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役者は揃った
愚かな父親
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お鶴さんが薙刀の石突を床につき、左膝をついている。
「へっ、デカい口叩く割には!!」
賊が、お鶴さんの腹部を思いっきり蹴飛ばす。
賊は満足そうに手を払うと、その鋭い眼差しをこちらに向ける。
そして、私の頭の角を見て歯軋りする。
「あの時勇者と一緒にいた鬼か? ということは……」
「ソイツはアイツの子供か。」
彼は湧き上がる怒りに肩を震わせながら、ひっくり返った桶を震える手で拾い上げ、怒りを爆発させた。
「お前は酒呑童子様を利用し、極東に取り入り、何事もなかったかのように幸せそうにあの偽善者と暮らしいてたわけか……」
私は二人の赤子を守るように屈んだ。
背中に賊の投げた桶が当たる。
「我々を導いて下さった酒呑童子は、逆賊として追捕使たちに首を狙われる身になったというのに。」
「お前と酒呑童子様の違いはなんだ? 同じ鬼であるはずなのに、なぜ境遇がこんなにも違う?? 」
賊は今は亡き棟梁に大粒の涙を流し、それから気が触れたように笑い出した。
「ハハハハ。忘れていたぜ。そうだ、最初から生まれた時から俺は知っていた。この世界に正しさなど無い。あるのは『強いものが弱いもののために存在している。』というその法則のみ。なぜ今まで忘れていたんだろうな。村を野盗に襲われた時から俺の深い場所に刻まれていたはずなのに……」
「なら。」
「今、俺の前で崩れ落ち惨めにも赤ん坊を抱き抱えているお前は誰のために存在している? 」
『強いものは弱いもののために存在している。』
「死ねェェェェェェ。」
せめて、この子たちだけでも……
いつまで経っても彼のエモノが私の身体を引き裂くことはなかった。
---黙って聞いてりゃ良い気になりやがって? 何様だ? ---
「なんだお前は? 」
---オイ無視か?ムシケラ---
黒い塊が刃のように鋭くなり、賊の右肘を斬り落とした。
---人間ってのは脆くて困るな。ったく同情するぜ---
---あぁ?お前らみたいな小物と俺が同等だって?? ---
---弱者をいたぶって強者の真似事か?? ---
---お前に本当の恐怖ってやつを教えてやるぜ---
「やめろ!! 来るな!! 悪かった。許してくれ。」
---ちょうどガキの魂を食い損ねてムシャクシャしていたところだったからな。---
「ヒッ。」
戸を開けて逃げる賊に黒い腕が迫る。
---オラよっと。人間の魂踊り食いだぜ---
腕は赤子の手から無数に伸びていき、老人を踏みつけていた槍使いや、村人たちを的にして遊んでいた残党たちを次々に掴み、あんぐりと開いた黒の顎門へと順々に運んでいく。
「ハハハハうめぇうめぇうめぇ。これだから暴飲暴食はやめられねえんだよ。」
黒い塊は飲み込んだものを咀嚼するように収縮すると一気に膨れ上がった。
「もっとだもっとだ!! もっと魂を!! もっと!! もっと!! ハハハハすげえなコイツは!! 底がない。次から次へと湧いてきやがる。いいないいな人間って良いなぁ♪」
黒い塊は乾いた喉を潤すように、次々と人間を衝動の根源へと運んでいく。その度に、一度の咀嚼では吸収しきれなかった肉塊が、鮮紅色を周囲に振りまく。
「憎しみ。恨み。嗜虐。性欲。欲望。うまいうまいうまい。お前の魂はどんな味だぁ??」
賊たちを全て飲み込んだバケモノが次に手を出そうとしたのは……
いうまでもないだろう。
「お前からは恐怖の匂いがするぞ。美味そうだ。口直しにはちょうど良い。良かったなぁ。お前はデザートだ。咀嚼して味が出なくなるまで噛み砕いてから、その感覚を楽しみながら嚥下してやるからよ。人間にとっちゃ、これ以上の幸福は無いだろ? なぁそうだよな? 」
