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4章 闇夜を彷徨う
4-14 その想い、年齢は関係ない ◆ナーヴァル視点◆
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◆ナーヴァル視点◆
交渉は俺よりリアムの方が上手い。
が、リアムは今回、早々と深く追求するのを諦めた感がある。
黒幕まで確定させない気だ。
リアムは表に出てこないだろう。
交渉役をリージェンに任せたら、相手に丸め込まれる気もする。。。
俺がそれでは納得できなかった。冒険者が三人も亡くなっている。人為的な魔物の大群なら、それは冒険者の自己責任と言えるだろうか。彼らの場合は、実力が伴わないのに魔物の群れに飛び込んでいってしまったので彼らのせいでもあるのだが。
せめて釘でも刺せれば。
使用人が実行犯なら、侯爵家はどうやっても関わっているのだ。
あの会議の数日後に、俺は一人、街の外れの保養地にある侯爵邸に赴く。
「ナーヴァルが来てくれるなんて珍しいな」
クリスは笑顔で応接室で迎えてくれる。
護衛が壁際に立っている。
「なあ、クリス。あの晩、なぜ砦に来た?」
俺は単刀直入に聞くことにした。俺も交渉事には向かない。
「あの晩、というと、酒を誘いに行った日か」
「ああ、」
クリスは俺を見ている。
腹芸は貴族であるクリスの方がうわてだ。
「、、、リアムが私に聞いてこいとでも言ったのか?」
「、、、いいや、俺は自分の意志で来た。リアムはあの日のことは真相究明まではしなさそうだ。が、リアム自身の中ではもしかしたらすべてわかっていて、黒幕を追求しないことにした可能性もある」
「ふーん、そっかー。で、私がどう答えても、疑いは晴れないんじゃないの、それじゃ」
「お前らが砦に敵対しないのなら、それでいい」
「へえ?口では何とでも言えるよ」
「そうだな。お前らが言葉を違えるようなら、そこまでの関係なだけだ。こちらも心が痛まない」
明確な意志表示だけはしておく。
殴られたら殴り返す。それだけのことだ。
ここはメルクイーン男爵領だ。侯爵家が敵対するのなら、リアムは砦を守るだろう。
クリスは一度、窓の外を見た。湖面が綺麗に輝いている。
視線を俺に戻した。
「常々思っていたんだが、お前がリアムに対するその献身的な愛は何だ?お前がリアムに愛を囁いても、リアムは絶対に受け入れないぞ」
「そんなこと、他人に言われなくても知っている。アイツがアイツの居場所を見つけてくれればそれでいい」
「いや、それは偽善でしょ。リアムが愛しい恋人でも連れて来た日には、ナーヴァルは嫉妬で狂いそうなんだけど」
リアムが恋人を連れてきたら。
そんな日がいずれ来ればいいと思う。
アイツが孤独でなければ。孤独から解放されれば。
これだけ砦で人に囲まれながら、孤独に見えてしまう人間はいない。
「俺は砦長として必要とされている限りは砦にいる。それだけだ」
結局、俺は昔からリアムのことが好きだったと気づいただけだ。
赤ん坊のときに、俺の顔を見て泣き叫ばないどころか、笑顔で俺を見た。
その奇跡が吹き飛んでしまうのではないかと思い、ベビーベッドの近くに寄れなくなった。
幼いリアムに泣かれたらと思うと、そばに行く勇気さえなかった
元気そうな姿を遠くからチラチラと見守っているだけだった。
リアムが話せるようになると向こうから近寄ってきてくれたが。
きっと弟や息子に対する想いと似たものなのだろう、と年齢から思っていた。
けれど、リーメルさんが亡くなったとき、はじめて自覚した。
あの笑顔が失われて悲しいと。その笑顔を自分に向けてほしかったのだと。
俺の想いを告げられても、リアムは困惑するだけだろう。
リアムはリーメルさん以外どうでもいいのだから。
それは今でも変わらない。
シロ様に依存するかと思ったが、そうでもない。
リーメルさんが最愛の母親なのだから、リアムの恋愛対象は女性で間違いない。
こんな凶悪な顔の年上も年上のオッサンは端から対象に入っていない。
俺はリアムから様々なものを与えてもらった。
砦での居場所も、補助具も、何もかも。
リアムにとっては母上に必要だったからだ。
けれど、俺にとってはそれらは重いものだ。それがあるのとないのとでは俺の人生は雲泥の差が生じていたはずだ。
