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11章 善意という名を借りた何か
11-4 一番強いのは誰? ◆ゴウ視点◆
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◆ゴウ視点◆
「胃が痛いっ」
ズィーからそんな言葉を聞くようになるとは。
常にどんな苦情処理も顔色も一切変えずに淡々とこなす細目の苦情処理のエキスパート。
そんなズィーの表情が歪んでいる。。。
胃薬をそっと勧める。
俺が持ち歩いていたわけじゃなく、従者くんからの差し入れだ。
「懲罰委員会か、、、終わったな、アイツらも」
胃薬をそんなに飲んでも、カラダに悪いだけだよー。
用量は守りなよー。
冒険者ギルド総本部の懲罰委員会。
一般職員で知る者は少ないが、決して形骸化しているわけではなく、この懲罰委員会に名前が上がったら最後、円満な自己退職で話がつく。
つまり、証拠がなければこの懲罰委員会に書類を提出することさえ許されないほど、けっこうハードルの高いものである。ただし、ハードルが高いがゆえに、完全に黒と断定される証拠が出たら、もはやその職員は閑職でさえ冒険者ギルドにいることはできない。
そもそも、通常の仕事の範囲内ならば上司が部下をやんわりと諭すなり、軌道修正したりして懲罰委員会まで利用されることはない。上司がグルだったり、責任を回避するために立場が弱い者に押しつけたり度を越した場合に出てきてしまうことが多い。
組織内の膿を出すための必要な委員会である。今回のような案件にぴったりだな。
ただし、今回はリアムが動いたから公になったが、このようなことは冒険者ギルド内で山ほどあるに違いない。
なぜ職員ですら知らない者が多い懲罰委員会をリアムが知っていたのか。
リアムだからな、で、この頃済ませようとしている自分が怖い。
リアムはヤバいほど速攻で懲罰委員会に書類提出していた。
もはや止める間もないほど。
証拠を押さえた時点で、リアムの手には別の紙が用意されていたのを気づいたのはバージとゾーイと従者くんのみだ。
その証拠書類を確保したその足で、懲罰委員会の書類を提出に行かれてしまった。
俺もインもアウも後ろについていっただけだったよ。
「コレでリアムを敵に回したら最後だってことがよくわかったことだろう。総本部の連中も」
「一日で総本部中に噂も広まってしまったよー」
「砦の管理者リアム・メルクイーンが総本部に書類改善に来ているって話も盛大に広まっていたはずなのに」
「白銀の辺境伯とお近づきになりたい者たちも多いからねー」
ただただ東の国の魔物をどうにかしてほしいという欲望で。
漆黒の辺境伯の英雄譚と重ねて。
冒険者ギルドでもあの土地の惨状に心を痛めている者は少なくない。
多くの冒険者を派遣しようとしても、多くの冒険者に断られる。
誰だって、命の危険しかない、というか生きて帰って来れない場所に行こうとは思わない。
冒険者は慈善活動で冒険者をしているわけじゃないのだ。
彼らにはリアムの容姿が知られていなかった。
白銀の衣装をいつも着ていると思われていたようなのが笑える。
救いを求めているクセに、相手の顔すら調べようとしない。
だから、冒険者の服装であるリアムは、砦の管理者は冒険者であるという情報があるにもかかわらず、しかも双剣を腰にぶら下げているにもかかわらず、白銀の辺境伯リアム・メルクイーン本人だとは思われていなかった。
総本部の建物内ですれ違ったことのある職員は多い。なのに、気づかれていなかった。
今回、リアムが大勢の前で自分自身の名前を出してしまったことで、顔バレした。
が、あの立ち回りで、リアムの仕事の邪魔をしたら合法的に消される、という話も広まった。
十五歳とは思えないあの迫力も、あの態度も、あの口も、敵うと思える人がいるのなら戦ってみて欲しいくらいだ。彼が正義感だけであの場にいたわけではないことを、あそこにいた者は全員が気づいた。
