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8章 愚者は踊り続ける
8-24 他人の評価
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クトフと通信をしながら、書類を自動筆記の魔法で書いていた。
ゾーイとバージは何をやっているかと言えば、書類整理の他に、ソファの方でバージがゾーイに書類について教えている。
複写した砦の管理者マニュアルも存在するので、バージに渡しておいたらそれも活用して教えているようだ。
「十歳の子供にコレができるとは。業務が滞るのも無理はない気がするんだが、リアムは弟に酷なことさせてないか
?俺でも難しいと感じる」
「ゾーイ、リアムは自分が基準なんだ。自分ができていたことは他人もできると信じている」
聞こえているぞ、二人とも。
クトフとシロ様との通信を終了させて、二人の方を振り返る。
「母上が亡くなって八歳のときから俺はやっているし、プラスして魔物討伐やら魔物販売許可責任者やら冒険者の管理やら何やらやっていたが、それらは今の弟にはやらせてないぞ」
(●`з´●)qブーブー
アミールがやっているのは俺が砦でやっていた仕事のごく一部だ。砦の管理者がするべき書類のサインだけだ。
「それに、誰でもできるとは思っていない。世の中には適材適所がある。冒険者である砦長たちは一人では回らないから補佐も含めて五人で冒険者の管理を回してもらっているじゃないか」
「つまり、五人いて、リアムと同等ってことなの?」
「いや、さっきも言ったが俺も砦を出発する直前まで冒険者の管理も一緒にやっていた」
「、、、砦の書類が滞るわけだ。逆だったのか。リアムが周囲の人間の能力を過大に期待しているわけじゃなく、リアムは自分のことを過小評価し過ぎていたのか」
バージがため息を吐く。
「自分のことをそこまで過小評価はしてないぞ。できることとできないことの線引きはしっかりしている」
「自分が抜けた穴がどれほどのものか、ここに送られてくる書類の量を見て気づけ」
「コレはクトフくんの不用意な一言が原因だろ」
「話を聞くに、元々書類がたまっていたところに決定打を加えただけだろ。年末年始だからたまっていたというよりリアムが抜けた穴の方が大きかったんじゃないか」
「そーかなー?」
前世では会社での事務処理はもっと早かった気がしたが。
仕方ないか。
全員がパソコンを扱うのと一人しか扱えないのとでは雲泥の差だ。そのぐらいの差が生じていると言っても良い。
自動筆記と複写の魔法は権利料の発生する魔法だから他の人たちに教えるわけにもいかないしなあ。
印刷業でもないから、侯爵家とは個人使用で誓約している。追加は高すぎるから無理だな。
「学園が始まる前に、この書類もある程度は片付けておかないとなー」
魔の森にC級以下の冒険者が入れるようになれば、書類をやる時間は限られる。
つまらない講義を書類に費やすか?
「そうだな。三組でも魔法の実技も始まるし、講義内容も難しくなっていくだろう」
「難しい魔法とか教えてくれたりするのか?」
「、、、いや、リアムが期待するような魔法は教えないと思う。基本的に一学年は基礎だし、二学年だって多少毛の生えた程度だ」
「じゃあ、ホントに学園って意味ないじゃん。図書館で借りた本を読んだ方が何倍も勉強になるじゃん」
「それはリアムだけだ。魔導士の家庭教師でもついていない限りは、この時点で魔法に長けている者はなかなかいない」
「えー、魔法って訓練を繰り返すだけの根性論じゃないか。適性のある魔法なら、できるまでやればできる」
「ホントに根性論だー」
バージ、魔法は訓練をどれだけ日々やるかで決まるんだぞ。
適性がまったくないものは、さすがにおススメしないけど。
砦の冒険者たちだって、ささやかな魔法を使い熟している。
ごく僅かな適性があれば、頑張ればささやかな魔法ぐらいは使えるのだ。
