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4章 闇夜を彷徨う
4-9 A級冒険者の出発 ◆ビーズ視点◆
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◆ビーズ視点◆
最初にリアム・メルクイーンと冒険者ギルドで会ったときの印象はどうだったか。
ナーヴァル砦長の顔の印象が強烈だったので、どう思ったのか記憶に残ってないのが正直な感想だ。
砦の顔といえる砦長がこんな凶悪犯のような顔を持つ人物で良いのか。強面冒険者に囲まれていた息子リースでさえ、彼を見て震えた。
ナーヴァル砦長とともに入室してきたリアムの首に下げている白い冒険者プレートを見て、取るに足らない人物だと思ってしまった。
それが最大の過ちだったことに気づいたのは、すべてが終わった後だった。
砦の管理者と紹介を受けた後に、一瞬であの場を牛耳ってしまった。
要注意人物は砦長ではなかった。
顔と冒険者の級で人を判断してはいけない。
そんなこと、わかっていたつもりだったのだが。
リアムは静かで冷静である。
淡々と仕事をこなす。感情を動かされない。
というか、気のせいだと思っていたのだが、思おうとしていたのだが、目の輝きが死んでいる。死んだ目をしている。。。
それは単なる仕事疲れのせいではないだろう。
十二歳という年齢を聞いて、なぜ砦の管理者を子供に任せているのだろうとすら思ったのだが、この数日間で適任者であることを感じた。
砦に入るための最初の研修で、補佐なる人物にいろいろ教えてもらったが、本当に俺は何も知らずに砦に来たことを知った。
補佐は、一応ここまではよその冒険者ギルドでも説明してくれることだぞー、と冒頭部分の説明で言った。リアムにそのことを伝えておけー、と言われたから伝えておくぞー、とまで言われた。
砦のことを何も知らずに来やがって少しは調べてから来い、というリアムの声が聞こえてきそうだった。
誓約魔法を結んだとき、悪事を働くにしろ、もう少しやり方を考えろ、とまで言いたそうな表情を最後にしていたからな。。。
うまい話はない。
そんなこともわかっているつもりだった。
運良く息子とともに砦に忍び込めれば、砦の情報を流す。
もし、俺たちを砦が受け入れなかったら、その悪評を流す。
どちらでも依頼の前金だけで損はないと思えるものだった。
捕まっても、依頼者が逃がす手配を整えるということだったが。。。誓約魔法を結ばれた今、カラダだけ自由になったところで何の意味もないことだ。現状、仲介者からも何の連絡もないが。
というか、あの入室時からの言葉の応酬が記録されている誓約魔法が存在しているのだから、この国での俺の有罪はどこの領地に行っても、王都で王族がいくら弁護したところで確定されてしまっている。
下手に騒ぐよりは、この地で罰金をさっさと払い終えた方が良いという考えになっている。
A級冒険者としての稼ぎは一年間リアムに押さえられているが、最低限の生活費等は手元に残すことを許可されている。冒険者としての食事、武器や装備のメンテナンス等、金がかかることは多い。
冒険者は使い捨てだと考えているかのような領主がいる中で、数日間、砦にいただけでもわかる。この砦は居心地がいい。冒険者が生きるための砦なのである。
「今日も天気が良いなー」
砦から魔の大平原に出る。
昨日の騒ぎが嘘のようだ。
あの亡くなった冒険者三人は、昨日のうちに砦の近くの共同墓地に埋葬された。
無謀な三人の行動は、あの彼が泣き喚いたためにより強調されてしまい、かなりの非難の的になってしまった。
