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11章 善意という名を借りた何か
11-8 お揃いはお揃い ◆クトフ視点◆
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◆クトフ視点◆
「砦長、元気ないですねえ?」
リアムが旅立ってから元気はないが、最近は一層ひどくなっている。
食堂のカウンターで大盛りの食事を渡す。
食欲がある内はまだ大丈夫だろう。
「ああ、ちょっとな。何とかしないといけないんだが、、、」
ナーヴァル砦長は口籠りながら、席へと去っていった。
仕事で何かあったのだろうか。
それとも、キラキラ王子様が毎日出没していると聞くからそのせいか?
まあ、どうでもいいか。
次々来る冒険者たちにいつものように温かい料理を皿に盛っていく。
忙しさが一段落した厨房。
「早番はお疲れー」
「お疲れ様でしたー。おやすみなさーい」
厨房は昼休憩が長い分、朝は早いし、夜は遅くまで働く。
冒険者の昼食が弁当じゃなければ、昼も大変だっただろう。
魔の大平原に出ている冒険者もさすがに昼食で砦に戻って来ることはないからな。
多少負担を軽減するために、早番、遅番も作ってみた。
朝も夜も忙しい時間は集中して忙しいが、冒険者なので食事の時間はバラツキがある。
早番は朝早すぎる冒険者に対応し、遅番は酒を飲む者の対応と後片付けをしていく。
シフトを決めるのは面倒でも、できるだけ働きやすい環境を整えるのは上に立つ者なら当たり前だ、とリアムに口を酸っぱくして言われる。厚待遇は無理なので、できることからコツコツやってーとも言われるが。
下処理等はE級、F級冒険者を使えるから、作る量を考えたらまだ楽な方だと思う。
「そういや料理長、明日は食材、調味料、酒等の納入業者が集中してしまいますね」
冒険者の数が数だから食材やパンは毎日納品されているが、調味料や酒、洗剤や消毒液、厨房に必要なその他諸々は在庫が切れる前に発注する。
「あー、そうだったな。在庫がなくなりそうなときって重なるよな。忙しくない時間に納品されることを願うよ」
月に一回も来ない業者はあまり時間を考慮してくれない。昼に来てくれればいいのに、朝や夕方に来ることもしばしばだ。
こちらもまとめて発注するから、そこまで目くじらを立てて客のことを考えて行動しろとまでいう気はない。
忙しい時間に来られるのはいい迷惑なんだけどね。
発注個数が個数だから、段ボールがそこら辺に並び置かれると動線の邪魔になるし、変なところに置いておくとなくなってしまう危険性もある。適当に倉庫代わりの部屋に突っ込まれると、部屋数が多いため探すのが一苦労となる。
「砦長室にも伝えておくか。受取は補佐でも大丈夫なものもあるし」
一覧表を渡しておけば、倉庫番号と棚番号ぐらい書いてくれる。
厨房が手が離せないときは、通信の魔道具で連絡し合えば何とかなる。
夕食を取りに来る冒険者が少なくなると、食堂の照明は落とす。
代わりに厨房からつながる、小さい部屋の電気をつける。
砦の冒険者からは居酒屋部屋とも呼ばれている、遅い夕食用と飲むためにつまみを少々頼みたい冒険者のための部屋だ。
厨房は人がいなくなると鍵をかけてしめてしまう。食材など勝手に食べられてしまったら問題だから。冒険者は無尽蔵な胃袋を持っている。
食堂や居酒屋部屋には鍵はかけていない。
時間外にここで冒険者がお菓子やおつまみを食べても問題はない。ただ、居酒屋部屋も深夜は照明が落とされてしまうが。
翌朝、早番の者がすでに忙しそうに動いていた。
すぐさま厨房に加わる。
今日は冒険者が早い。
「何だ?魔物が増えたのか?」
「増えたと言えば増えたかなー。魔物誘引薬をバラまいた実行犯は愉快な奴隷たちに捕縛されたけどねー」
厨房のテーブルにのへーんと横たわっているクロ様。。。
他の料理人はバタバタとチラ見しながら、その一角だけは皿やら食材を置かないようにしている。
「魔物誘引薬か、、、誘引香なら魔法の風で何とかなるんだけど、」
誘引薬は液体だ。ダンジョン内でも約一日は効果が残ってしまうだろう。
「リアムだったらもったいないって言うんだろうなー。誘引香より誘引薬は高価だからなあ」
「料理長くーん、僕がリアムのところでオムライス食べている間に襲われないようにねー」
「?さすがに、この厨房まで入って来た魔物はいないけど」
「、、、僕は忠告したよー。リアムにもそう言ってねー。襲われたのは自己責任ですってねー」
クロ様はべたっとうつ伏せになり、顔だけ俺の方を向けた。
、、、今日襲われるの、確定しているの?
