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5章 必要とされない者
5-28 いつだって人を追い詰めるのは魔物ではなく人間である
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どんなに遅くに帰ったとしても、疲れが取れなくとも、朝はやって来る。
家事をして、砦に行って、家に戻ってルイ・ミミスに会って、また砦に向かう。
今世もまた社畜化している気がする。
砦の管理者なんて雇われ店長みたいな感じだよな。
給与をもらってないけど。
本当なら男爵家が給与を払うべきなんだけど。
サービス残業でも一応基本給は支払われているブラック企業よりひどい。
うちの奴隷の方が飼い主にまだ面倒みられていると思うよ。だって、一応きちんと生活費は面倒見ているし、武器等のメンテナンスも定期的にしているし、装備も服も必要な物も揃えている。ビッシュたちの働きもあって事細かな指示もできていることだけど、アイツら前より艶々している気がするのはなぜだろうな。
まあ、彼らの稼ぎは俺の稼ぎになるから面倒を見るのは当然なのだが。
奴隷にならなければ、さらにより良い暮らしをしていたと思うんだが、彼らに思うことはないのだろうか。
「リアムー、オッムライスー」
態度はデカいが姿はちっこいクロが砦長室にやって来た。
もうお昼か。
「何っ、オムライスっ?坊ちゃん、オムライス作るのかっ」
ナーヴァルが聞いてしまった。
「、、、クロとシロ様に作るけど、ナーヴァルには作る気力が湧きません」
「正直者めっ。断るにしても遠回しな表現にしろっ。俺が傷つくぞ」
だって、ナーヴァルには最低でも三人前は作らないといけないし、五人前は欲しいとか要求するから作りたくなくなるのである。
昨夜のバカ兄貴のせいで肉体的にも精神的にも疲れているのに、どれだけの苦行を強いるつもりだ。
精神的な疲れが大きいのかな。この世界で徹夜しても何とかなるのに。多少なりとも寝たのに。
オムライスはクトフにも作るけど、クトフは一人前である。クトフも成長して結構な量を食べるはずなのだが足りるのか。足りなければ、厨房にいるのだから自分で何か作って食べているだろうけど。
「何か調子悪そうだな」
「ちょっとね」
「家で荷物詰めるのも大変なのはわかるが、ちゃんと寝ろよ」
王都に行く準備は収納鞄に全部詰め込むだけである。
そもそも、俺は誕生日にはあの家を出る気だった。
俺の部屋はすでに綺麗である。
王都へ行くときには、俺の物はあの部屋からすべて消えている。
クロとシロ様の毛で作った布団も収納鞄に入れて持っていく。
「リアムー、厨房に行こー」
と言いながら、クロは俺の上着の中に入り、頭だけ襟からニョっと覗いている。
以前にここへ入り込んでから気に入ったようだ。
「はいはい」
この方が頭や肩にのられるよりも目立たないので、街の住民に拝まれることは少ない。
見つかると二度見されて熱心に拝まれるが。
ちょこっと出ている方が可愛く見えるよな。
俺は厨房に歩き出す。
ナーヴァルはついて来ない。
ほんの少しほっとする。
今日は大量に作る気がしない。
コレが最後の機会であったとしても。
すべては昨晩のせいだが。
まだ明日一日砦にいるのだし、調子が戻っていたら明日の昼食に作るかもしれない。
戻らなければ、このまま王都へ出発するが、ソレはソレで仕方ない。
クトフのオムライスももはや俺と同じくらいの腕前なのだから、俺が作る意味もないだろう。
厨房でクロとシロ様とクトフがうまうまと俺が作ったオムライスを食べる。
彼らの表情を見ているだけでも和む。
弟アミールが食べている姿も和む。
王都に行っている二年間見ることもなくなる、、、いや、これから先、見ることはないのだろう。
二年後にこの地に戻ったとしても、俺があの家に戻ることはない。
昼食後に、外壁の強化を開始する。
北の方に向かう。昨日の続きから行う。
一番遠くから強化の魔法をかけていっているが、南の方はとりあえず終了したが、北の方はまだ半分といった具合か。今日明日、魔力がほぼ尽きるまでやったとしても、すべての壁の強化は難しい。
それでも、やらないよりはマシだ。
大規模修繕するお金が二年後に貯まっていれば良いが。