リアムは彼らの遺品から一つずつ埋葬する場にいたのだが、その場に出席する者はごく僅かだった。
というより、あそこまで泣き喚いていたのだから、アーミーという者と恋仲だったのかと思っていたが、そうではなかった。
彼は思い込みが激しく、告白が実ったものだと思い込んでいたらしい。
が、彼の仲間の説明によると、アーミーはファンの一人の好意としてしか受け取っていなかったということだ。
派手な冒険者や強い冒険者には熱烈なファンができることがある。
この砦に移ってきたのも、そのような思い込みの激しいところがあり、他のダンジョンで活動しにくくなったためのようだ。冒険者の腕としては悪くなかったようで、この砦での新たな仲間同士の関係は良好であったようだが、アーミーのこととなると周りが見えなくなってしまっていたという。
彼はあの激しいリアムへの敵意によって、彼自身が砦から排除されることとなった。
リアムのファンは隠れているが、かなり多いらしい。
リアムに恩を感じている者がこの砦には多くの数いるのである。冒険者だけでなく、店や工房の方にも、そしてこの街の住民にも。
あの年齢なのに、意外と慕われているのである。息子と二歳しか変わらないのだが、、、二年経っても息子はあそこまで成長できないだろう。
「魔の大平原の天気が良いのはいつものことだぞ。研修で説明を受けただろ」
話しかけてきたのは、ナーヴァル砦長だった。
大剣を背負っているのは何でだろう。。。
聞きたくないけど、察せられてしまう。
「確かに受けたが。地平線の果ての奥地はいつもおどろおどろしい天気なんだろ」
「ああ、雨が降っているわけでもなく、嵐でもないのだが、天気が悪い。今日は奥地まで日帰りで行こうと思っているんだろ?俺が奥地を案内してやる。その方が効率が良いだろ」
お目付け役だろうか。
ナーヴァル砦長が砦長になったのは、脚の怪我が原因だと聞いた。
俺の目線が向いていたらしい。
「一週間ぐらい行動しても平気だ。昨日、リアムに補助具へ魔力を充填してもらったからな。足手纏いにはならんぞ」
奥地には走っていくだけならA級冒険者なら半日で行ける。雰囲気がいきなり変わるらしい。そこから先も永遠と思えるほど続いているらしいが、本当の奥地には誰も行って戻ってきたことがない。S級以上の魔物がうろうろしているので、行ったは良いが無事に生きて帰って来れることはないのだ。
その手前までが、A級冒険者の担当の範囲である。
「一日留守して、砦長の仕事は大丈夫なのか?」
「砦はリアムがいれば充分回る。砦長がいなくても砦は回るが、リアムがいなければ砦は回らない」
凄いことを聞いた気がするなー。
こんな情報を依頼者が聞いたら喜んでいた気がするな。
俺は砦の情報を他者に流すことを誓約で禁じられている。お金を積まれようと、息子を人質に取られて脅されようと、無理なことになってしまった。
浅はかな自分の行動が招いた結果だが。
「男爵家はそんなに凄い教育をしているのか。代々この砦の管理を任されている冒険者一族だからか?」
それからの話は道中、話しながら行くことになった。
全力疾走で長時間走れるのはA級冒険者だからこそ。脚を怪我したにしてはナーヴァルは普通に俺と並走してくる。というか、俺のスピードに合わせてくれているといった雰囲気すらある。
本当に怪我したのか?と思える運動能力。昨日の囮役でもごくごく普通に大剣を振り回していたから何の問題もないことは知っていたが、長時間走れるかというと別の問題である。
「いいや、リアムはメルクイーン男爵家からは何の教育も施されていない。アイツは物心ついたときからああだった」
「、、、」
いや、そんな人間がいるだろうか?
