5 / 291
1章 説明が欲しい
1-5 辺境伯は人外だったんじゃ?
しおりを挟む
砦の図書室に置かれていた日誌は、クバード・スート辺境伯の筆頭執事が書いていた。
備忘録的な役割のありそうな日誌だが、筆頭執事が描くこの辺境伯がなかなかに面白い。これが嘘偽りのない事実だとしたら、、、辺境伯は人間だろうか。。。それとも、チート能力を持った転生者だろうか、とさえ思える。
魔物をバッタバッタと切り倒し、S級どころかSS級の魔物でさえ一人で倒すという豪快な人だった。
スート辺境伯領は現在のメルクイーン男爵領とほぼ同じ領地であるが、昔は魔の大平原からこの一帯、魔物が溢れかえる危険地帯だったらしい。
魔の大平原まで魔物を押し返し、境界に堅牢な辺境伯城を建設して、人が住める領域を増やしたのがこのクバード・スート辺境伯。
この頃からすでにクロとシロ様が記されている。
きちんと守護獣とは書かれているのだが、辺境伯が討伐したSS級の魔物を餌として与えたとの記載も。。。
今は砦を守っている守護獣だが、辺境伯最強説が浮上してきた。
赤ん坊は特にやることもないので、ペラペラと日誌の頁をめくる。
そうすると、シロ様がやって来て、このときはー、あのときはーと解説を入れてくれる。
そして、一冊読み終わると、俺が返しに行く暇もなく次の本がやってくる。それを読み始めてしまうと、いつのまにか読んだ本が片付けられている。
シロ様よ。。。
実は辺境伯の思い出話を誰かにしたかった?
何も理解してなさそうなこんな赤ん坊に辺境伯の武勇伝をベラベラと喋り続けている。あのツンツンシロ様が饒舌に語っている。
あーうーと相槌、ぺちぺちと拍手を入れることは俺も忘れてないが。
「いつも思うんだけど、この子って話を全部理解しているよね」
クロがベビーベッドの柵によじ登って、俺とシロ様を見ている。
そういやシロ様は真っ白なのに、クロはほぼ黒いけどお腹の部分は白い毛なんだよな。普通、対になるものなら白一色、黒一色になりそうなのに。何か理由でもあるのかな?
柵の隙間から覗く、白い毛を見て思う。
俺の視線が自分の白い毛に来ているのに気づいたようだ。
「やっぱー、リアムもカッコイイと思うー?黒いツヤツヤな毛に一筋の白い毛。僕の毛色、美しいだろー?」
クロはナルちゃんなのかな?
シロ様が半目でクロを見ているじゃないか。
興が削がれたようだから、シロ様の今日の辺境伯話はこれまでかな。
愉快痛快な辺境伯の話は面白い。
シロ様の話は面白いだけでなく、背景もしっかりと教えてくれる。
赤ちゃん相手なのに、すべてを伝え切りたい語り切りたいという熱い想いからシロ様は詳細に語る。
この国はクジョー王国。苦情王国、、、いや、何でもない。
国王が支配する、巨大な大陸の西にある国だ。この大陸にある大国と比べたら小さい方だが、この国の西には無限に広がる土地があった。
それが魔の大平原。
この魔の大平原のある地は、他の国々からはこう呼ばれている、極西と。
つまり僻地だ。
この魔の大平原はダンジョンである。ダンジョンコアを壊すと普通のダンジョンと同じように消え去るらしいのだが、ダンジョンコア自体見つかったことがない。それもそのはず、この魔の大平原は奥地に行けば奥地に行くほどS級、SS級の強い魔物が溢れているらしい。砦にクロ、シロ様がいるお陰で、無鉄砲なS級、SS級以外はこちらまで来ない。
そのダンジョンコアは人類が足を踏み入れることさえできない奥地にあるが、もしダンジョンコアを壊すと、砦から先は何もない空間になってしまうのだそうだ。通常ならごくごく普通の大地が広がることになると想像してしまうのだが、そうはいかないらしい。
この世界の普通のダンジョンは洞窟のような入口から地下へと広がっている。こういうダンジョンは大陸全土にどこにでもある。
メルクイーン男爵領には魔の大平原だけが広がり、他のダンジョンは存在しない。
