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11章 善意という名を借りた何か
11-7 不穏な足音
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「そーなんだ。義肢の調整ができてね。魔の砂漠でも対応できるから復帰することにした」
「喜ばしいことですね」
ゴウさんに返す微笑みが薄ら寒い。
クマリンの本音はどこにあるのだろう。
「またよろしくなー」
そのささやかな表情の変化に気づけないゴウさんはいつも通りの笑顔で対応している。
ズィーさんの細い目も見事な一直線になっている気がする。
トップ冒険者の意地とかプライドとか感情とか、C級冒険者にわかるはずもない。ナーヴァルたちなら理解できたかもしれないけど。
しかも、グレーデン大国のトップ冒険者と言えば、この大陸全土で一番だと言ってもいい。
引退して自分が一番になったと思いきや、急に復活されたらどう思うか。
んで、そんなことより。
「クマリンさんの服装、上品ですね」
シックとはクマリンさんのような格好を言うのだろう。黒でシンプルに統一されていて、アクセントに差し色を少し加えている程度だ。
ド派手な衣装って、見回してもそこまでこの会場にいない気がする。。。もちろん、いることにいるが。超目立つ者たちは。大道芸人か、ってくらいの衣装の者も。
だが、一般的なグレーデン大国の服装事情も、そこまで俺の価値観とズレている気がしないのだが。
「ん?ありがとう、リアム。キミは白と銀色の衣装でこの場に出ると思っていたが、、、ゴウさんに譲ったんだね」
俺はクマリンさんににっこりと笑顔で返す。
「俺がそんなもの着るわけないじゃないですか」
「う、うん、グレーも似合うよ」
付け加えた感のある社交辞令でもありがたく受け取っておくよ。
「クマリンさんは黒が似合いますね。そういや、クバード・スート辺境伯に憧れていたとか何とか」
「ああ、漆黒の辺境伯は黒の衣装だからね。この色は外せないね。ところで、三人が着ているのはクジョー王国の正装というものかな?」
「そうですよ。クバード・スート辺境伯も黒でこういう衣装だったようですよ。マントの長さは俺のと同じですからね」
三人の衣装は多少の違いはあるが、他国の人間からすると色以外はほぼ同じように見えるだろう。
しばし、沈黙。
クマリンは何か考えているようだが?
「ええっと、漆黒の辺境伯が着ていたのって、今、俺が着ているような衣装はありえない感じかな?」
「そもそも詰襟じゃないですから、まったく違いますよね。辺境伯はこういう正装で魔物退治もしていたくらいですから恐ろしいですよ。返り血でも浴びたら高額な衣装が台無しですからねえ」
黒だから目立たないが、返り血を浴びた衣装をそのまま着ているわけもない。
彼は本物の貴族なのだから。
「あ、ああ、そうなんだ。リアムたちが着ているような衣装を辺境伯も着ていたんだ?」
「辺境伯はマントのかけ方は俺と逆ですが。あの方は未婚ですので、ゾーイやバージと同じ羽織り方になりますよ」
「あれ?辺境伯も砦の守護獣と誓約していたんだろ?」
バージが疑問を呈した。
「あの当時は誓約内容についてそこまで吟味されてなかったようだ。それに相手は人じゃないから。砦に残されている記録には辺境伯の服装が適当に描かれていたからそれで正しいはずだよ」
「え?何それ、そんなのがあるなら見たい」
クマリンが興味を持ったようだ。先ほどの冷たい空気はどこへやら。熱い目がそこにある。辺境伯のことをそこまで憧れているのかなー?ファンか?
