すべてを奪われた英雄は、

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6章 花が咲く頃

6-17 守りたいもの

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 翌朝、王子はタレタを抱えて朝食の準備を手伝いに台所にやって来た。
 体調は良くなったようだが、もしものために寝かせておく。

 昨日は神官服のククーが薬湯を飲ませたのだが、王子にはその記憶がないらしい。
 残念がっていたが、神官服のククーはお預けになった。
 神官服のククーは王子が寝て心配なくなったので、街に戻っていってしまったからな。

 昨晩の王子を看病していたのはタレタである。
 責任は自分がとるから、主はいつも通りヴィンセントとイチャついておけーと王子の部屋を追い出された。
 ヴィンセントにはいつもより濃厚に深く奥まで愛されました。
 勝手に生贄の印を調べてごめんなさい、と謝ったのだが。
 ついでに、快楽はご褒美にしかならないと思うのだがだが。。。


「はい、王子」

 ヴィンセントがより苦い薬湯をベッドの王子に差し出した。
 嫌そうな顔をしながらも受け取り、顔に苦いと書きながらも、文句も言わずに飲む。

「一応、念のために今日は一日寝ていること。これに懲りたら勝手に街へ行くな」

「、、、うん、ごめんなさい。僕、病気で治療に来ていることを忘れてました」

 俺と一緒にダンジョン行ったり、角ウサギたちと駆け回ったりしていれば、自分が病気だと言われていることなんて忘れてしまうだろう。間接的に俺のせいだ。
 タレタも一緒に沈んでいる。垂れた耳がより垂れている。感情が耳に出てる。
 ヴィンセントがそんな垂れているタレタに気づき、タレタに向かって言う。

「お前も反省したんだろ。王子のことを想ってやったのなら、これ以上のことは私からは言わない。ただ、知らないことで人を死に追いやることもあるんだ。今後、気をつけてくれればいい」

 タレタが感動してヴィンセントを見ている。目がキラキラしている。惚れるなよー?俺のだぞー。

「はい、レン」

 椅子に座っているヴィンセントが笑顔で自分の膝の上をポンポン叩いている。

「ん?」

「レンは離れていると何をするのかわからないから、しばらくはここが指定席だよ」

 ヴィンセントが笑顔だ。
 二人きりなら別に構わないのだが、王子とタレタの目がこの部屋にはあるんですけど。。。王子早く寝てくれ。




 さて、後日。

「ビスタ、あのときは助かった」

 冒険者ギルドで薬草納品時、ダンジョン帰りのビスタと仲間たちを見かけた。
 俺はビスタにお礼を言っておく。
 タレタも俺の肩でペコペコとお辞儀を繰り返している。

「いやー、お礼は夕食を奢ってくれればいいよー」

「ああ、それぐらいなら。これから行くか」

 自分で言っておいて、ビスタのその驚愕の表情は何なの?

「お前ら、俺、レンに夕食奢ってもらうから、勝手に宿で食べて」

「ビスタも気遣いができるようになったか」

「一緒に奢ってもらおうとか思ってないから、ゆっくりしてきて」

「じゃあ、夕食にルルリちゃん誘っちゃおー」

「リンカ、それ、いつもじゃないか」

 ビスタの三人の仲間たちは換金が終わると、さっさと冒険者ギルドを後にする。

「じゃあ、儂も一緒に行こうかのー」

 受付カウンターに爺さん人形が立って主張した。

「どこでも現れるな、爺さん」

「儂もあの場にいて、あの素行の悪い冒険者をわからないように気絶させたのだから、奢ってもらう権利はあるじゃろー」

「爺さん、奢ってもらうって言ったって、何か食えるのか?」

 ビスタの疑問は俺も同じだ。

「ルルリ用の甘いお菓子とか奢ってもらいたいんじゃー。ルルリは財布をしっかり握る節約できる子じゃからなー。ダンジョンで頑張ってる子にはご褒美をあげたいんじゃー」

「いい子だな」

「レン、さすがにお前でも嫁にはやらんぞー」

「俺にはもう甘やかしてくれる人がいるから、大丈夫だよ」

 ん?二人が固まった。

「あー、そういう表情もできるようになったのかのー。それなら一安心じゃー」

「それって、束縛さんか?教会に洗脳されて、、、いや、そんな表情しているなら平気か」

 俺はどういう表情していたのだろう。

「じゃあ、早速行くかーっ」

 ビスタが大声で宣言して、二人と人形一体が冒険者ギルドを後にした。


 俺たちはビスタの行きつけの店に入る。
 賑やかな店内を抜けて、静かな個室に案内される。大神官長訪問の日の騒ぎは収まったようで、すんなりと店内に入れる。
 ビスタはおススメの料理を手早く注文する。
 店もすでにわかっているのか、酒がさっさと出てくる。
 爺さん人形にはおちょこを形ばかり持たせてみる。タレタには野菜ジュースを与えてみる。

「けど、何であんな都合よくあそこにいたんだ?偶然か?」

「んなワケあるか。お前があんな心音出すから、心配になって人ゴミ掻き分けて見つけたんだろうが」

 ビスタのギフトは『心音』だ。俺はどんな音を出していたのだろうか。

「お前とこの街で出会ってから、あんな切羽詰まった感じになったのははじめてだ。俺対策に平坦まっしぐらの心音奏でる奴が。まあ、事情は突っ込まないが、あの坊ちゃんももう大丈夫なんだろ?」

 タレタの方がうんうん頷いている。

「ところで、俺はお前の束縛さんの方が心配なんだが。お前、夕食は束縛さんと一緒に食べなくて良いのか?束縛さんが許したのか?大丈夫か?お前、数日間檻に拘束されたりしない?」

 ビスタのなかでヴィンセントはどんな存在なのだろう?

