【完結】擦れた桜章~自衛官だった私は、牢獄から日本の終わりを記録する~

@ヤマト

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72話 逃避

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8月26日 1148 大麻山付近

一時間程、下水道を歩いた後
私達はマンホールの蓋を開け
大麻山付近に出る。

大麻山は武装走の訓練などにも使う
駐屯地の隊員にとっても
馴染みのある場所である。

家屋はまばらであり
人通りがなく
生活音もしない。

住民はまだ戻っていない
ようだ。

周囲には霧がかかり
我々の姿を隠していた。

我々は黙って
山の中に消えていった。

目的地は分からず
ただ黙って紀伊三尉に
ついていった。

山に入って
30分程でようやく
紀伊3尉が口を開いた。

「ここから1時間程
歩いた所で一旦休みます」

考えれば我々は
朝から何も食べていなかった。

食べられる気もしなかったが
それでも休憩は取らなければ
マズい状況だ。

休める時に休まないと次に
いつ休めるかはわからない。

「我々は今どこに向かっているん
ですか?」

「銃と弾薬をとりに行っています」

「えっ?」

霞2曹と私は顔を見合わせた。
銃や弾薬その他武器は
駐屯地に戻った際に全て
中国軍に持っていかれたはずだ。

「……司令部は大阪が落ちた際
国が停戦条約を結ぶ事を察知して
いました」

「西日本に独立国を作る話も
きていました。」

「なにもかも仕組まれていた
ようでした。」

「あまりにも動きが
早すぎましたから」

「中国側の軍事行動は
武力による制圧ではなく
政治的な駆け引きだったようです」

「もしかすると戦争を始めた時点で
戦争に負けていたのかもしれませんね」

我々は歩きながら紀伊3尉の話を聞く。

まるで堤を切ったかのように
紀伊3尉の話はつづいた。

半分愚痴が入っているようにも
聞こえるが何かを喋っていたいのかも
しれない。

「現状を踏まえて駐屯地の
幹部はその場合自衛隊がただでは済むとは
思っていませんでした。」

「俯瞰的に見た時、
敵部隊に最も打撃を与えていたのは
我々の旅団だったからです」

紀伊3尉は無言で歩き続ける。

それなら我々が前線で
張り付いて敵に何の動きもなかった時に
すでに司令部は知っていたという事だ。

知っていてなんでこんな結末になったのか。

止められなかったのだ。
国の決断を。

我々は政治に口出しはできないから。

「幹部の一部は反攻作戦も
視野に入れていました。」

「なので中国軍に渡したのは
武器は一部であり、他は
分けて手分けして隠しました」

「数は多くはありませんが
我々分くらいの銃弾は
充分確保できるはずです」

そうか…
最悪の場合に備えていたか。

逃げるにしても
銃があれば
心強い武器になる。

我々は山道をあがり
続けた。

2時間程歩くと
中腹の少し開けた所に
小さな山小屋があった。

その裏手には
草などで偽装はされているが
埋め立てて間もない
穴があった。
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