解放の砦

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4章 闇夜を彷徨う

4-26 それでも、求めてしまう ◆ビッシュ視点◆

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◆ビッシュ視点◆

 B級冒険者ルー、レイ、ロウの三人がここに戻ってきたのを聞いてしまった。
 あのイケメンたちは見れば一目でわかる。目撃談が多い。
 真相がわからないので、皆が勝手な噂を垂れ流している。

 真相を聞きたいと思い砦長室に行くと、苦々しい顔でナーヴァル砦長に怒られ続けているリアムがいた。
 話半分に聞いている態度がさらに火に油を注ぐ結果になっている。
 リアムがそれをわからないわけがないはずなのだが。
 それでも、リアムの書類を書く手がいつも通り動いているのが怖い。

「ビッシュ、どうした?」

 疲れている目をリアムに向けられてしまった。

「あ、ルーたちが砦に戻ってきたと聞いて」

「砦には戻って来ていない。魔の大平原に戻ってきた」

「?」

 その違いがよくわからない。

「現在、彼らは砦の冒険者ではない。俺の奴隷となった」

 リアムの奴隷。
 それが意味するところは。

「まさか、襲われたのかっ」

「、、、誓約魔法で縛ったのだから、未遂で終わる。実際に襲われたわけじゃない、って何度も説明しているんだけどな」

 リアムが横眼でナーヴァル砦長を見る。ああ、砦長に説明ですかー。
 砦長はリアムを大切に想っているからこそ、怒っているんだろうけどなー。

 聞き飽きた、ウンザリだって顔するから延々と説教され続けるんだと思うけどな。

「はあーーーーーっ」

「疲れているのか」

「あ、ああ、そうそう、アイツらは砦の冒険者には危害を加えることができないから安心しろ。他の四人にも言っておいてくれ」

「あ、そうか、奴隷なら、リアムの命令を聞くよね」

 奴隷は奴隷紋で縛られる。

「無償の労働力とはいえ、死なさないためには最低限の必要物資は届けなくはいけないが、魔の大平原に物資を置いておくと、受け取るタイミングがズレると消えてなくなっているからなあ。正確に一日というわけでもないし、たまに一時間でも消えているんじゃないかと思えるときもあるし」

 どうもリアムは直接受け渡しするのを嫌がっている感じがする。忙しくて探している時間が惜しいということだろうか。

「あ、あのさあ、リアム、提案なんだけど、、、」

「ん?」

 リアムが顔を上げた。

「それ、その必要物資、俺が届けるのはどうかなあ?監視役とかは必要じゃないか?」

「、、、」

 リアムが俺の顔をじっと見た。
 そして、頭を押さえた。

「なあ、ナーヴァル、コレは止めるべきなのか?それとも行かせるべきなのか?」

「おいっ、その質問の矛先を俺に向けるな」

「お前は俺より年長者で人生経験も大変豊富なんだろう?他人を朝からこんなにも怒り続けられるほどご立派な考えをお持ちなんだろう?お前が怒るのはわかるが度を越している。そんなお前は大層なご回答をくれるんだろう」

 あ、コレ、リアムも怒っている。
 確かに朝からだと、三時間ぐらいは怒り続けているのかな?
 その間、仕事しろって言いたくもなるだろう。
 砦長の仕事していないのか。。。

「坊ちゃん、俺は心配で」

「他人の心を動かさない怒りは、時間の無駄だ。端的に要点を話して、改善を求めろ。長時間の説教はパワハラだ。あー、さて、ビッシュくん。キミは監視役を心からやりたいわけではないだろう。正直に話してごらん」

 ううっ。リアムに正直に話すと、横のナーヴァル砦長の目が怖くなる気がするなあ。

「あー、うん。一応、俺の誓約魔法の奴隷について説明しておく。ビッシュ、俺がつけた奴隷紋は精神には作用していない。思想や考え方まで俺が縛っているわけではない。だから、ルーたちにお前を抱けとか、お前と結婚しろ、とか強制することはできない」

「あ、いや、その」

 浅はかな考えはものの見事に読まれているな。

「ただ、ある程度の行動は縛る。一生働き続けて俺に貢げ、というのがヤツらが守る奴隷の在り方だ」

 それ、聞くと悲しい在り方だな。。。

「つまり、魔の大平原で強い魔物を討伐して稼いだお金は俺が搾取するってことだ。そして、彼らが生きるための多少の必要物資は届けないと、さすがにこの魔の大平原では生き残れないだろう。俺も別に彼らを殺したいと思っているわけではない」

 たぶん、殺したいと思っている人がそこにいるようですけど。。。その形相は。
 だから、延々と説教されたんだろうな。

「確かに、ビッシュが彼らの必要物資を届けてくれるというのなら、ありがたいし、確実だ。俺は会いたくないからな。彼らと話し合って、またそういう関係になるというのならそれも止めはしない。仲間になるのも自由だ。だが、あの三人の討伐した魔物の代金はまず俺のものになるから、取り分はかなり厳しいものとなる」

 誓約魔法の奴隷って、けっこう厳しい。
 彼らの稼いだ金は確実に俺のものになる。
 仲間で取り分を話し合いで決めることは不可能なのだ。自動的に算出される。

「魔物討伐ポイントは?」

 俺の問いに、リアムは口の端で笑った。
 俺の望みをすべて見透かした笑みだった。

「、、、俺は彼らの戦いに参加していないから、討伐ポイントは勝手に分ければ良い。捧げると言われても、その場にもいない俺がもらえるわけもない」

 奴隷に戦わせて、討伐ポイントを総取りする方法もあることにはあるのだが、実力が伴わない高い級ほど危険なものはない。そもそも、リアムは自分が貰う討伐ポイントを低くしようとしているフシがあると言われている。完全体で納めなければならない剥製作りや酒のための魔物をかなりの数、工房に納めていると聞く。討伐部位さえ切り取れない場合は、冒険者ギルドから討伐ポイントをもらうことはできない。

「お前の幸せが何かわからない俺がお前に何か言えることはないが、質問していいか?」

「え?」

「アイツらの何が気に入ったの?」

「え、、、それは、あの」

 俺は顔が赤くなるのがわかった。
 あ、またリアムが頭を抱えた。

「ああ、うん、答えにくいなら答えなくてもいい。じゃあさー、ビッシュと共にいた四人はどうなの?もしかして、ビッシュと同じようにあんなことされても仲間になりたいとか、必要物資を運んでやりたいとか思っているの?」

 あ、そうか。
 あの四人もまた。。。

「声を掛けるだけ掛けてもいいか?」

「別にビッシュたちの行動を、俺は縛っていない。判断は任せる」

 そう言いながらも、眉間にしわが寄ってますけど。

「あー、他人の性癖は、俺の常識で考えちゃあいけないんだな。何でこんなに世の中は歪んでいるんだか。信じられん」

 リアムが言った。
 たぶんリアムを怒鳴り過ぎて喉がカラカラだったナーヴァル砦長が、お茶でむせた。死にそうなくらいゴホゴホとやっており、補佐が背中をさすり始めた。
 今回も、リアムは何の反応も返さない。

「じゃあ、ビッシュが彼らのところに行くときに声を掛けてくれる?」

「はい」

「アイツらにヤられてそんなに気持ち良かったのか。砦には戻って来れないのだから、そのまま魔の大平原の真ん中でヤるなら、魔物が寄って来るよなー」

「、、、あ」

 俺は顔が真っ赤になる。が、リアムはグリグリと紙に何かを書いている。
 ナーヴァル砦長はまだゴホゴホとむせていた。


 A級、B級冒険者は一か月ほど魔の大平原に遠征に出る。
 その間、性欲がないのかというとそういうわけでもなく、恋人同士や、結婚しているならそういう行為も魔の大平原で致しているらしい。
 だが、魔物は愛の営みの最中も関係なく襲ってくる。というより、そういう行為は汗やニオイが充満する。人間のいる位置がより鮮明に魔物にわかり、襲われやすくなる。
 A級、B級冒険者なら全裸でも得物を持って対処できるだろう。

 C級冒険者の俺たちはB級冒険者に見捨てられたら魔物に殺されるだけだ。
 ベイのように囮に使われたら。
 不安はあるが、それでも、俺の意志は変わらなかった。


 四人に話を聞くと、全員が一緒に行きたいということだった。
 しかも、あのときの不平不満を伝えに行くわけではない。
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