忠告はするけど、助けはしないと釘を刺されたような形でもある。
しかも、クロ様がいない間に襲われるの?
嫌だなあ。
今日はいろいろと忙しいのに。
「くれぐれも忠告したよー。じゃあねー」
面倒臭そうに小さい片手だけほんの微かに上げると消えた。
くるりんっ、と消えるのは機嫌がいいときの可愛いパフォーマンスだったようだ。。。
俺は顔を上げる。
料理人たちは手を動かしながら、俺を見ていた。
「皆、聞いたか?どうやら、俺は今日襲われるらしい。何で襲われるかは全くわからないが、巻き込まれないように注意しておけー」
「いや、そこは一人にならないように行動するとか言うところでしょう」
「そうそう、怖いからトイレも一緒について来て、とか」
「料理長は魔物誘引薬でもかけられるんですかねー?服にかかったら、即座に脱いでビロビロ袋に入れておくと、リアムさんに喜ばれますよー」
魔物誘引薬や誘引香は、通常魔物を集めて袋叩きしたいときや効果的に罠に嵌めたいときに使われる。
人を襲わせるために使う方が悪用方法なのである。
高価なものなので、年中魔物が湧き出ている砦では使われない。
そもそも、魔物は人間に向かってくるので、砦で人が生活していれば、魔物は砦へと向かってくる。
「ビロビロ袋で真空にしていても、さすがにリアムが砦に戻ってくる頃には乾燥しているだろ」
「そうですかねー?保冷しておけば何とかなるんじゃないですかね?魔物肉みたいに」
俺の服は魔物肉と同じなのか?
「今の砦長室にいても安全とは思えないのは不思議ですねえ」
今のナーヴァル砦長は憔悴しているからなあ。リアム成分が足りていないからなあ。
足す気は毛頭ないが。
「だとしたら、厨房に籠っていた方が安全じゃないですか?冒険者たちはここを死守しますから」
胃袋をガッチリつかんでますからねえ。
厨房に差し入れとか持って来る冒険者も多い。
「ま、なるようにしかならないか」
そう、なるようにしかならなかった。
というか、普通に刃物で襲われた。
俺、料理人であって、ただのD級冒険者だからなあ。一般人と変わらないと思われたんだろう。
納品チェックしているときに、背後から襲われた。
騒ぎに気づいた他の料理人たちに実行犯は袋叩きにあった。ドン引きするくらいには。
砦の料理人は冒険者だからね。
日々、重い荷物を持って鍛えているからね。
実行犯は業者の一つがつい先日新しく雇ったバイトくんだった。
業者の爺さんが恐縮しまくりだった。この爺さんは前から砦へ納品に来ていた人だから利用されただけだろう。
ちょうど魔物誘引薬をバラまいた犯人を連れてきたビッシュたちに、一緒に連れて行ってもらった。
事情を話してもらうために、爺さんも納品を終えてから砦長室に行ってもらった。
朝食時間、料理人たちがすべて通路に出てしまったら、お腹の空いている冒険者たちも野次馬で見に来てしまい、通路が賑やかだ。
「料理長、鋼の背中でも持っているんですか?」
「ぶっすーと刺したように見えましたが?」
「刃が欠けていたんですかね」
「それとも玩具の剣だったんですかねー」
口々に感想を言う料理人たち。
俺のコックコートは切れ目すら入っていない。
その代わりに。。。
悲しいことに、襲われた現場に破片が床に落ちていた。
青い魔石の残骸だ。
拾える物は拾っておく。
なんとなく、コレで事情は察した。
「、、、これ、リアムとお揃いだったのになあ」
通信自体はおそらく今までと変わりなくできるだろう。紫の魔石の方は無事だ。
けれど。
「魔石が壊れたことを話したら、絶対に刃物で襲われたことも言わなきゃならないよな」
リアムに何と言われるだろう。
通信できるなら命に別状はないとわかるだろうが。
「、、、ふふふ」
壁の向こうで不気味な笑いが漏れた。隠れていても声でわかるぞ。
「アミール、、、」
「これで兄上とお揃いじゃなくなった」
それ、他人からは黒幕や共犯者のように聞こえるからやめなさい。
犯行動機は嫉妬か?って。
「砦長、元気ないですねえ?」
リアムが旅立ってから元気はないが、最近は一層ひどくなっている。
食堂のカウンターで大盛りの食事を渡す。
食欲がある内はまだ大丈夫だろう。
「ああ、ちょっとな。何とかしないといけないんだが、、、」
ナーヴァル砦長は口籠りながら、席へと去っていった。
仕事で何かあったのだろうか。
それとも、キラキラ王子様が毎日出没していると聞くからそのせいか?