彼はあまりの恐怖に声が出ない。
私も叫ぼうとするが、目の前の強大な闇に息が続かず声が出ない。
---凛月ッ---
私の目の前を、坂田家の銘が入った刀が飛んでいく。
目の前を走っている鎖から徐々に視線を移していく。
間違いない。
慎二郎だ。隣には剣城が立っていた。
---クソっ離しやがれ!! ---
慎二郎の鎖鎌? にキッチリ身体を捕らえられたバケモノは、鎖から抜け出そうと右に左に収縮を繰り返していた。
私は慎二郎に泣きつく。
「私が…私が鬼だから子供がバケモノに……」
慎二郎は私を優しく抱き上げると
「大丈夫。俺に任せろ。」
と一言だけ囁いた。
---フンッそうか。お前がコイツの父親か。どうりで魂に触れられないわけだぜ。俺をどうするつもりだ? ---
「封印する。子供が…我が子 慎二が生きていく上でお前は必要ない。」
---ハハ愚かな奴だ。俺を封印したところで、コイツが人外であることには変わりない。いくらお前らが人の真似事をしたところでバケモノであることに変わりは無い---
「ああ、俺は愚かだ。」
「だがな。」
「愚かじゃない父親なんていないんだよ。」
---封縛---
慎二の臍の緒から無数の鎖が飛び出し、バケモノを包み込んだ。
---コイツの身体を食い破ったら、真っ先にお前の魂を喰らってやるぜ!!---
---お…ぼ---
「って見せるさ。今度こそ。」
慎二郎は、飛んで行ったオニゴロシをキャッチすると、そう言い放った。
「だあだあ。」
「ブーキヤッキャッキャァ。」
赤ん坊たちは何事もなかったかのように、お互いの顔を合わせては、互いに手を伸ばし、キャッキャと笑っている。
剣城がこちらに走ってきた。
「怪我人は? お鶴は無事か? 」
「向こうで気絶している。早く行ってやってくれ。」
そうしているうちにも、慎二郎が倒れ込んできた。
「大丈夫か? 」
「ああ、ちょっと色々あり過ぎてな。」
「なぁ美鬼? 」
「なんだ? 」
「俺は子供たちを守る大人として、父親としてやっていけるだろうか? 」
「もちろんだ。私たちで作ろう。慎二が、子供たちが笑って暮らせる未来を。」
「へっ、デカい口叩く割には!!」
賊が、お鶴さんの腹部を思いっきり蹴飛ばす。
賊は満足そうに手を払うと、その鋭い眼差しをこちらに向ける。
そして、私の頭の角を見て歯軋りする。
「あの時勇者と一緒にいた鬼か? ということは……」
「ソイツはアイツの子供か。」
彼は湧き上がる怒りに肩を震わせながら、ひっくり返った桶を震える手で拾い上げ、怒りを爆発させた。
「お前は酒呑童子様を利用し、極東に取り入り、何事もなかったかのように幸せそうにあの偽善者と暮らしいてたわけか……」
私は二人の赤子を守るように屈んだ。
背中に賊の投げた桶が当たる。
「我々を導いて下さった酒呑童子は、逆賊として追捕使たちに首を狙われる身になったというのに。」
「お前と酒呑童子様の違いはなんだ? 同じ鬼であるはずなのに、なぜ境遇がこんなにも違う?? 」
賊は今は亡き棟梁に大粒の涙を流し、それから気が触れたように笑い出した。
「ハハハハ。忘れていたぜ。そうだ、最初から生まれた時から俺は知っていた。この世界に正しさなど無い。あるのは『強いものが弱いもののために存在している。』というその法則のみ。なぜ今まで忘れていたんだろうな。村を野盗に襲われた時から俺の深い場所に刻まれていたはずなのに……」
「なら。」
「今、俺の前で崩れ落ち惨めにも赤ん坊を抱き抱えているお前は誰のために存在している? 」
『強いものは弱いもののために存在している。』
「死ねェェェェェェ。」
せめて、この子たちだけでも……
いつまで経っても彼のエモノが私の身体を引き裂くことはなかった。
---黙って聞いてりゃ良い気になりやがって? 何様だ? ---
「なんだお前は? 」
---オイ無視か?ムシケラ---
