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8章 愚者は踊り続ける
8-23 お酒で酔えば ◆クトフ視点◆
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◆クトフ視点◆
「というわけだよ、クトフくん」
「何が、というわけだよ」
リアムからものすごい適当な説明を受けた。
リアムもシロ様から詳細な説明を受けるまでは、そこまで詳しいことはわからないらしい。
クロ様からの説明だけではかなりの説明不足だ。
リアムからこのくだりをやり返された気がするよ。。。
砦の書類を送るとき、俺からやったからなあ。
通信の魔道具で俺はリアムと話している。
リアムが介入すると、あんなに砦長室に積んであった書類が嘘のように片付いていく。
たまる一方だったあの書類が。。。
リアムに転送の魔道具で送れば送るほど、きちんと分類されて返って来る。
返ってきた書類は補佐に渡す。提出先に届ける、返戻する、訂正する等を行うようだ。
年末年始でも砦は平常運転だ。魔物は人間の行事なんて関係ないからな。
砦には休みなんて存在しない。
冒険者たちには多少豪華な食事を提供するが。
「まあ、クトフの場合は俺がそっちに戻った後でも大丈夫だから、俺とともに生きるか検討しておいてよー」
軽いな。
リアムの誘い方があまりにも軽い。
重くてもいいものじゃないが。。。
しかも、ゾーイもリアムの誓約相手として連れて帰って来るよーと言われてしまった。本当に男を連れ帰って来ることになってしまった。砦長とアミールに言ったら、今度こそ書類作業が崩壊する気がする。
うん、あの二人に訂正する手間が省けたな。
リアムの奴隷たちはすでに従属化しているそうな。。。
そして、俺は。
羨ましい、と思ってしまった。
何が、と問われると、具体的には答えられないのだが。
ともに生きることを誘われたことは単純に嬉しい。
「ところで、砦長室にはあとどのくらい書類あるー?」
「そっちに送るのはあと三分の一くらいか。補佐が通常運転ぐらいの書類の量になるまでは頼みたいと言っていたから」
「あー、まだ、そんなにあるのかー。シロ様元気ー?」
「それは俺に聞くよりクロ様に聞け。俺には姿を見せないんだから」
「クロに聞くと、元気元気としか答えないー。信頼できないー。こういう魔の森に行けないときに召喚できると嬉しいのになー」
横でニマっとした気配がした。
バッと見ると、シロ様がニマニマしていた。俺が見たのに気づくとツーンとした表情にすぐさま戻る。
ここ、俺の部屋だけど。
シロ様もクロ様同様、鍵をかけていても何の関係もない。
「シロ様、元気そうだぞ」
一応リアムに伝えておく。リアムも何かを察したらしい。
「シロ様ー、ゾーイを砦に連れて帰るから楽しみにしててねー」
おい、リアム。
リアムを嫁々言っているシロ様に言ったら、違う意味での楽しみになるぞ。。。
「私もそこまで狭量ではない。リアムを孤独に追いやりたいわけではない」
あ、俺に向かってシロ様が言った。
表情を正確に読み取られてしまったか。
「リアムのお気に入りは数少ない。リーメルが亡くなったとき、私も反省したんだ。リアムのあの笑顔は見られなくなって」
無邪気に笑うリアムってリーメルさん限定品だったってことだ。
周囲にも振りまいていたのはその余波。
そんな気はしていたが、その事実を目の当たりにすると、周囲にいる者にとっては厳しい事実だ。
「けど、子供は二人までだからなっ。お前の子供が可愛いとしても、クロに唆されてもそれ以上は認めないからなっ」
「はーい」
間延びしたリアムの返事が聞こえた。
いや、シロ様、相手が全員、男なんだが。どこに女性がいた?
まさか、リアムは俺に隠していることがあるのでは。。。
リアムは聞かないと話さないことが多いので、俺が尋ねていないだけなのか?
それとも、何か方法が?
「じゃあ、シロ様、クトフ、またねー」
考えている間に通信が切れた。
シロ様は俺に詳細な説明をしてくれないだろう。
リアムとの通信が切れた今、シロ様がこの部屋にいる理由はない。
「ううっ、ホントは私がついていきたかったのに」
空の酒の小瓶がコロコロと転がってきた。
あ、酔っているからこの部屋に現れたのか?
