その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

文字の大きさ
138 / 196
2章 帝国の呪い

2-45 何事も知らないフリをするのが正解

しおりを挟む
「クロウ様の技を他人が身につけるのは至難の業なのか?」

 シエルド氏が資料を捲りながら、俺に問う。
 知らん。

「俺、リンク王国にいたときは、人に教えたことないから」

「この薬部屋ができて約一か月。いろいろな成果物を鑑定してみましたが、やはりクロウ様一人で作る薬は段違いの効能なんですよね。言うなれば、最上級の最上って感じですかね」

 シエルド様は鑑定魔法が使えるんですかー、知ってたけどー。
 大教会の薬部屋にてシエルド氏と打ち合わせ中。見習たちはいつもの作業を頑張ってもらっている。

「効能が高くないと文句どころか処罰してくるヤツらに囲まれていましたからねえ」

「リンク王国の王宮は今、痛い目に遭っているので因果応報ですね。あの国の王族は何を考えて生きているのか、私でさえ本当に謎なんですよ。有能な人物をわざわざ手放すなんて」

「彼らにとって黒髪の平民なんて代わりのいるゴミみたいなものですよ」

「ゴミ、、、」

「ああ、ゴミは捨て去るものなので、代わりすら必要ないものです」

 シエルド氏が持ってきた資料を見せてもらう。
 最上級のなかでも上中下があるのはわかるが、最上級の最上って何なんだ?

 薬師見習が下準備をして俺が仕上げた薬は上級の上あたりになり、薬師見習だけで作った薬は上級の下にランク付けされているのが多いという話。
 それでも、上級薬の位置づけなら良い薬だと思うのだが。

 シエルド様の鑑定魔法って誰が何の作業を担当したのかまで見えるのだろうか???
 この人の能力って、商会のトップに立つ人間なら絶対に欲しくなるよな。
 従業員がサボっているかどうか、成果物を見れば一目瞭然。どんなに口で誤魔化そうとしても。

「うーん、クロウ様が卑下して言っているわけじゃないのがなー。リンク王国の王族は簡単に滅ぶより痛い目に遭った方がいい気がしてきた」

「リンク王国の王族と会うことなんて、今までもこれからも一生ないのですから、どうでもいいですよ」

「うん、まあ、クロウ様がぶん殴りたいとか恨みを晴らしたいとか言わないのなら、どうでもいいか。うちがどうとでもできる相手なら」

 ぶん殴りたい?
 さすがにそんなことは思っていませんて。
 もう関係のない人たちなのだから、わざわざ関係を結び直すこともない。

「金儲け主義が囲い込んだ薬師様に手を出す馬鹿がいたら見てみたいもんだよねー」

 だらーんと椅子に座りながら発言したのはクーリミオン看守である。
 本日はゴートナー文官が休日なので、代わりの送迎要員なのだが、、、そのまま朝から大教会に居つきやがった。
 ぶっちゃけサボリである。
 別に、コイツは牢獄にいる間もそんなに仕事していないのだが。

 というか、捕虜の俺たちに休日がないのはわかるが、ゴートナー文官って大修繕工事への関与が始まってから毎日送迎の付き添いしていなかったかな?
 ごくごく稀にゴートナー文官に外せない用事があり別の役人が来ていたこともあったが、本当にごくごく稀だった。

 社畜か?
 帝国には休日もないのか?
 あの人、文官だぞ?

 今日の休日も、俺たちに理由を言えないから休日と言っているだけの気がする。

「クーリミオン、お前、たまには姿勢を正したらどうだ?身長も高いのにもったいないぞ」

 、、、シエルド氏は兄らしく、緩く着ていたクーリミオンの軍服の詰襟をしっかりと閉じ直した。
 クーリミオンは超嫌そうな顔をする。

 ここは大教会。
 ニヤニヤしながら二人を見ているちっこいエセルたちが発生してそうだ。
 ついポロっと言っちまったんだ。故意じゃない。つい、あの二十一巻も発売されている物語の感想を言い合っていたときに、この二人を想像してしまうとついつい。
 俺、誰に言い訳しているのやら。

 この超嫌そうな顔も。。。

「シエルドー、お前と同じ身長だよー、俺はー」

「クーリミオン看守の方が二センチほど高いだろ」

 つい正しい知識でツッコミしてしまった。

「クロウ様が何でクーリミオンの身長を知っているんですか?」

「何でクロウがシエルドの身長を知っているんだ?」

 二人に詰め寄られた。
 二人の身長を知っていなければ、その差は出ない。

「見ればわかるだろ?」

「シエルドは踵が少し高い靴を履いているだろっ。見た目は全然変わらないだろっ」

 えー、やだ、何、この双子。
 怖い。
 見た目、同じ身長にするために調整しやがっていたのか?

