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8章 愚者は踊り続ける
8-26 砦長の貸与 ◆クリス視点◆
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◆クリス視点◆
リアムに何も言えずに昼食後、トボトボと歩いて帰る。
護衛にとめられて、馬車に乗せられた。
リアムに言われてから、極西の砦に行っていない。
リアムの式典や会談での姿をナーヴァルに話そうと思っていたのに。
砦で酒を飲みながら楽しく会話しようと思っていたのに。
翌日。
お昼のちょっと遅い時間。
「で、なぜ食堂に来たんですか?」
「クトフ料理長ならリアムからいろいろ聞いて事情を知ってそう」
「知っていたとしても。キ、、、クリス様が新年から砦に来てないとリアムに報告したけれども」
キ?
厨房から他の料理人が遠巻きに見ている。
昼はこの食堂は場所を提供しているだけである。
冒険者は弁当を持っていくし、三階で売っている弁当は朝食時から作ってしまうので、今はのんびりとしている。料理人と下準備をする冒険者は昼は休憩である。ここは朝と夜が超忙しいので。
「リアムには私たちとの通信の魔道具のイヤリングを渡したけど、収納鞄に入れちゃったようだし、悲しい限り」
「クリス様が本当に渡したいのはリアムじゃないんでしょ」
「ほら、やっぱり聞いてるー」
クトフ料理長の顔に超面倒って書いてある。
ううっ、リアムと親友だ。類友だ。似てるよ。
食堂のテーブルに突っ伏す。
クトフ料理長が弁当を持って来て、向かいの席に座った。
「食べ終わるまでは話を聞きますよ」
と言って、お茶を出してくれる。
「リアムと親友できるくらいだから、いい子や」
「リアムだっていい子ですよ」
「昨日のお弁当、リアムは泣いて喜んでたよ。本当にあの子って何かしてもらうことに慣れてないから、、、」
気づくと、クトフ料理長が真っ赤になっていた。
私が見ていると、照れたように顔を背けた。
おや、コレは。
「リアムって、ゾーイ・マックレーも好きだけど、クトフ料理長のことも好きだよね。親友じゃなくてそうゆう仲なの?」
「いや、親友です。それ以上は考え中です」
それ以上、ということは?
「興味津々な顔はやめてもらえないですか?クリス様とは今まで全然話したこともなかったのに」
「それは事実だけどさあ。リアムってわかりやすそうでいて、よくわからないよね。砦の守護獣のことも好きなんでしょ、あの子」
「リアムは何気に単純ですよ。最初に何の思惑もなく何かをやってもらったら惚れますよ。この枠に入っているのが、母親のリーメルさん、シロ様とゾーイ・マックレーです」
「、、、ゾーイ・マックレーは私たちに対する牽制じゃないの?」
「忘れ物のペンを渡してくれたらしいです」
うおっと、そんな事実があったのか。
「じゃあ、兄が何か拾って届けていたらリアムは惚れてたの?」
「下心がある時点でダメなんですよ。つまりリアムをリアムと知ってリアムの前情報を持っている人間はすべて却下。仕事とか対価を要求するものも不可。簡単なようだけど、条件は厳しいんですよ」
「そう言われると無理難題な気もしてきた」
リアムと知らずにリアムにささやかでも恩を売ることをしなければならないって難しいことだろう。
本当に何気なく見知らぬ他人に親切にできる者は限られている。
ゾーイ・マックレーは偶然にしろやってしまったということか。
だからこそ、リアムはゾーイ・マックレーだけを魔の森で助けた。リアムはあのとき四人すべてを助けなかった。残りの三人は魔の森に放置した。
「クロ様や俺たちは別枠です。クロ様は知っててわざとやらなかった気がしますが」
「わっかるー?そうなの。僕って先に惚れられると興味なくなっちゃうからさあ」
、、、砦の守護獣がテーブルに現れた。ちっちゃい手を胸にあててポーズをとっているかのよう。私は最初リアムの従魔だと思っていたんだよなあ。こんなに小さくなれるとは思ってもみなかったから。
「クロ様、お茶飲みます?」
「そっだねー、せっかくだから食後のお茶をいただこうか。料理長もリアムへの点数稼ぎであんな弁当作らなくても良いじゃない。いつも通りの冒険者弁当で良かったのにー。それでもリアムは大喜びだったはずなのにー」
クトフ料理長が横のヤカンから湯呑みにお茶をいれクロ様に渡す。
湯呑みのサイズが大きいが、ちっこい手で軽々受け取る。お猪口で良いんじゃないかと思えるサイズなのだが。
「アレはリアムが小さい頃、リーメルさんに作る理想の弁当って話だったんですよ。けど、本当はリアムが誰かに作ってもらいたい弁当だったんですねえ」
今の会話だけで、クトフ料理長はそこまで読み取るの?