そして、懲罰委員会を知らなかった職員も、その名称からなんとなーくどんな存在か感づいたようだ。
「カラダを張ってとめろよ、SS級に一番近いS級冒険者なんだから」
「、、、え、冗談きついぞ、ズィー。リアムの肩に触っただけでも、ゾーイの目が恐ろしいものに変わるのに」
リアムとゾーイは将来を約束した仲とは聞いていた。
魔法学園卒業後、リアムがゾーイを砦にお持ち帰りする仲だと。
それでも、バージも従者くんもいるのでお互い距離は置いているのだが、職場や人の目があるところ以外ではイチャついているらしい。。。
「ゾーイだけなら何とかなるだろ」
「反対にゾーイを押さえたら、リアムが黙ってないぞ。リアムの執着はゾーイ以上だぞ。あの二人はそういう点でもお似合いなんだぞ。あの二人を一人で対応できるか。俺、せっかく冒険者に戻れるのに、こんな建物内で死にたくない」
「、、、あの二人を相手にすると死ぬのか、S級冒険者でも」
「死ぬよ、死ぬ。社会的にも、心も、カラダも、滅する」
「砦の守護獣が出て来ない時点でそれじゃ、どうしようもないじゃないか」
「そう、俺じゃどうしようもない。リアムをとめる術はない。カラダを張ってとめられない以上、口で勝てるわけもない。職員がこれ以上何か波風を立たせないことを祈るだけだ」
懐柔策ってリアムに効果あるのか?
ラーメン屋が親戚にいればなあと思う今日この頃だが。。。
そういや、ズィーもあの国で動いていると聞く。
ズィーはあの国でけっこう恨まれているからなあ。いや、あの国以外でもかなり恨まれているが。関係修繕からやらないといけないからなあ。
ズィーなら時間をかければどうにかしてしまうだろう。
「まあ、不幸中の幸いと言えば、騒いだのが大陸の東の担当の部屋だったことだな。アレで何の見返りもなくアホみたいに魔物から東の国を救ってー、って言う馬鹿が冒険者ギルド職員から生まれない」
「教会あたりは言いそうだけどね。救世主として人類をお救いください、とか」
「それ、リアムの前で言ったら、まずはお前と家族で魔物の前に行って来いとか言いそうなんだが」
「それぐらいで済めば良いよねー」
俺がそう言うと、ズィーは乾いた笑いを浮かべた。
「当たり前のように誰かが救ってくれると思っている者たちが、リアムの前に湧いて出て来ないことを願うが」
「多数が集まる式典では難しいんじゃないかー。先見の巫女の件ではこの国の上層部の誰もが感謝している。が、先見の巫女のことをどうにかできたのならば、東の国もどうにかできないかと言いそうだ」
「全然違うものだが。リアムの場合、無茶振りされても応酬できるが、相手もそれ以上の手痛い報復を返されるとは思うまい」
「神に祈るように縋るんだろうね。助けてください、白銀の辺境伯、って言って」
祈りたくなる気持ちもわかるが、彼は人だ。
「その白銀の辺境伯というのも、リアムにとっては地雷だからな」
「意外とリアムには地雷が多い気がするなー」
母親以外の家族の話も地雷。
そして、クジョー王国の王子のことも気軽に話せる話題ではない。
「仮定の話をするのはあまりしたくはないが、母親さえ生きていれば、リアム・メルクイーンは今と全然違った人物だったかもしれないぞ」
もし母親が生きていれば。
失ったものは取り戻せない。
そんなことは悲しいほど、痛いほどわかっている。
「ところでゴウ、確認なんだが、お前、本当にあの衣装で式典に出るつもりなのか?」
「採寸も終わったし、式典に間に合うって言っていたぞ。やめておいた方が良いのか?」
ズィーは生温かい細い目で俺を見ていた。
「いや、言った通りただの確認だ。お前が気に入ったのならとめる気はない」
「白と銀の衣装だから、そこまで派手ではないだろう。カッコイイのにリアムがやめた理由がわからないほどなんだが?」
「うん、まあ、そういうことにしておこうか」
いつもと違い、歯切れの悪い受け答えをズィーにされたような気がする。
あ、俺にあの衣装は似合わないと言いたかったのだろうか?
