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第2章【交わる二人の歯車】

16罪‬ 好きな人は大好きな友達の恋人でした④

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「雪ちゃんは誰かの一番になる事を望むんじゃなくて、ずっと一番の私を崇めてくれればいいのよ」
「……そんなの、友達とは言わないっ」
「そんな事ないわよ? 私は雪ちゃんの事を友達だと思っているし、雪ちゃんも私の事を親友だと思っているわ」

 だから友達よ、と笑う静にヴェルは気持ち悪いものを見るような視線を向けた。

(まあ、都合のいい友達……私を引き立てるための友達、ではあるけれどね)

 自分にとって利益があれば友達で居続ける静。その考えをヴェルはもちろんのこと、雪も真兄も知らなかった。それは、静がずっと隠し続けてきた彼女だけの“真実”だから。

「こんなことを続けていると、そのうち雪ちゃんから見限られるぞ」
「あら、そんな事はないわ。雪ちゃんは私を大好きで大好きで仕方ないもの。私を憧れて、私を頼って……そんな子が私を見限るわけないわ。どんなことをしても、あの子は結局は私の所へ帰ってくるのよ」

 その自信はいったいどこから来るのか、ヴェルには理解が出来なかった。静は不敵な笑みを浮かべたまま、話はおしまいと言わんばかりに宴会場に向かって足を踏み出した。
 ヴェルも、そんな静の後を追いかけるようについていく事しかできない。今すぐ雪のもとへ駆け戻りたくても、それを静は許してくれない。

(これを選んだのは……俺なんだ。静ちゃんだけ責めるのはお門違いだよな……)

 望んだ望んでないにかかわらず、確かにヴェルは雪を傷つけた。それは事実で、なかったことには出来ない。

「……静ちゃん、宴会場に行くならこっち……」
「あら、誰が宴会場に戻ると言ったかしら?」

 宴会場に向かう途中、違う方向に歩みを向ける静にヴェルは戸惑いの声を上げた。そんなヴェルに静はクスクスと笑みを零して振り返った。

「さっきから聞いていれば、ヴェルくんは雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃんばっかりね」
「……っ」
「確かに心は今はいらないとは言ったけれど……やっぱり面白くはないわ」

 腕を組み、右手の人差し指だけを立ててその指の腹を唇に添えて、静はジッとヴェルを見つめた。その瞳を見ていると嫌な予感が脳裏を横切り、ヴェルはジリッと一歩後ずさった。

「これだけ盛大に盛り上がっていれば、抜け出す人の一人や二人いるわ」
「……なに、を」
「あら、分かっていて聞くのかしら?」

 静の言葉に、ヴェルはごくりと息を呑んだ。確かに分からないわけじゃないが、ヴェルは自分が考えていることが正解じゃないことを切に願っていた。
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