リアムが離したくないわけだ。
「本当ならあの砦長室いっぱいの書類の報酬がこの弁当だけかー、とツッコミするところだと思うんだけどさー、リアムは料理長があの書類に直接関係ないことも知ってるからねー、ずずずー」
「転送の魔道具を俺が持っていなければ、砦の書類の転送は俺の職務じゃないですからね」
「けっどー、料理長くんはその二段戸棚を誰にも渡す気はないんだろー?」
「当たり前じゃないですかー。俺が頼んで作ってもらったものなのに」
顔はにこやかに笑っているのに、なぜか寒いなあ。王都と比べなくても砦は魔の大平原の影響で暖かいのに。
私の話を聞いてもらおうと思っていたのに、なぜかリアムの話になってしまった。
仕方ないか。
ナーヴァルの話でも結局はリアムが関わっている。
クトフ料理長の耳にはリアムとお揃いのイヤーカフがついている。クトフ料理長は髪を後ろで束ねているから目立つ。リアムよりもイヤーカフはその存在を主張している気がする。
今、リアムが砦にいないから、この砦では何も言われていないだろうが、リアムが戻ってきてお揃いのイヤーカフを見れば、おそらく多くの者が勘繰るだろう。
実際、お揃いの物が砦の冒険者で流行っているとはいえ、通信の魔道具は魔石もついている。そんな高額な代物をリアムが贈っている時点でクトフ料理長はリアムの特別な人なのだろうと。
「営業スマイルくん、リアムが見送りたくないと思っている存在でも、僕たちが何もかもできるわけじゃないからね。できたのなら、クバードはまだ生きていただろうし。だからさー、キミは生きている間に多少なりとも行動したらー?」
「へ?」
いきなりクロ様に言われた。
「クリス様、クロ様が人にアドバイスするなんてとんでもないことですよ。それに、面倒なので当たって砕けてきてください」
クトフ料理長は弁当箱のフタを閉じて、お茶を啜った。
あ、食べ終わってしまったのか。
「砕かれるのは前提なのか」
「砦長がリアムを好きなのは周知の事実ですし、砦長は副砦長やクリス様が自分を好きなのを全然知らないのですから、まずは砦長に己の感情を知ってもらえばいいじゃないですか」
「簡単に言うけど」
「ええ、他人事ですから」
クトフ料理長はニッコリと言い残すと、席を立ってしまった。
ニヨニヨがテーブルに残った。
私も席を立つと、二ヨっとついてくる。
「、、、何か?」
「リアムの言う通り押し倒すのかなあと思ってー」
「面白がられてる」
「ツマミにこれどうぞ」
厨房から出てきたクトフ料理長に小皿のおつまみセットをトレイで渡される。
「、、、どうしろと?」
「リアムからクリス様の砦長に対する王都のお土産は毎度お酒だと聞いていますので」
どうせ今日も持っているんだろうと?