「今日の帰りの時間は遅くなるかもしれないとは言ってある。ビスタには礼を言う必要があったからな」

「おや?もしかして、冒険者ギルドで俺を待ってた?」

「ダンジョンの帰りはだいたいあのぐらいの時間になるだろうと踏んでいた。良かったよ、予定通りで」

「ダンジョンの我が畑に寄って帰るからなー。けっこう一定の時間で行動しているな。あまり待たせなくて良かった良かった」

 ビスタが嬉しそうに照れながら笑っている。俺が冒険者ギルドで待っていたことがそんなに嬉しいのだろうか。

「ビスタよー、レンのこの表情、何もわかってないぞー。隣国の英雄は己の価値を認識してないんだぞー」

「あ、爺さん、とうとう俺の前で言っちゃった。ダメだよ。皆、ぼやかして言っていたんだから。今のなしー、人形のたわ言をー、俺は聞いてないー」

 ビスタの前では誰も俺のことを英雄だとは言ってない。わかっていることを前提として話しているけどね。
 英雄だと確定しなければ、冒険者ギルドの本部に報告しないのを咎められても、推測の域を出ませんでしたー、とか、決定打がありませんでしたー、とか答えることができる。

 ビスタはすでにわかっていても、確定しないことを選んだ人物だ。
 それは冒険者ギルドの本部の人間であるからこそである。

 けれど。
 俺は立ち上がる。そして右手を胸に当てる。

「ビスタ・リングランド、かつて俺はアスア王国の英雄と呼ばれたことがある人間だ。だが、今は英雄のギフトは持っていない。今の俺は英雄ではない。姿形が変わって、アスア王国では俺を俺と認める者はいないだろう。お前はあの助けをささやかなことと思っているかもしれないが、俺は心から助かったと思っている。ビスタ、最大限の感謝を」

 俺は深々と礼をする。これはアスア王国では最大級の感謝の礼である。テーブルの上のタレタはいつ見てもどう見ても土下座だよ。

「あ、いや、その」

 顔を上げるとビスタが頭を掻いている。手で顔を見せないようにしている。

「だからこそ、その礼として、ビスタ、お前に伝えておく。お前がこの周辺国家の呪いについて調査しているのは知っている」

「え?レン、知ってたの?まあ、知ってるか、うん」

「けれど、とめる手段は各国が呪いをやめる以外存在しない。まあ、無理な話だが」

「そーですよねー。無理な話ですよねー」

 ビスタの言葉に、爺さん人形も頷いている。聖教国エルバノーンが崩壊する予定でもなければ、爺さんたちが神聖国グルシアに来ようとも思わなかったはずだ。

「で、俺は今のところ、神聖国グルシアは守る予定ではある。とりあえず、他の国には関与しない」

「おお、大神官長に高い壁を作ったのに、それでもこの国を守ると」

「ビスタ、お前には俺が守るというこの意味がわかるだろう。本部に報告してもいいぞ」

 ビスタがものすごい渋い顔になる。

「それ、正直に報告したら、仮でも本部がこの国に来ちゃうんじゃないかな?」

「非常時のとき、宗教国家って意外と強いんだよ。割と自給自足できるような仕組みになっているから」

 周辺の国と物のやり取りをしなくても、その国だけで成り立つようになっている。神聖国グルシアだけでなく他の宗教国家もその周りの宗教国家と仲が悪いからそこまで貿易が発展していない。

「神聖国グルシアは難民受け入れするのか?」

「事が起こってからは、誰も受け入れないだろう。というか、結界で入れなくなる。すべては起こる前に行動することだ。この大陸のすべての国が住めない地になるわけではないだろうが」

「起こるのはいつだ?」

「俺は未来予知はできない。まだ先の話だろうが、聖教国エルバノーンの国王が亡くなったら、すぐだ」

 聖教国エルバノーンの国王が存命中にアルス王子に譲位できるかというと難しい話だ。
 アルス王子が成人する前に、あの国王は亡くなるだろう。
 あの国が神の意志を蔑ろにしてきた罰だ。
 神はあの国の神の代理人の権利を取り上げる。

「レン、アスア王国は守らなくていいのか?」

 確認をするビスタに俺は笑う。

「さっきも言っただろう。俺はもう英雄ではない。アスア王国は今の英雄に守ってもらえばいい」

 俺は守りたいものを守ることにしたのだから。
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