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8章 愚者は踊り続ける
8-2 結局、砦の仕事をする
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我が最愛の友人クトフくんのせいで、俺の寮の部屋はとんでもないことになっている。
クトフよ、書類を送るといっても限度を知らないのかい?
従者用の部屋が書類で埋め尽くされたじゃないか。
「この転送の魔道具と収納鞄の組合せって最強だな」
ゾーイ、面白がって二段戸棚からサクサクと書類を取り出さなくてもいいぞ。クトフが手当たり次第に書類を詰めて送って来るじゃないか。
俺が書類をチェックするより、送って来るスピードが速いのは仕方ないが、ゾーイのせいでさらに加速する。
砦長室は広い。
あの広い部屋いっぱいの書類が未処理なのだから、まだまだ書類は送られてくる。
「ゾーイ様、学園からこの休暇中の特別許可証を頂いて参りました」
ゾーイの従者が俺の部屋に来た。この従者はゾーイの着替えを持って来たり、着替えを手伝ったり等々、甲斐甲斐しくゾーイの世話をこの部屋でしている。一応、ゾーイは自分のことは自分でできるが、その辺は貴族なんだな。そのゾーイは俺の世話をしてくれるが。
俺はあの家で貴族らしいこと何一つ体験してこなかったんだなあ、と彼らを見ていると思う。前世を覚えている時点でそこまでの世話をされてもむず痒く思えるので庶民で良かったとも思えるが。。。あ、俺も肩書だけは貴族だったか。
「よし、でかした。じゃあ、拉致って来い」
「はいっ」
、、、良い返事をするなよ。言葉が不穏だぞ。
特にツッコミする気力もないけど
三十分後にこの部屋に連れてこられたのは、バージだった。
「何なの?」
バージはゾーイの従者にロクに説明もされていないようだ。
「俺は砦の書類がたまっていたから仕事をしている」
俺は机に向かって、書類をガンガンに処理していく。
「俺はリアムの手伝いをしたいが、俺は跡継ぎでもないから、こういう書類に慣れていない。転送の魔道具で砦から送られてきた書類をとりあえず別室に並べているだけだ。バージなら書類の分類も手伝いもできるだろう。だから、学園から休暇中の特別許可証ももぎ取った」
「くそー、、、確かにゾーイがリアムの部屋に入れて羨ましいとか思ったさ。けど、仕事の手伝いで来たいと思ったわけじゃないぞー。私だって、年末年始は忙しいんだっ」
と言いつつ、書類の仕分けを始めたバージくん、さすがだな。
跡継ぎじゃなければ、砦の事務方に誘うのだけど。けれど、跡継ぎだから領地運営の仕事も教えられているんだろう。事務処理ができるのはそういうことだ。世の中ってうまく回らないなあ。
考えても仕方ないことは放棄して、書類を一枚でも多く始末する。
ゾーイが俺の手元に持って来た書類は、砦長、補佐、管理者宛のものがごっちゃになっていたが、バージが整理するとある程度まとまって持って来てくれるようになった。仕事自体はやりやすくなった。
ガリガリガリ。
「リアムのこの書類の処理速度、尋常じゃないんだけど」
ペッ。
書類を下の箱に投げた音ね。
返戻、国、冒険者ギルド、その他で分けている。
返戻は砦長や補佐が直すか、提出した冒険者に戻す書類だ。
俺が砦の管理者なので、俺がサインしていればアミールのサインは必要ない。補佐がまとめて国や冒険者ギルド等に提出するだろう。ここに置いておいてもたまっていくだけだから終わった書類は砦に返す。
箱がたまってきたら、ゾーイが書類を戸棚に入れている。
こちらから返す分はクトフの収納鞄に入れるほどでもない。
が、朝食と夕食時は厨房が忙しい時間になるので、その辺りの時間は向こうも取り出せなくなる。そのときは収納鞄に入れて返した方がいいだろう。
数時間が過ぎた。
「リアムー、お昼だよー」
ちっこいクロがニョっと書類の上に現れた。
「、、、うわ、もうそんな時間か」
と言って、扉の開いている別室を見る。
うん、書類が減ってないわー、増えていく一方だわー。コレ、休暇中に終わるのかな?
