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7章 愚者は踊る
7-29 特別許可証 ◆バージ視点◆
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◆バージ視点◆
初めて魔の森に入ってから、数日後。
昼の休憩時間、俺は机に突っ伏している。。。
「あら、バージさん、どうなさったの?」
顔を上げるとそこには。
「ラーラ様っ?呼んでいただければ、二組に参りましたのに」
「大丈夫よ、たいしたことではないわ。担任が職員に頼みそうだったので奪い取って、プリントを渡しに来ただけよ」
奪い取って?
プリントを見ると。
「コレって明日のことじゃないですか?」
「明日の午前中は校外学習になるそうよ。私たち二組、三組は、魔の森で魔法を使う一組の見学というところかしらね」
プリントは明日の服装の注意である。
動きやすいことを求めるものだが、特に貴族の令嬢にはそれが難しい。今も裾の長いドレスをマントの下に着ているのだから。
「一組はすでに魔法実技があるとは聞いてますが、今年中に魔の森に行くんですか?通常なら来年でしょうに。明後日は終業式ですよ」
私の言葉に、ラーラ様が声を落とす。
「いきなりですわよね。今年は国王の元に重要な国外の客が新年早々から来るので、S級冒険者をしばらく王城に置いておきたい意向があるようです。つまり、魔の森が荒れ果てた状態だといつ学生が行けるかわからなくなるから早めに、ということらしいですわ」
「そういうことですか」
「けれど、バージさんはお疲れのようですわね?」
「ははは、実はリアムとゾーイとともに冒険者として魔の森に行っているのですが」
「それはそれは、、、羨ましいですわ」
ん?もしかして、この人もリアム信者の一人なのかな?
「リアムは元から冒険者だからともかく、ゾーイは魔法もかなり使っているのに、私は二人を追いかけるのがやっとで、今も筋肉痛がひどい有様です」
「それは仕方のないことですわ。リアムはリアムですし、ゾーイ様はマックレー侯爵家の跡継ぎではなくとも、A級魔導士として魔法学園に入学するのが決まっていた御方。マックレー侯爵家は恥をさらすのを嫌いますから、相当な鍛錬を積んでいたはずですよ」
あまり努力とは無縁そうなゾーイが。
普通に何もかもできると思っていた。
ああ、攻撃魔法はリアムに絶賛されるくらいなのだから、相当な努力をしてきたのだろう。
侯爵家だからと、一括りにしてしまったのは私か。
それに、勉学も相当励んでいたはずだ。ゾーイは次席で魔法学園に入学したのだ。規格外のリアムがいなければ首席だったはずの人間だ。
「、、、今はそのゾーイもリアム崇拝者になってますが」
「そうね。学園長から特別許可証をもぎ取ったくらいですからねえ」
「特別許可証?」
リアムは外出許可証を持っていたが、ゾーイの特別許可証とは?
「時間外にも学園に入れる許可証ですって」
「何でそんなものが必要に?」
「あら、貴方はご存じなかったの?ゾーイがリアムの寮の部屋に押し掛けているって」
「は?」
このときはラーラ様がゾーイにつける敬称の様を省略したのにも気づかなかったくらい衝撃を受けた。
「ど、どどどどういうことですか?」
「その慌てよう、ホントに知らなかったのね」
「冒険者ギルドから私は彼の馬車で先に送ってもらっていましたが、ゾーイがそんなことをしているとは」
「本当にマックレー侯爵家には油断も隙もないものですよね」
ちょっと、、、ではなくかなりラーラ様と私の認識にはズレがあるようだ。
私は友人だと思っていたのに、抜け駆けされた気分。
この表現だと、なんか恋愛ごとみたいな気がするが。
話してくれればいいのに、とも思ってしまった。
いや、リアムの場合、特に何も考えていない気がする。
部屋が狭くなったとか、そんな感じにしか考えていない。
ゾーイの方は、、、私までリアムの元へ押し掛けて来るな、というところだろうか。
、、、実際、ゾーイが学園の特別許可証をとれたのは侯爵家だからだ。子爵家の私が言ったところで学園はすんなりと出してくれないはずだ。
午後の講義のため、学生が教室にほぼ戻ってくると、私は先ほどのプリントを配り始めた。
