すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社

文字の大きさ
85 / 236
8章 初夏の風が吹く

8-7 順調に進む ※クッキィ視点

しおりを挟む
◆クッキィ視点◆

 アスア王国、王都の繁華街に到着した。
 神聖国グルシアに比べて、少し暑い空気に迎えられた。
 アスア王国は信仰自由の国と言うが、印象としては雑多な感じがする。第三者の目から見ると街並みも人も揃っていない。チグハグで噛み合っていない。それぞれが勝手に盛り上がっているようだ。

 馬車から降りると、こちらはもう真夏だと言われても納得するぐらいの薄着の女性たちに囲まれる。

「クッキィちゃん、久々ー。新英雄を籠絡すればいいのよね」

 妖艶な女性たちが歓迎してくれる。
 この者たちに話はもう伝わっている。
 彼女たちは神聖国グルシアの人間だが、王都の花街に潜入している。そういう伝手は使ってナンボである。

「ああ、キミたちの魅力と技術で彼を骨抜きにしてもらいたい」

 今日はアスア王国の国王、新英雄ロイと会う約束をしている。
 シアリーの街を出発するときに従者にすべて指示して、聖都の薬師ギルドから約束を取りつけている。馬車で移動中も魔道具で連絡を取り合い、更なる新英雄の情報を得て対策を練った。

「ロイは金払いも良くって女遊びが大好きなのに、新英雄となってからは王城に缶詰だったから、残念だったのー」

「それは良かった。また遊びに来たくなるように是非とも誘ってくれ」

 私に花のような綺麗どころ五人が付いて来る。ロイのお気に入りと、この店のエースである。

「さて、時間もないことだし、行くか」

「了解」

 この五人、息もピッタリだ。
 王都にはこの店のように各国の息がかかっている店は多い。知らぬはアスア王国ばかりなり。王都には安全神話が存在しているし、各国の怪しい活動は抑えられていると思っている。英雄ザット・ノーレンがいた頃は文字通り抑えられていたが、新英雄に代わってから再び活発化している。
 王都が商売繁盛していると思ったら大間違いである。他国の人間で大賑わいなのである。


 衣装を着替え、超豪華な馬車に乗り換えて、王城に向かう。
 お土産の薬草はかなりの量になる。収納鞄に入れずに、わざと山盛りの荷馬車を後からついて来させる。ここ、ダンジョン大発生中のアスア王国では薬草も薬も足りない。薬ではなく薬草なのは、毒ではないことがすぐにわかるからだ。大量の薬瓶のなかに一つだけ毒が入っている瓶を忍ばされたら確認するのにも大変である。わざわざそんな手間をさせるよりかは、一般人でも見たら判別できる薬草の方がはるかに効率的だろう。
 アスア王国はかなりの恨みを買っている。
 だからこそ、無償のお土産など怖くて手を出せない。薬を持って来たとしたら使わずに捨ててしまう可能性すらある。

 英雄ザット・ノーレンが希少薬草を手に入れ冒険者ギルドに納品し、それを薬師ギルドが手に入れたときには御礼として高頻度でこの王城に挨拶に訪れていた。英雄に指名依頼できるのはアスア王国の国王ただ一人。だとしたら、国王に顔を売っておいて損はなかったのだが、ここに来てソレが役に立つとは。

 毒が混じっていない大量の薬草にご機嫌の国王に新英雄ロイを紹介された。
 ロイは後ろの女性五人に目を奪われている。
 だが、先に話すことは話しておかねば。

「ロイ様、王女様とのご婚約おめでとうございます。今は王族になるために、王城から出られないとか。ロイ様が以前お気に入りだったという女性たちを城下で集めてまいりました。是非息抜きにと思いまして、お話し相手にでもなればと連れて来たのですが、私が帰った後に楽しく彼女たちをお遊びください」

「おお、そうか。さすがに立場があると、なかなか城下には出られないものだから。なかなか気が利くな」

「いえいえ、実はここまでするのは下心がありまして」

 手をモミモミ。
 この辺はわかりやすい方が良い。下心なく女性やお土産を積み上げる方が怖い。

「ああ、やはりそうかね。だが、英雄ロイはこの城から出すことはできない」

 私は薬師ギルドで来ているので、新英雄にもダンジョンで希少薬草を採取してくれないかという話できたのだろうと国王は推測しているのだ。

「ええ、王族の教育というのは本来幼い頃から積み重ねる非常に大変なものだと伺っております。それを結婚式までの短い期間で行うのですから英雄に時間がないのも頷けるお話です。ですが、我々は償い草を一本欲しいのです」