ジャイールの返済はあまり期待できない。死ぬまで返し切らない可能性もある。
今日は強化の魔法も微妙にかかりが悪い。
休憩を入れつつ行っているが、魔力の消費が激しい。
呼吸する息も荒くなる。
無理は禁物だとわかっているが。
俺にはもう今日と明日しかないのだ。
魔力の残りが少ないと感じる。
今日はもうこれ以上、外壁に強化の魔法をかけることはできない。
肩で息をしながら、手を壁についたときだった。
ガアアアアアーーーっ。
魔物の咆哮を聞いた。
振り返ると、そこにはC級魔物がいた。
咄嗟に双剣を十字にかまえて、牙がカラダに届くのは阻止した。
「ぐっ」
牙は届かなくても、爪が肩に食い込んだ。
人より大きい魔物である。
魔力が使えないのは、かなりの痛手である。
魔剣が力を発揮するには、所持者の少量の魔力が必要だ。
しかし、ほんの少しの魔力でも、今の俺が注ぎ込んだら気を失う。
魔物が迫っている今の俺には死と等しい行為だ。
けれど、なぜC級魔物がこんな壁際にいる?
弱い魔物なら不思議はないが、通常C級、D級冒険者が討伐していてしかるべき魔物だ。
魔物が大量発生しているときならともかく、魔物が少ないのに見逃したということはあり得ない。
「リアムーーーーっ」
クロの声が聞こえた。
「クロっ」
俺がクロを呼ぶと。
強力な威圧感が辺りを襲った。
グルゥッ。
一瞬、魔物が怯んだ。
双剣にかかる重量が減った一瞬で、白剣を魔物の口に突き刺す。
「リアムっ」
ちっこいクロが駆けて来る。
魔物が時間をかけて崩れ落ちる。
肩で息をする。
両肩が熱いが、どうこうなる深さの傷ではない。
数日我慢すれば、痛みも取れるはずだ。
俺たちから少し離れたところに、そこには三人の冒険者がいた。
クロの威圧に耐えられず、膝どころか全身で地面に這いつくばっているC級冒険者がいた。
「リアム、コイツら殺すか」
魔物が倒されても、クロの威圧が解かれない。
そういうことなのだろう。
「待て、クロ。おい、お前らがあの魔物をここまで誘導したのか」
「ぐっ」
彼らは悔しそうな表情で俺を見た。
「ああ、そうだっ。お前こそただのC級冒険者のクセに威張りやがって」
「最初から気に入らなかったんだ。壁のそばでアホみたいに魔力を使っているから痛い目にあわそうと」
このC級冒険者三人は他のダンジョンから最近移ってきた。
俺のことを良く知らない。
何をしているのかもわからないのに、命令ばかりしているように見えたのだろうか。
コイツらに直接何かを指示したことはないのだが。
「バカ野郎っ、あんな魔物、俺たちは知らないって言っておけばいいんだっ」
二人がペラペラ喋ることに、苛立った残りの一人が二人に蹴りを入れながら怒鳴った。
三人ともまだ地面を這いつくばっているので、何も格好はつかない。
「やっぱり殺そう、コイツら」
クロの威圧感が半端ないものになった。
三人は次の言葉を告げなくなり、カラダを震わせた。
文句を言っていた二人は失禁した。
それでも、クロの怒りはおさまらない。
「クロ、お前がこんな奴らを裁かなくとも、コイツらは砦から追放だ」
「ぐっ、やっぱりお前は独裁の王様だな。自分の思い通りにはならない冒険者は追放かよ」
それでも、一人は手を握り大声で喚いた。
冷ややかな目で俺は三人を見る。
「俺が追放を決定したわけではない。お前たちは誓約魔法で誓約をしただろう。砦の冒険者を故意に傷つけようとした者、傷つけた者は砦の入場許可を取り消す。誓約書を読まなかったのか?お前たちはすでに誓約魔法によって砦の入場許可を取り消されている。最初の研修をきちんと聞いていれば、その意味がわかるはずだが」
三人は息を飲んだ。
だが、そのうちの一人は剣を握りしめていた。
家事をして、砦に行って、家に戻ってルイ・ミミスに会って、また砦に向かう。
今世もまた社畜化している気がする。
砦の管理者なんて雇われ店長みたいな感じだよな。
給与をもらってないけど。
本当なら男爵家が給与を払うべきなんだけど。
サービス残業でも一応基本給は支払われているブラック企業よりひどい。
うちの奴隷の方が飼い主にまだ面倒みられていると思うよ。だって、一応きちんと生活費は面倒見ているし、武器等のメンテナンスも定期的にしているし、装備も服も必要な物も揃えている。ビッシュたちの働きもあって事細かな指示もできていることだけど、アイツら前より艶々している気がするのはなぜだろうな。
