【完結】擦れた桜章~自衛官だった私は、牢獄から日本の終わりを記録する~

@ヤマト

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95話 匹夫

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9月?日 ???? 

ルーは私に協力しろと
申し出た。

だが、私にとってそれは
愚問だった。

「ルー・ホ―ピン。
霞が世界に公開した内容は
多くの血が流れた真実だ」

「あなたは私に嘘を語れと言う。
だが私はもう、国家の嘘に人生を奪われた。
二度目はない。」

私の答えにルーはうなずいた。

「まあ、聞け。
これは君にとっては悪い話ではない」

「仲間の死の事を思っているので
あれば気にする事はない。
死人は物に過ぎない。
生きているものが生を享受すればよい」

「君たちは必死に戦った。
力を尽くして筆舌に尽くしがたい思いを
して苦難を耐え忍んできたはずだ」

「だが、国や組織や国民は
その対価に報いてくれたかね?」

その問いとルーの眼差しは
私の深い部分を突き刺そうと
鋭く切り込もうとしていた。

「ワシは答えを知っている。」

「君たちの政府は平和を語りながら戦争を準備し、
戦争を語りながら平和を売った。
その請求書を払ったのが君たちだ。」

「自衛隊は哀れな存在だ。
戦争をするために作られ、
戦争をしてはいけない軍隊。
そんな論理破綻した制度に、
人間を押し込んだ国家こそ犯罪的だ。」

「君たちは命を懸けているのにも
拘わらずだ」

「国民は批判をするばかりで
本当のところは何もわかっちゃいない。
報いようがないのだ…」

ルーの言葉は的を射ていた。

だが、同時に違ってもいた。

なぜなら私はこの戦争で
その国民の手助けもあり、こうして
生き延びてきたからだ。

「ワシなら、ワシであれば
用意してやれる!報いてやれる!」

「考えてもみろ。
君の家族が大切なのであれば
君の子供にも高度な教育を
与えてやれる」

「安定した職にも就けて
やれるだろう」

「君の家族の未来も含め私が保証してやろう、
君が今すがりついている国家は
君に対して保証をしてくれるものなのかね?」

「ワシに協力する決断をする事で
君達の家族を含め人の羨むような暮らしが
約束される。」

「これは裏切りではない。
君自身の未来を守る行為だ」

「逆に申し出を断れば
ワシは君を守る理由がなくなってしまう」

ルーは異様な熱気で語っていた。
なるほど、立場にあるだけあって
説得力のある言葉で揺さぶりにきている。

ルーの言う通りだ。

このまま、申し出を断った所で
東の政府は何も用意できないだろう。

だが……

私はこれまでの事を思い出していた。

戦場、そして負けたあとも
民間人に託されてきた思い。

日本を取り戻すという事。

死んでいった仲間達が脳裏によぎった。

少しずつの信頼の形がリレーの様に繋がり
今、ルー・ホ―ピンを追い詰めていた。

私の手でそれを壊す事は…

絶対に出来ない。

「ルー、私の望みを貴方は用意できない」

「私の望みは日本国民の平和と独立を守り
安心して暮らせることだ。」

「その為に私達は命懸けで戦ってきたんだ!」

「それは……金や、地位や、名誉なんかよりも
ずっと価値のあるものだ!!」

「貴方の様な権力者は
必死に生きている人間の意思を舐め過ぎだ。
私にはそれを裏切れない」

私は正面を見据えルーに向かいそう答えた。

ルーは毒気を抜かれたかの様に座り込み
「匹夫めが…」とつぶやいた。

「万を超える兵士を従えるこのワシが
こんな男の為に潰えるのか…」

ルーは私の目をしっかりと見据えた。
だが、その目には光が灯っておらず
疲れたように深い黒が沈んでいるだけ
だった。

「かつてはワシも理想を夢見ていた
だが、現実は残酷なだけだった」

「国家はどれだけ血を流そうとも
その意味を理解せぬ。
国に振り回されるは軍人の宿命だ」

「流れる血の意味を知っているのは
軍人だけなのになぁ」

「まったく軍人になど
なるものではない」

ルーは諦めたように目を伏せた。
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