リアムの声が聞こえて、ついフラフラと?
年の初めに、つまり昨日、酒の大瓶がお供えされていたはずだ。
それも飲み終わったのかな?
と思ったら、急にシロ様の小さい手に大瓶が現れて、ドンっと机の上に置かれる。
「え、」
「リアムのことはクロより私の方がわかっていると思っていたんだ。なのに、なのに、あの家族の中で、一番リアムは弟のことが大嫌いだったんだ。それをクロの方がわかっているなんて、、、」
シロ様の手が小さくワナワナしている。
「、、、言われてみると、確かに思い当たるフシが」
俺は昔のことを思い出す。
リアムは質問すると答えてくれるので、家庭教師が弟について砦に来なくなったときのことも聞いた。
家庭教師が弟に暴力を振るったときに、リアムは弟を治療院に連れて行かず、父親が帰って来るまで痛みに耐えさせた。
今更ながらに思うが、本当に弟を想うのなら、父親が信じる信じないにかかわらず、治療院に連れて行くだろう。
そもそも、医師が治療したと言えば、あの父親は信じたに違いない。
効率と確実性を考えれば、リアムの行動は理解できるのだが、本当に弟を可愛がっていたのなら生死に関わらないとはいえ一日も痛みを放置させるだろうか。
リアムは幼い頃から弟の面倒をみることになった。
五歳の子供がたった一人で昼間、まだ首も座っていない弟の面倒をみることがどんなに大変か。
しかも、アミールはかなり騒がしく手のかかる赤ん坊だった。
リアムの赤ん坊の頃はさすがに俺もまだ砦に来ていなかったが、砦長などの話を聞くと静かでよくシロ様とクロ様と一緒にベビーベッドにいたそうな。本を読んでいたり、シロ様の話を聞いていたりしていたそうな。。。昔からリアムはリアムだったらしい。
アミールはそのリアムとは正反対に泣き喚く子供だったため、砦に残っていた冒険者たちの感想はうるさいだった。
夜、魔の大平原に出なければならない冒険者たちは、リアムを睨むこともしばしばだったらしい。
いつしか泣き声が聞こえなくなった。
リアムが弟の面倒を最上階に移していたことを後で知った。
弟が落ち着いて来てから、リアムの姿も階下に戻ってきた。
弟もリアムに似て、リアムが母上至上主義なら、弟は兄上至上主義になっていった。
リアムは母親の負担にさせないために、弟を世話していたに過ぎない。
愛情の欠片もないか、と問われると、多少はある気がするのだが。
そして、今回の件で出た名前の中にアミールはいなかった。
年齢が二十五までだってー、と軽く説明されたので、砦長やビーズは端から対象外ということだろうけど、アミールが含まれない理由についての説明はなかった。
おそらくアミールならば三人の奴隷と同じく従属でも喜んで受け入れそうだ。
まあ、リアムは勘違いしている気がするけど。
アミールは砦の冒険者からも街の住民からも無条件に愛され、飴やらお菓子やらをよくもらっている、ように見える。すべてはリアムが存在しているからこその周囲の行動である。
リアムはリーメルさんが生きている頃は笑顔で超可愛かった。けれど、一人のときは何かもらってもすぐ母親に渡してしまった。弟が食べるなら、リアムも一緒に食べるだろうとお菓子をあげるのだが、リアムには弟のついでにもらったように見えるので、弟にすべて渡してしまう。
皆は弟をダシにしてリアムに近づこうとしているのだが、リアムは弟が愛されているのだと勘違いする。
意外とリアムは愛情を明確に伝えなければ、曲解し続けるフシがある。
明確に伝えても、行動が伴っていなければ、曲解し続けるのだが。
ビーズのようにね。
彼はリアムを嫁にと公言しているが、リアムには冗談としてしかとらえられていない。
ビーズには息子がいる。息子への溺愛ぶりは見ていればわかる。
自分との差を感じるには充分ではないだろうか。
実際のところ、リアムが交際を承諾していないため、手を出さないだけなのだが。
口だけでなく、行動でも愛情を表さないと、リアムには全然信じてもらえない。
言葉と行動両方が伴っていないと、リアムは何一つ信じない。
「転生者ってことも私には言ってくれないし、信頼されてないのかなあ」