まあ、彼らの稼ぎは俺の稼ぎになるから面倒を見るのは当然なのだが。
奴隷にならなければ、さらにより良い暮らしをしていたと思うんだが、彼らに思うことはないのだろうか。
「リアムー、オッムライスー」
態度はデカいが姿はちっこいクロが砦長室にやって来た。
もうお昼か。
「何っ、オムライスっ?坊ちゃん、オムライス作るのかっ」
ナーヴァルが聞いてしまった。
「、、、クロとシロ様に作るけど、ナーヴァルには作る気力が湧きません」
「正直者めっ。断るにしても遠回しな表現にしろっ。俺が傷つくぞ」
だって、ナーヴァルには最低でも三人前は作らないといけないし、五人前は欲しいとか要求するから作りたくなくなるのである。
昨夜のバカ兄貴のせいで肉体的にも精神的にも疲れているのに、どれだけの苦行を強いるつもりだ。
精神的な疲れが大きいのかな。この世界で徹夜しても何とかなるのに。多少なりとも寝たのに。
オムライスはクトフにも作るけど、クトフは一人前である。クトフも成長して結構な量を食べるはずなのだが足りるのか。足りなければ、厨房にいるのだから自分で何か作って食べているだろうけど。
「何か調子悪そうだな」
「ちょっとね」
「家で荷物詰めるのも大変なのはわかるが、ちゃんと寝ろよ」
王都に行く準備は収納鞄に全部詰め込むだけである。
そもそも、俺は誕生日にはあの家を出る気だった。
俺の部屋はすでに綺麗である。
王都へ行くときには、俺の物はあの部屋からすべて消えている。
クロとシロ様の毛で作った布団も収納鞄に入れて持っていく。
「リアムー、厨房に行こー」
と言いながら、クロは俺の上着の中に入り、頭だけ襟からニョっと覗いている。
以前にここへ入り込んでから気に入ったようだ。
「はいはい」
この方が頭や肩にのられるよりも目立たないので、街の住民に拝まれることは少ない。
見つかると二度見されて熱心に拝まれるが。
ちょこっと出ている方が可愛く見えるよな。
俺は厨房に歩き出す。
ナーヴァルはついて来ない。
ほんの少しほっとする。
今日は大量に作る気がしない。
コレが最後の機会であったとしても。
すべては昨晩のせいだが。
まだ明日一日砦にいるのだし、調子が戻っていたら明日の昼食に作るかもしれない。
戻らなければ、このまま王都へ出発するが、ソレはソレで仕方ない。
クトフのオムライスももはや俺と同じくらいの腕前なのだから、俺が作る意味もないだろう。
厨房でクロとシロ様とクトフがうまうまと俺が作ったオムライスを食べる。
彼らの表情を見ているだけでも和む。
弟アミールが食べている姿も和む。
王都に行っている二年間見ることもなくなる、、、いや、これから先、見ることはないのだろう。
二年後にこの地に戻ったとしても、俺があの家に戻ることはない。
昼食後に、外壁の強化を開始する。
北の方に向かう。昨日の続きから行う。
一番遠くから強化の魔法をかけていっているが、南の方はとりあえず終了したが、北の方はまだ半分といった具合か。今日明日、魔力がほぼ尽きるまでやったとしても、すべての壁の強化は難しい。
それでも、やらないよりはマシだ。
大規模修繕するお金が二年後に貯まっていれば良いが。
ジャイールの返済はあまり期待できない。死ぬまで返し切らない可能性もある。
今日は強化の魔法も微妙にかかりが悪い。
休憩を入れつつ行っているが、魔力の消費が激しい。
呼吸する息も荒くなる。
無理は禁物だとわかっているが。
俺にはもう今日と明日しかないのだ。
魔力の残りが少ないと感じる。
今日はもうこれ以上、外壁に強化の魔法をかけることはできない。
肩で息をしながら、手を壁についたときだった。
ガアアアアアーーーっ。
魔物の咆哮を聞いた。
振り返ると、そこにはC級魔物がいた。
咄嗟に双剣を十字にかまえて、牙がカラダに届くのは阻止した。
「ぐっ」
牙は届かなくても、爪が肩に食い込んだ。
人より大きい魔物である。
魔力が使えないのは、かなりの痛手である。
魔剣が力を発揮するには、所持者の少量の魔力が必要だ。
しかし、ほんの少しの魔力でも、今の俺が注ぎ込んだら気を失う。
魔物が迫っている今の俺には死と等しい行為だ。
けれど、なぜC級魔物がこんな壁際にいる?
