【完結】擦れた桜章~自衛官だった私は、牢獄から日本の終わりを記録する~

@ヤマト

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78話 信頼

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8月29日 1900 亀水湾

我々は五色台から下山し
亀水湾へと向かった。

紀伊3尉が懐中電灯を
複数回繰り返して点灯させる。

しばらくすると海の方から
数回の光が帰ってきた。

一隻の漁船がこちらに
向かってくる。

その漁船には
見覚えがあった。

岡山にいた我々を
四国に送ってくれた
漁船だ。

波川船長が船長室から
顔をのぞかせた。

「あんたら無事か!?
良かった!!
急いで乗ってくれ!!」

我々は顔を見合わせる。

「乗りましょう。」

紀伊3尉が進んで乗り込んだ。

いつの間に連絡を取り合って
いたのだろうか?

我々も船に乗り込む事に
なった。

乗り込んですぐに
船は出発した。

8月29日 1910 瀬戸内海

船は岡山方面に進んでいるようだ。

娘の美樹は初めて
船に乗り、喜んでいた。

「いやぁ、紀伊さん
アンタの言った通りに
なったなあ。
気付けて良かった」

波川船長が笑った。

「どういう事ですか?」

私が紀伊3尉に聞いた。

「何かあった時の為に
香川に強襲上陸する前に
連絡先を交換していたんですよ。」

「とても協力的な方だったので
命令が何日か下りてこなかった時に
連絡を取っていました」

「けど、大丈夫なんですか?
我々はいいですが今この状況で
こんな事しても」

「いいんだよ、
俺も何か力に
なりたかったんだから」

波川船長が胸を張って言った。

香川の上陸の時もそうだが
西日本新政府に目の仇されている
自衛隊を助ける行為は波川船長に
とっては危険な行為だ。

「何故、そこまで
してくれるんですか?」

波川船長がハハっと笑った。

「長門さんだっけか?
アンタ無粋だな。
もちろん男気だと
言いたいんだが……」

「俺は神戸出身なんだよ」

「震災があった時、
死んだかかあを見つけてくれたのは
自衛隊の皆さんだった」

「そのまま故郷にいるのが辛くて
岡山に来たんだがな
いつか恩返しがしたいと思っていた」

「だから紀伊さんから
連絡が来た時は嬉しかったよ」

「困った時はお互い様だ。
この状況ならなおさらだ
なぁ?」

紀伊3尉は波川船長に視線を
向けられて軽く会釈をした。

「それより、あんたら注意しなよ
主要道路は各地に検問が設けられ
始めている。」

「国境に沿っては
フェンスが作られ始めているって話だ。
東に移動するんであれば
そこを突破しなきゃいけねぇ」

「ご家族はともかく
あんたらの服は逃げるにしても
目立つだろ?
岡山に着いたら俺の服やるか
家によってくれ」

「色々言われるかもしれないけどよ
俺はアンタらを信じてるからよ」

波川船長はニカっと笑った。

我々は波川船長の厚意に
感謝する。

だが、その厚意は我々だけのものではない
我々の先輩たちが地道につくりあげた
信頼の形だった。
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