「胃が痛いっ」
ズィーからそんな言葉を聞くようになるとは。
常にどんな苦情処理も顔色も一切変えずに淡々とこなす細目の苦情処理のエキスパート。
そんなズィーの表情が歪んでいる。。。
胃薬をそっと勧める。
俺が持ち歩いていたわけじゃなく、従者くんからの差し入れだ。
「懲罰委員会か、、、終わったな、アイツらも」
胃薬をそんなに飲んでも、カラダに悪いだけだよー。
用量は守りなよー。
冒険者ギルド総本部の懲罰委員会。
一般職員で知る者は少ないが、決して形骸化しているわけではなく、この懲罰委員会に名前が上がったら最後、円満な自己退職で話がつく。
つまり、証拠がなければこの懲罰委員会に書類を提出することさえ許されないほど、けっこうハードルの高いものである。ただし、ハードルが高いがゆえに、完全に黒と断定される証拠が出たら、もはやその職員は閑職でさえ冒険者ギルドにいることはできない。
そもそも、通常の仕事の範囲内ならば上司が部下をやんわりと諭すなり、軌道修正したりして懲罰委員会まで利用されることはない。上司がグルだったり、責任を回避するために立場が弱い者に押しつけたり度を越した場合に出てきてしまうことが多い。
組織内の膿を出すための必要な委員会である。今回のような案件にぴったりだな。
ただし、今回はリアムが動いたから公になったが、このようなことは冒険者ギルド内で山ほどあるに違いない。
なぜ職員ですら知らない者が多い懲罰委員会をリアムが知っていたのか。
リアムだからな、で、この頃済ませようとしている自分が怖い。
リアムはヤバいほど速攻で懲罰委員会に書類提出していた。
もはや止める間もないほど。
証拠を押さえた時点で、リアムの手には別の紙が用意されていたのを気づいたのはバージとゾーイと従者くんのみだ。
その証拠書類を確保したその足で、懲罰委員会の書類を提出に行かれてしまった。
俺もインもアウも後ろについていっただけだったよ。
「コレでリアムを敵に回したら最後だってことがよくわかったことだろう。総本部の連中も」
「一日で総本部中に噂も広まってしまったよー」
「砦の管理者リアム・メルクイーンが総本部に書類改善に来ているって話も盛大に広まっていたはずなのに」
「白銀の辺境伯とお近づきになりたい者たちも多いからねー」
ただただ東の国の魔物をどうにかしてほしいという欲望で。
漆黒の辺境伯の英雄譚と重ねて。
冒険者ギルドでもあの土地の惨状に心を痛めている者は少なくない。
多くの冒険者を派遣しようとしても、多くの冒険者に断られる。
誰だって、命の危険しかない、というか生きて帰って来れない場所に行こうとは思わない。
冒険者は慈善活動で冒険者をしているわけじゃないのだ。
彼らにはリアムの容姿が知られていなかった。
白銀の衣装をいつも着ていると思われていたようなのが笑える。
救いを求めているクセに、相手の顔すら調べようとしない。
だから、冒険者の服装であるリアムは、砦の管理者は冒険者であるという情報があるにもかかわらず、しかも双剣を腰にぶら下げているにもかかわらず、白銀の辺境伯リアム・メルクイーン本人だとは思われていなかった。
総本部の建物内ですれ違ったことのある職員は多い。なのに、気づかれていなかった。
今回、リアムが大勢の前で自分自身の名前を出してしまったことで、顔バレした。
が、あの立ち回りで、リアムの仕事の邪魔をしたら合法的に消される、という話も広まった。
十五歳とは思えないあの迫力も、あの態度も、あの口も、敵うと思える人がいるのなら戦ってみて欲しいくらいだ。彼が正義感だけであの場にいたわけではないことを、あそこにいた者は全員が気づいた。
そして、懲罰委員会を知らなかった職員も、その名称からなんとなーくどんな存在か感づいたようだ。
「カラダを張ってとめろよ、SS級に一番近いS級冒険者なんだから」