配っていると、リアムも教室に戻ってきた。
「リアム、プリント」
「ああ、ありがとう、、、どうした?」
リアムは鋭いときと鈍いときがあるのはなぜだろう。不思議だな。
私が平静を装っていても、こういうときはすぐに気づくのに。
「ゾーイがリアムの寮の部屋まで押し掛けているって本当?」
「あー、数日前からなー。なんか学園から特別許可証までもらって押し掛けてきた。俺の部屋は男爵家用のだから、従者用の別室一部屋しか他にはついてないのにな」
リアムは特段やましいことがないので、聞かれたらすんなりと答える。
聞かれないことは、自分が話したいことしか話さない。
「まあ、寮のベッドは広いから一緒に寝ても問題はないけど、男が二人一緒のベッドに寝るのは微妙だな」
「ん?まさかゾーイと一緒のベッドで寝ているの?」
「ああ、従者用の部屋のベッドがあるとは言ったんだが。俺は朝には抱き枕になっているぞ。ゾーイはかけ水をかけ湯にしてくれたり、部屋を暖めてくれたり、他にもいろいろと世話をしてくれるのは新鮮だなあと」
「完全にほだされているじゃねえか」
「えー、うちは悲しいことに貴族でも貧乏だから使用人もいないんだ。俺が家族や砦の皆の世話をすることがあっても、俺が世話されることはほぼないに等しい。ゾーイの存在ってありがたいなあと」
「下心っていうものがあるって気づけ、リアム」
ゾーイの下心はどう考えても恋愛感情そのものな気がする。。。
友人関係という生易しいものではない気がする。
リアムが私をじっと見た。
「下心ぐらい俺にもあるぞ、バージ」
怖いほどの深い目が私をとらえた。
そこには冗談を言っているような雰囲気は毛頭ない。
「席に着け。講義を始めるぞ」
教師が教室に入ってきた。
一番前の席について、講義を受けた。
が。
講義がこんなにも身に入らなかったのははじめてだった。
「ゾーイ、お前、リアムの寮の部屋に押し掛けているんだって聞いたぞ」
「ああ、押し掛けて世話している」
、、、こちらもすんなりと答えた。
リアムは夕食を食べに寮に戻った。これからラーメン屋に行くのだが。。。
それぐらい食べないと冒険者は務まらないのだろうか。
その隙に私はゾーイをつかまえていた。
「世話なんかいらないと言われたが、意外と嬉しそうだ」
「そりゃあね」
使用人がいないとなると、自分たち家族で何もかもやらなくてはならない。貴族とは言っても。
たまに私たちを見るリアムの目がきつくなるときがあった。態度で表されているときもある。
私たちが当たり前に享受しているすべてのものに対して腹立たしいのだろう。
上には上がいる。
私には自分よりも上の者が羨ましいとずっと思っていた。
自分が長男だから爵位を継ぐのは当たり前、それが当然だと思って生きてきた。
「お前も貴族だから、家臣や領民が自分を守るのは当たり前だと思っていただろう。俺もリアムが魔物から助けてくれるまではそう思っていた」
ゾーイは真っ直ぐに私を見る。
「反対にリアムは幼い頃から自分の手段でずっと砦の冒険者や領民を守ってきた。成人していても大人になり切れていない俺たちとは根本的に違うんだ。リアムは俺たちを甘い存在としか思っていないだろう」
「それは、、、そうかもしれないが」
「今の俺はリアムのことをほとんど知らない。それでも、俺は命の値段を返すためだけでなく、ずっとアイツのそばにいたいんだ」
ゾーイの言葉には熱がある。
「なあ、ゾーイ、気づいているか?」
「何を?」
「お前はまるで恋愛感情をリアムに対して持っているかのような発言をしているぞ」
「、、、受け入れてもらえるとは思っていないが、どんな形になっても俺はリアムのそばにいて支え続ける」
私はため息を吐いた。
本人も気づいていたのか、と。
そして、すでにそこまでの意志を固めていたのか、と思ってしまった。
初めて魔の森に入ってから、数日後。
昼の休憩時間、俺は机に突っ伏している。。。
「あら、バージさん、どうなさったの?」
顔を上げるとそこには。
「ラーラ様っ?呼んでいただければ、二組に参りましたのに」
「大丈夫よ、たいしたことではないわ。担任が職員に頼みそうだったので奪い取って、プリントを渡しに来ただけよ」
奪い取って?
