【完結】擦れた桜章~自衛官だった私は、牢獄から日本の終わりを記録する~

@ヤマト

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66話 反転

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8月20日1330 東かがわ市内 第一線

我々は第一線に辿り着き
再び防御陣地を作り上げ
防御態勢を取った。

活発化しているとの報告を
受けていた敵状は静かなもので
動きを見せなかった。

司令部からの
通達は敵状を監視しつつ待機せよ
だった。

目まぐるしく動いていた
戦況が流れを失い
停滞し始める。


8月21日 東かがわ市内 第一線

8月22日 東かがわ市内 第一線

8月23日 1300 東かがわ市内 第一線

矢の様に届いていた命令が
第一線に陣地を張り直してから
というもの全く届かなくなった。

統合幕僚長が解任されたことで
混乱が収まっていない様に
思えた。

ヒグラシの声が鳴り響く防衛陣地で
我々は夏の高い
青空を見上げるしかない。

この戦争が始まって
一週間が過ぎた。

米国海軍が派遣されるまで
2~3週間といった所だ。

このまま膠着状態が続けば
補給のない敵は干上がり
どの道、我々の勝ちになる。

夏の暑さが私の集中力を
奪い思考の沼にはまっていく。

異常な事だが
私は激しく動く戦場に一種の
恋しさを感じていた。

戦っている実感があり
まだ安心でき
余計な事を考えずに済むからだ。

不気味な沈黙が
続いていた。


8月24日 1700 東かがわ市内 第一線

紀伊三尉が司令部から
帰ってくる。

その面持ちは
あまりにも重く
言葉に尽くし難い
奇妙な表情をしていた。

怒っているような
悲しんでいるような
諦めているような

そんな表情だ。

紀伊3尉が小隊を
集めぽつりぽつりと
話し始めた。

「日本政府が中国と
停戦条約を可決しました」

「我々は本日の1800以降
中国軍との戦闘は
認められません」

我々は驚愕する。

思考をまとめる事が
出来ずその場に立ち尽くす
しかなかった。

紀伊3尉の唇は
震えていた。

受け入れたくない現実が
そこにはあった。

「なんで……
我々はまだ戦えるのに…」

気づけば涙が出ていた。

私は悲しいのだろうか
それとも悔しいのだろうか

まだ負けておらず戦力も
保持している。

なぜ国は我々を信用して
くれなかったのだろうか

そう考えると
涙が止まらなかった。

「内閣不信任案が出された事で
親中派が政権を握りました…」

「我々なら中国と交渉できる
そう言ってね」

「大阪を占領した中国軍は
大阪を都とした西日本新政府の
建国を停戦条件として日本政府に
突きつけ、政府はそれを了承しました」

「政府の停戦の言い分としては
国民の生命と財産を守る為との事です」

それを聞き私は
膝から崩れ落ちる。

足元はまるでスポンジの様に
ぐらついて立っている事が
出来なかった。

自然と笑みがこぼれていた
あまりにもその主張が
馬鹿らしく聞こえたからだ。

「それは・・・
停戦を条件に日本の主権を
売り渡した事じゃないか!!」

「なんでそんな馬鹿な決断を
許したんだ!!!」


私の叫びは
夏の夕闇の中で
虚しく溶けていった。
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