ただし、記録を書いているのは辺境伯の筆頭執事である。辺境伯を褒めたたえる文章が八割なので、後世に重要なことはほとんど書かれていない。
他の記録を読んだ方がマシである。
「砦に来たら見れますよー」
さすがに来ないだろうけど。
アレはそんな重要な記録でもない。
ついでに言うなら、辺境伯大好きシロ様の説明の方が詳細であった。。。
赤ん坊時代、ずっと聞いていたからなあ。
恐ろしいほど克明に教えてくれたから。
「行きたいなあ。俺が西の果てに行くには調整が必要だよなあ。ゴウさんが復活するなら可能か。あれ?今、何か重要なことを聞いた気が、、、ん?マント、、、リアムは既婚者な」
「リアムー、式典が始まるからもう座ってくれー。従者くんも頼むから」
ズィーさんが従者くんの肩をつかんで座らせた。
クマリンは質問の途中で切れてしまったが、時間が時間のようでそれ以上何も言わず自分の席に戻っていった。
ここの前の方の座席は一席一席が広く作られている。クッションもいいし、肘置きもそれぞれの椅子に存在している。肘置きの取り合いなんて考えなくても良い。
座席に人が座っていても、普通にドレスでも通れるような空間が存在している。
ただし、後ろに行けば行くほど座席の幅も狭くなり、通路も狭くなっているようだが。
式典自体は面白いものでも何でもない。
次の先見の巫女の紹介の儀式。
協力者の知識と助けにより、先見の巫女の魔法が継承されるようになったこと等を長ったらしい文章で説明をしてくれた。
この式典は国家の重要な式典にあたるので、国家元首や重鎮、名立たる組織のお偉いさんまで揃っている。
そういう者たちが何人も壇上で長い長い挨拶をしてくれるのである。先見の巫女に対するお祝いの言葉でもあるんだろうけど。
眠くならない方がおかしいくらいだ。
学生時代、校長先生の話って真面目に聞いていた人っている?まず、聞き流すよねー。何を言われたのか覚えてもいない。
俺の名前は絶対に出すなと言っておいたので、一応名前は出て来ない。
けれど、匂わしているので、情報源を持っている者は誰が先見の巫女の魔道具を作ったのか見当はついてしまう。
でも、後方からの視線はゴウさんに突き刺さっている。
あの白と銀の衣装の方が白銀の辺境伯だろうという推測の元に。
後ろからじゃ顔は見れないから、S級冒険者として有名なゴウさんの顔を知っている者たちも判断つかない。
いやーどうしよう。
超眠いわー。ヤバいほど眠いわー。
手の甲をつねってみても、眠気が取れないわー。
この世界にはガムないんだよねー。
こんな国外の大規模な式典で最前列の客が眠ったら恥だよね。
ゾーイもバージもごくごく普通に座っているしー。さすがは貴族の教育を受けた人たちだわー。
寝ちゃダメかなー?
ウトウトウト。。。
パキリ、、、と。
嫌な音が小さく響き、左肩に破片が落ちて来る。
俺のイヤーカフについている魔石が割れた。
指でつまんだその色は青。
「っ、」
「リアム?」
隣のゾーイが俺の異変に気付く。
この青の魔石は防御のための魔法を発動させるもの。
お揃いであるがために、クトフのためにつけたもので、俺の方で使われるとは思ってもいなかった。
通信用で使われている紫の魔石は何ともなっていない。
攻撃をされたことは確かだ。
どこから?