魔の○○と呼ばれるダンジョンは地上部分に存在する。
魔物さえいなければ、ダンジョンとは思えないだろう。
人が住む土地と陸続きなため厄介なのが、このダンジョンである。
境界部分に何も設置してないと、何も知らない人間が足を踏み入れてしまう場所なのである。そして、そこは奥地に行けば行くほど地獄が待っていて、ダンジョンコアまで辿り着いた者はいない。
魔の○○はこの大陸でも両手で数えられる程度しかない。
しかし、その二つがそこまで広くない上に西の西にあるクジョー王国に存在する。
もう一つは、クジョー王国の王都に存在する魔の森。そこは王族が管理しており、こことは違いS級、SS級冒険者が対応しているということだ。
権力者は違うねえ。自分のところだけ囲い込んでいるんだねえ。
クジョー王国の西にあるメルクイーン男爵領に国はそんな冒険者を寄越したこともない。
ちなみに、魔の森と魔の大平原、どちらが難易度が高いかというと、魔の大平原の方が高いとされている。
ほーんと、メルクイーン男爵領では、クロ、シロ様頼みなのだ。
こういうとき国は何もしないのか?強い冒険者を寄越すか、金を寄越すかしてくれても良いのではないのか?魔物を放置したら、その先の領地も危険にさらされるだけなのに。
本当に疑問だけが残る。
砦の守護獣クロとシロ様は、クバード・スート辺境伯とは誓約獣という関係らしい。
元々クロとシロ様はこの地にいたが、辺境伯と誓約を交わしたことにより砦の守護獣となった、と言うのだが。
確かに筆頭執事の日誌にもそう書かれているのだが。
どうも怪しい。
辺境伯についてだけは饒舌なあのシロ様がこの説明だけは歯切れが悪い。
微妙に事実と違うが、嘘は言っていない、という話し方だ。
シロ様は嘘や隠し事が苦手なんだな。
クロと違って。
アイツは面白くなるのなら、飄々と嘘をつく。クリクリおめめが、それでお前はどう動く?どう動くの?って興味津々で見てるからわかる。
愛おしいから、シロ様をぎゅーとしておこう。
「な、なんだっ、急にっ」
シロ様が一瞬照れたのをすぐに隠した。
おや、超可愛い。
クロにもこの可愛さが欲しい。外見だけの可愛さだけではなく。
俺、誰かに振り回されることが好きな人間じゃないから。
シロ様は辺境伯に対してはツンデレだったのだろうか。
辺境伯以外のことに関しては、今もシロ様はツンツンである。
長年つきあっていけば、たまにはデレを見ることができるようになるだろうか。
道のりは遠いかもしれないが、いつかツンデレシロ様も拝見したい。
「シロ様、クロ様、今日もありがとうございますっ」
母上が元気に砦に戻ってきた。シロ様は辺境伯の解説をしてくれたが、クロはお礼を言われるほど何もしていないぞー。たぶん母上は俺の面倒見てくれたのだと思っているんだろうけど。
「リアムっ、今日も大量だぞっ。私もいっぱい魔獣の肉を食べて、いっぱい栄養豊富なお乳をあげるからな」
「おーっ」
俺はぱちぱちとちっちゃいお手々を叩いておく。
貧しいメルクイーン男爵家の食卓が貧相にならないのは、母上の絶大な力のおかげである。討伐した魔物を解体して、多くの肉料理が出てくるからだ。解体場は砦にあるので、冒険者はそこで魔物を解体して、冒険者ギルドに納品する。
母上はメルクイーン男爵家が先祖代々引き継いだ収納鞄を持っている。まあ、親父たちが持っていても宝の持ち腐れなので、母上が持って正解である。けっこう年季の入った、かなり継ぎ接ぎだらけの修繕に苦労して使っている収納鞄だが。見た目は小さい腰鞄だが、魔物やら何やら相当な量が入るらしい。さすがはファンタジー世界。
「リアム、あのリーメルが持つ収納鞄も剣も、クバードが使っていた物だぞ。素晴らしい物なんだ」
シロ様がまるで自分の持ち物かのように自慢した。
「うー」
収納鞄は高価なものだろうと想像がつくが、母上が持つ剣は長剣とも言えず短剣とも言えない中途半端な長さの細身の剣だ。女性には使いやすい物なのだろうか?
