神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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極東

治安維持

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「イテテ。」
 吉川に投げられて、首筋がまだ痛む。
 講義を終えた俺は、すぐに役所に行って「治安維持」を行わなければならない。
 軍人見習いは、講義を終えると、夕方は自由時間となるわけであるが、十三部隊の人間は違った。
 コレも、急激な人口増加とスラム街から大量の人間が都に流入したことに対する、治安の悪化を危惧したことだ。
 実際のところ、殺人、強姦、売春の発生数は近年、著しく増加しており、極東の悩みの種になっている。
 極長は自ら十三部隊を差し出した。
 コレも、中流階級に対するプロパガンダだろう。
 が、適当なことを言って、俺たちに全て押し付け、七宝隊長に権利を一任するという放任っぷり。
 俺たちは良い迷惑である。
 役所で依頼を探していると、美奈が壁に止まっている依頼書を取ろうとしていた。
 が、あと拳半分届いていなかった。
「ほらよ。」
 俺は依頼書を引き抜くと、美奈に差し出す。
「ありがとう慎二。」
「どういたしまして。」
 美奈が、俺の首筋を心配そうに見ていた。
「慎二、首。」
 ああ、コレか大した事ねえよ。怪我なんてしょっちゅうしている事だし。
「見せて。」
「良いから。」
「見せろ!! 」
 役所の人間が一斉に俺の方を見る。
「ああ、分かったよ。」
 周りの人間が、視線を戻して、何事もなかったように時間が動き出すと、美奈が背伸びして、俺の後頭部に手を翳す。
 次の瞬間、痛みは綺麗さっぱり消えて、違和感すら残らなくなった。
 治癒したわけでも、凛月の力で、神経パスを制御しているわけでもない。
 彼女の呪術は時間が巻き戻ったように、綺麗さっぱり傷が消えてしまう。
 コレは呪術なのだろうか? だが極東は全国の魔術具の情報をファイリングしているはずであるのに、ライブラリーにはそのような能力はなかった。
 俺が彼女に出来るだけ、この異能を使わせないこと、それは彼女の能力が、極東すら認識出来ないイレギュラーな存在であるためだ。
 それに彼女が支払っている代償の目処はついている。
「記憶。」
 恐らく彼女自身もこの事実に気がついていない。
 俺が彼女に傷を治してもらうたびに、美奈の代償は進行し、魔具の鍵穴は広がる。
「原因が分かるまでは、この力をあまり使わせない。」
 それが槍馬との約束だった。
「ありがとな美奈。」
「もー『みーちゃん』って呼んでって言ってるでしょ? 」
 このウザいキャラ設定も魔具の仕業だ。
 彼が彼女の後ろでVサインを出している。
 俺は殴りたくなる気持ちをグッと抑えた。
「ところで、その依頼はなんだ? 」
「猫探し!! 」
「あっ……そう。」
 そこに役所のお姉さんがやって来る。
「毎日子供が、依頼書を貼りに来るの、何度注意してもやめないし、契約者の人たちは、忙しくて手をつけられないみたいだし。」
「ねえねえ、慎二も手伝ってよ~」
 腕を掴まれて、くすみ上がる。
 俺は彼女の幼馴染でなければならない。
「ダメ? 」
「ああ、分かった。一緒に探そう。」
 俺たちは窓口へと向かった。
 
「良かった。最近、慎二とあまり話してなかったからさ。」
「なんか昔を思い出すね。あの時は槍馬と慎二と、日が暮れるまで遊んで……」
 俺と彼女が出会ったのはつい最近、八歳の頃だ。
 彼女が丹楓村で生まれ育ったという過去は存在しない。
 だが、彼女の中には確かに存在するのだ。
「ああ、そうだな昔みたいに、また三人でこういうことをするのも悪くない。さぁ聴き込みに行こうぜ。」
 「あー!! 」
 彼女が雑貨屋のストラップに飛びついていた。
「任務中だぞ。」
「見てみて槍馬にそっくり、こっちは慎二見たい。」
 そのストラップは本当に槍馬に似ていた。あっちの方は……似てなくもないかもしれないが。
「おっ!! 」
 俺が手に取ったストラップは、美奈にそっくりの女の子だ。
「えーそれが私? 全然似てないよ。」
「いやいやそっくりだよ。」
「ねえねえ慎二? 」
 美奈が俺の肩をトントンと叩く。
「コレ槍馬にプレゼントしようよ。」
 俺は頷いた。
「そうだなそれが良い。なら俺はこのストラップを美奈に買ってあげるよ。」
「じゃあ私は、この慎二にそっくりなストラップを買ってあげるね。」
 
 その後、猫は高い極東タワーの避雷針で、降りられなくなっているところを美奈が発見し、俺が捕まえた。
 身体に走る微量な電磁波のせいで、散々引っ掻き回されたが、コレで一件落着だということだ。
 美奈はいつかホントのことを思い出すだろう。
 彼女が現実を受け入れられるようになるまで、俺たちが出来ることは、彼女に寄り添うこと。
 その時が来るまで、俺たち三人は幼馴染だ。


 
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