だから、この想いをリアムに告げることはない。
リアムを砦に居づらくするだけのこの想いは。
告げるなら、死ぬ間際だけが許される瞬間なのだろう。
「本当に献身的だね。泣けてくるよ。その見返りには何かあるの?」
「俺はすでに充分すぎるほどもらっている。リアムが砦で生きるのならそれでいい」
砦長としてそばにいられるだけで、それだけで幸せだ。
「、、、」
呆れた視線をクリスから投げつけられた。
「、、、まあ、今回の件はリアムが思っている通りなんだろうけどね。とりあえずナーヴァルに言えることは、リージェンの収納鞄にキーホルダーをつけた使用人は、もうすでにうちにはいない」
「、、、そうか」
彼らは彼らなりに対処したということだろう。それが意味するものは。。。
「だが、憶測だったのだが、、、肯定されるとは。ナーヴァルがリアムのことをね。。。ふーん、リージェンも大変だ」
「へ?」
憶測?
もしや、俺は肯定しなくても良いことまで肯定していたのか。
いや、クリスもまるで知っているかのように言っていたじゃないか、ってソレが腹芸、交渉術。。。
「リアムはライバルが多いだろ。砦の守護獣も嫁にするって言っているんでしょ」
「いや、だから、伝える気はない。あっ、お前、誰にもバラすなよ。バラしたら明日はないものと知れ」
コイツ、笑ってリアムに言いそうだ。
冗談で受け流してくれれば良いが、そのせいで嫌われたら俺が死ぬ。
「うわっ、本気で脅してるっ。ナーヴァルはリアムのように知的に気づかれないようにやりなよ。あの子は誓約魔法で笑顔で脅すから合法だけど、ナーヴァルのは出るところ出たら捕まるよー。あー、だからナーヴァルはずっと坊ちゃん呼びなのか。街の住民はともかく冒険者の中では、なぜかお前だけがリアムのことを坊ちゃんと呼んでいたからなー」
分析するな。
自覚してからは一線を越えないように、自分に言い聞かせていただけだ。
、、、憶測だよな、クリスのは。
他には誰にもバレていないよな。
十二歳に本気で恋愛感情を抱いているとなると、世間では完全にドン引き案件だ。
リアムが元々子供のような受け答えをしないのが悪い。姿さえ視界に入らなければ、たまに俺より年上なんじゃないかと思えるような言葉を発している。とにかく精神年齢が他の誰よりも上だ。子供っぽかったのはリーメルさんと一緒にいたときぐらいだ。母上ー、母上ーと笑顔で言っている姿は誰よりも微笑ましいものだったのに。
仮定の話は意味がないことはわかっている。
が、リーメルさんが生きていれば、俺はこの想いを一生自覚せずに生きていられたのではないかとさえ思う。
アイツが子供らしい時代は八歳で終了した。
十二歳と言えども、リアムはビーズのように初見では成人しているのでは?と思えるぐらいに成長した。
心からの笑顔を見せないから、俺の心が静まるか、というわけではなく。
物憂げな表情は色っぽささえ感じられるようになってしまった。
たぶん、俺は一生結婚もせずに、リアムの幸せを祈り続ける。
リアムは男爵家の息子のなかで唯一の冒険者だ。現男爵が他の息子に爵位を譲りたいと言っても、国王が許さない。男爵は他に何らかの手を持っているのだろうか。
それでも、リアムが男爵家を継げば、跡継ぎ問題が出て来る。結婚相手に男はお呼びでない。
「ナーヴァル、一応教えておくが、リアムが釘を刺しに行ったのは、私ではないぞ」
俺の考えなど見透かしたかのように、玄関まで送り出しに来たクリスが言った。
それは営業スマイルではなく、心からの笑顔だった。久々に見たぞ、この野郎。早めにそういうことは言え。
「くっ」
俺はやる必要のないことをやった上、言わなくて良いことまで言ってしまったようだ。
交渉は俺よりリアムの方が上手い。
が、リアムは今回、早々と深く追求するのを諦めた感がある。
黒幕まで確定させない気だ。
リアムは表に出てこないだろう。
交渉役をリージェンに任せたら、相手に丸め込まれる気もする。。。
俺がそれでは納得できなかった。冒険者が三人も亡くなっている。人為的な魔物の大群なら、それは冒険者の自己責任と言えるだろうか。彼らの場合は、実力が伴わないのに魔物の群れに飛び込んでいってしまったので彼らのせいでもあるのだが。
せめて釘でも刺せれば。
使用人が実行犯なら、侯爵家はどうやっても関わっているのだ。