「せっかく僕が砦長の頭に書類を返していたのに、残念だったねー」
「こうならない予定だったんだが、何で二か月でこうなるのか不思議だ。確かに年末は提出される書類も増えるが、さすがに滞り過ぎだろう」
「けど、コレを見てリアムが砦の管理者なんだと実感した。決断が素早い」
バージの視線を感じていたが、仕事の内容もしっかり見ていたのか。
「とりあえず昼食を作る。お前らもオムライスでいいか」
「お、リアムの手作り?」
「そういや、ゾーイの従者や御者はお昼はどうしているんだ」
ゾーイの従者は一緒にこの部屋で書類を整理してくれていた。
これだって普通の従者はこれは自分の仕事じゃないからやらないと思うぞ。俺が雇っているわけじゃないからな。
学園での通常時の昼食、ゾーイは第一食堂で食べている。俺は昼休憩は誰にも捕まらないように、講義終了後は教室から消える。ゾーイにもバージにも捕まったことはない。
「本日の昼は寮の第三食堂も開いておりませんので、私は特に食べなくとも。御者は空いている時間で何かを食べていると思いますが」
従者や護衛等のお付きの者は昼は交替で学園の第三食堂に食べに来る。
貴族の学生とともに同じ席で食べることはない。
サロンで食べる貴族の子弟の使用人なら、学生が食べた後に、専属料理人が準備してくれている場合もある。
お腹が空き過ぎないように軽食やらお菓子やら、自分たちで準備していたりするようだが。
休暇中は学園の方の食堂はどれも開かない。
俺も寮の第三食堂で食べるけど。
寮にいるときは俺と一緒にゾーイも食べているけど。。。
俺の場合、従者一人の食事代は寮費に含まれているんだそうだ。ゾーイの分は特に別料金はいらない。
いつもはゾーイの従者と御者もゾーイとついでに俺も冒険者ギルドから寮まで送ると、マックレー侯爵家に戻って、朝一でまた来る。大変な仕事だよな。
「じゃあ、御者も学園内にいるようだったら、一緒に寮の厨房に来てもらってくれ」
「え?あ、はいっ」
ゾーイの従者は素早く走らず去っていった。
、、、もしかして、あの子、ゾーイについて砦まで来ちゃうのかな?どうなんだろう?
A級冒険者にでもなれば、使用人は数人ぐらい余裕で雇えちゃうだろうけど。
ゾーイのあの攻撃魔法なら、魔の大平原なら素早くA級冒険者に昇級するだろう。
砦に住まうA級冒険者は砦が快適なので、結婚でもしない限りは砦から出て行かない。
彼らは自分たちで使用人は雇っていないので、規程がない。
砦なら使用人は必要ないからなあ。
現在は砦の冒険者でなければ、砦の滞在許可は下りない。
家族でも緊急の場合以外には下りない。
ゾーイの従者が砦についてくるようなら考えなくてはならないなあ。
ゾーイは砦に連れていくのは確定しているので、快適職場環境になるようにしなければ。
「あの、私も呼ばれたようですが」
御者が従者に連れられて厨房に来た。
従者はゾーイよりも何歳か年上かな、というぐらいだが、御者は少々年配の小柄な男性だ。マックレー侯爵家の使用人なので二人とも綺麗な制服を着用している。
すでにクロはうまうまとオムライスを食べている。
ゾーイとバージの分もすでに出来上がって、第三食堂に持っていってもらっている。
先に食べて良いよ、と言っているのだが、彼らが食べている気配がない。
とろとろな内に食べてもらいたいのだが。
「あ、ちょうど良かった。はい」
二人の分のオムライスを渡す。
そして、自分の分のオムレツを焼き始める。
「え?あの?」
「どうぞ、あの席で、、、ゾーイと一緒が嫌なら別の席で食べちゃってください」
「いえ、嫌ということはありませんが、え?」
御者がゾーイの方を見た。
主人と同じ席で食べるのは躊躇うだろう。
たとえ別テーブルだとしても。
「俺はかまわないぞ。昔のようにたまには一緒に食べよう」
昔のように?
まあ、深くは突っ込まないでおこう。
「いただきまーす」
四人がオムレツを崩した。
「おお、卵がとろとろだ」
四人がオムライスを食べ始めると、無言になってしまった。
そのまま食べ続けている。
、、、食べ続けているってことは、彼らの口には合わないということではないと思いたい。
クトフよ、書類を送るといっても限度を知らないのかい?