シロ様がいつのまにか手にお猪口をもって大瓶からチビチビと飲んでいる。
いや、それは俺にも言ってないですけど。
「というわけだよ、クトフくん」
「何が、というわけだよ」
リアムからものすごい適当な説明を受けた。
リアムもシロ様から詳細な説明を受けるまでは、そこまで詳しいことはわからないらしい。
クロ様からの説明だけではかなりの説明不足だ。
リアムからこのくだりをやり返された気がするよ。。。
砦の書類を送るとき、俺からやったからなあ。
通信の魔道具で俺はリアムと話している。
リアムが介入すると、あんなに砦長室に積んであった書類が嘘のように片付いていく。
たまる一方だったあの書類が。。。
リアムに転送の魔道具で送れば送るほど、きちんと分類されて返って来る。
返ってきた書類は補佐に渡す。提出先に届ける、返戻する、訂正する等を行うようだ。
年末年始でも砦は平常運転だ。魔物は人間の行事なんて関係ないからな。
砦には休みなんて存在しない。
冒険者たちには多少豪華な食事を提供するが。
「まあ、クトフの場合は俺がそっちに戻った後でも大丈夫だから、俺とともに生きるか検討しておいてよー」
軽いな。
リアムの誘い方があまりにも軽い。
重くてもいいものじゃないが。。。
しかも、ゾーイもリアムの誓約相手として連れて帰って来るよーと言われてしまった。本当に男を連れ帰って来ることになってしまった。砦長とアミールに言ったら、今度こそ書類作業が崩壊する気がする。
うん、あの二人に訂正する手間が省けたな。
リアムの奴隷たちはすでに従属化しているそうな。。。
そして、俺は。
羨ましい、と思ってしまった。
何が、と問われると、具体的には答えられないのだが。
ともに生きることを誘われたことは単純に嬉しい。
「ところで、砦長室にはあとどのくらい書類あるー?」
「そっちに送るのはあと三分の一くらいか。補佐が通常運転ぐらいの書類の量になるまでは頼みたいと言っていたから」
「あー、まだ、そんなにあるのかー。シロ様元気ー?」
「それは俺に聞くよりクロ様に聞け。俺には姿を見せないんだから」
「クロに聞くと、元気元気としか答えないー。信頼できないー。こういう魔の森に行けないときに召喚できると嬉しいのになー」
横でニマっとした気配がした。
バッと見ると、シロ様がニマニマしていた。俺が見たのに気づくとツーンとした表情にすぐさま戻る。
ここ、俺の部屋だけど。
シロ様もクロ様同様、鍵をかけていても何の関係もない。
「シロ様、元気そうだぞ」
一応リアムに伝えておく。リアムも何かを察したらしい。
「シロ様ー、ゾーイを砦に連れて帰るから楽しみにしててねー」
おい、リアム。
リアムを嫁々言っているシロ様に言ったら、違う意味での楽しみになるぞ。。。
「私もそこまで狭量ではない。リアムを孤独に追いやりたいわけではない」
あ、俺に向かってシロ様が言った。
表情を正確に読み取られてしまったか。
「リアムのお気に入りは数少ない。リーメルが亡くなったとき、私も反省したんだ。リアムのあの笑顔は見られなくなって」
無邪気に笑うリアムってリーメルさん限定品だったってことだ。
周囲にも振りまいていたのはその余波。
そんな気はしていたが、その事実を目の当たりにすると、周囲にいる者にとっては厳しい事実だ。
「けど、子供は二人までだからなっ。お前の子供が可愛いとしても、クロに唆されてもそれ以上は認めないからなっ」
「はーい」
間延びしたリアムの返事が聞こえた。
いや、シロ様、相手が全員、男なんだが。どこに女性がいた?
まさか、リアムは俺に隠していることがあるのでは。。。
リアムは聞かないと話さないことが多いので、俺が尋ねていないだけなのか?
それとも、何か方法が?
「じゃあ、シロ様、クトフ、またねー」
考えている間に通信が切れた。
シロ様は俺に詳細な説明をしてくれないだろう。
リアムとの通信が切れた今、シロ様がこの部屋にいる理由はない。
「ううっ、ホントは私がついていきたかったのに」
空の酒の小瓶がコロコロと転がってきた。
あ、酔っているからこの部屋に現れたのか?
リアムの声が聞こえて、ついフラフラと?