「、、、え、冗談きついぞ、ズィー。リアムの肩に触っただけでも、ゾーイの目が恐ろしいものに変わるのに」
リアムとゾーイは将来を約束した仲とは聞いていた。
魔法学園卒業後、リアムがゾーイを砦にお持ち帰りする仲だと。
それでも、バージも従者くんもいるのでお互い距離は置いているのだが、職場や人の目があるところ以外ではイチャついているらしい。。。
「ゾーイだけなら何とかなるだろ」
「反対にゾーイを押さえたら、リアムが黙ってないぞ。リアムの執着はゾーイ以上だぞ。あの二人はそういう点でもお似合いなんだぞ。あの二人を一人で対応できるか。俺、せっかく冒険者に戻れるのに、こんな建物内で死にたくない」
「、、、あの二人を相手にすると死ぬのか、S級冒険者でも」
「死ぬよ、死ぬ。社会的にも、心も、カラダも、滅する」
「砦の守護獣が出て来ない時点でそれじゃ、どうしようもないじゃないか」
「そう、俺じゃどうしようもない。リアムをとめる術はない。カラダを張ってとめられない以上、口で勝てるわけもない。職員がこれ以上何か波風を立たせないことを祈るだけだ」
懐柔策ってリアムに効果あるのか?
ラーメン屋が親戚にいればなあと思う今日この頃だが。。。
そういや、ズィーもあの国で動いていると聞く。
ズィーはあの国でけっこう恨まれているからなあ。いや、あの国以外でもかなり恨まれているが。関係修繕からやらないといけないからなあ。
ズィーなら時間をかければどうにかしてしまうだろう。
「まあ、不幸中の幸いと言えば、騒いだのが大陸の東の担当の部屋だったことだな。アレで何の見返りもなくアホみたいに魔物から東の国を救ってー、って言う馬鹿が冒険者ギルド職員から生まれない」
「教会あたりは言いそうだけどね。救世主として人類をお救いください、とか」
「それ、リアムの前で言ったら、まずはお前と家族で魔物の前に行って来いとか言いそうなんだが」
「それぐらいで済めば良いよねー」
俺がそう言うと、ズィーは乾いた笑いを浮かべた。
「当たり前のように誰かが救ってくれると思っている者たちが、リアムの前に湧いて出て来ないことを願うが」
「多数が集まる式典では難しいんじゃないかー。先見の巫女の件ではこの国の上層部の誰もが感謝している。が、先見の巫女のことをどうにかできたのならば、東の国もどうにかできないかと言いそうだ」
「全然違うものだが。リアムの場合、無茶振りされても応酬できるが、相手もそれ以上の手痛い報復を返されるとは思うまい」
「神に祈るように縋るんだろうね。助けてください、白銀の辺境伯、って言って」
祈りたくなる気持ちもわかるが、彼は人だ。
「その白銀の辺境伯というのも、リアムにとっては地雷だからな」
「意外とリアムには地雷が多い気がするなー」
母親以外の家族の話も地雷。
そして、クジョー王国の王子のことも気軽に話せる話題ではない。
「仮定の話をするのはあまりしたくはないが、母親さえ生きていれば、リアム・メルクイーンは今と全然違った人物だったかもしれないぞ」
もし母親が生きていれば。
失ったものは取り戻せない。
そんなことは悲しいほど、痛いほどわかっている。
「ところでゴウ、確認なんだが、お前、本当にあの衣装で式典に出るつもりなのか?」
「採寸も終わったし、式典に間に合うって言っていたぞ。やめておいた方が良いのか?」
ズィーは生温かい細い目で俺を見ていた。
「いや、言った通りただの確認だ。お前が気に入ったのならとめる気はない」
「白と銀の衣装だから、そこまで派手ではないだろう。カッコイイのにリアムがやめた理由がわからないほどなんだが?」
「うん、まあ、そういうことにしておこうか」
いつもと違い、歯切れの悪い受け答えをズィーにされたような気がする。
あ、俺にあの衣装は似合わないと言いたかったのだろうか?
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