従者用の部屋が書類で埋め尽くされたじゃないか。
「この転送の魔道具と収納鞄の組合せって最強だな」
ゾーイ、面白がって二段戸棚からサクサクと書類を取り出さなくてもいいぞ。クトフが手当たり次第に書類を詰めて送って来るじゃないか。
俺が書類をチェックするより、送って来るスピードが速いのは仕方ないが、ゾーイのせいでさらに加速する。
砦長室は広い。
あの広い部屋いっぱいの書類が未処理なのだから、まだまだ書類は送られてくる。
「ゾーイ様、学園からこの休暇中の特別許可証を頂いて参りました」
ゾーイの従者が俺の部屋に来た。この従者はゾーイの着替えを持って来たり、着替えを手伝ったり等々、甲斐甲斐しくゾーイの世話をこの部屋でしている。一応、ゾーイは自分のことは自分でできるが、その辺は貴族なんだな。そのゾーイは俺の世話をしてくれるが。
俺はあの家で貴族らしいこと何一つ体験してこなかったんだなあ、と彼らを見ていると思う。前世を覚えている時点でそこまでの世話をされてもむず痒く思えるので庶民で良かったとも思えるが。。。あ、俺も肩書だけは貴族だったか。
「よし、でかした。じゃあ、拉致って来い」
「はいっ」
、、、良い返事をするなよ。言葉が不穏だぞ。
特にツッコミする気力もないけど
三十分後にこの部屋に連れてこられたのは、バージだった。
「何なの?」
バージはゾーイの従者にロクに説明もされていないようだ。
「俺は砦の書類がたまっていたから仕事をしている」
俺は机に向かって、書類をガンガンに処理していく。
「俺はリアムの手伝いをしたいが、俺は跡継ぎでもないから、こういう書類に慣れていない。転送の魔道具で砦から送られてきた書類をとりあえず別室に並べているだけだ。バージなら書類の分類も手伝いもできるだろう。だから、学園から休暇中の特別許可証ももぎ取った」
「くそー、、、確かにゾーイがリアムの部屋に入れて羨ましいとか思ったさ。けど、仕事の手伝いで来たいと思ったわけじゃないぞー。私だって、年末年始は忙しいんだっ」
と言いつつ、書類の仕分けを始めたバージくん、さすがだな。
跡継ぎじゃなければ、砦の事務方に誘うのだけど。けれど、跡継ぎだから領地運営の仕事も教えられているんだろう。事務処理ができるのはそういうことだ。世の中ってうまく回らないなあ。
考えても仕方ないことは放棄して、書類を一枚でも多く始末する。
ゾーイが俺の手元に持って来た書類は、砦長、補佐、管理者宛のものがごっちゃになっていたが、バージが整理するとある程度まとまって持って来てくれるようになった。仕事自体はやりやすくなった。
ガリガリガリ。
「リアムのこの書類の処理速度、尋常じゃないんだけど」
ペッ。
書類を下の箱に投げた音ね。
返戻、国、冒険者ギルド、その他で分けている。
返戻は砦長や補佐が直すか、提出した冒険者に戻す書類だ。
俺が砦の管理者なので、俺がサインしていればアミールのサインは必要ない。補佐がまとめて国や冒険者ギルド等に提出するだろう。ここに置いておいてもたまっていくだけだから終わった書類は砦に返す。
箱がたまってきたら、ゾーイが書類を戸棚に入れている。
こちらから返す分はクトフの収納鞄に入れるほどでもない。
が、朝食と夕食時は厨房が忙しい時間になるので、その辺りの時間は向こうも取り出せなくなる。そのときは収納鞄に入れて返した方がいいだろう。
数時間が過ぎた。
「リアムー、お昼だよー」
ちっこいクロがニョっと書類の上に現れた。
「、、、うわ、もうそんな時間か」
と言って、扉の開いている別室を見る。
うん、書類が減ってないわー、増えていく一方だわー。コレ、休暇中に終わるのかな?
