91 / 101
89話 45度の敬礼
しおりを挟む
9月2日 0025 山中
雨が降りしきる中
私と霞2曹と佐藤は殉職した
紀伊3尉に対して
45度の敬礼を行った。
45度の敬礼は
自衛隊で天皇陛下と
殉職した者にのみ行われる
最敬礼だ。
私達は深々と頭を下げ
死を悼み別れを告げる。
家族達もそれにならい
深々と頭を下げた。
残念だが追手が来る為
紀伊3尉の遺体は
そのままにしておくしかなかった。
自分達に尽くしてくれた
上官の死に対して何も出来ない事に
無力を感じざるを得なかった。
我々はそれでも
前進を続けるしかない。
美樹が私のズボンの裾を
掴んで言った。
「きいさんは、死んじゃったの?」
私は娘の問いにすぐに
答えられなかった。
「違うよ、紀伊3尉は
もう辛くて苦しい思いをしなくても
いい所に旅立ったんだ」
「紀伊3尉はね、
とても頑張って日本や私達家族を
守ってくれたんだ」
「だから美樹も紀伊3尉が
天国に行けるように祈ってあげてね」
我々はその場を後にした。
我々は黙々と前進し続けた。
心にはぽっかりと穴が開いたままだ。
いつも自分達を支えてくれていた人は
もういなかった。
私は何に対して怒ればいいのだろうか?
私は何を憎めばいいのだろうか。
私は何を間違えていたのだろうか。
無能な政治家を生み出し
許容して放置した社会か。
私利私欲の為に
国を売った政治家か。
反戦感情を煽り自衛官の
命を無駄に散らしていったメディアか。
それとも佐藤の判断に従わず
家族を共に連れてくるという
甘い判断をした自分自身か。
どうしようもない感情がグルグルと
自分の中に流転して拳の振り下ろし所のない
自分に気づく。
いつも自分達の主張を聞き届け
諫めていた紀伊3尉は
もういないのだ。
「紀伊さん……
年、いくつだった?」
佐藤がぼそりと聞いてきた。
「確か、25歳ですね」
私が答えた。
「ちっ、若いよなぁ…」
「俺はもし生き残れたら
俺の組織に紀伊さんを
推薦する気だったんだ…」
「えっ…?」
私と霞2曹は二人で顔を見合わせる。
それは「別班」にという事だろうか?
もしそうならすごい事だ。
「ほら、優秀だっただろ?あの人。
だからだよ」
私達は胸が誇らしくなる
感じがした。
「惜しい人を失ったよな……」
「だから、お前らは死ぬなよ?
お前らが死んだら俺も困るんだからよ」
「ごちゃごちゃ考えずに
まずは無事に国境を超えることだけ考えろ」
「そうすりゃ、紀伊さんも天国で
笑ってくれるだろうよ」
私は佐藤の気遣いに驚いた。
ぶっきらぼうで冷徹なのかと
思っていたがどうやら
そういった事も言えるらしい。
我々は丁度小高い丘の
ような所に差し掛かり
その下の方に
簡易のフェンスが見えた。
佐藤はそこを指さした。
「見えるか?
あそこがゴールだ
生き延びるぞ!」
佐藤が笑った。
長かった国境線の
旅路にようやく終着点が見えた瞬間だった。
雨が降りしきる中
私と霞2曹と佐藤は殉職した
紀伊3尉に対して
45度の敬礼を行った。
45度の敬礼は
自衛隊で天皇陛下と
殉職した者にのみ行われる
最敬礼だ。
私達は深々と頭を下げ
死を悼み別れを告げる。
家族達もそれにならい
深々と頭を下げた。
残念だが追手が来る為
紀伊3尉の遺体は
そのままにしておくしかなかった。
自分達に尽くしてくれた
上官の死に対して何も出来ない事に
無力を感じざるを得なかった。
我々はそれでも
前進を続けるしかない。
美樹が私のズボンの裾を
掴んで言った。
「きいさんは、死んじゃったの?」
私は娘の問いにすぐに
答えられなかった。
「違うよ、紀伊3尉は
もう辛くて苦しい思いをしなくても
いい所に旅立ったんだ」
「紀伊3尉はね、
とても頑張って日本や私達家族を
守ってくれたんだ」
「だから美樹も紀伊3尉が
天国に行けるように祈ってあげてね」
我々はその場を後にした。
我々は黙々と前進し続けた。
心にはぽっかりと穴が開いたままだ。
いつも自分達を支えてくれていた人は
もういなかった。
私は何に対して怒ればいいのだろうか?
私は何を憎めばいいのだろうか。
私は何を間違えていたのだろうか。
無能な政治家を生み出し
許容して放置した社会か。
私利私欲の為に
国を売った政治家か。
反戦感情を煽り自衛官の
命を無駄に散らしていったメディアか。
それとも佐藤の判断に従わず
家族を共に連れてくるという
甘い判断をした自分自身か。
どうしようもない感情がグルグルと
自分の中に流転して拳の振り下ろし所のない
自分に気づく。
いつも自分達の主張を聞き届け
諫めていた紀伊3尉は
もういないのだ。
「紀伊さん……
年、いくつだった?」
佐藤がぼそりと聞いてきた。
「確か、25歳ですね」
私が答えた。
「ちっ、若いよなぁ…」
「俺はもし生き残れたら
俺の組織に紀伊さんを
推薦する気だったんだ…」
「えっ…?」
私と霞2曹は二人で顔を見合わせる。
それは「別班」にという事だろうか?
もしそうならすごい事だ。
「ほら、優秀だっただろ?あの人。
だからだよ」
私達は胸が誇らしくなる
感じがした。
「惜しい人を失ったよな……」
「だから、お前らは死ぬなよ?
お前らが死んだら俺も困るんだからよ」
「ごちゃごちゃ考えずに
まずは無事に国境を超えることだけ考えろ」
「そうすりゃ、紀伊さんも天国で
笑ってくれるだろうよ」
私は佐藤の気遣いに驚いた。
ぶっきらぼうで冷徹なのかと
思っていたがどうやら
そういった事も言えるらしい。
我々は丁度小高い丘の
ような所に差し掛かり
その下の方に
簡易のフェンスが見えた。
佐藤はそこを指さした。
「見えるか?
あそこがゴールだ
生き延びるぞ!」
佐藤が笑った。
長かった国境線の
旅路にようやく終着点が見えた瞬間だった。
6
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる