【完結】擦れた桜章~自衛官だった私は、牢獄から日本の終わりを記録する~

@ヤマト

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86話 非常事態

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9月1日 1900 山中

雨は激しさを増し
我々の心境とまるで
リンクしている様だった。

我々は山中を
ひたすら黙って歩く。

娘の美樹ですら
道中で一言も話さない。

月明かりもない山中は、闇に呑み込まれていた。
佐藤が先頭をきって
赤い遮光をしたライトを使い
歩いていく。

このライトを使うのを見る限り
やはり佐藤は軍属で間違いない
のだと確信していた。

夜目は鍛えれば効く様になる。
我々は夜の山道は慣れているものの
民間人である私や霞の家族には
不得意だろう。

佐藤のライトをつけているのは
その配慮の様に思えた。

この状況ではぐれる事は
命とりになる為
私は娘の美樹の手を
しっかりと握り歩いていく。

3時間程、歩いた時
音とともに後方で光が見えた。

軍事用の照明弾だ。

そしてその方向は
私達と最初に佐藤と
出会った場所の付近だった。

「ちっ、最悪のタイミングで
バレたな……」

佐藤がぼそりと呟いた。

バレたというのは
佐藤と出会った時に殺して埋めた
巡回の中国兵の事だ。

雨が降れば埋めた穴の部分は
いくら偽装しようと
当然沈む。

だとしたら
痕跡を辿り掘り返されたら
バレても仕方がない話だ。

時間差をつけて
次々と照明弾が
空へと打ち上げられていく。

それは我々の前方からにも
打ち上げられていた。

それはまだ確証がないながらも
捜索が始まる事への合図の様に
思えた。

「どうしますか?
一旦撤退しますか?」

紀伊三尉が佐藤に確認を取る。

「いや、今戻って捕まれば
それが一番最悪だ」

「奴らが本格的に捜索を
始めれば山荘が見つかるのは
時間の問題だ」

「だったらこのまま
国境を越えた方がいい」

「わかりました。
私もそう思います。
急ぎましょう」

紀伊三尉もそれに了承し
私もそれに頷いた。

敵も確証を得ていない上での
捜索だ。

明確に我々を認識した上での
捜索でなければ逃げ切れる
可能性はあった。

我々はひたすら
歩き続けた。

佐藤がその途中で
身振り手振りで
隠れる様に指示した。

我々は草むらに隠れて
やり過ごす。

前方から中国語が
聞こえてきた。

4人組の中国兵だ。

何を言っているか
分からないがどうやら
捜索をしているのは
間違いないようだった。

やがて中国兵は
去っていった。

「話を聞くに
どうやら本格的に
「山狩りをしているらしい」

佐藤がそういった。

「中国語がわかるんですか?」

私が聞いた。

「……ああ。」
佐藤はうなずいた。

「ここから先は慎重にな。
敵に見つからないようにしろ。
戦闘はするなよ。」

佐藤はそういうとまた
歩き始めた。

私は国境越えが
より困難になっている事を
肌で感じていた。
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