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94話 対面
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9月?日 ????
ルー・ホーピンに会う。
ロンは確かにそう言った。
私は目隠しをされ
どこかに移動させられ
ある一室に通された。
目隠しを取られる。
そこまで大きな部屋ではない。
机と椅子があるだけで
中は簡素なものだった。
机の中央の端には
一人の老人が座っていた。
思わず息を飲む。
私は駐屯地の体育館で
一度その姿を見ている。
間違いなくルー・ホーピンだった。
その横にはロンが立っており
複数の軍人たちが私に向けて
銃口を向けていた。
私は手足を縄で縛られ
椅子に座らされていた。
ルーが何か中国語で指示し
銃口を向けていた兵士の一人が
私を縛っていた縄を解く。
「喜べ、長門
ルー閣下のご慈悲により
縄を解いて貰えるそうだ」
どうやらロンは通訳を
務めるらしい。
「食事はどうだ?
今日は美味い肉を特別に
用意したぞ」
私の目の前には豪華に彩られた
食事が用意されていた。
ルーはまるで好々爺の様に
笑顔で食事を勧めてくる。
しかし、何が入っているか分からない上
数多くの仲間を殺した敵の首魁と
仲良く食事をとる気にはなれなかった。
「腹は空いていない。
食事は結構だ」
そう言って私は食事を断った。
ルーは残念そうに顔をしかめると、
自分の食事と共に私に出されていた食事を下げさせた。
「何故、わざわざ私を呼んだ?」
私の口から出た疑問は当然のものだった。
ルーは頷き、静かに口を開く。
「ワシはワシを追い詰めた者が
どんな顔をしているのか
この目で見たかったのだ」
ルーが追い詰められている?
「東京で霞という男がひたすらに、
君の身柄の返却を求めている」
「君のお仲間はワシが
戦争犯罪を行っている動画を公開し
全世界に向けて仲間が捕まっているから
助けて欲しいと涙ながらに訴えた」
「その訴えは多くの人間を
動かしている」
「ワシはそれを調べ、ようやく君に
たどり着いた」
私は傍らにいる中国兵に動画を
見せられる。
そこでは霞2曹が私の家族を連れて
涙ながらに訴えている姿が映し出されていた。
コメント欄には様々な言語でコメントが
書かれていた。
霞2曹が私の為にここまでしていくれているとは
思っていなかった。
その心境を思うと私は思わず打ち震える。
「ロンから聞いた。
長門、君は今回の戦争で
実に多くの戦いに参加しワシらを苦しめた」
「ワシらが放った特攻部隊を壊滅させ
上陸部隊の半分は君達によって
葬り去られ挙句国境を超える際には
一人で囮を引き受けた」
「戦場では生き残ること自体が難しい」
ルーはふと笑った。
「君はまことに優秀な兵士だ」
皮肉な話だった。
自国民には見向きもしなかった戦績を
敵の方がはるかに把握していた。
「ワシは今、
窮地に立たされている」
まるで被害者の様にルーは語った。
だが、我々にとって許せない行為だった。
「自業自得だろう」
私のその一言にルーは鼻で笑った。
「どうか、この哀れな老人を
助けてはくれないか?」
「動画は偽物であったと
君が証言すれば全て形はつく
シナリオもこちらが全て用意する」
「君はただそれに従えばいい」
「君は英雄になれる。
君の証言があれば、
私は戦争犯罪者ではなく和平の立役者になる。
君の家族は世界の英雄の家族だ。」
「真実など世界は欲していない。
世界が欲しいのは物語だ。」
「協力してくれれば褒美をやろう。
地位も、女も、金も、今のワシであれば
好き放題だ」
「どうだ?」
ルーの持ち掛けたその取引は
あまりに愚劣であり
私がもっとも嫌うものだった。
ルー・ホーピンに会う。
ロンは確かにそう言った。
私は目隠しをされ
どこかに移動させられ
ある一室に通された。
目隠しを取られる。
そこまで大きな部屋ではない。
机と椅子があるだけで
中は簡素なものだった。
机の中央の端には
一人の老人が座っていた。
思わず息を飲む。
私は駐屯地の体育館で
一度その姿を見ている。
間違いなくルー・ホーピンだった。
その横にはロンが立っており
複数の軍人たちが私に向けて
銃口を向けていた。
私は手足を縄で縛られ
椅子に座らされていた。
ルーが何か中国語で指示し
銃口を向けていた兵士の一人が
私を縛っていた縄を解く。
「喜べ、長門
ルー閣下のご慈悲により
縄を解いて貰えるそうだ」
どうやらロンは通訳を
務めるらしい。
「食事はどうだ?
今日は美味い肉を特別に
用意したぞ」
私の目の前には豪華に彩られた
食事が用意されていた。
ルーはまるで好々爺の様に
笑顔で食事を勧めてくる。
しかし、何が入っているか分からない上
数多くの仲間を殺した敵の首魁と
仲良く食事をとる気にはなれなかった。
「腹は空いていない。
食事は結構だ」
そう言って私は食事を断った。
ルーは残念そうに顔をしかめると、
自分の食事と共に私に出されていた食事を下げさせた。
「何故、わざわざ私を呼んだ?」
私の口から出た疑問は当然のものだった。
ルーは頷き、静かに口を開く。
「ワシはワシを追い詰めた者が
どんな顔をしているのか
この目で見たかったのだ」
ルーが追い詰められている?
「東京で霞という男がひたすらに、
君の身柄の返却を求めている」
「君のお仲間はワシが
戦争犯罪を行っている動画を公開し
全世界に向けて仲間が捕まっているから
助けて欲しいと涙ながらに訴えた」
「その訴えは多くの人間を
動かしている」
「ワシはそれを調べ、ようやく君に
たどり着いた」
私は傍らにいる中国兵に動画を
見せられる。
そこでは霞2曹が私の家族を連れて
涙ながらに訴えている姿が映し出されていた。
コメント欄には様々な言語でコメントが
書かれていた。
霞2曹が私の為にここまでしていくれているとは
思っていなかった。
その心境を思うと私は思わず打ち震える。
「ロンから聞いた。
長門、君は今回の戦争で
実に多くの戦いに参加しワシらを苦しめた」
「ワシらが放った特攻部隊を壊滅させ
上陸部隊の半分は君達によって
葬り去られ挙句国境を超える際には
一人で囮を引き受けた」
「戦場では生き残ること自体が難しい」
ルーはふと笑った。
「君はまことに優秀な兵士だ」
皮肉な話だった。
自国民には見向きもしなかった戦績を
敵の方がはるかに把握していた。
「ワシは今、
窮地に立たされている」
まるで被害者の様にルーは語った。
だが、我々にとって許せない行為だった。
「自業自得だろう」
私のその一言にルーは鼻で笑った。
「どうか、この哀れな老人を
助けてはくれないか?」
「動画は偽物であったと
君が証言すれば全て形はつく
シナリオもこちらが全て用意する」
「君はただそれに従えばいい」
「君は英雄になれる。
君の証言があれば、
私は戦争犯罪者ではなく和平の立役者になる。
君の家族は世界の英雄の家族だ。」
「真実など世界は欲していない。
世界が欲しいのは物語だ。」
「協力してくれれば褒美をやろう。
地位も、女も、金も、今のワシであれば
好き放題だ」
「どうだ?」
ルーの持ち掛けたその取引は
あまりに愚劣であり
私がもっとも嫌うものだった。
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