完全に俺だけを狙ったものだ。
こんな眠気覚ましはいらない。
閉会の挨拶がされるまでが長かった。
終了後に素早く立ち上がったが、ズィーにとめられた。
「リアム、これから控室に行って少し休憩してから、キミと話したいという者たちがいる。しばらくは退場する者たちで周辺はごった返す。この人混みの中で帰るのは」
「、、、防御の魔法をかけていた魔石が割れた」
正直に俺は言った。
「え?それはこのなかにいる者から攻撃されたということか?」
ズィーさんが周囲に視線を走らせた。
「いや、実行犯も黒幕もここにはいない」
「それならこの会場を封鎖をする必要はないか。この式典の参加者は全員の身元が判明しているし」
俺の言葉にほんの少しホッとした表情を浮かべるズィーさん。
自国の式典で招待客が狙われたら困るよな。
長い式典のおかげで、ほんの少し冷静になれた。
その時間で、犯人を探ることができた。
「リアムを狙ったのか?どこのどいつだ」
ゴウさんが俺に尋ねた。
「喜ばしいことですね」
ゴウさんに返す微笑みが薄ら寒い。
クマリンの本音はどこにあるのだろう。
「またよろしくなー」
そのささやかな表情の変化に気づけないゴウさんはいつも通りの笑顔で対応している。
ズィーさんの細い目も見事な一直線になっている気がする。
トップ冒険者の意地とかプライドとか感情とか、C級冒険者にわかるはずもない。ナーヴァルたちなら理解できたかもしれないけど。
しかも、グレーデン大国のトップ冒険者と言えば、この大陸全土で一番だと言ってもいい。
引退して自分が一番になったと思いきや、急に復活されたらどう思うか。
んで、そんなことより。
「クマリンさんの服装、上品ですね」
シックとはクマリンさんのような格好を言うのだろう。黒でシンプルに統一されていて、アクセントに差し色を少し加えている程度だ。
ド派手な衣装って、見回してもそこまでこの会場にいない気がする。。。もちろん、いることにいるが。超目立つ者たちは。大道芸人か、ってくらいの衣装の者も。
だが、一般的なグレーデン大国の服装事情も、そこまで俺の価値観とズレている気がしないのだが。
「ん?ありがとう、リアム。キミは白と銀色の衣装でこの場に出ると思っていたが、、、ゴウさんに譲ったんだね」
俺はクマリンさんににっこりと笑顔で返す。
「俺がそんなもの着るわけないじゃないですか」
「う、うん、グレーも似合うよ」
付け加えた感のある社交辞令でもありがたく受け取っておくよ。
「クマリンさんは黒が似合いますね。そういや、クバード・スート辺境伯に憧れていたとか何とか」
「ああ、漆黒の辺境伯は黒の衣装だからね。この色は外せないね。ところで、三人が着ているのはクジョー王国の正装というものかな?」
「そうですよ。クバード・スート辺境伯も黒でこういう衣装だったようですよ。マントの長さは俺のと同じですからね」
三人の衣装は多少の違いはあるが、他国の人間からすると色以外はほぼ同じように見えるだろう。
しばし、沈黙。
クマリンは何か考えているようだが?
「ええっと、漆黒の辺境伯が着ていたのって、今、俺が着ているような衣装はありえない感じかな?」
「そもそも詰襟じゃないですから、まったく違いますよね。辺境伯はこういう正装で魔物退治もしていたくらいですから恐ろしいですよ。返り血でも浴びたら高額な衣装が台無しですからねえ」
黒だから目立たないが、返り血を浴びた衣装をそのまま着ているわけもない。
彼は本物の貴族なのだから。
「あ、ああ、そうなんだ。リアムたちが着ているような衣装を辺境伯も着ていたんだ?」
「辺境伯はマントのかけ方は俺と逆ですが。あの方は未婚ですので、ゾーイやバージと同じ羽織り方になりますよ」
「あれ?辺境伯も砦の守護獣と誓約していたんだろ?」
バージが疑問を呈した。
「あの当時は誓約内容についてそこまで吟味されてなかったようだ。それに相手は人じゃないから。砦に残されている記録には辺境伯の服装が適当に描かれていたからそれで正しいはずだよ」
「え?何それ、そんなのがあるなら見たい」
クマリンが興味を持ったようだ。先ほどの冷たい空気はどこへやら。熱い目がそこにある。辺境伯のことをそこまで憧れているのかなー?ファンか?
