武術家、新たな肉体を手に入れる

レクス

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あれから、5年

体を作り変える際に、いきなり成体を授けると
精神が自身の体を認めず、崩壊する可能性がある為
赤子の状態から始まった魔力に慣れる為の人生

元々、この体に収まっていた精神は別世界へと転移され
残った体を改造し、そこに俺を入れる
だが、紛いなりにも神という存在が中に押し入る訳であり
身体に異常を齎した事も多々ありつつも、5歳となった

魔物が跋扈し、地球と比べ遥かに衛生状態の悪い人間界
『第二層』と呼ばれる此処では、乳児や幼児の死亡率が異様に高い
出生率も地球と比べれば異様に高いのだが、比例して死亡例が多発する

5歳、それは程度まで無事に成長した証である
これ程に成長すれば武術の類を教える事も出来る訳で
免疫力なども整えられ、死亡率は一気に低下する

貴族の間では、一種の記念行事として
5歳になった我が子を見せ合うパーティーを開く
様々な大人の事情も絡み来る訳だが、表向きはそうだ

そして、神道 紅碧
彼が入った体は、貴族の家

ルヴィス辺境伯と呼ばれる彼の家は、敵国 オッズ帝国との国境に最も近い領地を持つ
権力は上位の侯爵にも及び、王都にも負けず劣らずの都市を築いている
帝国さえも、長い国境線の中で彼の領地を攻めようとはしない

そんな城壁都市リオンの主、ミズルヘイブ·フォン·ルヴィス
彼の正妻、ララ·フォン·ルヴィス
その間に産まれたのが、アビス·フォン·ルヴィス

ルヴィス伯爵家次男となる、彼は悪く言って天才だった
異常なまでの戦闘能力、それに準ずる精神力と頭脳
たった5年で、神童とも讃えられた

当然、彼に注目が集まるのは必至
執拗い程にパーティーへの勧誘を受ける

会場は当然、王都で行われる
帝国との国境からで考えれば途轍も無く遠方
馬車に1ヶ月揺られて到着するか否かという程に遠い
1日で110㎞を進む馬車でさえも、だ

当然、食料やら護衛やらを考えると商隊キャラバン相当の隊列を組まなければならない
10にも及ぶかと言う馬車で進行する他無い
王都に行くだけでは無い、帰りの事も考えれば途方も無い
出費は嵩み、時間は取られ、散々な結果となるだろう

だが、多くの貴族の誘いを『遠いから』という理由だけで断れば当然関係は悪化する
それに、参加さえすれば何か良い商談や取引も発生する可能性も捨て切れない
更に言えば、紅碧 もとい アビスに興味を持ったのは王族も同じ
金は出すから来い、と言われれば断る訳にはいかず参加を決める

それでも長い長い馬車旅、気が重い
だが、そこにアビスが居る

彼は5歳にして多彩な魔法を極め、主に空間魔法を得意とした
教師を執る事も無く独学で習得した割には途轍もない練度を誇り
1度行った場所と視界に収まった場所なら極めて安全な転移を可能とする
それも、物品は無理だが人間なら人数を問わずして転移する

従来の通り、と言っても食料の代わりに商品を積んだ馬車で隊列を組み
今までの通りに進行し、辺りが暗くなってくれば
アビスが開発した空間歪曲を利用した障壁を展開し馬車を護り
乗組員は、城壁都市リオンへと転移で帰還

翌日明朝に再度集合し馬車まで転移、再び進行を始める
普通ならば魔物に怯えながら硬い地面か馬車の上で夜を過ごす所が
毎度帰宅し、安全な我が家で一時の安らぎを得れる
精神的苦痛も、肉体的苦痛も無い旅は従来よりも酷く快適であった

「到着か、実感が無い」

父親の、その呟きが今までとの差を如実に表しているだろう
当初の予定である30日から、4日も早く到着してしまった
そう、馬車を引く馬も転移で厩舎へと帰り休んでいる
今までよりも休めるのは必然であり、それは明日の快調に繋がるのは必至

毎日、朝から夜まで出掛けて来ました
その程度の疲労感で済んでしまうのがアビスとの旅の恐ろしい所だ
もはや、王都に行くだけなら数人の護衛とアビスと御者を乗せた馬車単独で行っても良いのだ
いや、既にもう城壁都市リオンと王都の長い距離はアビスの所為で無いに等しい
既に王都に着いたのだから、互いを行き来するように転移が出来るのだから

「アビス、パーティーまで10日もある」

「俺は王都の近くで魔法の練習でもする、母と楽しんで来い」

「分かった、気を付けろよ」

「親父も気を付けろよ、母に溺れないようにな」

「…善処するよ」

彼の父親、ミズルヘイブは酷く正妻に溺愛している
そして、正妻のララも同じく父に溺愛しており
イチャイチャ劇を見た者なら砂糖でも吐いてるような錯覚に陥るだろう

主に、ララが夫を弄る という構成が出来上がっており
その度にミズルヘイブは尊死しかけ、気絶
起きた頃には更にララに溺れる
溺死しても構わないという姿勢は愛をドンドンと深めていく

どうせ発達した王都を夫婦でデートすることだろう
だからこその忠告、危険だという注意喚起
身構えていなければ、ミズルヘイブとしては危ないのだ

早速母の元へ向かう父親を後目にアビスは首を傾げる
脛骨が小気味よい音を連続で鳴らす

「行くか」

そして、足を踏み出した
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