弱い魔物なら不思議はないが、通常C級、D級冒険者が討伐していてしかるべき魔物だ。
魔物が大量発生しているときならともかく、魔物が少ないのに見逃したということはあり得ない。
「リアムーーーーっ」
クロの声が聞こえた。
「クロっ」
俺がクロを呼ぶと。
強力な威圧感が辺りを襲った。
グルゥッ。
一瞬、魔物が怯んだ。
双剣にかかる重量が減った一瞬で、白剣を魔物の口に突き刺す。
「リアムっ」
ちっこいクロが駆けて来る。
魔物が時間をかけて崩れ落ちる。
肩で息をする。
両肩が熱いが、どうこうなる深さの傷ではない。
数日我慢すれば、痛みも取れるはずだ。
俺たちから少し離れたところに、そこには三人の冒険者がいた。
クロの威圧に耐えられず、膝どころか全身で地面に這いつくばっているC級冒険者がいた。
「リアム、コイツら殺すか」
魔物が倒されても、クロの威圧が解かれない。
そういうことなのだろう。
「待て、クロ。おい、お前らがあの魔物をここまで誘導したのか」
「ぐっ」
彼らは悔しそうな表情で俺を見た。
「ああ、そうだっ。お前こそただのC級冒険者のクセに威張りやがって」
「最初から気に入らなかったんだ。壁のそばでアホみたいに魔力を使っているから痛い目にあわそうと」
このC級冒険者三人は他のダンジョンから最近移ってきた。
俺のことを良く知らない。
何をしているのかもわからないのに、命令ばかりしているように見えたのだろうか。
コイツらに直接何かを指示したことはないのだが。
「バカ野郎っ、あんな魔物、俺たちは知らないって言っておけばいいんだっ」
二人がペラペラ喋ることに、苛立った残りの一人が二人に蹴りを入れながら怒鳴った。
三人ともまだ地面を這いつくばっているので、何も格好はつかない。
「やっぱり殺そう、コイツら」
クロの威圧感が半端ないものになった。
三人は次の言葉を告げなくなり、カラダを震わせた。
文句を言っていた二人は失禁した。
それでも、クロの怒りはおさまらない。
「クロ、お前がこんな奴らを裁かなくとも、コイツらは砦から追放だ」
「ぐっ、やっぱりお前は独裁の王様だな。自分の思い通りにはならない冒険者は追放かよ」
それでも、一人は手を握り大声で喚いた。
冷ややかな目で俺は三人を見る。
「俺が追放を決定したわけではない。お前たちは誓約魔法で誓約をしただろう。砦の冒険者を故意に傷つけようとした者、傷つけた者は砦の入場許可を取り消す。誓約書を読まなかったのか?お前たちはすでに誓約魔法によって砦の入場許可を取り消されている。最初の研修をきちんと聞いていれば、その意味がわかるはずだが」
三人は息を飲んだ。
だが、そのうちの一人は剣を握りしめていた。
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