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ディアストリーナ
決闘
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[ソニック・ポーク]
人間の視認速度を超えた音速の突き。
流石ソードダンサーだ。
刺突攻撃の恐ろしいところは、その威力……
いや、俺はガードの難しさだと思っている。
そして音速であるということは、最大のデメリットである回避のしやすさという面を補っている。
一気に決めるつもりだ。
だが俺も、彼にやられてやるわけにはいかない。
回避は不可、ならば正面から受け止めるしかない。
【跳橋】
曲刀を両腕で引きつけて持ち、右から、上段へと切り上げた。
ブレイドが苦虫を噛み潰して、剣に身体を持っていかれないようにこらえながら、バックステップし、後ろに下がる。
俺がこの機を見逃さないはずがない。
すかさず一歩、また一歩踏み込んで、ブレイドを追い詰める。
だが、流石ソードダンサー様。
俺に追いつかれることを諦めると、今度は弾かれた剣の衝撃に任せて、上半身を大きく後転させる。
咄嗟に柄で防御の姿勢をとった。
コレも俺に免許皆伝してくれた師匠から教わった技。
奴の蹴りの振動が両腕に伝わり、腕が痺れる。
俺はできるだけその衝撃を他の場所に逃がそうとした。
一回転し、地面を蹴ったソードダンサー様は、再び俺に接近してくる。
パリィでは勢いが負ける。
俺は右から左に一回転。
その勢いを利用して、ブレイドの斬り下ろしを弾き返した。
ブレイドの体が反時計回りに回転して、今度は彼が、水平斬りで俺の腑を斬り裂こうとした。
「良いぞ。」
「もっとやれ。」
彼らはコレが本当の殺し合いだということに気がついているだろうか?
こういう人間に、モノを殺す罪悪感などが残っているはずがない。
コレが命の価値に対する彼らと俺たちの違いだ。
俺は冷や汗を掻きながら、柄を逆手に持ち替えて、水平斬りを防いだ。
今度は勢いを利用されないように、完全に弾き返すのではなく、少し、威力を殺した。
俺の予想通り、彼の動きが一瞬止まる。
ここで、攻撃を繰り出しては、また彼の剣舞が再開してしまう。
そうさせないためには、刀に直接触れないことが鉄則だ。
姿勢を低くし、奴の懐に潜り込む。
奴のチェストプレートを持ち上げると、晴天へ放り投げた。
空高く舞ったダンサーは、日の陽を背に回転しながら斬りかかってくる。
この一瞬で決める。
「【珪眼流】」
「【捌ノ岩】」
【 翔鐡】
俺の握る鈍色の刃が大空高く飛び上がった。
そして、ブレイドの『剣』を弾き返すと、そのまま、奴のチェストプレートを切り裂いた。
俺は奴はほぼ同時に着地し、彼の防具が音もなく崩れる。
彼は舌打ちをしてから、尻をつきため息をついた。
「殺したいなら、殺せ。」
俺はそれを否定する。
「お前に恨みがあるわけじゃない。殺す価値なんてないさ。」
遅れて歓声が起きる。
注目の的になるのは初めてだ。
俺はとりあえず、野次馬に向かって手を振った。
「最近、王都に来た運び屋だ。パーティーメンバーから女を引き抜かれたい奴は、是非、俺を雇ってくれ。」
俺の皮肉に、野次馬がドワっとなった。
コレで良し。
明日からも稼ぐことができるだろう。
「チッ。死体運び風情が。」
ブレイドは初めて俺をそう呼んだ。
だが、ここまで怒るのも仕方ない。
俺はそれを無視して、人混みから離れる神父を追った。
跳躍で店のレンガ屋根に飛び乗ると、頭上から逃げる彼の跡を追う。
数メートル先で彼の肩を捕まえた。
振り返った神父の顔は、したり顔で少し歪んでいた。
「アンタ、神父には向いてないんじゃないか? 」
「そういう君は、運び屋になんか向いてないんじゃないか? 」
「ブレイドに吹き込んだのはお前だろう。なんのために? 」
神父は溜息をついた。