俺だって適性のない攻撃魔法もショボいが使えなくはない。
上を目指さなければ、魔法は便利に使えるのである。
「ラーラ様だって砦の冒険者魔法訓練法で訓練し続けていたから、努力と根性でC級魔導士まで能力が上がったんじゃないか。適性がなければ、C級魔導士にだってなれない」
「ハーラット侯爵家が何でリアムにあそこまでするのか疑問に思っていたが、そういうことか」
ゾーイが納得した顔になった。
「え?うちの砦の冒険者の訓練法を教えただけだぞ」
「平民に魔法を教えようとする人物はいない。使えるのはごく僅かだから、無駄だと思われている。言っては悪いが、ラーラ・ハーラットはハーラット侯爵家の落ちこぼれと言われていた。魔法学園入学は無理だと全貴族から思われていた。C級魔導士として入学した姿を見て、今はC級魔導士で落ちこぼれと評されるハーラット侯爵家の闇を感じている者がほとんどだ」
「俺も後で聞いた話だけど、妹ちゃんは魔法が使えなかったからうちの男爵領に来ていた。侯爵家は魔法が使えるのが当たり前で、使えない者の訓練法なんて知らなかったからなー」
魔法が使えるのが当たり前の人間は、使えない人間がどうして使えないのかわからない。
けど、元々その血が流れているので、基礎さえしっかりすれば多少は使えるようになるのが貴族である。
たとえA級魔導士の素質がある者でも一切訓練しなければ魔法も使えるようにならない。
感覚で魔法を使える者はごく一部だ。
「ゾーイは魔法の訓練は何かしていたのか?」
「俺は幼い頃やった教会の判定の儀式でA級魔導士と出ていたから、他の兄弟とは違い魔導士の家庭教師もついた。攻撃魔法を中心に教えてもらった」
「いいなー、お金持ちはー」
マックレー侯爵家は跡継ぎでなくとも子供に金をかける良い家だな。ゾーイはこの学園の寮費を払ってくれなかったと愚痴ったこともあったが、馬車で通える範囲に屋敷があるんだから別にいいじゃないか。
贅沢すぎるぞ。
「マックレー侯爵家にはそこまでの金はない。侯爵家の見栄で最低限のことをやっているだけだ。A級魔導士の子供を魔法学園に入学させなければ、この王都で笑いものになる」
「高位の貴族もいろいろとあるんだな。けど、使用人も雇えないうちよりかはどこの貴族も良いと思うけど。反対に俺は貴族じゃない方が良かったよ。平民ならこんなところまで来なくて済んだし」
と言ったら、ゾーイが泣きそうな顔になった。
どの部分が泣きそうになる箇所だ?
「リアムが貴族で良かった。そうじゃなければ、俺はリアムに会えなかった」
「俺と会わなければ幸せに王都で仕事を見つけて暮らしていたんじゃないか?」
「その前に死んでいたよ」
悲しそうに微笑まれた。
魔の森では冒険者は誰一人として魔法学園の学生を助けない。
彼らはいくら助けても命の値段を払わないからだ。
今まで貴族が責任を果たさなかったツケだ。
誓約魔法を使える冒険者は数少ない。
紙での誓約では、貴族相手では消されてしまう。破られるなり、燃やされるなり。
しかも、貴族と揉めれば自分の方が危なくなる。
ならば、見て見ぬフリ。
この地では、それが一番無難な選択になってしまった。
「じゃあ、魔の大平原で俺を助けてね」
「魔物との戦闘でも、書類の方でも助けられるように頑張るよ」
ゾーイは俺に微笑むと、書類の書き方をバージに学ぶ。
頭もいいし、要領もいいから、すぐに身につけられるだろう。バージも良い教師だ。
実力のあるA級魔導士ってことだけでもアタリなのに、偶然とはいえ、なんて素晴らしい人物に俺は惚れたんだろう。
俺の手伝いも世話もしてくれるなんて、こんな人間が落ちているなんて、どうして誰も拾っていなかったのか不思議に思うレベルだ。五男だから婚約者もいないというが、もったいない。
「砦に帰る前に一度、マックレー侯爵家には挨拶に行かないといけないなあ」
「ぐほっ」
ゾーイがむせた。バージが背中をさすっている。
手紙だけじゃ、さすがに失礼だろ。