黒い塊が刃のように鋭くなり、賊の右肘を斬り落とした。
---人間ってのは脆くて困るな。ったく同情するぜ---
---あぁ?お前らみたいな小物と俺が同等だって?? ---
---弱者をいたぶって強者の真似事か?? ---
---お前に本当の恐怖ってやつを教えてやるぜ---
「やめろ!! 来るな!! 悪かった。許してくれ。」
---ちょうどガキの魂を食い損ねてムシャクシャしていたところだったからな。---
「ヒッ。」
戸を開けて逃げる賊に黒い腕が迫る。
---オラよっと。人間の魂踊り食いだぜ---
腕は赤子の手から無数に伸びていき、老人を踏みつけていた槍使いや、村人たちを的にして遊んでいた残党たちを次々に掴み、あんぐりと開いた黒の顎門へと順々に運んでいく。
「ハハハハうめぇうめぇうめぇ。これだから暴飲暴食はやめられねえんだよ。」
黒い塊は飲み込んだものを咀嚼するように収縮すると一気に膨れ上がった。
「もっとだもっとだ!! もっと魂を!! もっと!! もっと!! ハハハハすげえなコイツは!! 底がない。次から次へと湧いてきやがる。いいないいな人間って良いなぁ♪」
黒い塊は乾いた喉を潤すように、次々と人間を衝動の根源へと運んでいく。その度に、一度の咀嚼では吸収しきれなかった肉塊が、鮮紅色を周囲に振りまく。
「憎しみ。恨み。嗜虐。性欲。欲望。うまいうまいうまい。お前の魂はどんな味だぁ??」
賊たちを全て飲み込んだバケモノが次に手を出そうとしたのは……
いうまでもないだろう。
「お前からは恐怖の匂いがするぞ。美味そうだ。口直しにはちょうど良い。良かったなぁ。お前はデザートだ。咀嚼して味が出なくなるまで噛み砕いてから、その感覚を楽しみながら嚥下してやるからよ。人間にとっちゃ、これ以上の幸福は無いだろ? なぁそうだよな? 」
彼はあまりの恐怖に声が出ない。
私も叫ぼうとするが、目の前の強大な闇に息が続かず声が出ない。
---凛月ッ---
私の目の前を、坂田家の銘が入った刀が飛んでいく。
目の前を走っている鎖から徐々に視線を移していく。
間違いない。
慎二郎だ。隣には剣城が立っていた。
---クソっ離しやがれ!! ---
慎二郎の鎖鎌? にキッチリ身体を捕らえられたバケモノは、鎖から抜け出そうと右に左に収縮を繰り返していた。
私は慎二郎に泣きつく。
「私が…私が鬼だから子供がバケモノに……」
慎二郎は私を優しく抱き上げると
「大丈夫。俺に任せろ。」
と一言だけ囁いた。
---フンッそうか。お前がコイツの父親か。どうりで魂に触れられないわけだぜ。俺をどうするつもりだ? ---
「封印する。子供が…我が子 慎二が生きていく上でお前は必要ない。」
---ハハ愚かな奴だ。俺を封印したところで、コイツが人外であることには変わりない。いくらお前らが人の真似事をしたところでバケモノであることに変わりは無い---
「ああ、俺は愚かだ。」
「だがな。」
「愚かじゃない父親なんていないんだよ。」
---封縛---
慎二の臍の緒から無数の鎖が飛び出し、バケモノを包み込んだ。
---コイツの身体を食い破ったら、真っ先にお前の魂を喰らってやるぜ!!---
---お…ぼ---
「って見せるさ。今度こそ。」
慎二郎は、飛んで行ったオニゴロシをキャッチすると、そう言い放った。
「だあだあ。」
「ブーキヤッキャッキャァ。」
赤ん坊たちは何事もなかったかのように、お互いの顔を合わせては、互いに手を伸ばし、キャッキャと笑っている。
剣城がこちらに走ってきた。
「怪我人は? お鶴は無事か? 」
「向こうで気絶している。早く行ってやってくれ。」
そうしているうちにも、慎二郎が倒れ込んできた。
「大丈夫か? 」
「ああ、ちょっと色々あり過ぎてな。」
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