「分かった。私に追いつけたことに免じて答えてやろう。」
「君の力試しをだよ。君は凄かった。珪眼流という、異国の流派。それは、誰から習ったモノだ? 」
俺は即答する。
「師匠からだ。」
神父の口角が少し歪んだ。
「師匠? それは誰だね? 」
師匠から教わったということは思い出せる。だが、師匠が誰であるかは、いつまで考え込んでも思い出せなかった。
「わからない。」
そうだ。俺は剣士ではない。この武術は、別世界の俺が習得しているワザの一つだ。
「ごめん、変なことを言うようだが、俺に剣の先生はいない。」
「よかったねフォース。コイツは、まだ侵食が進んでいない。」
「あるいは、侵食に耐性のある……素質を持つモノのどちらかだ。」
生意気そうなメスガキが、串に刺さった東洋菓子を頬張りながら、茶屋から出てくる。
「神父。コイツは誰だ。」
「コレは、私の同僚だ。以後よろしく。」
「そうじゃない。名前だ。」
メスガキは、わざとらしくスカートの両端を掴んで、右脚を後ろに回してお辞儀をした。
「僕はサードって言います。よろしくねお兄さん。」
「なんで、アンタらは俺の力を試していた? 」
サードがその問いに答えた。
「そのうち仕事を依頼しようと思っていたの。こんなまわりくどい方法をしちゃってごめんね。フォースは内気なの。許してあげてねお兄ちゃん。」
敬意を持って話してくれるはずなのに、妙に腹が立つ声だ。
俺は王都に来たもう一つの理由を思い出した。
「この男について知っていることはないか? 兄弟子の写真。彼らなら知っているかもしれない。」
二人はその顔を覗き込んで、一瞬嘲笑してから、二人とも白々しく「知らぬ存ぜぬ。」という様子で、俺の問いに答えた。
この神父には言ってやりたいことが山ほどある。
しかし、問題はもう解決した。
俺は金さえ稼げれば良い。
そのためなら腎臓一つ売る覚悟だ。
キュリオス姉さんにあんなことを言って孤児院を出ておきながら、無一文で帰ってきたら、みんなに見せる顔がない。
キッチリ稼がせてもらうぜ。
「ありがとう。世話をかけたな。俺はもう行くから。」
「ええ? それだけ? 」
フォースが、驚いて喉に東洋菓子を詰まらせたようだ。
胸を叩きながら、神父のズボンの裾を引っ張っている。
神父は優雅にゆっくりと茶屋の中に入って行った。
俺は振り返り、ギルドを目指す。
さぁ仕事の時間だ。
人間の視認速度を超えた音速の突き。
流石ソードダンサーだ。
刺突攻撃の恐ろしいところは、その威力……
いや、俺はガードの難しさだと思っている。
そして音速であるということは、最大のデメリットである回避のしやすさという面を補っている。
一気に決めるつもりだ。
だが俺も、彼にやられてやるわけにはいかない。
回避は不可、ならば正面から受け止めるしかない。
【跳橋】
曲刀を両腕で引きつけて持ち、右から、上段へと切り上げた。
ブレイドが苦虫を噛み潰して、剣に身体を持っていかれないようにこらえながら、バックステップし、後ろに下がる。
俺がこの機を見逃さないはずがない。
すかさず一歩、また一歩踏み込んで、ブレイドを追い詰める。
だが、流石ソードダンサー様。
俺に追いつかれることを諦めると、今度は弾かれた剣の衝撃に任せて、上半身を大きく後転させる。
咄嗟に柄で防御の姿勢をとった。
コレも俺に免許皆伝してくれた師匠から教わった技。
奴の蹴りの振動が両腕に伝わり、腕が痺れる。
俺はできるだけその衝撃を他の場所に逃がそうとした。
一回転し、地面を蹴ったソードダンサー様は、再び俺に接近してくる。
パリィでは勢いが負ける。
俺は右から左に一回転。
その勢いを利用して、ブレイドの斬り下ろしを弾き返した。
ブレイドの体が反時計回りに回転して、今度は彼が、水平斬りで俺の腑を斬り裂こうとした。
「良いぞ。」
「もっとやれ。」
彼らはコレが本当の殺し合いだということに気がついているだろうか?