「アイツは赤ん坊の頃から母親のリーメルさん一筋だ。母親のためだけに三歳で冒険者になり、母親を楽させるためだけにこの砦を改革してきた」
「、、、そんな子供いるのか?」
「この砦はほんの少し前までは領民の税金で成り立っていた。が、現領主のメルクイーン男爵は保養地の整備に金をかけて、砦を顧みない。砦がなければ、この地の平和が成り立たないというのにな。男爵の妻のリーメルさんはB級冒険者で、この砦の前管理者だった。リーメルさんが討伐した魔物の買取代金がすべてこの砦に使われていて、それを何とか砦の独立採算制に変えようとしたのが、リアムだ」
聞けば聞くほど不思議だ。
教育も受けていない子供が、そんなことできるはずもない。
最初にリアム・メルクイーンと冒険者ギルドで会ったときの印象はどうだったか。
ナーヴァル砦長の顔の印象が強烈だったので、どう思ったのか記憶に残ってないのが正直な感想だ。
砦の顔といえる砦長がこんな凶悪犯のような顔を持つ人物で良いのか。強面冒険者に囲まれていた息子リースでさえ、彼を見て震えた。
ナーヴァル砦長とともに入室してきたリアムの首に下げている白い冒険者プレートを見て、取るに足らない人物だと思ってしまった。
それが最大の過ちだったことに気づいたのは、すべてが終わった後だった。
砦の管理者と紹介を受けた後に、一瞬であの場を牛耳ってしまった。
要注意人物は砦長ではなかった。
顔と冒険者の級で人を判断してはいけない。
そんなこと、わかっていたつもりだったのだが。
リアムは静かで冷静である。
淡々と仕事をこなす。感情を動かされない。
というか、気のせいだと思っていたのだが、思おうとしていたのだが、目の輝きが死んでいる。死んだ目をしている。。。
それは単なる仕事疲れのせいではないだろう。
十二歳という年齢を聞いて、なぜ砦の管理者を子供に任せているのだろうとすら思ったのだが、この数日間で適任者であることを感じた。
砦に入るための最初の研修で、補佐なる人物にいろいろ教えてもらったが、本当に俺は何も知らずに砦に来たことを知った。
補佐は、一応ここまではよその冒険者ギルドでも説明してくれることだぞー、と冒頭部分の説明で言った。リアムにそのことを伝えておけー、と言われたから伝えておくぞー、とまで言われた。
砦のことを何も知らずに来やがって少しは調べてから来い、というリアムの声が聞こえてきそうだった。
誓約魔法を結んだとき、悪事を働くにしろ、もう少しやり方を考えろ、とまで言いたそうな表情を最後にしていたからな。。。
うまい話はない。
そんなこともわかっているつもりだった。
運良く息子とともに砦に忍び込めれば、砦の情報を流す。
もし、俺たちを砦が受け入れなかったら、その悪評を流す。
どちらでも依頼の前金だけで損はないと思えるものだった。
捕まっても、依頼者が逃がす手配を整えるということだったが。。。誓約魔法を結ばれた今、カラダだけ自由になったところで何の意味もないことだ。現状、仲介者からも何の連絡もないが。
というか、あの入室時からの言葉の応酬が記録されている誓約魔法が存在しているのだから、この国での俺の有罪はどこの領地に行っても、王都で王族がいくら弁護したところで確定されてしまっている。
下手に騒ぐよりは、この地で罰金をさっさと払い終えた方が良いという考えになっている。
A級冒険者としての稼ぎは一年間リアムに押さえられているが、最低限の生活費等は手元に残すことを許可されている。冒険者としての食事、武器や装備のメンテナンス等、金がかかることは多い。
冒険者は使い捨てだと考えているかのような領主がいる中で、数日間、砦にいただけでもわかる。この砦は居心地がいい。冒険者が生きるための砦なのである。
「今日も天気が良いなー」
砦から魔の大平原に出る。
昨日の騒ぎが嘘のようだ。
あの亡くなった冒険者三人は、昨日のうちに砦の近くの共同墓地に埋葬された。
無謀な三人の行動は、あの彼が泣き喚いたためにより強調されてしまい、かなりの非難の的になってしまった。
リアムは彼らの遺品から一つずつ埋葬する場にいたのだが、その場に出席する者はごく僅かだった。
というより、あそこまで泣き喚いていたのだから、アーミーという者と恋仲だったのかと思っていたが、そうではなかった。