収納鞄に持っているけどさ。
「これで飲ませて酔わせて襲えと?キミたち意外と怖いね」
「補佐にも連絡しておきました。役立たず砦長なので、貸与してくれるそうです。魔の大平原が見渡せる雰囲気の良い三階の客室に通しておきましたとのことで」
「なんとまあ至れり尽くせり、リージェンが知ったら卒倒しそうだ」
「リージェン副砦長は意外とやらかしているので、こういったことに味方が少ないんですよ」
クトフ料理長は厨房に戻っていった。
せっかくだから行くけど。
三階の客室に行くと、ナーヴァルはポケーとソファに座っていた。
補佐に貸与されるわけだ。
リアムに何も言えずに昼食後、トボトボと歩いて帰る。
護衛にとめられて、馬車に乗せられた。
リアムに言われてから、極西の砦に行っていない。
リアムの式典や会談での姿をナーヴァルに話そうと思っていたのに。
砦で酒を飲みながら楽しく会話しようと思っていたのに。
翌日。
お昼のちょっと遅い時間。
「で、なぜ食堂に来たんですか?」
「クトフ料理長ならリアムからいろいろ聞いて事情を知ってそう」
「知っていたとしても。キ、、、クリス様が新年から砦に来てないとリアムに報告したけれども」
キ?
厨房から他の料理人が遠巻きに見ている。
昼はこの食堂は場所を提供しているだけである。
冒険者は弁当を持っていくし、三階で売っている弁当は朝食時から作ってしまうので、今はのんびりとしている。料理人と下準備をする冒険者は昼は休憩である。ここは朝と夜が超忙しいので。
「リアムには私たちとの通信の魔道具のイヤリングを渡したけど、収納鞄に入れちゃったようだし、悲しい限り」
「クリス様が本当に渡したいのはリアムじゃないんでしょ」
「ほら、やっぱり聞いてるー」
クトフ料理長の顔に超面倒って書いてある。
ううっ、リアムと親友だ。類友だ。似てるよ。
食堂のテーブルに突っ伏す。
クトフ料理長が弁当を持って来て、向かいの席に座った。
「食べ終わるまでは話を聞きますよ」
と言って、お茶を出してくれる。
「リアムと親友できるくらいだから、いい子や」
「リアムだっていい子ですよ」
「昨日のお弁当、リアムは泣いて喜んでたよ。本当にあの子って何かしてもらうことに慣れてないから、、、」
気づくと、クトフ料理長が真っ赤になっていた。
私が見ていると、照れたように顔を背けた。
おや、コレは。
「リアムって、ゾーイ・マックレーも好きだけど、クトフ料理長のことも好きだよね。親友じゃなくてそうゆう仲なの?」
「いや、親友です。それ以上は考え中です」
それ以上、ということは?
「興味津々な顔はやめてもらえないですか?クリス様とは今まで全然話したこともなかったのに」
「それは事実だけどさあ。リアムってわかりやすそうでいて、よくわからないよね。砦の守護獣のことも好きなんでしょ、あの子」
「リアムは何気に単純ですよ。最初に何の思惑もなく何かをやってもらったら惚れますよ。この枠に入っているのが、母親のリーメルさん、シロ様とゾーイ・マックレーです」
「、、、ゾーイ・マックレーは私たちに対する牽制じゃないの?」
「忘れ物のペンを渡してくれたらしいです」
うおっと、そんな事実があったのか。
「じゃあ、兄が何か拾って届けていたらリアムは惚れてたの?」
「下心がある時点でダメなんですよ。つまりリアムをリアムと知ってリアムの前情報を持っている人間はすべて却下。仕事とか対価を要求するものも不可。簡単なようだけど、条件は厳しいんですよ」
「そう言われると無理難題な気もしてきた」
リアムと知らずにリアムにささやかでも恩を売ることをしなければならないって難しいことだろう。
本当に何気なく見知らぬ他人に親切にできる者は限られている。
ゾーイ・マックレーは偶然にしろやってしまったということか。
だからこそ、リアムはゾーイ・マックレーだけを魔の森で助けた。リアムはあのとき四人すべてを助けなかった。残りの三人は魔の森に放置した。
「クロ様や俺たちは別枠です。クロ様は知っててわざとやらなかった気がしますが」
「わっかるー?そうなの。僕って先に惚れられると興味なくなっちゃうからさあ」
、、、砦の守護獣がテーブルに現れた。ちっちゃい手を胸にあててポーズをとっているかのよう。私は最初リアムの従魔だと思っていたんだよなあ。こんなに小さくなれるとは思ってもみなかったから。
「クロ様、お茶飲みます?」
「そっだねー、せっかくだから食後のお茶をいただこうか。料理長もリアムへの点数稼ぎであんな弁当作らなくても良いじゃない。いつも通りの冒険者弁当で良かったのにー。それでもリアムは大喜びだったはずなのにー」
クトフ料理長が横のヤカンから湯呑みにお茶をいれクロ様に渡す。
湯呑みのサイズが大きいが、ちっこい手で軽々受け取る。お猪口で良いんじゃないかと思えるサイズなのだが。
「アレはリアムが小さい頃、リーメルさんに作る理想の弁当って話だったんですよ。けど、本当はリアムが誰かに作ってもらいたい弁当だったんですねえ」
今の会話だけで、クトフ料理長はそこまで読み取るの?
