【完結】結城菜穂の日本一周バイク旅

永倉伊織

文字の大きさ
3 / 19

第3話 大窪寺

しおりを挟む
翌朝

鳥のさえずりで目を覚ます。

テントから顔を出すと澄み切った空気が心地よい。

菜穂は寝袋から這い出し、顔を洗って身支度を整える。

「さて、今日は大窪寺を目指すか」

菜穂はそう呟き、テントを撤収し始める。

手慣れた手つきでテントを畳みバイクに荷物を積み込む。出発前に持ってきたおにぎりを頬張りながら

「香川で有名な山田家の釜ぶっかけうどん、絶対に食べたいんだよね」

菜穂は地図アプリを確認する。『うどん本陣山田家』は、大窪寺に向かう途中に位置しているようだ。

菜穂は相棒に跨がりエンジンをかける。相棒は今日も御機嫌なエンジン音を響かせる。

出発すると県道から再び国道へと入りバイクを走らせる。

朝の空気はひんやりとしていて気持ちが良い。菜穂昨日までの疲れが嘘のように体が軽くなっているのを感じる。

しばらく走ると、『うどん本陣山田家』の看板が見えてきた。菜穂はバイクを駐車場に停め店内へと入る。

店内は広々としていて落ち着いた雰囲気だ。菜穂はメニューを見て『釜ぶっかけ』を注文する。


「すいませーん、釜ぶっかけお願いします。」

「釜ぶっかけですね。かしこまりました」

店員はにこやかにそう言うと厨房へと戻っていく。菜穂は水を飲みながら運ばれてくるのを待つ。

しばらくすると、店員が『釜ぶっかけ』を運んできた。湯気が立ち上り食欲をそそる。菜穂は箸を取り、うどんをすすり始める。

「うーん、美味しい!」

菜穂は思わずそう呟く。うどんはコシがあってつるつると喉を通る。出汁はあっさりとしていて上品な味わいだ。菜穂は夢中でうどんをすすり、あっという間に完食してしまう。

「ごちそうさまでした!」

菜穂は店員にそう言うと店を後にする。お腹も満たされ気分も高揚してきた。菜穂は再び相棒に跨がり大窪寺へと向かう。

道の両側には、緑豊かな木々が茂り時折美しい景色が広がる。

菜穂は心地よい風を感じながら相棒を走らせる。

 しばらく走ると道端に小さなお堂が見えてきた。菜穂は相棒を停め、お堂の前で手を合わせる。

 「道中安全、お願いします」

 菜穂はそう呟き、再び相棒に跨がる。

 山道を登り続けると、やがて大窪寺の駐車場へと到着した。菜穂は相棒を駐車場に停め、ヘルメットを脱ぐ。

 大窪寺は四国八十八ヶ所霊場の第八十八番札所。つまり、ここは遍路の終着点であり、『逆うち』と呼ばれる八十八番から一番を目指す人達にとっては出発点でもある。

 駐車場には多くの車やバイクが停まっており、多くの遍路姿の人々が歩いている。

菜穂は深呼吸をし大窪寺の境内へと足を踏み入れる。

 境内は荘厳な雰囲気に包まれており多くの参拝客で賑わっている。菜穂は本堂へと向かい、お賽銭を入れ手を合わせる。

 「ここまで来られたこと、感謝します」

 菜穂はそう呟いた。

 本堂の隣には大師堂がある。菜穂は大師堂にも参拝し、弘法大師に感謝の気持ちを伝える。

 大窪寺の境内を歩いていると、様々な人々の姿を目にする。遍路を終え、安堵の表情を浮かべている人。これから遍路を始めようと決意を新たにしている人。

菜穂はそれぞれの表情を見ていると、様々な思いが込み上げてくる。

 大窪寺は菜穂にとって単なる寺ではなく、人生の岐路に立つ場所なのかもしれない。

 菜穂は境内の隅にある休憩所で腰を下ろし、自動販売機で買ったお茶を飲む。温かいお茶が疲れた体に染み渡る。

 「さて、次はどこへ行こうか」

菜穂はそう呟き、スマートフォンの地図アプリを開く。

四国にはまだまだ知らない魅力的な場所がたくさんあるはずだ。

 ふと、徳島ラーメンのことが頭をよぎる。

濃厚な豚骨醤油スープに、甘辛く煮込まれた豚バラ肉。四国を旅するなら、ぜひとも味わっておきたいご当地グルメだ。

 「徳島ラーメン、食べたいなぁ」

 菜穂は地図アプリで徳島駅の位置を確認する。大窪寺からは少し距離があるようだ。

 「よし、徳島駅を目指そう」

 菜穂はそう決意し、休憩所を後にする。再び相棒に跨がりエンジンをかける。

 大窪寺を後にし徳島駅へと向かう。山道を下り再び国道へと入る。相棒は軽快に走り景色が次々と移り変わっていく。

 菜穂は風を感じながら、これからの旅に思いを馳せる。

徳島ラーメン、そして、その先に待っている出会いや発見。どんな物語が待っているのだろうか。

 しばらくすると空模様が怪しくなってきた。空を見上げ少し不安になる。

 「雨、降らないといいけど…」

 相棒のスピードを少し上げ、まだしばらく距離がある徳島駅へと急ぐ。





つづく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...