暖めてくるよ」と言って、成悟がリビングのドアを開けた。
「うん。あ、ねぇ」
「うん?」
前に置いて行った着替えを取るために寝室のドアノブに手をかけ、私は彼を見た。
「おかえりなさい」
成悟が目を細めて口角を上げた。
「ただいま。十分したら俺も入るから、ゆっくりしてて」
十分でゆっくりって……。
手早くメイクを落として髪を洗ったところで、タイムアウトになった。
ベッドを汗で汚さなくて済んだけれど、代わりにバスルームに私の恥ずかしい声を響かせることになってしまった。
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