神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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大陸遠征

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____鋭く冷たい気配で背筋が震える。
 咄嗟に凛月のコイルを操作し、身体を押し飛ばす。
「遅え遅えよ。亀みてえだ。」
 ドミニクは俺の耳元まで接近すると、そう呟いた。
"早い、早すぎる。疾風を使っても逃げるのに精一杯だ。視覚強化を行う隙が無い。"
 恐らく彼は、停止中に摩擦定数を限界まで引き上げ、走り出すと共に極限まで引き上げているのだ。
 視覚の処理が追いつかず、彼の斬像が見える。
 俺は、ひたすら回避に徹した。
 俺の足取りを辿るように、尖った岩石が、船の甲板から出現する。
 俺は空中に逃げるべく、小太刀の反動で飛び上がった。
 背中に凛月を回して、大上段の斬り下ろしに備える。
「ガッ」
 衝撃が、チャクラムを通して全身に伝わり、骨が砕けそうになる。
 そして、そのまま甲板に突っ込んだ。
「なるほど……遅えが、感は良いみたいだな。」
---暴鳳ボウブウ---
 奴の地面に竜巻が起こる。
 彼は少し顔を歪ませると、剣の力を使い、重力でなんとかとどまった。
「小賢しい!! 」
 船室から羽々斬が突き上げられる。
 黒澄や、上官たちも全身ボロボロだった。
「なんで他の仲間が助けに来なかったか。コレが答え合わせだ。」
「どうだ!!王に相応しい力だろ!! 」
 借物の力を我が物顔で振るう彼は少し哀れに思えた。
 ……借物なのは俺も同じか。
「なんだその顔は!! 」
 どうやら次期皇帝様は、俺の嘲笑が気に触れたらしい。
 「王様、王様って、ガキかテメェは。」
 銃鬼を再び側頭へと押し当てる。
 羽々斬が作ってくれた一瞬のウィークポイントのおかげで、視覚強化の呪術を発動すること成功したのだ。
 そして今、長ったらしい詠唱が完了した。
___see the reality紅のその先へ---
 世界から色が消える。
 俺の二対の眼は、奴の筋肉の収縮と弛緩、血液の流れ、心臓の動きまで捉える。
 筋肉の収縮を感知し、俺の身体が、回避行動を開始した。
 真正面に突っ込んできた奴を右足で蹴飛ばす。
 奴は船から弾き飛ばされ、摩擦定数を最小限にまで抑え、勢いを殺しながら徐々に上げていき、柔らかい砂を発生させると、そこに飛び込んだ。
 辺りに砂煙が舞う。
 俺の眼は煙幕に紛れて奇襲を仕掛けようとする奴を捉えた。
「コレはぁ!! 久しぶりに楽しめそうだな台与鬼子!!」
「早くくたばれ!! この母さんの呪具で脳天をぶち抜いてやる。」
 すると奴は思い出したかのように笑い出した。
「害虫一匹二匹や殺したところで、誰も怒りゃしねえよ。それでこんなとこまでやって来て。テメェは異常者か? あ? 」
 『害虫』と言う言葉より、奴が母さんと父さんを殺したことを忘れていたことに、耐えることのできない憤りを感じ、それは言葉となって俺の声帯から叩き出された。
「母さんが害虫なら、お前はウジムシ以下のゴミクズだ!! 」
 ドミニクは、俺の両頰を左手で掴み上げると、地面に叩きつけてきた。
 凄まじい砂煙と共に、後から鈍い痛みがやって来る。
 今の攻撃で、地面にクレーターが出来たのが分かる。
「なんだ? もういっぺん言ってみろ!! 」
---金剛刃コンゴウバ---
 虹色に輝く金剛の刃が、奴の背中に突き刺さる。
「慎二から離れなさい!! 」
 ボロ雑巾のような黒澄がドミニクに未知術を放っていた。
 「やめろ!! 」と叫ぼうとするが、声が出ない。
「さっきからザコがザコが揃いも揃って!! 」
 いつだったっけ……そうだ。俺が契約者になるって決めて村を出た日、山賊に襲われていた時に……
 俺は憎しみから奴らを皆殺しにしたっけ。
 いつしかの斥の言葉……

「俺、決めたんだ。お前みたいに強くなるって。そして、強くなってお前の母さんや、伊桜里みたいになってしまう人間を聖から守ろうと思う。そのための契約者だから。」

 気がつくと俺は花園に、凛月と二人っきりで立っていた。
「慎二。過去に囚われるのはもう終わりにしよう。」
 気がつくと俺は荒野に、銃鬼と二人っきりで立っていた。
「慎二。代償を寄越せ。さすれば、坊の復讐に協力しよう。坊は何のために生きてきた? 坊から復讐をとって何になるんじゃ。」
 冷たい闇の胸に引き寄せられる。
 俺は意識が落ちかけていた。
「慎二!! 」
 再び柔らかい陽に引き戻される。
「過去の命より、今ある命を拾って!!」
「坊、早く引き金を弾け。さすれば、もっとお主を愛してやろう。」
「今度は私を使って千代ちゃんを助けるの!! 」
「坊、引き金を弾かんか。まぁええ。あの女が死ねば、お主はもっと奴を憎めるようになる。もっと強くなれる。」
 
---答えは得た---

 俺は銃鬼に手を伸ばした。
「慎二!! 」
 凛月が隣で悲鳴を上げている。
「奴を助ける。力を貸せ銃鬼。」
 彼女は堪えていたが、吹き出し、やがて腹を抱えて笑い出した。
「復讐のためではなく、娘を助けるためにワシを頼るか。」
「で? 人を憎むことが出来ないに何が差し出せる? オマエとの契約は等価交換じゃ差し出せば、それ相応の力を与えよう。」
「身体だ。頭から爪先まで、全部オマエにやる。そのかわり、母さんの術式を俺に使えるようにしろ。」
 彼女ニマリと口角を上げ、俺を見上げている。
「やはりオマエと契約して正解じゃったな。オマエは実に面白い人間じゃ。」
「俺は人間じゃねえ!! 鬼の桐生美鬼と、英雄の桐生慎二郎の子供、桐生慎二だ!! 」
 銃鬼が俺の身体に入り込むと共に、母の呪術が発動した。

      ---時空壊クロック・アウト---
 
 
 

 
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