「アレは魔剣だ。そして、クバードは双剣で使っていた。見事な戦い方だったんだぞ」
ああ、魔物をバッタバッタと切り倒していたのはあの武器でしたか。
「リアム、魔剣というのはたいした手入れも必要なく壊れることがなくて、刃こぼれもなく切れ味がいつでも最高で、投擲しても持ち主のところに戻ってくる。この剣に魔力を込めると、剣が直接魔物に触れなくとも切れるようになる」
母上、説明ありがとー。壊れない武器というのは戦い続ける者にとって最高の武器だろう。
「リアムも剣が持てるようになったら、もう一本の方の魔剣を持つこともできるだろう」
は、母上ー。
双剣ということは、母上の物と同じ剣がもう一本あるということだった。
母上とお揃い。
なんて素晴らしい。
早く持たせてもらえるように頑張るぞー。
あ、俺、まだ赤ちゃんだった。
何を頑張れば良いのやら。
備忘録的な役割のありそうな日誌だが、筆頭執事が描くこの辺境伯がなかなかに面白い。これが嘘偽りのない事実だとしたら、、、辺境伯は人間だろうか。。。それとも、チート能力を持った転生者だろうか、とさえ思える。
魔物をバッタバッタと切り倒し、S級どころかSS級の魔物でさえ一人で倒すという豪快な人だった。
スート辺境伯領は現在のメルクイーン男爵領とほぼ同じ領地であるが、昔は魔の大平原からこの一帯、魔物が溢れかえる危険地帯だったらしい。
魔の大平原まで魔物を押し返し、境界に堅牢な辺境伯城を建設して、人が住める領域を増やしたのがこのクバード・スート辺境伯。
この頃からすでにクロとシロ様が記されている。
きちんと守護獣とは書かれているのだが、辺境伯が討伐したSS級の魔物を餌として与えたとの記載も。。。
今は砦を守っている守護獣だが、辺境伯最強説が浮上してきた。
赤ん坊は特にやることもないので、ペラペラと日誌の頁をめくる。
そうすると、シロ様がやって来て、このときはー、あのときはーと解説を入れてくれる。
そして、一冊読み終わると、俺が返しに行く暇もなく次の本がやってくる。それを読み始めてしまうと、いつのまにか読んだ本が片付けられている。
シロ様よ。。。
実は辺境伯の思い出話を誰かにしたかった?
何も理解してなさそうなこんな赤ん坊に辺境伯の武勇伝をベラベラと喋り続けている。あのツンツンシロ様が饒舌に語っている。
あーうーと相槌、ぺちぺちと拍手を入れることは俺も忘れてないが。
「いつも思うんだけど、この子って話を全部理解しているよね」
クロがベビーベッドの柵によじ登って、俺とシロ様を見ている。
そういやシロ様は真っ白なのに、クロはほぼ黒いけどお腹の部分は白い毛なんだよな。普通、対になるものなら白一色、黒一色になりそうなのに。何か理由でもあるのかな?
柵の隙間から覗く、白い毛を見て思う。
俺の視線が自分の白い毛に来ているのに気づいたようだ。
「やっぱー、リアムもカッコイイと思うー?黒いツヤツヤな毛に一筋の白い毛。僕の毛色、美しいだろー?」
クロはナルちゃんなのかな?
シロ様が半目でクロを見ているじゃないか。
興が削がれたようだから、シロ様の今日の辺境伯話はこれまでかな。
愉快痛快な辺境伯の話は面白い。
シロ様の話は面白いだけでなく、背景もしっかりと教えてくれる。
赤ちゃん相手なのに、すべてを伝え切りたい語り切りたいという熱い想いからシロ様は詳細に語る。
この国はクジョー王国。苦情王国、、、いや、何でもない。
国王が支配する、巨大な大陸の西にある国だ。この大陸にある大国と比べたら小さい方だが、この国の西には無限に広がる土地があった。
それが魔の大平原。
この魔の大平原のある地は、他の国々からはこう呼ばれている、極西と。
つまり僻地だ。
この魔の大平原はダンジョンである。ダンジョンコアを壊すと普通のダンジョンと同じように消え去るらしいのだが、ダンジョンコア自体見つかったことがない。それもそのはず、この魔の大平原は奥地に行けば奥地に行くほどS級、SS級の強い魔物が溢れているらしい。砦にクロ、シロ様がいるお陰で、無鉄砲なS級、SS級以外はこちらまで来ない。
そのダンジョンコアは人類が足を踏み入れることさえできない奥地にあるが、もしダンジョンコアを壊すと、砦から先は何もない空間になってしまうのだそうだ。通常ならごくごく普通の大地が広がることになると想像してしまうのだが、そうはいかないらしい。
この世界の普通のダンジョンは洞窟のような入口から地下へと広がっている。こういうダンジョンは大陸全土にどこにでもある。
メルクイーン男爵領には魔の大平原だけが広がり、他のダンジョンは存在しない。
魔の○○と呼ばれるダンジョンは地上部分に存在する。
魔物さえいなければ、ダンジョンとは思えないだろう。
人が住む土地と陸続きなため厄介なのが、このダンジョンである。