あの会議の数日後に、俺は一人、街の外れの保養地にある侯爵邸に赴く。
「ナーヴァルが来てくれるなんて珍しいな」
クリスは笑顔で応接室で迎えてくれる。
護衛が壁際に立っている。
「なあ、クリス。あの晩、なぜ砦に来た?」
俺は単刀直入に聞くことにした。俺も交渉事には向かない。
「あの晩、というと、酒を誘いに行った日か」
「ああ、」
クリスは俺を見ている。
腹芸は貴族であるクリスの方がうわてだ。
「、、、リアムが私に聞いてこいとでも言ったのか?」
「、、、いいや、俺は自分の意志で来た。リアムはあの日のことは真相究明まではしなさそうだ。が、リアム自身の中ではもしかしたらすべてわかっていて、黒幕を追求しないことにした可能性もある」
「ふーん、そっかー。で、私がどう答えても、疑いは晴れないんじゃないの、それじゃ」
「お前らが砦に敵対しないのなら、それでいい」
「へえ?口では何とでも言えるよ」
「そうだな。お前らが言葉を違えるようなら、そこまでの関係なだけだ。こちらも心が痛まない」
明確な意志表示だけはしておく。
殴られたら殴り返す。それだけのことだ。
ここはメルクイーン男爵領だ。侯爵家が敵対するのなら、リアムは砦を守るだろう。
クリスは一度、窓の外を見た。湖面が綺麗に輝いている。
視線を俺に戻した。
「常々思っていたんだが、お前がリアムに対するその献身的な愛は何だ?お前がリアムに愛を囁いても、リアムは絶対に受け入れないぞ」
「そんなこと、他人に言われなくても知っている。アイツがアイツの居場所を見つけてくれればそれでいい」
「いや、それは偽善でしょ。リアムが愛しい恋人でも連れて来た日には、ナーヴァルは嫉妬で狂いそうなんだけど」
リアムが恋人を連れてきたら。
そんな日がいずれ来ればいいと思う。
アイツが孤独でなければ。孤独から解放されれば。
これだけ砦で人に囲まれながら、孤独に見えてしまう人間はいない。
「俺は砦長として必要とされている限りは砦にいる。それだけだ」
結局、俺は昔からリアムのことが好きだったと気づいただけだ。
赤ん坊のときに、俺の顔を見て泣き叫ばないどころか、笑顔で俺を見た。
その奇跡が吹き飛んでしまうのではないかと思い、ベビーベッドの近くに寄れなくなった。
幼いリアムに泣かれたらと思うと、そばに行く勇気さえなかった
元気そうな姿を遠くからチラチラと見守っているだけだった。
リアムが話せるようになると向こうから近寄ってきてくれたが。
きっと弟や息子に対する想いと似たものなのだろう、と年齢から思っていた。
けれど、リーメルさんが亡くなったとき、はじめて自覚した。
あの笑顔が失われて悲しいと。その笑顔を自分に向けてほしかったのだと。
俺の想いを告げられても、リアムは困惑するだけだろう。
リアムはリーメルさん以外どうでもいいのだから。
それは今でも変わらない。
シロ様に依存するかと思ったが、そうでもない。
リーメルさんが最愛の母親なのだから、リアムの恋愛対象は女性で間違いない。
こんな凶悪な顔の年上も年上のオッサンは端から対象に入っていない。
俺はリアムから様々なものを与えてもらった。
砦での居場所も、補助具も、何もかも。
リアムにとっては母上に必要だったからだ。
けれど、俺にとってはそれらは重いものだ。それがあるのとないのとでは俺の人生は雲泥の差が生じていたはずだ。
だから、この想いをリアムに告げることはない。
リアムを砦に居づらくするだけのこの想いは。
告げるなら、死ぬ間際だけが許される瞬間なのだろう。
「本当に献身的だね。泣けてくるよ。その見返りには何かあるの?」
「俺はすでに充分すぎるほどもらっている。リアムが砦で生きるのならそれでいい」
砦長としてそばにいられるだけで、それだけで幸せだ。
「、、、」
呆れた視線をクリスから投げつけられた。
「、、、まあ、今回の件はリアムが思っている通りなんだろうけどね。とりあえずナーヴァルに言えることは、リージェンの収納鞄にキーホルダーをつけた使用人は、もうすでにうちにはいない」
「、、、そうか」
彼らは彼らなりに対処したということだろう。それが意味するものは。。。
「だが、憶測だったのだが、、、肯定されるとは。ナーヴァルがリアムのことをね。。。ふーん、リージェンも大変だ」
「へ?」
憶測?