「せっかく僕が砦長の頭に書類を返していたのに、残念だったねー」
「こうならない予定だったんだが、何で二か月でこうなるのか不思議だ。確かに年末は提出される書類も増えるが、さすがに滞り過ぎだろう」
「けど、コレを見てリアムが砦の管理者なんだと実感した。決断が素早い」
バージの視線を感じていたが、仕事の内容もしっかり見ていたのか。
「とりあえず昼食を作る。お前らもオムライスでいいか」
「お、リアムの手作り?」
「そういや、ゾーイの従者や御者はお昼はどうしているんだ」
ゾーイの従者は一緒にこの部屋で書類を整理してくれていた。
これだって普通の従者はこれは自分の仕事じゃないからやらないと思うぞ。俺が雇っているわけじゃないからな。
学園での通常時の昼食、ゾーイは第一食堂で食べている。俺は昼休憩は誰にも捕まらないように、講義終了後は教室から消える。ゾーイにもバージにも捕まったことはない。
「本日の昼は寮の第三食堂も開いておりませんので、私は特に食べなくとも。御者は空いている時間で何かを食べていると思いますが」
従者や護衛等のお付きの者は昼は交替で学園の第三食堂に食べに来る。
貴族の学生とともに同じ席で食べることはない。
サロンで食べる貴族の子弟の使用人なら、学生が食べた後に、専属料理人が準備してくれている場合もある。
お腹が空き過ぎないように軽食やらお菓子やら、自分たちで準備していたりするようだが。
休暇中は学園の方の食堂はどれも開かない。
俺も寮の第三食堂で食べるけど。
寮にいるときは俺と一緒にゾーイも食べているけど。。。
俺の場合、従者一人の食事代は寮費に含まれているんだそうだ。ゾーイの分は特に別料金はいらない。
いつもはゾーイの従者と御者もゾーイとついでに俺も冒険者ギルドから寮まで送ると、マックレー侯爵家に戻って、朝一でまた来る。大変な仕事だよな。
「じゃあ、御者も学園内にいるようだったら、一緒に寮の厨房に来てもらってくれ」
「え?あ、はいっ」
ゾーイの従者は素早く走らず去っていった。
、、、もしかして、あの子、ゾーイについて砦まで来ちゃうのかな?どうなんだろう?
A級冒険者にでもなれば、使用人は数人ぐらい余裕で雇えちゃうだろうけど。
ゾーイのあの攻撃魔法なら、魔の大平原なら素早くA級冒険者に昇級するだろう。
砦に住まうA級冒険者は砦が快適なので、結婚でもしない限りは砦から出て行かない。
彼らは自分たちで使用人は雇っていないので、規程がない。
砦なら使用人は必要ないからなあ。
現在は砦の冒険者でなければ、砦の滞在許可は下りない。
家族でも緊急の場合以外には下りない。
ゾーイの従者が砦についてくるようなら考えなくてはならないなあ。
ゾーイは砦に連れていくのは確定しているので、快適職場環境になるようにしなければ。
「あの、私も呼ばれたようですが」
御者が従者に連れられて厨房に来た。
従者はゾーイよりも何歳か年上かな、というぐらいだが、御者は少々年配の小柄な男性だ。マックレー侯爵家の使用人なので二人とも綺麗な制服を着用している。
すでにクロはうまうまとオムライスを食べている。
ゾーイとバージの分もすでに出来上がって、第三食堂に持っていってもらっている。
先に食べて良いよ、と言っているのだが、彼らが食べている気配がない。
とろとろな内に食べてもらいたいのだが。
「あ、ちょうど良かった。はい」
二人の分のオムライスを渡す。
そして、自分の分のオムレツを焼き始める。
「え?あの?」
「どうぞ、あの席で、、、ゾーイと一緒が嫌なら別の席で食べちゃってください」
「いえ、嫌ということはありませんが、え?」
御者がゾーイの方を見た。
主人と同じ席で食べるのは躊躇うだろう。
たとえ別テーブルだとしても。
「俺はかまわないぞ。昔のようにたまには一緒に食べよう」
昔のように?
まあ、深くは突っ込まないでおこう。
「いただきまーす」
四人がオムレツを崩した。
「おお、卵がとろとろだ」
四人がオムライスを食べ始めると、無言になってしまった。
そのまま食べ続けている。
、、、食べ続けているってことは、彼らの口には合わないということではないと思いたい。
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