プリントを見ると。
「コレって明日のことじゃないですか?」
「明日の午前中は校外学習になるそうよ。私たち二組、三組は、魔の森で魔法を使う一組の見学というところかしらね」
プリントは明日の服装の注意である。
動きやすいことを求めるものだが、特に貴族の令嬢にはそれが難しい。今も裾の長いドレスをマントの下に着ているのだから。
「一組はすでに魔法実技があるとは聞いてますが、今年中に魔の森に行くんですか?通常なら来年でしょうに。明後日は終業式ですよ」
私の言葉に、ラーラ様が声を落とす。
「いきなりですわよね。今年は国王の元に重要な国外の客が新年早々から来るので、S級冒険者をしばらく王城に置いておきたい意向があるようです。つまり、魔の森が荒れ果てた状態だといつ学生が行けるかわからなくなるから早めに、ということらしいですわ」
「そういうことですか」
「けれど、バージさんはお疲れのようですわね?」
「ははは、実はリアムとゾーイとともに冒険者として魔の森に行っているのですが」
「それはそれは、、、羨ましいですわ」
ん?もしかして、この人もリアム信者の一人なのかな?
「リアムは元から冒険者だからともかく、ゾーイは魔法もかなり使っているのに、私は二人を追いかけるのがやっとで、今も筋肉痛がひどい有様です」
「それは仕方のないことですわ。リアムはリアムですし、ゾーイ様はマックレー侯爵家の跡継ぎではなくとも、A級魔導士として魔法学園に入学するのが決まっていた御方。マックレー侯爵家は恥をさらすのを嫌いますから、相当な鍛錬を積んでいたはずですよ」
あまり努力とは無縁そうなゾーイが。
普通に何もかもできると思っていた。
ああ、攻撃魔法はリアムに絶賛されるくらいなのだから、相当な努力をしてきたのだろう。
侯爵家だからと、一括りにしてしまったのは私か。
それに、勉学も相当励んでいたはずだ。ゾーイは次席で魔法学園に入学したのだ。規格外のリアムがいなければ首席だったはずの人間だ。
「、、、今はそのゾーイもリアム崇拝者になってますが」
「そうね。学園長から特別許可証をもぎ取ったくらいですからねえ」
「特別許可証?」
リアムは外出許可証を持っていたが、ゾーイの特別許可証とは?
「時間外にも学園に入れる許可証ですって」
「何でそんなものが必要に?」
「あら、貴方はご存じなかったの?ゾーイがリアムの寮の部屋に押し掛けているって」
「は?」
このときはラーラ様がゾーイにつける敬称の様を省略したのにも気づかなかったくらい衝撃を受けた。
「ど、どどどどういうことですか?」
「その慌てよう、ホントに知らなかったのね」
「冒険者ギルドから私は彼の馬車で先に送ってもらっていましたが、ゾーイがそんなことをしているとは」
「本当にマックレー侯爵家には油断も隙もないものですよね」
ちょっと、、、ではなくかなりラーラ様と私の認識にはズレがあるようだ。
私は友人だと思っていたのに、抜け駆けされた気分。
この表現だと、なんか恋愛ごとみたいな気がするが。
話してくれればいいのに、とも思ってしまった。
いや、リアムの場合、特に何も考えていない気がする。
部屋が狭くなったとか、そんな感じにしか考えていない。
ゾーイの方は、、、私までリアムの元へ押し掛けて来るな、というところだろうか。
、、、実際、ゾーイが学園の特別許可証をとれたのは侯爵家だからだ。子爵家の私が言ったところで学園はすんなりと出してくれないはずだ。
午後の講義のため、学生が教室にほぼ戻ってくると、私は先ほどのプリントを配り始めた。
配っていると、リアムも教室に戻ってきた。
「リアム、プリント」
「ああ、ありがとう、、、どうした?」
リアムは鋭いときと鈍いときがあるのはなぜだろう。不思議だな。