彼は思い込みが激しく、告白が実ったものだと思い込んでいたらしい。
が、彼の仲間の説明によると、アーミーはファンの一人の好意としてしか受け取っていなかったということだ。
派手な冒険者や強い冒険者には熱烈なファンができることがある。
この砦に移ってきたのも、そのような思い込みの激しいところがあり、他のダンジョンで活動しにくくなったためのようだ。冒険者の腕としては悪くなかったようで、この砦での新たな仲間同士の関係は良好であったようだが、アーミーのこととなると周りが見えなくなってしまっていたという。
彼はあの激しいリアムへの敵意によって、彼自身が砦から排除されることとなった。
リアムのファンは隠れているが、かなり多いらしい。
リアムに恩を感じている者がこの砦には多くの数いるのである。冒険者だけでなく、店や工房の方にも、そしてこの街の住民にも。
あの年齢なのに、意外と慕われているのである。息子と二歳しか変わらないのだが、、、二年経っても息子はあそこまで成長できないだろう。
「魔の大平原の天気が良いのはいつものことだぞ。研修で説明を受けただろ」
話しかけてきたのは、ナーヴァル砦長だった。
大剣を背負っているのは何でだろう。。。
聞きたくないけど、察せられてしまう。
「確かに受けたが。地平線の果ての奥地はいつもおどろおどろしい天気なんだろ」
「ああ、雨が降っているわけでもなく、嵐でもないのだが、天気が悪い。今日は奥地まで日帰りで行こうと思っているんだろ?俺が奥地を案内してやる。その方が効率が良いだろ」
お目付け役だろうか。
ナーヴァル砦長が砦長になったのは、脚の怪我が原因だと聞いた。
俺の目線が向いていたらしい。
「一週間ぐらい行動しても平気だ。昨日、リアムに補助具へ魔力を充填してもらったからな。足手纏いにはならんぞ」
奥地には走っていくだけならA級冒険者なら半日で行ける。雰囲気がいきなり変わるらしい。そこから先も永遠と思えるほど続いているらしいが、本当の奥地には誰も行って戻ってきたことがない。S級以上の魔物がうろうろしているので、行ったは良いが無事に生きて帰って来れることはないのだ。
その手前までが、A級冒険者の担当の範囲である。
「一日留守して、砦長の仕事は大丈夫なのか?」
「砦はリアムがいれば充分回る。砦長がいなくても砦は回るが、リアムがいなければ砦は回らない」
凄いことを聞いた気がするなー。
こんな情報を依頼者が聞いたら喜んでいた気がするな。
俺は砦の情報を他者に流すことを誓約で禁じられている。お金を積まれようと、息子を人質に取られて脅されようと、無理なことになってしまった。
浅はかな自分の行動が招いた結果だが。
「男爵家はそんなに凄い教育をしているのか。代々この砦の管理を任されている冒険者一族だからか?」
それからの話は道中、話しながら行くことになった。
全力疾走で長時間走れるのはA級冒険者だからこそ。脚を怪我したにしてはナーヴァルは普通に俺と並走してくる。というか、俺のスピードに合わせてくれているといった雰囲気すらある。
本当に怪我したのか?と思える運動能力。昨日の囮役でもごくごく普通に大剣を振り回していたから何の問題もないことは知っていたが、長時間走れるかというと別の問題である。
「いいや、リアムはメルクイーン男爵家からは何の教育も施されていない。アイツは物心ついたときからああだった」
「、、、」
いや、そんな人間がいるだろうか?
「アイツは赤ん坊の頃から母親のリーメルさん一筋だ。母親のためだけに三歳で冒険者になり、母親を楽させるためだけにこの砦を改革してきた」
「、、、そんな子供いるのか?」
「この砦はほんの少し前までは領民の税金で成り立っていた。が、現領主のメルクイーン男爵は保養地の整備に金をかけて、砦を顧みない。砦がなければ、この地の平和が成り立たないというのにな。男爵の妻のリーメルさんはB級冒険者で、この砦の前管理者だった。リーメルさんが討伐した魔物の買取代金がすべてこの砦に使われていて、それを何とか砦の独立採算制に変えようとしたのが、リアムだ」
聞けば聞くほど不思議だ。
教育も受けていない子供が、そんなことできるはずもない。
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