年の初めに、つまり昨日、酒の大瓶がお供えされていたはずだ。
それも飲み終わったのかな?
と思ったら、急にシロ様の小さい手に大瓶が現れて、ドンっと机の上に置かれる。
「え、」
「リアムのことはクロより私の方がわかっていると思っていたんだ。なのに、なのに、あの家族の中で、一番リアムは弟のことが大嫌いだったんだ。それをクロの方がわかっているなんて、、、」
シロ様の手が小さくワナワナしている。
「、、、言われてみると、確かに思い当たるフシが」
俺は昔のことを思い出す。
リアムは質問すると答えてくれるので、家庭教師が弟について砦に来なくなったときのことも聞いた。
家庭教師が弟に暴力を振るったときに、リアムは弟を治療院に連れて行かず、父親が帰って来るまで痛みに耐えさせた。
今更ながらに思うが、本当に弟を想うのなら、父親が信じる信じないにかかわらず、治療院に連れて行くだろう。
そもそも、医師が治療したと言えば、あの父親は信じたに違いない。
効率と確実性を考えれば、リアムの行動は理解できるのだが、本当に弟を可愛がっていたのなら生死に関わらないとはいえ一日も痛みを放置させるだろうか。
リアムは幼い頃から弟の面倒をみることになった。
五歳の子供がたった一人で昼間、まだ首も座っていない弟の面倒をみることがどんなに大変か。
しかも、アミールはかなり騒がしく手のかかる赤ん坊だった。
リアムの赤ん坊の頃はさすがに俺もまだ砦に来ていなかったが、砦長などの話を聞くと静かでよくシロ様とクロ様と一緒にベビーベッドにいたそうな。本を読んでいたり、シロ様の話を聞いていたりしていたそうな。。。昔からリアムはリアムだったらしい。
アミールはそのリアムとは正反対に泣き喚く子供だったため、砦に残っていた冒険者たちの感想はうるさいだった。
夜、魔の大平原に出なければならない冒険者たちは、リアムを睨むこともしばしばだったらしい。
いつしか泣き声が聞こえなくなった。
リアムが弟の面倒を最上階に移していたことを後で知った。
弟が落ち着いて来てから、リアムの姿も階下に戻ってきた。
弟もリアムに似て、リアムが母上至上主義なら、弟は兄上至上主義になっていった。
リアムは母親の負担にさせないために、弟を世話していたに過ぎない。
愛情の欠片もないか、と問われると、多少はある気がするのだが。
そして、今回の件で出た名前の中にアミールはいなかった。
年齢が二十五までだってー、と軽く説明されたので、砦長やビーズは端から対象外ということだろうけど、アミールが含まれない理由についての説明はなかった。
おそらくアミールならば三人の奴隷と同じく従属でも喜んで受け入れそうだ。
まあ、リアムは勘違いしている気がするけど。
アミールは砦の冒険者からも街の住民からも無条件に愛され、飴やらお菓子やらをよくもらっている、ように見える。すべてはリアムが存在しているからこその周囲の行動である。
リアムはリーメルさんが生きている頃は笑顔で超可愛かった。けれど、一人のときは何かもらってもすぐ母親に渡してしまった。弟が食べるなら、リアムも一緒に食べるだろうとお菓子をあげるのだが、リアムには弟のついでにもらったように見えるので、弟にすべて渡してしまう。
皆は弟をダシにしてリアムに近づこうとしているのだが、リアムは弟が愛されているのだと勘違いする。
意外とリアムは愛情を明確に伝えなければ、曲解し続けるフシがある。
明確に伝えても、行動が伴っていなければ、曲解し続けるのだが。
ビーズのようにね。
彼はリアムを嫁にと公言しているが、リアムには冗談としてしかとらえられていない。
ビーズには息子がいる。息子への溺愛ぶりは見ていればわかる。
自分との差を感じるには充分ではないだろうか。
実際のところ、リアムが交際を承諾していないため、手を出さないだけなのだが。
口だけでなく、行動でも愛情を表さないと、リアムには全然信じてもらえない。
言葉と行動両方が伴っていないと、リアムは何一つ信じない。
「転生者ってことも私には言ってくれないし、信頼されてないのかなあ」
シロ様がいつのまにか手にお猪口をもって大瓶からチビチビと飲んでいる。
いや、それは俺にも言ってないですけど。
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