繰り返しの世界で貴方に捧げる物語 ~サンテス王国の黒き番人~

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1章 白き貴公子と黒き皇帝との出会い

1-25 関わり

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「ええっと、ごめん、私にはまだその情報が来てなくて」

 一応謝るルーシェ。
 自分が謝る分には何も厭わない男である。

「フィルス嬢はセリア姫殿下との縁談が進んでいるということですか」

「水面下で。私にはまだ具体的な話は来てませんが、さらに遠方の国々に声をかけるよりは、近場の私ですませてしまおうという感じかもしれません。問題は父が乗り気で」

「フィルス嬢はセリア姫殿下には情を持たれてないのですか」

 質問が逆になっただけだな。

「友人としての情なら持っていますが、私は結婚してこの関係を壊したくないのです」

「関係を壊す?」

 ルーシェがリーシアを見て、天井を見た。

 きゃっ、語り部さんを見つけられちゃったと思った。
 すぐにリーシアに視線を戻したので違った。
 残念。
 語り部さんは皇帝さんよりもルーシェの方が超長ーいつきあいなのになあ。発見されたことはない。

「面識のない方よりも、同性でも気心知れた仲の方が結婚相手としてもお互い、、、」

 ルーシェは首を傾ける。
 リーシアを説得しようとしても、どうにも腑に落ちないものがあるらしい。
 言葉が続かない。

「確かに普通の結婚相手なら友人同士の方がいいのかもしれませんが、セリアは女帝となる人物です。私には皇配になる覚悟もなく、その重圧が耐えられない」

 リーシアの言葉に、ルーシェは何かが引っかかる。
 同じ皇配という立場になるかもしれないから、ルーシェの元に来たのだろうか。
 そうではない、そんな気がする。

「んー?」

 ルーシェはサンテス王国でのことをなんとか思い出す。

「ああ、呪い」

「え?」

「呪われた一族というのが存在してましたね、サンテス王国でも。跡継ぎの男児を女装させて、男が産まれたことを成人まで悟られてはいけないという」

 言い当てられるとは思ってもみなかったリーシアは肩を揺らす。
 そーなんだよね、このリーシアちゃんは男の子だ。
 本当に呪いなのか、しきたりなのかは家にもよるが、この世界ではどこの国でも意外といる。
 その家で成人になる前の男子の死亡が続くと、人々は呪いを疑う世の中である。

 リーシアが女性だと世間を欺けているからこそ、狸爺はこのまま仲のいいセリア姫と結婚させてしまおうと目論んでいる。

 クエド帝国では長男がいれば長男が家を継ぐことが多いが、女性しか産まれていない場合、長女が家を継ぐこともある。特に男性しか爵位を認めない、ということは決してないため、長女がいるフィルス侯爵家では次子で皇族との繋がりを強めようと狸爺が出てくるわけである。
 しかも、本当は女性同士ではない。皇帝になる子供が産まれれば、フィルス侯爵家の狸爺は万々歳である。

「なぜ、それを。私のこの姿で疑われることは一度もなかったのに」

「貴方の言葉はなぜか用意されていた感じがしました。演技ということなら確かに騙されるレベルのものでしたが」

「私がまだまだ未熟だということですか」

「いえ、フィルス嬢はセリア姫殿下のことがお好きなのに、なぜ結婚しないのか、それともできないのか、というところに視点を置き換えて考察してみました」

「確かにセリアのことは好きですよ。けど、それは友人として」

 慌てて言葉を重ねるリーシア。
 そのリーシアを微笑ましく見るルーシェ。

「女性だった友人が男性として結婚相手として現れたら、どうセリア姫殿下が受け取るか。それが心配なのではありませんか。貴方はセリア姫殿下のことを大切に思っているからこそ、嫌われたくなかったのでは?」