 調整しているのはシエルドの方だと思うが。
 軍服も軍靴もクーリミオンの方は支給品である。
 けれど、なぜ調整していることをクーリミオンも知っているのか。

 エセル五匹全員が、後ろできゃーっと騒いでいる。
 やっぱりいた。
 非常にやかましい。
 俺だけにしか聞こえない騒音問題。
 頼むから黙っていてくれ。

 あれ?もしかして液体エセルまでいたりしません?波打っていたりしてません?ぴちゃぴちゃと。誰も呑み込まないでね。

「ところで、この薬部屋、何で人口密度が上がっているんですか?」

 俺の半目に気づいて、シエルド様が話題を変えた。
 その指摘に、ちとドキリとさせられる。
 エセルたちのことはバレてないよな。

「メーデは皇帝からしばらくお休みをもらったとのことだ」

「えー?精鋭部隊を解雇ー?」

 だるそうなのにわざわざ言うクーリミオン。
 怠惰を演じるなら、放置しようぜー。
 キャラをブレさせるなよ。
 愛する双子のお兄様がいるからって。

 メーデが困ったように微笑んでいる。
 年齢は確実にメーデの方が上である。
 メーデは大人な対応しているなー。薬部屋なのに大剣背負っているけど。

「クーリミオン看守、わかってて言うな。ポシュが皇帝に泣きついた後、そのまま勤務させておくと皇帝が普通にメーデを使うと判断されて、しばしの休暇をしているだけだ」

「それなら休暇してても、戻ったら命令されちゃうじゃん」

「休暇とは名ばかりで、メーデはポシュが暴走しないように監視しているのだそうだ」

 国からの命令なのか、自主的なものなのか、尋ねることは決してしない。
 メーデが言った通りの理由を俺は受け入れる。面倒だから。

 ポシュは会話に混じらず部屋の隅っこに移り、丸薬をこねこねしている。
 こちらには背中を向けて。
 黒ワンコたちが顔真っ赤なんですー、と密告してくれているが。

「ポシュの暴走って、お偉い方々の会議に突撃することー?」

「それもある」

 メーデがぼそりと答えた。
 それも、って他にもあるの?
 メーデもとめられなかったポシュの行動が?

「クロウ、実は申請書の写しの一枚をポシュに渡したんだ」

 セリムがなぜ答えるっ?
 顔はものすごく困惑した表情を浮かべているが。

「申請書というと」

「皇帝に提出する婚約の」

「そういえば、俺が何枚か写しを作っておいたなあ。皇帝への嫌がらせに」

 許可しなければ何枚でも提出するよ、というデモンストレーションの意味合いで。
 俺も婚約も結婚も申請書を持っている。原本があれば、写しはいくらでも作れるので大丈夫なのだが。

「ポシュに頼み込まれて、、、皇帝に頼めと言ったんだが、、、あまりにもうるさくて、つい顔に」

 セリムがポシュの顔に申請書を叩きつけた光景が目に浮かぶよ。
 相当うるさかったんだね。
 きっと俺の後ろで飛び跳ねているエセルたちと同じくらいうるさかったんだろうね。え?それ以上?

 セリムにつきまとうのは、俺が許さないぞー。

「ああ、皇帝は出さないだろうなあ」

 同性同士の婚約申請書は皇帝へ直々に提出する必要があるが、その提出する申請書をもらうことも困難なのである。
 皇帝が必要と認めなければ、申請書すら拝めないということだ。

「で、その婚約申請書を提出したの?」

「サインしてくれと言われたから、嬉しくて、つい書いてしまったら。いや、本当に皇帝陛下に提出するとは思ってなくて」

 、、、メーデ、頼まれたからと簡単にサインしちゃだめだよ。
 いつか犯罪に巻き込まれるよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...