「やはり、希少薬草か」

 国王がため息を吐いた。護衛に目を向ける前に。

「ただ、英雄ロイ様に採取してきてほしいという話ではございません。今、ロイ様所有になっている前英雄ザット・ノーレン様の収納鞄から売っていただきたいのです」

 さっさと本題に入る。

「もちろん、償い草は冒険者ギルドでの市場価格をお支払いいたします」

「冒険者ギルドの市場価格か?今、償い草は世間には出回っていない。それ以上の価値があると思うがな」

 さすが金遣いが荒い新英雄。自分の金になると思ったら、とことん吊り上げようとする。
 前かがみになり声を小さくして、国王と新英雄だけに聞こえる声にする。

「前英雄の収納鞄は、本人限定。中身を取り出せないのなら、本来一銭にもなりはしないでしょう」

 私は新英雄に穏やかに微笑む。
 新英雄は黙る。
 そう、取り出せないから、今でも中身を売ることもできないことを思い出させる。

「ロイ様、せっかくの財産をそのまま寝かせておくのですか?ロイ様自身がその財産を使わず、子孫に残す気なのですか?遺品を飾らなければならないのであれば、表側の収納鞄だけがあれば良い話。我々は魔力の高い協力者を得ております。償い草一本だけを取り出すことも可能ですが、あの収納鞄に入っている物すべてを取り出すこともできます」

 さらに小さい声にして、ゆっくりと話す。
 新英雄はすでに傾きつつある。だが。

「しかし、ここにその者を連れてきていないところを見ると、収納鞄を預けるということだろう?中身をすり替える可能性が高いんじゃないか?」

 国王が新英雄に忠告することはわかっている。反対にしない方が怖い。新英雄がそこまで頭が回らないということの証明みたいになっているが。

「ええ、そこまで我々も信頼されているとは思っておりません。ですから、ロイ様も英雄になられてから月日が経っております。信頼できる魔術師の方でも護衛の方でも収納鞄と一緒に来ていただいてかまいません」

「そこまで言うのなら」

「我々も確かに珍しい薬草を前にしては欲しいと思うところですが、協力者というのが我が国に来ていただくだけでも高額でして、さすがにすり替えを頼む金額までは出せないというのが本音ですけど。残念ながら」

 私は国王と一緒に笑う。新英雄は魔力の高い協力者が魔族だということには思い当たらなかったようだ。

「さらにここだけの話、私もこの王城に一緒に来てもらいたかったんですよー。そしたら、なんて言ったと思いますー?」

「おお、なんて言ったんだ?」

「無償奉仕はしたくないって言ったんですよ。確かにアスア王国は今やダンジョンが発生し魔物が溢れている地域も多い。その魔物を自分の身を守るために一匹でも倒してしまったら、タダで助かった他の人間がいると思うと胃に穴が開くと。そこまで言われたら、結界で守られている安全な聖都で待っていてもらう他はなかったと」

「まったく、うちの英雄とは大違いだ。これだから金の亡者は。魔力がいくら無尽蔵に使えるとは言ってもそれだからあの一族は」

 国王が笑って言った。その笑いは残酷だ。どう考えても、その英雄はザット・ノーレンを指しているのだから。
 けれど、新英雄は私と国王の会話に興味がなくなったのか、女性たちに手を振っている。

「そうですね。ロイ様、今晩は彼女たちを残していき、明日また迎えに来ます。そのときに収納鞄をお持ちいただく人選を教えていただければ幸いです」

 いったん言葉を切った後、新英雄に伝える。

「ロイ様、このなかに気に入った者がおりましたら、今なら数日間ほど王城に滞在させることも可能です。仲の良いお仲間と一緒にいるのはけっこうなことですが、たまには少し離れてハメを外さないと女性との息抜きもできないでしょう。気心も知れて、魔術にも詳しい信頼がおける者、そして、収納鞄の中身をネコババしない者となると限られてくるでしょう。明日、収納鞄と一緒に出発できれば、戻って来るまで楽しい夜が数日は続くのでしょうな」

 翌日、彼女たち五人を迎えに来た私を、艶やかな顔で新英雄は出迎えてくれた。
 あの店のエースを王城に残して、我々に新英雄の仲間のキザス、騎士団副団長と一小隊がついてきた。四人の女性は店に帰して、我々は神聖国グルシアの聖都に向かった。

 順調に行き過ぎて怖いくらいだ。
 英雄の収納鞄の中に償い草がなかったというオチだけは勘弁してもらいたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

処理中です...