リアムが離したくないわけだ。
「本当ならあの砦長室いっぱいの書類の報酬がこの弁当だけかー、とツッコミするところだと思うんだけどさー、リアムは料理長があの書類に直接関係ないことも知ってるからねー、ずずずー」
「転送の魔道具を俺が持っていなければ、砦の書類の転送は俺の職務じゃないですからね」
「けっどー、料理長くんはその二段戸棚を誰にも渡す気はないんだろー?」
「当たり前じゃないですかー。俺が頼んで作ってもらったものなのに」
顔はにこやかに笑っているのに、なぜか寒いなあ。王都と比べなくても砦は魔の大平原の影響で暖かいのに。
私の話を聞いてもらおうと思っていたのに、なぜかリアムの話になってしまった。
仕方ないか。
ナーヴァルの話でも結局はリアムが関わっている。
クトフ料理長の耳にはリアムとお揃いのイヤーカフがついている。クトフ料理長は髪を後ろで束ねているから目立つ。リアムよりもイヤーカフはその存在を主張している気がする。
今、リアムが砦にいないから、この砦では何も言われていないだろうが、リアムが戻ってきてお揃いのイヤーカフを見れば、おそらく多くの者が勘繰るだろう。
実際、お揃いの物が砦の冒険者で流行っているとはいえ、通信の魔道具は魔石もついている。そんな高額な代物をリアムが贈っている時点でクトフ料理長はリアムの特別な人なのだろうと。
「営業スマイルくん、リアムが見送りたくないと思っている存在でも、僕たちが何もかもできるわけじゃないからね。できたのなら、クバードはまだ生きていただろうし。だからさー、キミは生きている間に多少なりとも行動したらー?」
「へ?」
いきなりクロ様に言われた。
「クリス様、クロ様が人にアドバイスするなんてとんでもないことですよ。それに、面倒なので当たって砕けてきてください」
クトフ料理長は弁当箱のフタを閉じて、お茶を啜った。
あ、食べ終わってしまったのか。
「砕かれるのは前提なのか」
「砦長がリアムを好きなのは周知の事実ですし、砦長は副砦長やクリス様が自分を好きなのを全然知らないのですから、まずは砦長に己の感情を知ってもらえばいいじゃないですか」
「簡単に言うけど」
「ええ、他人事ですから」
クトフ料理長はニッコリと言い残すと、席を立ってしまった。
ニヨニヨがテーブルに残った。
私も席を立つと、二ヨっとついてくる。
「、、、何か?」
「リアムの言う通り押し倒すのかなあと思ってー」
「面白がられてる」
「ツマミにこれどうぞ」
厨房から出てきたクトフ料理長に小皿のおつまみセットをトレイで渡される。
「、、、どうしろと?」
「リアムからクリス様の砦長に対する王都のお土産は毎度お酒だと聞いていますので」
どうせ今日も持っているんだろうと?
収納鞄に持っているけどさ。
「これで飲ませて酔わせて襲えと?キミたち意外と怖いね」
「補佐にも連絡しておきました。役立たず砦長なので、貸与してくれるそうです。魔の大平原が見渡せる雰囲気の良い三階の客室に通しておきましたとのことで」
「なんとまあ至れり尽くせり、リージェンが知ったら卒倒しそうだ」
「リージェン副砦長は意外とやらかしているので、こういったことに味方が少ないんですよ」
クトフ料理長は厨房に戻っていった。
せっかくだから行くけど。
三階の客室に行くと、ナーヴァルはポケーとソファに座っていた。
補佐に貸与されるわけだ。
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