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第一章

2 婚約破棄しろって無茶振りだろ!?

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「婚約破棄して!!今すぐ!!」
春美がぐいぐいとこちらへ寄って来る。
春美が持っていた剣が床に突き刺さったのを見たせいか、思わずへっぴり腰になってしまう。
そのせいか、いつの間にか壁際まで追い詰められ、春美との距離がほんの僅かになるまで近づく。
出会い頭に抱きしめたくせに、と思われるかもしれないが、異様に緊張してしまう。
果たしてこのドキドキは可愛い妹に対するものだろうか、それとも異界の刃物に対する危険信号だろうか。
「ま、待て。とりあえず落ち着いて、話をしよう。」
死ぬかもしれないと思いつつも、俺は春美の両肩を押さえて落ち着かせようとする。
「お兄ちゃん…。」
と、その時だった。
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。
その瞬間、思い出した、思い出してしまった。
今日はアイツが来る日だ…。
今来られては非常に大変なことになるのが想像つく。
出来ることなら居留守を使って…。
「はーい、今出ますー。」
まずいと思ったときには、既に春美が玄関の方へ向かっていた。
「待って!春美!」
正常な思考を取り戻し、急いで春美を追いかける。
やっとの思いでたどり着いた玄関では、既に春美が俺の婚約予定の相手である桜と対面していた。
「貴方…春美ちゃん…?」
桜は明らかに動揺していた。
それもそのはず、桜とは2年程前から付き合い始めたが、生前の春美の写真を見せたこともあった。
その春美が勇者みたいなヘンテコな格好で出迎えてきたのだ、無理もない。
春美の方も何かを察したのか、急に顔をしかめる。
(…これがってやつか…。)
「お兄ちゃん、この人が婚約を予定している相手?」
「あ、ああ。そうだ。」
俺の返答を聞いたのかどうかもわからぬ間に、春美がもう一本持っていた腰の短剣に手をかける。
こいつ…殺すつもりか…!?
異世界で魔物殺しすぎて、倫理観まで失ったってのか!?
「逃げろ桜!!」
俺の勧告が響き渡ったときには既に、春美と桜はピッタリとくっつくほどの距離にいた。
刺された、そう思った。
しかし、よく見ると春美の手は腰の短剣にかけられたままだった。
そう、近づいたのは春美ではなく桜の方だったのだ。
、春美さん。よく帰ってきたわね。」
いつの間にか桜の両手は春美の身体を抱きしめていた。
そのままの姿勢で、桜はこう告げた。
「お役目を果たしてくれて、本当にありがとう。」
「…やっぱり貴方だったのね、。」
「…は?なに?…なんで桜からお役目の話が…?」
困惑する俺を片目に春美が大きなため息をつく。
「こうなったら、ちゃんと説明してよね。」
「ええ、わかってます。」
そう言うと、桜は春美を抱きしめるのを止め、俺の方へ向き直った。
「そうですね、まずは春美さんが転生したときの話をしましょうか。」
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