こういう人間に、モノを殺す罪悪感などが残っているはずがない。
コレが命の価値に対する彼らと俺たちの違いだ。
俺は冷や汗を掻きながら、柄を逆手に持ち替えて、水平斬りを防いだ。
今度は勢いを利用されないように、完全に弾き返すのではなく、少し、威力を殺した。
俺の予想通り、彼の動きが一瞬止まる。
ここで、攻撃を繰り出しては、また彼の剣舞が再開してしまう。
そうさせないためには、刀に直接触れないことが鉄則だ。
姿勢を低くし、奴の懐に潜り込む。
奴のチェストプレートを持ち上げると、晴天へ放り投げた。
空高く舞ったダンサーは、日の陽を背に回転しながら斬りかかってくる。
この一瞬で決める。
「【珪眼流】」
「【捌ノ岩】」
【 翔鐡】
俺の握る鈍色の刃が大空高く飛び上がった。
そして、ブレイドの『剣』を弾き返すと、そのまま、奴のチェストプレートを切り裂いた。
俺は奴はほぼ同時に着地し、彼の防具が音もなく崩れる。
彼は舌打ちをしてから、尻をつきため息をついた。
「殺したいなら、殺せ。」
俺はそれを否定する。
「お前に恨みがあるわけじゃない。殺す価値なんてないさ。」
遅れて歓声が起きる。
注目の的になるのは初めてだ。
俺はとりあえず、野次馬に向かって手を振った。
「最近、王都に来た運び屋だ。パーティーメンバーから女を引き抜かれたい奴は、是非、俺を雇ってくれ。」
俺の皮肉に、野次馬がドワっとなった。
コレで良し。
明日からも稼ぐことができるだろう。
「チッ。死体運び風情が。」
ブレイドは初めて俺をそう呼んだ。
だが、ここまで怒るのも仕方ない。
俺はそれを無視して、人混みから離れる神父を追った。
跳躍で店のレンガ屋根に飛び乗ると、頭上から逃げる彼の跡を追う。
数メートル先で彼の肩を捕まえた。
振り返った神父の顔は、したり顔で少し歪んでいた。
「アンタ、神父には向いてないんじゃないか? 」
「そういう君は、運び屋になんか向いてないんじゃないか? 」
「ブレイドに吹き込んだのはお前だろう。なんのために? 」
神父は溜息をついた。
「分かった。私に追いつけたことに免じて答えてやろう。」
「君の力試しをだよ。君は凄かった。珪眼流という、異国の流派。それは、誰から習ったモノだ? 」
俺は即答する。
「師匠からだ。」
神父の口角が少し歪んだ。
「師匠? それは誰だね? 」
師匠から教わったということは思い出せる。だが、師匠が誰であるかは、いつまで考え込んでも思い出せなかった。
「わからない。」
そうだ。俺は剣士ではない。この武術は、別世界の俺が習得しているワザの一つだ。
「ごめん、変なことを言うようだが、俺に剣の先生はいない。」
「よかったねフォース。コイツは、まだ侵食が進んでいない。」
「あるいは、侵食に耐性のある……素質を持つモノのどちらかだ。」
生意気そうなメスガキが、串に刺さった東洋菓子を頬張りながら、茶屋から出てくる。
「神父。コイツは誰だ。」
「コレは、私の同僚だ。以後よろしく。」
「そうじゃない。名前だ。」
メスガキは、わざとらしくスカートの両端を掴んで、右脚を後ろに回してお辞儀をした。
「僕はサードって言います。よろしくねお兄さん。」
「なんで、アンタらは俺の力を試していた? 」
サードがその問いに答えた。
「そのうち仕事を依頼しようと思っていたの。こんなまわりくどい方法をしちゃってごめんね。フォースは内気なの。許してあげてねお兄ちゃん。」
敬意を持って話してくれるはずなのに、妙に腹が立つ声だ。
俺は王都に来たもう一つの理由を思い出した。
「この男について知っていることはないか? 兄弟子の写真。彼らなら知っているかもしれない。」
二人はその顔を覗き込んで、一瞬嘲笑してから、二人とも白々しく「知らぬ存ぜぬ。」という様子で、俺の問いに答えた。
この神父には言ってやりたいことが山ほどある。
しかし、問題はもう解決した。
俺は金さえ稼げれば良い。
そのためなら腎臓一つ売る覚悟だ。
キュリオス姉さんにあんなことを言って孤児院を出ておきながら、無一文で帰ってきたら、みんなに見せる顔がない。
キッチリ稼がせてもらうぜ。
「ありがとう。世話をかけたな。俺はもう行くから。」
「ええ? それだけ? 」
フォースが、驚いて喉に東洋菓子を詰まらせたようだ。
胸を叩きながら、神父のズボンの裾を引っ張っている。
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