境界部分に何も設置してないと、何も知らない人間が足を踏み入れてしまう場所なのである。そして、そこは奥地に行けば行くほど地獄が待っていて、ダンジョンコアまで辿り着いた者はいない。
魔の○○はこの大陸でも両手で数えられる程度しかない。
しかし、その二つがそこまで広くない上に西の西にあるクジョー王国に存在する。
もう一つは、クジョー王国の王都に存在する魔の森。そこは王族が管理しており、こことは違いS級、SS級冒険者が対応しているということだ。
権力者は違うねえ。自分のところだけ囲い込んでいるんだねえ。
クジョー王国の西にあるメルクイーン男爵領に国はそんな冒険者を寄越したこともない。
ちなみに、魔の森と魔の大平原、どちらが難易度が高いかというと、魔の大平原の方が高いとされている。
ほーんと、メルクイーン男爵領では、クロ、シロ様頼みなのだ。
こういうとき国は何もしないのか?強い冒険者を寄越すか、金を寄越すかしてくれても良いのではないのか?魔物を放置したら、その先の領地も危険にさらされるだけなのに。
本当に疑問だけが残る。
砦の守護獣クロとシロ様は、クバード・スート辺境伯とは誓約獣という関係らしい。
元々クロとシロ様はこの地にいたが、辺境伯と誓約を交わしたことにより砦の守護獣となった、と言うのだが。
確かに筆頭執事の日誌にもそう書かれているのだが。
どうも怪しい。
辺境伯についてだけは饒舌なあのシロ様がこの説明だけは歯切れが悪い。
微妙に事実と違うが、嘘は言っていない、という話し方だ。
シロ様は嘘や隠し事が苦手なんだな。
クロと違って。
アイツは面白くなるのなら、飄々と嘘をつく。クリクリおめめが、それでお前はどう動く?どう動くの?って興味津々で見てるからわかる。
愛おしいから、シロ様をぎゅーとしておこう。
「な、なんだっ、急にっ」
シロ様が一瞬照れたのをすぐに隠した。
おや、超可愛い。
クロにもこの可愛さが欲しい。外見だけの可愛さだけではなく。
俺、誰かに振り回されることが好きな人間じゃないから。
シロ様は辺境伯に対してはツンデレだったのだろうか。
辺境伯以外のことに関しては、今もシロ様はツンツンである。
長年つきあっていけば、たまにはデレを見ることができるようになるだろうか。
道のりは遠いかもしれないが、いつかツンデレシロ様も拝見したい。
「シロ様、クロ様、今日もありがとうございますっ」
母上が元気に砦に戻ってきた。シロ様は辺境伯の解説をしてくれたが、クロはお礼を言われるほど何もしていないぞー。たぶん母上は俺の面倒見てくれたのだと思っているんだろうけど。
「リアムっ、今日も大量だぞっ。私もいっぱい魔獣の肉を食べて、いっぱい栄養豊富なお乳をあげるからな」
「おーっ」
俺はぱちぱちとちっちゃいお手々を叩いておく。
貧しいメルクイーン男爵家の食卓が貧相にならないのは、母上の絶大な力のおかげである。討伐した魔物を解体して、多くの肉料理が出てくるからだ。解体場は砦にあるので、冒険者はそこで魔物を解体して、冒険者ギルドに納品する。
母上はメルクイーン男爵家が先祖代々引き継いだ収納鞄を持っている。まあ、親父たちが持っていても宝の持ち腐れなので、母上が持って正解である。けっこう年季の入った、かなり継ぎ接ぎだらけの修繕に苦労して使っている収納鞄だが。見た目は小さい腰鞄だが、魔物やら何やら相当な量が入るらしい。さすがはファンタジー世界。
「リアム、あのリーメルが持つ収納鞄も剣も、クバードが使っていた物だぞ。素晴らしい物なんだ」
シロ様がまるで自分の持ち物かのように自慢した。
「うー」
収納鞄は高価なものだろうと想像がつくが、母上が持つ剣は長剣とも言えず短剣とも言えない中途半端な長さの細身の剣だ。女性には使いやすい物なのだろうか?
「アレは魔剣だ。そして、クバードは双剣で使っていた。見事な戦い方だったんだぞ」
ああ、魔物をバッタバッタと切り倒していたのはあの武器でしたか。
「リアム、魔剣というのはたいした手入れも必要なく壊れることがなくて、刃こぼれもなく切れ味がいつでも最高で、投擲しても持ち主のところに戻ってくる。この剣に魔力を込めると、剣が直接魔物に触れなくとも切れるようになる」
母上、説明ありがとー。壊れない武器というのは戦い続ける者にとって最高の武器だろう。
「リアムも剣が持てるようになったら、もう一本の方の魔剣を持つこともできるだろう」
は、母上ー。
双剣ということは、母上の物と同じ剣がもう一本あるということだった。
母上とお揃い。
なんて素晴らしい。
早く持たせてもらえるように頑張るぞー。
あ、俺、まだ赤ちゃんだった。
何を頑張れば良いのやら。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
123
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる