解放の砦

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5章 必要とされない者

5-22 他力本願 ◆それぞれ二人の視点◆

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◆街の外れの教会の神官視点◆

 ガクガクブルブル。
 手が震える。

 クジョー王国王都にある中央教会から緊急の手紙が来た。
 国王から直々に問い合わせがあったという知らせだ。
 メルクイーン男爵家三男のリアム・メルクイーンは本当にF級魔導士か、と。

「ど、どうしよう」

 私はない知恵を絞るしかなかった。




 私がリアム・メルクイーンの魔導士判定の儀式の宝石を覗いたとき、彼にはユニークスキルがあるのがわかった。

『統べる者』

 ユニークスキル持ちは問答無用で王都の魔法学園入学決定である。
 どんなユニークスキルでも。どんなスキルかわからないものであっても。
 ここで、私は思い出す。
 思い出してしまった。
 極西の砦は今や王都でも人気で、そこの商品を手に入れるのは至難の業。持っているだけで噂の的になれると言われている。
 商売繁盛しているのなら、教会への寄付金も弾んでもらえるだろう。

「リアム・メルクイーン様、貴方はF級魔導士です」

 私は言い切った。
 タメて、ババーンと貴方はユニークスキル持ちですっ、と言うつもりだった。

 私が言う順番を間違ったと気づいたのは、振り返るとすでに彼は教会からいなくなっていたとわかったときだった。
 そう、ユニークスキル持ちだということを言わなければ、F級ですか、そうですか、と帰ってしまうのは必然だ。

 私はこう考えていた。
 ユニークスキル持ちは魔法学園入学決定なのだが、さすがに他の学生はC級以上の魔導士が入学する学園である。
 その中でD級以下だとすると立場が悪くなる。
 F級と言われたら、さすがに慌てて寄付金を用意するのは必然だ。
 多額の寄付金があれば、私もこんな僻地の教会ではなく、都会の教会に昇進できるかもしれない。
 欲が前面に出ていた。

 タメが長すぎた。。。
 後から思えば、自分でもそう思うが。


 ユニークスキル持ちは魔法学園入学決定。
 しかし、今のままではリアム・メルクイーンは入学しない。
 それは自分はF級魔導士だけだと思っているから。
 ユニークスキル持ちだと知らなければ、王都に行くはずもない。
 もう関係ないとさえ思っているだろう。

 コレはヤバい。
 ユニークスキル持ちを入学させなかったら、降格処分ぐらいでは済まされない。


 対応を考えていたところに、手紙が来た。
 対応策なんて露さえ考えついていないところに。

 私は早急に国と中央教会とメルクイーン男爵に手紙を書かなければならなくなった。
 リアム・メルクイーンはF級魔導士であり、ユニークスキル『統べる者』の持ち主であると。

 ユニークスキル持ちは珍しく、どう伝えるべきか迷っていたら帰られてしまったと言い訳を丁寧な言葉で書いておいた。
 もうどうしようもない。
 なるようになるしかならない。
 その上、リアム・メルクイーンが判定の儀式を受け直したら、ここでの級が寄付金欲しさのものであることがバレてしまう。
 神官を辞めさせられる。。。
 ううっ、転職活動しておこうかな。
 魔法が使えるから、神官が前職であることを隠せれば何とかなるだろう。
 今まで親の手伝いしてましたー、とか言えばいいか。




 アレから数か月が経った。
 どこからも返事が来ていない。
 リアム・メルクイーンは魔法学園にきちんと入学するのかさえ、私にはわからない。
 中央教会も私の処罰に関して、何も言って来ない。

 どういうことなのだろうか。
 私は助かったのだろうか。
 まだまだ、蛇の生殺し状態が続くのだろうか。
 自分の蒔いた種だが。。。
 けれど、このぐらいのことはどこの教会の神官でもやっている。教会では寄付金こそが正義なのである。

 クジョー王国では秋の収穫が終わった後、十一月に社交シーズンを迎える。
 王都の魔法学園もそれに合わせて十一月に入学式がある。
 この年に成人の十五歳になった者、なる者がこの十一月に入学する。
 もう十月だ。
 出発していなければおかしい時期だ。

 極西の砦に見に行くか?
 そこにいなければ、無事出発したということだろう。
 この地から王都に行くには馬車で一か月はかかる。

 本当になるようになるしかない。





◆ビル・メルクイーン男爵視点◆

 街外れの教会の神官から手紙をもらった。
 三男のリアム・メルクイーンはF級魔導士であり、ユニークスキル持ちであるということ。

 私はメルクイーン男爵家から王都の魔法学園に行く者が現れたのは素直に喜ばしいと思った。

 さすがに教会といえども、訂正は本人宛にもしているだろう。
 リアムは砦の管理者というのはこの辺りでは知られている話だ。
 この家にリアム宛の手紙が来ていないということは、砦宛に出しているはずだ。


 さて、数か月後。
 十月になってしまった。
 魔法学園の入学式は十一月。
 もう出発しないと間に合わないはずなのだが。
 リアムは夜遅い時間に家に帰ってきている。

 ユニークスキル持ちは魔法学園のあの高額な入学金、学費等は免除である。
 旅費がないのだろうか。
 私に何も言って来ないが。

 教会の対応が怪しいとようやく思い始めた。
 もしや、本人に通知していないのだろうか?
 判定の儀式を受ける者は貴族の子供といえども、もう成人になる者だ。
 本人に連絡してしかるべきだと思うのだが。
 しかも、対応が不十分だったと家だけに連絡して謝罪を本人にしないのも不思議な話だ。

 リアムは家に帰って来るのが遅い。
 わざわざ会うのも面倒だと思い、昼食時、四男のアミールに聞いてみた。

「リアムは出発の準備をしているのか」

「何の出発の準備ですか?」

 不思議そうに言葉を返された。

「リアムは魔法学園に入学するから、王都への出発の準備だ」

「お父様、リアムはF級魔導士ですよ。魔法学園の入学はC級以上でしょう」

 次男のルアンが口を挟む。
 そんなこと、私だって知っている。
 ルアンは自分の方が上なのに、という表情を隠そうとしない。

「リアムはユニークスキル持ちだ。魔導士の級に関係なく魔法学園に入学する」

「兄上はユニークスキル持ちなんですか?魔法学園ということは二年間も王都に行ってしまうんですか」

 アミールの表情は読めない。喜ばしいのか、悲しいのか、よくわからない表情だ。
 逆にルアンは悔しそうな表情を浮かべている。
 ユニークスキル持ちが優遇されるのは、能力が特殊だからだ。ユニークスキルの内容如何ではA級魔導士どころかS級魔導士よりも優遇されることがある。王族お抱えの魔導士になることさえ夢ではない。

「ああ、王都の魔法学園に入学するから二年間この領地を離れることになる」

「断ることはできないんですか」

「ユニークスキル持ちの入学は強制だ。ところで、アミールはリアムから聞いていないのか?」

「何をですか?」

「リアムがユニークスキル持ちだということを」

「いえ、教会でF級魔導士と判定されたとしか聞いておりません」

 コレは完全に教会が本人に連絡し忘れていると見て良いだろう。

「今から出発して入学式に間に合うか?」

「え?すぐに出発するのですか?」

「そうしないと間に合わない。いや、今の時点でも間に合わない可能性の方が高いが」

「リアムはF級魔導士なんでしょう。遅れたら、授業にだって置いていかれるんじゃないですか。学園に向かわせるだけ時間の無駄では?」

 悪意に満ちた表情でルアンが言った。
 弟を華々しい王都に向かわせたくない気持ちが充満している顔だ。
 嫉妬というのが正解だろうか。

「ルアン、強制だと言っただろう。ユニークスキル持ちは成績がどうだろうと、二年間は魔法学園に縛られる。その能力が国に有益であると認められれば、」

 私は言葉を切った。
 リアムは三男だ。国に認められれば、高収入の職が手に入る。
 この領地には戻って来ないだろう。
 三男ではこの領地の跡を継げないし、こんな僻地では貴族の縁談もない。
 となれば、王都行きを祝ってやるのも親の務めか。冒険者として命を脅かされる生活ではなく、魔導士として安定した生活を手に入れられる。

 砦の管理者は、冒険者を引退する者にさせればいいか。
 どうせ砦の仕事などたかが知れているだろう。
 頭の悪い冒険者ができる仕事なのだから。
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