繰り返しの世界で貴方に捧げる物語 ~サンテス王国の黒き番人~

さいはて旅行社

文字の大きさ
37 / 51
2章 夢渡り

2-8 王道の夢

しおりを挟む
 超似合わん。

 つい感想から言ってしまった。
 語り部さんだよー。
 まだまだルーシェの夢に在中。

 宰相さんとセリア姫が外では皇帝さんのお仕事肩代わり中で、すでにセリア姫が呪詛を唱えている。
 けれど、仕事量から言ったらまだまだ序の口だぜっ。
 皆、セリア姫には甘いんだからっ。
 仕事は仕事として、次期皇帝にはきちんと配分していこうぜ。
 慣れていかないと困るのはセリア姫なんだからさあ。


「似合わなくて悪かったな」

 仏頂面の皇帝さんが立っている。
 夢で場面転換が起こった。
 衣装もチェンジ。
 皇帝さんだけね。王子様役なのは皇帝さんだけだ。

 うん、、、いつも真っ黒な皇帝さんが、爽やかな白い王子様風衣装を着ている。
 いや、イケメンなので白も似合わないわけではないのだが、超さわやか雰囲気が似合わない。
 白いマントもどうかと思います。
 思考が拒否するってこういうことなのか、というそぐわない感が甚大だ。

 そんなに似合いませんかねえ?という優しい考えの持ち主であるクルリン、心の中でまで気を使わなくてもいいよ。
 ボボは皇帝さんの服装に関して特に何も思ってません。
 消えてしまった肉の残りがまだ入っていたバケツに未練たらたらである。
 だから、クルリンが食べられるときに食べておけというありがたい教訓を授けてくれていたのに。
 クルリンはお腹いっぱい食べられたようだ。
 もぐもぐ。

「そう言うお前はまだ食べているのか」

 黒子語り部さんはー、皇帝さんをびちびちするのに忙しかったのです。
 お弁当は語り部さんの持ち物なので、語り部さんからは消えません。
 おにぎりって便利だよね。歩きながら食べられる。皇帝さんの肩にのったら歩かないけど。

 ううっ、梅干しだった。
 明太子が良かったなあ。まあ、秘伝のはちみつ梅干しだからおいしいことはおいしいんだけどね。

「おにぎりが空中に浮かんでいる。。。少しずつ欠けていっている。。。ということはそこに」

 はーい、語り部さんがいます。
 まだお腹に余裕があるかな、クルリン?

「まだ食べられるか聞いているが」

「え、そりゃ、美味しかったのでいくらでも食べられますが、、、ふぐぅっ」

 梅干しおにぎりをクルリンのお口に突っ込みました。食いかけですけど、それが何か?
 おいしいんですけども、語り部さんは明太子おにぎりの口になっているんですぅ。
 明太子おにぎりはどれかなー?目印つけとけば良かったけど、でも、それじゃあ楽しくない。探す楽しみプライスレス。

 お?皇帝さんも羨ましいと思っている?
 まだまだ育ちざかりだから、たくさん食べたいのかな?

 けど、場面転換しちゃったからねえ。
 クルリンのように早く食べなかった皇帝さんが悪いのさっ。
 さあ、白馬に乗った王子様は出発だっ。

「白馬に乗った王子様?」

 白馬などいないぞ、という顔でこっちを見るな。
 そして、ボボもルーシェ以外乗せないぞという顔で語り部さんを見ている。

 何度言ったらわかるのかな?
 ここは夢だぞ。語り部さんに不可能はないっ。
 ババーン。
 立派な鞍を装備した白馬が現れた。
 王子様の愛馬だ。

「ところで、俺が王子だという設定は年齢的に無理があると思うのだが」

 何をおっしゃる。
 爺になっても王子のままという可哀想な王子もこの世にはいるんだから、とやかく言うんじゃねえ。
 親が権力の座にしがみついていると弊害しか生まれない。

「確かにそういう国もあることにはあるな」

 王の座を跡継ぎに譲位するというのは、ある意味で賭けに近い。
 跡継ぎが国王より優秀なら何も問題ないが、経験の差というのは如実に表れる。どんなに教育を施されようとも、実践を上回る教育というのはほぼ不可能だ。
 だからこそ、皇太子や王太子時代にすでに仕事を任されるのである。軟着陸させるために。

