神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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 壊れたおもちゃたち

ウボクの国

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「起きろ慎二。」
 翌朝、腐れ縁の言葉を聞き。
 ハッと目を覚ます。
 どうやらあのまま甲板で寝てしまっていたらしい。
 俺は魔具が作り出した偽物の感情で、彼に愛想笑いを返した。
 呪具の銃鬼ジュウキが開けた穴を魔具の凛月リンゲツが埋める。
 それが俺の日常。
 今、俺を心配した顔で見下ろしているのが坂田槍馬。
 ソウマだ。
「こんなところで寝るんじゃねえよ。」
「わりい。飲みすぎちまってな。」
「お前も俺もまだ15だっつうの。」
 腐れ縁が、すかさず俺のジョークにツッコミを入れる。
「慎二!! 槍馬!! 隊長の招集だよ。早く。」
 遠くで俺を読んでいるのは、洲崎美奈だ。
 俺の……もう一人の幼なじみ。
 そういうことにしておこう。

 俺たちは甲板を降りて、ウボクの地に足を踏み入れる。
 そこには、あちこちにウボク人の死体が転がっていた。
 ウボク上陸に対する高揚感が、一瞬にして警戒心へと変わった。
 俺たちは、五十メートル先に仁王立ちしている七宝隊長を目指した。
 俺はふとあることに気づく。

"死体の向きがバラバラだ。彼らは何をしていたのだろう。"

 聖の襲撃に右往左往していたのか?

"この開けた場所で不意打ちを?"

 ウボク民たちは、麓から海まで逃げてきたのかも知れない。

"なら死体は一定方向を向くはずなのでは?"

 これは

"よく見ると、外傷の位置があべこべだ。"

 これは

"死体に刻まれたルーンが発動する。"

 これは罠だ。

 空から、巨大な火の鳥が滑空してきた。
 それにいち早く気づいた羽々斬はばきり
 が未知術を発動する。
---防風ボウフウ---
 俺たちの周りに風のシールドが展開され、火の鳥をかき消した。
 例田れいだの索敵に、魔力反応が引っかかり、その旨を隊長へと告げる。
「全方向から、多数の魔術反応、五十、百、いや、もっとです。」
 七宝隊長はため息をつくと、俺たちに命じた。
「総員、戦闘準備。出来るだけ中央に固まって、鏡子の八咫鏡ヤタノカガミから出ないようにするんだ。」
 八咫鏡、鏡子珪かがみこ けいが所持している魔具の未知術の一つ。
 この鏡に触れた魔術は、光のように元の場所へと跳ね返る。
 防風が消えると、次には八咫鏡が展開された。
 風の虎、水の蛇、氷の槍を八咫鏡が弾き返した。
 その猛攻の隙間から垣間見た一人の青年。
 腰にレイピアと短剣を下げ、マントを羽織った青年。
 その青年はまるで憐れむように俺を俺たちを見下していた。
 その表情を、他の契約者たちがどう受け取っていたかは分からない。
 だが、俺は彼に憎悪した。
 俺の復讐を、俺の全てを否定されたようで。
 それだけならまだいい。
 問題は、その相手が聖だというわけだ。
「ぶっ殺してやる。」
 後ろで誰かが俺を咎めているかも知れない。
 だが、そんなことは俺にはどうでも良かった。
 今はこの湧き上がる黒い感情をに支配され、目の前の憎き聖を斬り殺すこと、それだけだ。
 それだけが俺を救ってくれる。
「カーミラ様をお守りしろ!! 」
 躍起になった聖たちの声が聞こえる。
 陣から飛び出した俺は、良い的であろう。
 彼らの詠唱が聞こえる。
 だが、その詠唱では間に合わない。
 俺は崖の上で佇んでいるレイピア野郎つけて急降下した。
「凛月ゥッ」
 俺は腰から取り出した魔具の名前を叫んだ。
 銃鬼とは正反対の眩しいほどの白色。
 角の生えたチャクラムと、そこから伸びる鎖に繋がっている小太刀。
 