しっかし、貴族の屋敷に行くのに最適な服って持ってないな。
あの白と銀の正装でマックレー侯爵家に行ったら、ケンカ売っているのかと思われるしなあ。
俺の服って冒険者用の服しかない。
ゾーイとバージは何をやっているかと言えば、書類整理の他に、ソファの方でバージがゾーイに書類について教えている。
複写した砦の管理者マニュアルも存在するので、バージに渡しておいたらそれも活用して教えているようだ。
「十歳の子供にコレができるとは。業務が滞るのも無理はない気がするんだが、リアムは弟に酷なことさせてないか
?俺でも難しいと感じる」
「ゾーイ、リアムは自分が基準なんだ。自分ができていたことは他人もできると信じている」
聞こえているぞ、二人とも。
クトフとシロ様との通信を終了させて、二人の方を振り返る。
「母上が亡くなって八歳のときから俺はやっているし、プラスして魔物討伐やら魔物販売許可責任者やら冒険者の管理やら何やらやっていたが、それらは今の弟にはやらせてないぞ」
(●`з´●)qブーブー
アミールがやっているのは俺が砦でやっていた仕事のごく一部だ。砦の管理者がするべき書類のサインだけだ。
「それに、誰でもできるとは思っていない。世の中には適材適所がある。冒険者である砦長たちは一人では回らないから補佐も含めて五人で冒険者の管理を回してもらっているじゃないか」
「つまり、五人いて、リアムと同等ってことなの?」
「いや、さっきも言ったが俺も砦を出発する直前まで冒険者の管理も一緒にやっていた」
「、、、砦の書類が滞るわけだ。逆だったのか。リアムが周囲の人間の能力を過大に期待しているわけじゃなく、リアムは自分のことを過小評価し過ぎていたのか」
バージがため息を吐く。
「自分のことをそこまで過小評価はしてないぞ。できることとできないことの線引きはしっかりしている」
「自分が抜けた穴がどれほどのものか、ここに送られてくる書類の量を見て気づけ」
「コレはクトフくんの不用意な一言が原因だろ」
「話を聞くに、元々書類がたまっていたところに決定打を加えただけだろ。年末年始だからたまっていたというよりリアムが抜けた穴の方が大きかったんじゃないか」
「そーかなー?」
前世では会社での事務処理はもっと早かった気がしたが。
仕方ないか。
全員がパソコンを扱うのと一人しか扱えないのとでは雲泥の差だ。そのぐらいの差が生じていると言っても良い。
自動筆記と複写の魔法は権利料の発生する魔法だから他の人たちに教えるわけにもいかないしなあ。
印刷業でもないから、侯爵家とは個人使用で誓約している。追加は高すぎるから無理だな。
「学園が始まる前に、この書類もある程度は片付けておかないとなー」
魔の森にC級以下の冒険者が入れるようになれば、書類をやる時間は限られる。
つまらない講義を書類に費やすか?
「そうだな。三組でも魔法の実技も始まるし、講義内容も難しくなっていくだろう」
「難しい魔法とか教えてくれたりするのか?」
「、、、いや、リアムが期待するような魔法は教えないと思う。基本的に一学年は基礎だし、二学年だって多少毛の生えた程度だ」
「じゃあ、ホントに学園って意味ないじゃん。図書館で借りた本を読んだ方が何倍も勉強になるじゃん」
「それはリアムだけだ。魔導士の家庭教師でもついていない限りは、この時点で魔法に長けている者はなかなかいない」
「えー、魔法って訓練を繰り返すだけの根性論じゃないか。適性のある魔法なら、できるまでやればできる」
「ホントに根性論だー」
バージ、魔法は訓練をどれだけ日々やるかで決まるんだぞ。
適性がまったくないものは、さすがにおススメしないけど。
砦の冒険者たちだって、ささやかな魔法を使い熟している。
ごく僅かな適性があれば、頑張ればささやかな魔法ぐらいは使えるのだ。
俺だって適性のない攻撃魔法もショボいが使えなくはない。
上を目指さなければ、魔法は便利に使えるのである。