ただし、記録を書いているのは辺境伯の筆頭執事である。辺境伯を褒めたたえる文章が八割なので、後世に重要なことはほとんど書かれていない。
他の記録を読んだ方がマシである。
「砦に来たら見れますよー」
さすがに来ないだろうけど。
アレはそんな重要な記録でもない。
ついでに言うなら、辺境伯大好きシロ様の説明の方が詳細であった。。。
赤ん坊時代、ずっと聞いていたからなあ。
恐ろしいほど克明に教えてくれたから。
「行きたいなあ。俺が西の果てに行くには調整が必要だよなあ。ゴウさんが復活するなら可能か。あれ?今、何か重要なことを聞いた気が、、、ん?マント、、、リアムは既婚者な」
「リアムー、式典が始まるからもう座ってくれー。従者くんも頼むから」
ズィーさんが従者くんの肩をつかんで座らせた。
クマリンは質問の途中で切れてしまったが、時間が時間のようでそれ以上何も言わず自分の席に戻っていった。
ここの前の方の座席は一席一席が広く作られている。クッションもいいし、肘置きもそれぞれの椅子に存在している。肘置きの取り合いなんて考えなくても良い。
座席に人が座っていても、普通にドレスでも通れるような空間が存在している。
ただし、後ろに行けば行くほど座席の幅も狭くなり、通路も狭くなっているようだが。
式典自体は面白いものでも何でもない。
次の先見の巫女の紹介の儀式。
協力者の知識と助けにより、先見の巫女の魔法が継承されるようになったこと等を長ったらしい文章で説明をしてくれた。
この式典は国家の重要な式典にあたるので、国家元首や重鎮、名立たる組織のお偉いさんまで揃っている。
そういう者たちが何人も壇上で長い長い挨拶をしてくれるのである。先見の巫女に対するお祝いの言葉でもあるんだろうけど。
眠くならない方がおかしいくらいだ。
学生時代、校長先生の話って真面目に聞いていた人っている?まず、聞き流すよねー。何を言われたのか覚えてもいない。
俺の名前は絶対に出すなと言っておいたので、一応名前は出て来ない。
けれど、匂わしているので、情報源を持っている者は誰が先見の巫女の魔道具を作ったのか見当はついてしまう。
でも、後方からの視線はゴウさんに突き刺さっている。
あの白と銀の衣装の方が白銀の辺境伯だろうという推測の元に。
後ろからじゃ顔は見れないから、S級冒険者として有名なゴウさんの顔を知っている者たちも判断つかない。
いやーどうしよう。
超眠いわー。ヤバいほど眠いわー。
手の甲をつねってみても、眠気が取れないわー。
この世界にはガムないんだよねー。
こんな国外の大規模な式典で最前列の客が眠ったら恥だよね。
ゾーイもバージもごくごく普通に座っているしー。さすがは貴族の教育を受けた人たちだわー。
寝ちゃダメかなー?
ウトウトウト。。。
パキリ、、、と。
嫌な音が小さく響き、左肩に破片が落ちて来る。
俺のイヤーカフについている魔石が割れた。
指でつまんだその色は青。
「っ、」
「リアム?」
隣のゾーイが俺の異変に気付く。
この青の魔石は防御のための魔法を発動させるもの。
お揃いであるがために、クトフのためにつけたもので、俺の方で使われるとは思ってもいなかった。
通信用で使われている紫の魔石は何ともなっていない。
攻撃をされたことは確かだ。
どこから?
完全に俺だけを狙ったものだ。
こんな眠気覚ましはいらない。
閉会の挨拶がされるまでが長かった。
終了後に素早く立ち上がったが、ズィーにとめられた。
「リアム、これから控室に行って少し休憩してから、キミと話したいという者たちがいる。しばらくは退場する者たちで周辺はごった返す。この人混みの中で帰るのは」
「、、、防御の魔法をかけていた魔石が割れた」
正直に俺は言った。
「え?それはこのなかにいる者から攻撃されたということか?」
ズィーさんが周囲に視線を走らせた。
「いや、実行犯も黒幕もここにはいない」
「それならこの会場を封鎖をする必要はないか。この式典の参加者は全員の身元が判明しているし」
俺の言葉にほんの少しホッとした表情を浮かべるズィーさん。
自国の式典で招待客が狙われたら困るよな。
長い式典のおかげで、ほんの少し冷静になれた。
その時間で、犯人を探ることができた。
「リアムを狙ったのか?どこのどいつだ」
ゴウさんが俺に尋ねた。
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