もしや、俺は肯定しなくても良いことまで肯定していたのか。
いや、クリスもまるで知っているかのように言っていたじゃないか、ってソレが腹芸、交渉術。。。
「リアムはライバルが多いだろ。砦の守護獣も嫁にするって言っているんでしょ」
「いや、だから、伝える気はない。あっ、お前、誰にもバラすなよ。バラしたら明日はないものと知れ」
コイツ、笑ってリアムに言いそうだ。
冗談で受け流してくれれば良いが、そのせいで嫌われたら俺が死ぬ。
「うわっ、本気で脅してるっ。ナーヴァルはリアムのように知的に気づかれないようにやりなよ。あの子は誓約魔法で笑顔で脅すから合法だけど、ナーヴァルのは出るところ出たら捕まるよー。あー、だからナーヴァルはずっと坊ちゃん呼びなのか。街の住民はともかく冒険者の中では、なぜかお前だけがリアムのことを坊ちゃんと呼んでいたからなー」
分析するな。
自覚してからは一線を越えないように、自分に言い聞かせていただけだ。
、、、憶測だよな、クリスのは。
他には誰にもバレていないよな。
十二歳に本気で恋愛感情を抱いているとなると、世間では完全にドン引き案件だ。
リアムが元々子供のような受け答えをしないのが悪い。姿さえ視界に入らなければ、たまに俺より年上なんじゃないかと思えるような言葉を発している。とにかく精神年齢が他の誰よりも上だ。子供っぽかったのはリーメルさんと一緒にいたときぐらいだ。母上ー、母上ーと笑顔で言っている姿は誰よりも微笑ましいものだったのに。
仮定の話は意味がないことはわかっている。
が、リーメルさんが生きていれば、俺はこの想いを一生自覚せずに生きていられたのではないかとさえ思う。
アイツが子供らしい時代は八歳で終了した。
十二歳と言えども、リアムはビーズのように初見では成人しているのでは?と思えるぐらいに成長した。
心からの笑顔を見せないから、俺の心が静まるか、というわけではなく。
物憂げな表情は色っぽささえ感じられるようになってしまった。
たぶん、俺は一生結婚もせずに、リアムの幸せを祈り続ける。
リアムは男爵家の息子のなかで唯一の冒険者だ。現男爵が他の息子に爵位を譲りたいと言っても、国王が許さない。男爵は他に何らかの手を持っているのだろうか。
それでも、リアムが男爵家を継げば、跡継ぎ問題が出て来る。結婚相手に男はお呼びでない。
「ナーヴァル、一応教えておくが、リアムが釘を刺しに行ったのは、私ではないぞ」
俺の考えなど見透かしたかのように、玄関まで送り出しに来たクリスが言った。
それは営業スマイルではなく、心からの笑顔だった。久々に見たぞ、この野郎。早めにそういうことは言え。
「くっ」
俺はやる必要のないことをやった上、言わなくて良いことまで言ってしまったようだ。
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