まあ、どうでもいいか。
次々来る冒険者たちにいつものように温かい料理を皿に盛っていく。
忙しさが一段落した厨房。
「早番はお疲れー」
「お疲れ様でしたー。おやすみなさーい」
厨房は昼休憩が長い分、朝は早いし、夜は遅くまで働く。
冒険者の昼食が弁当じゃなければ、昼も大変だっただろう。
魔の大平原に出ている冒険者もさすがに昼食で砦に戻って来ることはないからな。
多少負担を軽減するために、早番、遅番も作ってみた。
朝も夜も忙しい時間は集中して忙しいが、冒険者なので食事の時間はバラツキがある。
早番は朝早すぎる冒険者に対応し、遅番は酒を飲む者の対応と後片付けをしていく。
シフトを決めるのは面倒でも、できるだけ働きやすい環境を整えるのは上に立つ者なら当たり前だ、とリアムに口を酸っぱくして言われる。厚待遇は無理なので、できることからコツコツやってーとも言われるが。
下処理等はE級、F級冒険者を使えるから、作る量を考えたらまだ楽な方だと思う。
「そういや料理長、明日は食材、調味料、酒等の納入業者が集中してしまいますね」
冒険者の数が数だから食材やパンは毎日納品されているが、調味料や酒、洗剤や消毒液、厨房に必要なその他諸々は在庫が切れる前に発注する。
「あー、そうだったな。在庫がなくなりそうなときって重なるよな。忙しくない時間に納品されることを願うよ」
月に一回も来ない業者はあまり時間を考慮してくれない。昼に来てくれればいいのに、朝や夕方に来ることもしばしばだ。
こちらもまとめて発注するから、そこまで目くじらを立てて客のことを考えて行動しろとまでいう気はない。
忙しい時間に来られるのはいい迷惑なんだけどね。
発注個数が個数だから、段ボールがそこら辺に並び置かれると動線の邪魔になるし、変なところに置いておくとなくなってしまう危険性もある。適当に倉庫代わりの部屋に突っ込まれると、部屋数が多いため探すのが一苦労となる。
「砦長室にも伝えておくか。受取は補佐でも大丈夫なものもあるし」
一覧表を渡しておけば、倉庫番号と棚番号ぐらい書いてくれる。
厨房が手が離せないときは、通信の魔道具で連絡し合えば何とかなる。
夕食を取りに来る冒険者が少なくなると、食堂の照明は落とす。
代わりに厨房からつながる、小さい部屋の電気をつける。
砦の冒険者からは居酒屋部屋とも呼ばれている、遅い夕食用と飲むためにつまみを少々頼みたい冒険者のための部屋だ。
厨房は人がいなくなると鍵をかけてしめてしまう。食材など勝手に食べられてしまったら問題だから。冒険者は無尽蔵な胃袋を持っている。
食堂や居酒屋部屋には鍵はかけていない。
時間外にここで冒険者がお菓子やおつまみを食べても問題はない。ただ、居酒屋部屋も深夜は照明が落とされてしまうが。
翌朝、早番の者がすでに忙しそうに動いていた。
すぐさま厨房に加わる。
今日は冒険者が早い。
「何だ?魔物が増えたのか?」
「増えたと言えば増えたかなー。魔物誘引薬をバラまいた実行犯は愉快な奴隷たちに捕縛されたけどねー」
厨房のテーブルにのへーんと横たわっているクロ様。。。
他の料理人はバタバタとチラ見しながら、その一角だけは皿やら食材を置かないようにしている。
「魔物誘引薬か、、、誘引香なら魔法の風で何とかなるんだけど、」
誘引薬は液体だ。ダンジョン内でも約一日は効果が残ってしまうだろう。
「リアムだったらもったいないって言うんだろうなー。誘引香より誘引薬は高価だからなあ」
「料理長くーん、僕がリアムのところでオムライス食べている間に襲われないようにねー」
「?さすがに、この厨房まで入って来た魔物はいないけど」
「、、、僕は忠告したよー。リアムにもそう言ってねー。襲われたのは自己責任ですってねー」
クロ様はべたっとうつ伏せになり、顔だけ俺の方を向けた。
、、、今日襲われるの、確定しているの?