 それなのに端から継がないとされてきた、教育もされず仕事も携わって来なかった五男の皇帝さんがすんなりと皇帝の仕事を完遂させることができるのは、偏に皇帝さんが人ではないからである。
 もはや人外の能力を持っていなければおかしい。
 生まれつき持っていた才能なんて信じないぞっ。

 あー、明太子おにぎりおいしい。

「、、、話の途中で、おにぎりの感想が勝るのは解せないな」

 自分が料理したものって格別においしいよね。
 自分好みに味付けされているからだろうけど、好きな人の好みの味付けにするなんて、語り部さんには信じられないよ。
 料理は作ってくれた人に感謝して食べるべきだよ。
 どんなにマズくともっっ。

「この梅干しおにぎりも美味しかった」

 ありがとう、クルリーン。褒められると作り甲斐があるよー。
 今日のおにぎりは塩加減が秀逸。
 シンプルな塩むすびも好きだけど、ピクニックにはワクワクする具が欲しいよね。

「くそっ、おにぎりの話題になりやがった。俺はこの格好でどうすれば良いんだ。案内人が案内を放棄してどうする」

 白馬が来たんだから、白馬に乗りなよ。
 白馬に乗った王子様なんだから。

「くそっ、このご都合主義めっ」

 皇帝さんが悪態をつきながら白馬に乗った。
 クルリンとボボは後方からついてくる。
 馬はのんびりカポカポと歩いているので、別に走っているわけでもない。

 クルリンは引き摺られなくても自発的についてくるように進化してしまったな。
 皇帝さんからは逃げられないと悟ったか。

「俺には姿が見えない案内人がいるんだね。夢を案内できるのって夢渡りしかいないと思っていたけど、その人、夢渡りの血族とか?」

 いやー、関係ないっす。
 魔法の才能が豊かなだけっす。語り部さん、天才だから。一回見ればその人だけの固有魔法でもなければたいていのことはできちゃうので。

「お前、何でクルリンの質問にはきちんと返答するんだ?いつもは流したり別の話題にすり替えるクセに」

 おや、拗ねてます?
 チッ、と舌打ちした皇帝さん。

「夢渡りの能力も固有魔法じゃないのか」

「一族の血が流れていないと使えないと言われてましたが」

 実は夢渡りの魔法は一族固有の魔法とかいうわけでもない。
 が、夢渡りは他人の夢の中で暮らしている。その技術を代々伝授しているのである。
 語り部さんが他人の夢の中で生活できるかというと無理である。
 侵入するのが精一杯というところか。

 だって、どうやって他人の夢の中で生活できるの?
 食事とか排泄ってどうするの?不思議すぎるよ。
 皇帝さんやボボのように意識だけ他人の夢に来ているわけではないのだから。

 夢渡りは文字通り、他人の夢の中を渡り歩いている人々なのである。

「ふーん、城が見えてきたぞ。王子役が住んでいる城なのか?」

 ちっがうねー。
 皇帝さんは隣国の王子様なのだよ。

「、、、王子が一人で隣国ねえ。夢だな」

 プラス従者が一人に飛竜一頭。
 案内人は登場人物に認識されないので数に入れないでね。
 護衛もつけずにそんな人数で王子がフラフラ他国を歩いていたら、現実では正気ではない。
 どんな安全な国でさえ、どんなお忍び旅行ですら、偽装工作だとしても、どんなに最強王子だとしても、王子と一緒にいるのが従者がたった一人ということはありえない。

「薔薇がけっこう咲いているね」

 クルリンが周囲を見渡す。
 普通は城のまわりには街があると思うが、なぜかすでに庭。
 庭園は薔薇一色。
 ご都合主義な夢だ。

「ルーシェは薔薇が好きなのか?」

 そんな事実はありません。
 薔薇が好きなのは。

「あら、お客様かしら」

 豪華なドレスを着たご令嬢が王子様を出迎えた。
 この時点で現実ではおかしいのだが。
 ご令嬢が最初に客を迎えるのはどう考えてもおかしいだろ。
 門番はどうした?警備はどこ行った?

「ルーシェ?」

 ご令嬢のお顔を見たクフィールが呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...