私が平静を装っていても、こういうときはすぐに気づくのに。
「ゾーイがリアムの寮の部屋まで押し掛けているって本当?」
「あー、数日前からなー。なんか学園から特別許可証までもらって押し掛けてきた。俺の部屋は男爵家用のだから、従者用の別室一部屋しか他にはついてないのにな」
リアムは特段やましいことがないので、聞かれたらすんなりと答える。
聞かれないことは、自分が話したいことしか話さない。
「まあ、寮のベッドは広いから一緒に寝ても問題はないけど、男が二人一緒のベッドに寝るのは微妙だな」
「ん?まさかゾーイと一緒のベッドで寝ているの?」
「ああ、従者用の部屋のベッドがあるとは言ったんだが。俺は朝には抱き枕になっているぞ。ゾーイはかけ水をかけ湯にしてくれたり、部屋を暖めてくれたり、他にもいろいろと世話をしてくれるのは新鮮だなあと」
「完全にほだされているじゃねえか」
「えー、うちは悲しいことに貴族でも貧乏だから使用人もいないんだ。俺が家族や砦の皆の世話をすることがあっても、俺が世話されることはほぼないに等しい。ゾーイの存在ってありがたいなあと」
「下心っていうものがあるって気づけ、リアム」
ゾーイの下心はどう考えても恋愛感情そのものな気がする。。。
友人関係という生易しいものではない気がする。
リアムが私をじっと見た。
「下心ぐらい俺にもあるぞ、バージ」
怖いほどの深い目が私をとらえた。
そこには冗談を言っているような雰囲気は毛頭ない。
「席に着け。講義を始めるぞ」
教師が教室に入ってきた。
一番前の席について、講義を受けた。
が。
講義がこんなにも身に入らなかったのははじめてだった。
「ゾーイ、お前、リアムの寮の部屋に押し掛けているんだって聞いたぞ」
「ああ、押し掛けて世話している」
、、、こちらもすんなりと答えた。
リアムは夕食を食べに寮に戻った。これからラーメン屋に行くのだが。。。
それぐらい食べないと冒険者は務まらないのだろうか。
その隙に私はゾーイをつかまえていた。
「世話なんかいらないと言われたが、意外と嬉しそうだ」
「そりゃあね」
使用人がいないとなると、自分たち家族で何もかもやらなくてはならない。貴族とは言っても。
たまに私たちを見るリアムの目がきつくなるときがあった。態度で表されているときもある。
私たちが当たり前に享受しているすべてのものに対して腹立たしいのだろう。
上には上がいる。
私には自分よりも上の者が羨ましいとずっと思っていた。
自分が長男だから爵位を継ぐのは当たり前、それが当然だと思って生きてきた。
「お前も貴族だから、家臣や領民が自分を守るのは当たり前だと思っていただろう。俺もリアムが魔物から助けてくれるまではそう思っていた」
ゾーイは真っ直ぐに私を見る。
「反対にリアムは幼い頃から自分の手段でずっと砦の冒険者や領民を守ってきた。成人していても大人になり切れていない俺たちとは根本的に違うんだ。リアムは俺たちを甘い存在としか思っていないだろう」
「それは、、、そうかもしれないが」
「今の俺はリアムのことをほとんど知らない。それでも、俺は命の値段を返すためだけでなく、ずっとアイツのそばにいたいんだ」
ゾーイの言葉には熱がある。
「なあ、ゾーイ、気づいているか?」
「何を?」
「お前はまるで恋愛感情をリアムに対して持っているかのような発言をしているぞ」
「、、、受け入れてもらえるとは思っていないが、どんな形になっても俺はリアムのそばにいて支え続ける」
私はため息を吐いた。
本人も気づいていたのか、と。
そして、すでにそこまでの意志を固めていたのか、と思ってしまった。
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