忠告はするけど、助けはしないと釘を刺されたような形でもある。
しかも、クロ様がいない間に襲われるの?
嫌だなあ。
今日はいろいろと忙しいのに。
「くれぐれも忠告したよー。じゃあねー」
面倒臭そうに小さい片手だけほんの微かに上げると消えた。
くるりんっ、と消えるのは機嫌がいいときの可愛いパフォーマンスだったようだ。。。
俺は顔を上げる。
料理人たちは手を動かしながら、俺を見ていた。
「皆、聞いたか?どうやら、俺は今日襲われるらしい。何で襲われるかは全くわからないが、巻き込まれないように注意しておけー」
「いや、そこは一人にならないように行動するとか言うところでしょう」
「そうそう、怖いからトイレも一緒について来て、とか」
「料理長は魔物誘引薬でもかけられるんですかねー?服にかかったら、即座に脱いでビロビロ袋に入れておくと、リアムさんに喜ばれますよー」
魔物誘引薬や誘引香は、通常魔物を集めて袋叩きしたいときや効果的に罠に嵌めたいときに使われる。
人を襲わせるために使う方が悪用方法なのである。
高価なものなので、年中魔物が湧き出ている砦では使われない。
そもそも、魔物は人間に向かってくるので、砦で人が生活していれば、魔物は砦へと向かってくる。
「ビロビロ袋で真空にしていても、さすがにリアムが砦に戻ってくる頃には乾燥しているだろ」
「そうですかねー?保冷しておけば何とかなるんじゃないですかね?魔物肉みたいに」
俺の服は魔物肉と同じなのか?
「今の砦長室にいても安全とは思えないのは不思議ですねえ」
今のナーヴァル砦長は憔悴しているからなあ。リアム成分が足りていないからなあ。
足す気は毛頭ないが。
「だとしたら、厨房に籠っていた方が安全じゃないですか?冒険者たちはここを死守しますから」
胃袋をガッチリつかんでますからねえ。
厨房に差し入れとか持って来る冒険者も多い。
「ま、なるようにしかならないか」
そう、なるようにしかならなかった。
というか、普通に刃物で襲われた。
俺、料理人であって、ただのD級冒険者だからなあ。一般人と変わらないと思われたんだろう。
納品チェックしているときに、背後から襲われた。
騒ぎに気づいた他の料理人たちに実行犯は袋叩きにあった。ドン引きするくらいには。
砦の料理人は冒険者だからね。
日々、重い荷物を持って鍛えているからね。
実行犯は業者の一つがつい先日新しく雇ったバイトくんだった。
業者の爺さんが恐縮しまくりだった。この爺さんは前から砦へ納品に来ていた人だから利用されただけだろう。
ちょうど魔物誘引薬をバラまいた犯人を連れてきたビッシュたちに、一緒に連れて行ってもらった。
事情を話してもらうために、爺さんも納品を終えてから砦長室に行ってもらった。
朝食時間、料理人たちがすべて通路に出てしまったら、お腹の空いている冒険者たちも野次馬で見に来てしまい、通路が賑やかだ。
「料理長、鋼の背中でも持っているんですか?」
「ぶっすーと刺したように見えましたが?」
「刃が欠けていたんですかね」
「それとも玩具の剣だったんですかねー」
口々に感想を言う料理人たち。
俺のコックコートは切れ目すら入っていない。
その代わりに。。。
悲しいことに、襲われた現場に破片が床に落ちていた。
青い魔石の残骸だ。
拾える物は拾っておく。
なんとなく、コレで事情は察した。
「、、、これ、リアムとお揃いだったのになあ」
通信自体はおそらく今までと変わりなくできるだろう。紫の魔石の方は無事だ。
けれど。
「魔石が壊れたことを話したら、絶対に刃物で襲われたことも言わなきゃならないよな」
リアムに何と言われるだろう。
通信できるなら命に別状はないとわかるだろうが。
「、、、ふふふ」
壁の向こうで不気味な笑いが漏れた。隠れていても声でわかるぞ。
「アミール、、、」
「これで兄上とお揃いじゃなくなった」
それ、他人からは黒幕や共犯者のように聞こえるからやめなさい。
犯行動機は嫉妬か?って。
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