 リーシアはルーシェから視線を逸らした。
 その行為が肯定を意味しているかのように。

「、、、そうですね。結婚相手になっても、同性の友人として求められているのなら、セリアから肉体関係は求められないでしょう」

「え?私は同性でも皇帝陛下とイチャつきたいと思いますが」

 キッパリハッキリ。
 そういう気がしたよ。
 ルーシェは正直だね。隠さないよね、そういうところ。
 言う相手は選んでいるだろうけど。

「同性同士だったなら子供は産まれない。私との行為は、その、普通に男女関係だ」

「セリア姫殿下も清い白い結婚を望まれているのですか」

「、、、女性同士と思っているのなら、その可能性も」

「そうですかね?」

「え、シルコット殿から見ると、違うんですか?セリアは欲求不満なんですか?性欲絶倫に見えるのですか?」

 リーシアが少々壊れた。
 誰にも男だとバレたことはないと思っていたからだ。

 だが、国の上層部は騙されていない。
 皇帝さんと宰相さんの二人もしっかりとつかんでいる。
 だから、二人だけのパジャマパーティは完全に阻止されてきた。密室に二人きりになる予定は徹底的に潰されてきた。

 皇帝さんも養子とはいえ娘は可愛いのだ。
 責任を取らぬ男を近づけさせるわけもない。


 数分後。
 ようやくリーシアが落ち着いてきた。

「でも、ルーシェ殿は私のことを本当によく見抜きましたね」

「それは貴方には過剰な褒め言葉は必要ない気がしたので、なんとなく」

 過剰な褒め言葉というのは今も女性相手にルーシェが垂れ流している。
 男性にも褒めるときは褒めるが、ルーシェの褒め言葉は特に褒め言葉が欲しいと強く思っている相手に向ける。

 うんっ、皇帝さんは意外と嫉妬深いぞっ。
 今は見て見ぬフリをしているけど、婚約式をした後は絶対束縛されるぞっ。
 女性に褒め言葉を必要以上語ったら、首輪をつけられるぞっ。
 気をつけろっ、ルーシェ。

 いや、それがルーシェの幸せなのか?
 ルーシェと皇帝さんは意外と噛み合っているところがあるからなあ。


 外見よりも内面や行動を褒めた方が反応が良い人間は、外見に絶対の自信を持っているからか。
 褒め言葉に反応が薄いのは、褒められ慣れたせいか。

 リーシアに承認欲求がないかというとそうでもない。
 偽りの姿と思っている着飾った女装の自分をいくら褒められても、リーシアの心は動かないだけだ。

 成人の十五歳になったからといって、いきなり女装をやめることはできない。
 すべてを打ち壊す行為を。
 セリアからの信頼を、友人関係を、気安い時間を失うのは躊躇われた。

「うちの狸親父が出てこなければ、セリアと結婚して幸せになれるのになあ」

 貴族特有の悩みだ。
 言い訳と言えば、ただの言い訳だ。

「そういうことなら、宰相殿が手を打つのでは?」

「父は何でも化かす狸親父だから」

「セリア姫殿下を貴方が守るのでしょう、リーシア殿」

 リーシアの瞳が瞬く。
 誰がセリアを守るのか。
 まるで、今、気づいたかのように。

「そうですね。まずはセリアが私との結婚について本当はどう思っているのか聞いてみます」

 本当は嬉しかった。
 セリアに言われたとき。冗談であったとしても。
 セリアと結婚できればどんなにか。
 友人としてでも。

「まあ、いざとなったら、本当に女性になるとか」

「うっ」

 怖いことをルーシェに言われたリーシアだった。
 リーシアは別に心まで女性というわけではない。
 セリアとの結婚に男を捨てるまでの覚悟があるのかというと、微妙だった。
 できれば男としての自分を受け入れてほしいと思っていることを自覚した。




「ああ、風の魔法で密談していたという報告が来てましたね。狸爺との交渉は落ち着くところに落ち着いてますよ」

「良い着地点が見つかったということですか?」

「一応、あの狸爺も人の親ですからねえ。リーシアがあの姿のままじゃ結婚相手は探せませんし、親しいセリア姫殿下と結ばれるのなら、大義名分も成り立ちますから。狸爺が政治にあまり口出ししないよう予防線もすでに張りました」

 ルーシェは宰相さんにリーシアのことを尋ねた。
 それは正解だ。
 この件は皇帝さんに聞いてはならない。

「ルーシェ殿、この件はもうしばらくクフィール皇帝陛下には内密に」

 宰相さんが笑顔で口止めする。
 そこでルーシェは周囲を見る。
 何者も見えていないが。

「私のことを物語にしているという語り部さんがすでに皇帝陛下に報告しているのでは?」

「あの間諜まがいがっ」

 宰相さんが語り部さんの間諜まがい扱いをやめないので、皇帝さんに報告しておきましょう、是非。
 ふっふっふっ。
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