 俺は右手にチャクラム、左手に小太刀を持ち、身体を乗せて、地上のレイピア野郎に斬りかかる。
 が、俺の刃は空を斬り、地面に突き刺さる。
 衝撃で崖が崩れた。
<背後で感じる強烈な殺意>
 咄嗟に身体を逸らす。
 なんてスピードだ?
 スピード?
 いやそうじゃない。
 瞬間移動したのだ。
 おそらく座標移動の類い。
 俺の背中を冷たい刃が撫でる。
 そして反対に体が熱を帯びる。
 奴の突き攻撃を、空中で回転しながら避ける。
 そして地上に着地し、奴を蹴り上げると、左手から小太刀を離し、腰の呪具、銃鬼を取り出す。
 左手のそのハンドガンを左側頭に押し当てると、躊躇なくトリガーを引く。
---疾風ハヤテ---
 脳内でパルスが走り、体が軽くなる。
 銃鬼を放り投げると、再び左手で小太刀を構えて、蹴り飛ばしたレイピア野郎へと突進する。
---雷刃ライジン---
 稲妻を帯びた刃が、神速でスライドし、奴の喉笛へと迫る刃に俺は引きつけられる。
 だがしかし、迸る稲妻が奴の肌に触れるか触れないかの寸前で、奴は姿を消してしまう。

 刹那、背中で強烈な衝撃をが走る。
 
 衝撃はズンズンと大きくなっていくと、やがて鈍い痛みが襲ってきた。
「蹴り飛ばされたか。」
 俺は転がりながら、受け身を取る体勢に入り、宙返り、左手で地面を捉えた。
 そこへ、詠唱が終わった聖たちの神聖魔術が飛んでくる。
 俺はすかさず、小太刀を地面に突き刺し、チャクラムのコイルを操作する。
 フレミングの法則により、小太刀に繋がれた鎖がコイルから勢いよく飛び出し、俺は宙に飛び上がった。
"複数人相手するには、視野が足りない。"
 
 人間有効視野は20~30度ほど。特異体質である俺ですら、聖に囲まれ、全ての攻撃を把握した状態で、レイピア野郎と応戦することは難しいであろう。
 
 ならば

 俺には奥の手がある。

 早口で詠唱を開始する。
 正直間に合うかどうか分からない。
 聖たちは第二撃への詠唱を開始していた。
 十三部隊は……
 聖の接近部隊が陣に紛れ込み、乱戦状態に陥っているらしい。

____The thing seen in this world is slower than me……

 世界は色を失い、俺の二対のまなこには赤と、それより先の「色」のみが残った。
 
 と同時に、聖たちが一斉に神聖魔力を解放する。
 火の鳥、風の虎、雷の竜、氷の刃、水の蛇……
 身体が再び重力によって引き戻される。
 俺は重力に身を任せて、チャクラムと小太刀を構えた。
 そして、火の鳥を水平斬りで真っ二つにし、次に来る風の虎を斬り下ろしで消し去る。
 斬り上げ、髪の毛が少し痺れる。
 一回転
 ひんやりと鋭利な感覚を肌で感じると、再び水平斬り、そして、蛇の頭に、小太刀を突き刺す。
 着地すると、間髪入れずに走り出す。
 俺のいた場所に無数の神聖魔術が着弾する。
 後方から来る攻撃は全て、己の強化された敏捷力で振り抜き、前から来る神聖魔術を、二振の武器で切り刻んでいく。
 そこにレイピア野郎の追撃が加わる。
 彼は、高速で移動する俺に遅れることなく、左右に転移を繰り返すと、すかさず、レイピアで俺の懐を突いてくる。
 俺は視力強化で、限界まで引き上げられた動体視力を、使い、その攻撃を避ける。
 右
  十一時の方向、火の刃
  

      左
       四時の方向、鈍色の鈍器。


     奴のレイピアだ。


  白刃

               水龍

       降りかかる雷。

 
 押し寄せる濁流

               風の鳥

 炎の槍
      
 
 自分でも驚くぐらい正確に捌き切った。
 が、攻撃に転ずる隙がまるで無い。
 小太刀を左手から離し、右手のチャクラムと、その鎖で、凛月をムチのように扱うこともできるが、執拗に接近戦を仕掛けてくるレイピア野郎のせいで、小太刀を捨てることが出来ない。
 俺の体力が尽きるか、
 聖たちの魔力が尽きるか、
 どちらが先に限界へと達するかは、火を見るより明らかであった。
(聖の一人が、何者かに斬り倒される。)
 俺はそれを横目で見た。
 また一人、二人、三人。
 二つの黒い風は、俺の前で交差すると、砂煙を上げながら止まった。
「ったく、一人で突っ込んでいくには良いけど、部隊を危険に晒すなよな。今回ので、軍法会議間違いなしだぞオマエ。」
 腐れ縁のソーマだ。
 体勢を立て直した隊長が、こっちに人をよこしたのであろう。
「他の人たちはどうでも良いけど、凛月ちゃんにヒケ傷1つでもつけたら。」
「殺しますよ。」
 と。新潟鋏子にいがた きょうこ
 十三部隊の反撃が始まった。
 
 
 

 

        
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
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