「ラーラ様だって砦の冒険者魔法訓練法で訓練し続けていたから、努力と根性でC級魔導士まで能力が上がったんじゃないか。適性がなければ、C級魔導士にだってなれない」
「ハーラット侯爵家が何でリアムにあそこまでするのか疑問に思っていたが、そういうことか」
ゾーイが納得した顔になった。
「え?うちの砦の冒険者の訓練法を教えただけだぞ」
「平民に魔法を教えようとする人物はいない。使えるのはごく僅かだから、無駄だと思われている。言っては悪いが、ラーラ・ハーラットはハーラット侯爵家の落ちこぼれと言われていた。魔法学園入学は無理だと全貴族から思われていた。C級魔導士として入学した姿を見て、今はC級魔導士で落ちこぼれと評されるハーラット侯爵家の闇を感じている者がほとんどだ」
「俺も後で聞いた話だけど、妹ちゃんは魔法が使えなかったからうちの男爵領に来ていた。侯爵家は魔法が使えるのが当たり前で、使えない者の訓練法なんて知らなかったからなー」
魔法が使えるのが当たり前の人間は、使えない人間がどうして使えないのかわからない。
けど、元々その血が流れているので、基礎さえしっかりすれば多少は使えるようになるのが貴族である。
たとえA級魔導士の素質がある者でも一切訓練しなければ魔法も使えるようにならない。
感覚で魔法を使える者はごく一部だ。
「ゾーイは魔法の訓練は何かしていたのか?」
「俺は幼い頃やった教会の判定の儀式でA級魔導士と出ていたから、他の兄弟とは違い魔導士の家庭教師もついた。攻撃魔法を中心に教えてもらった」
「いいなー、お金持ちはー」
マックレー侯爵家は跡継ぎでなくとも子供に金をかける良い家だな。ゾーイはこの学園の寮費を払ってくれなかったと愚痴ったこともあったが、馬車で通える範囲に屋敷があるんだから別にいいじゃないか。
贅沢すぎるぞ。
「マックレー侯爵家にはそこまでの金はない。侯爵家の見栄で最低限のことをやっているだけだ。A級魔導士の子供を魔法学園に入学させなければ、この王都で笑いものになる」
「高位の貴族もいろいろとあるんだな。けど、使用人も雇えないうちよりかはどこの貴族も良いと思うけど。反対に俺は貴族じゃない方が良かったよ。平民ならこんなところまで来なくて済んだし」
と言ったら、ゾーイが泣きそうな顔になった。
どの部分が泣きそうになる箇所だ?
「リアムが貴族で良かった。そうじゃなければ、俺はリアムに会えなかった」
「俺と会わなければ幸せに王都で仕事を見つけて暮らしていたんじゃないか?」
「その前に死んでいたよ」
悲しそうに微笑まれた。
魔の森では冒険者は誰一人として魔法学園の学生を助けない。
彼らはいくら助けても命の値段を払わないからだ。
今まで貴族が責任を果たさなかったツケだ。
誓約魔法を使える冒険者は数少ない。
紙での誓約では、貴族相手では消されてしまう。破られるなり、燃やされるなり。
しかも、貴族と揉めれば自分の方が危なくなる。
ならば、見て見ぬフリ。
この地では、それが一番無難な選択になってしまった。
「じゃあ、魔の大平原で俺を助けてね」
「魔物との戦闘でも、書類の方でも助けられるように頑張るよ」
ゾーイは俺に微笑むと、書類の書き方をバージに学ぶ。
頭もいいし、要領もいいから、すぐに身につけられるだろう。バージも良い教師だ。
実力のあるA級魔導士ってことだけでもアタリなのに、偶然とはいえ、なんて素晴らしい人物に俺は惚れたんだろう。
俺の手伝いも世話もしてくれるなんて、こんな人間が落ちているなんて、どうして誰も拾っていなかったのか不思議に思うレベルだ。五男だから婚約者もいないというが、もったいない。
「砦に帰る前に一度、マックレー侯爵家には挨拶に行かないといけないなあ」
「ぐほっ」
ゾーイがむせた。バージが背中をさすっている。
手紙だけじゃ、さすがに失礼だろ。
しっかし、貴族の屋敷に行くのに最適な服って持ってないな。
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