神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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大陸遠征

動き出す時間

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 止まっていた時間がゆっくりと動き出す。
 桐生慎二という人間の背中がゆっくりと近づいて来る。
 そして俺はその復讐者の背中を追い越し、今にも黒澄を襲おうとしているドミニクを回し蹴りで蹴り飛ばした。
 飛んでいく彼に追いつき、凛月で何度も追撃を喰らわせる。
            ---雷刃ライジン---
 ---紫電斬シデンザン---
 ---電光雷轟デンコウライゴウ---
---雷烏ライチョウ---
「調子に乗ってんじゃねえぞ。」
 まだ聴覚がこのスピードに慣れていないせいで、物凄くゆっくりと聴こえる。
 ドミニクが手を翳すと、辺りに砂塵が起こる。
 が事前にそれを予測した俺は、未知術を発動させながら、突き進む。
---雷核ライカク---
 砂煙を抜けた先で、体勢を立て直すために、回転しながらぶっ飛んでいるドミニクを見つけ、さらなる追撃を行う。
 ドミニクは、二、三回回転すると、体勢を立て直し、勢いを殺さず走り出した。
 俺は彼と並走し、互いに武器を交える。
 武器を交え、離れたところでお互い術式を発動し、また武器を交える。
 徐々に彼の反応が遅れ始めていることを感じ取った。
「遅えな。止まったハエみてえだ。」
「舐めるなよ!! 三下ぁ!! 」
---mode・lavaフォルム・オブ・ラヴァー---
 地に突き立てられたアルテマが、赤いマグマを帯びる。
 それに合わせてヤツの速度も格段に増す。
 焼けた空気が俺の頬を掠る。
「じっくり痛ぶって、仲間を一人ずつ殺してから、オマエを死ぬ寸前で逃してやるつもりだったが……」
 
  「まずはオマエからぶっ殺す!! 」

 火柱が上がる。
 飛び散った火山弾が俺を襲う。
 ようやく慣れ始めた聴覚で、やっと彼の言葉を理解し、地面を蹴った。
 後ろに回り込み、銃鬼をヤツの後頭部に当てる。
---龍鬼ー黒龍牙ホロウ・サーベル---
 銃鬼から放出された虚数電子が、彼の脳天を打ち抜く。
 黒龍牙は彼の左後頭部を貫通し、眼球を貫いた。
「あ"あ"あ"あ"あ"。」
 彼はアルテマを離すと、そのまま地面に倒れ込んだ。
 俺は振り返り、黒澄の元へと戻ろうとした時、俺の足を何かが掴む。
「コロ…シテ……やる。オマエだけは……」
「触るな。お前みたいな屑なんて恨む価値すらない。」
 足を振り払い、向こうで倒れている黒澄を目指した。
 彼女の状態は酷かったが、幸い致命傷には至らなかったようだ。
 ドミニクの能力が薄れたことにより、隊長は意識を取り戻していたし、斥も意識を取り戻しているようだ。
「ホント、いつもいつも最悪。」
 黒澄は多分山賊に襲われた時のことを言っているのだろう。
 あの時は憎しみに任せて山賊を殺してしまい、彼女を傷つけてしまった。
「あの時は悪かったな。他にやりようがあった。」
「でも、今はちょっとだけいい気分。なんかツキモノが落ちた見たいな顔してるし。今の顔はちょっとだけ好き。」
 彼女は何かに気づくと、俺の元に駆け寄ってき、両手で俺の手を取った。
「なに…コレ……」
 左手が赤黒く侵食し始めている。銃鬼の代償の影響であろう。
 時空壊は心拍数を異常にまで上昇させ、処理速度を上げる術式、そのため身体を丈夫な鬼の身体に置換することが必要不可欠であった。
---気をつけるのじゃぞ慎二。オマエがワシの能力を使うごとに、お前はワシに侵食されていく。コレも契約じゃ。もう感情を差し出していた頃には戻れんのぉ。---
 銃鬼が耳元で不敵に笑っている。
「やっぱり慎二なんて大っ嫌い。」
 どっちだよ。
 俺は彼女のその言葉の意味を理解することができなかった。
(剣が風を斬る音。)
 俺は新たな脅威を感知し、再び身構えた。
 風に乗ってドミニクの近くまでやってきた彼は、ドミニクにそっくりだった。
「ブレ…イブ。何きに来た。」
「さぁ兄さん捕まって!! 」
 咄嗟に銃口を自分の側頭へと向ける。
 が、それを黒澄が押さえつけた。
「やめて!! 」
「止めるな!! まだ終わっていない。」
 ブレイブはこちらに振り返り、アルテマを拾い上げると、両手を上げる。
「ここは痛みわけということにしましょう。メリゴ大陸はあなたたちにあげます。そのかわり、兄さんは貰っていきますよ。」
 ブレイブという男は、満身創痍の身体で抵抗する兄を担ぎ上げると、そのまま剣の力で飛んでいってしまった。
 ドミニクの周りで戦いを見守っていた兵士たちは、我にかえると、「ドミニク様がやられたぞ~。」なんて言って逃げていった。
 俺たちは立ち上がり、メリゴ大陸を目指す。
 潮が引いてきた。
 ドミニクが海を退けた大きな地と、干潮時のトンボロ現象で出来た道が繋がる。
 俺たちは引き付けられるように陸へと上がった。
 そして、歩ける者も歩けない者も、メリゴ大陸に着くと、バッタリうつ伏せに倒れる。
 俺も千代に担がれて、浜辺まできた後、尻を突き、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
 みんな凍えている。
 対照的に低体温症になっている者もいた。
 物資はみんな船でダメになった。
 ドミニクの仕業だ。
 不意に斥が叫んだ。
「伊…桜…里? 嘘だろ? 」
 まずい!! 幻覚が見え始めている。
 奴を引き止めなければ、と、思い海の方を見ると、少女は確かにそこにいた。
 幻覚が俺にも見えている? 以前、霧島は、俺に斥の過去を見せた。
 だから俺の中に伊桜里が出て来るのも間違い…では無い。
「覚えていてくれたんだね。斥ちゃん。テッキリ私のことなんて忘れていたんだと思ったから。」
 斥は傷だらけの身体で、伊桜里の元に駆け寄ろうとする。
「ごめんね斥ちゃん。今日はキミに会いにきた訳じゃないんだ。」
 そういうと彼女は俺の方を見る。
「ごめんね。コレも世界を変えるため。そのために凛月が必要なんだ。」
 何を言っているんだコイツは。
 身に危険を感じた俺は、即座に時空壊を発動させる。
「ガッ」
 だが俺に見えているのは、加速した世界ではなく、メリゴ大陸の黄色い砂だ。
「そうか、キミも心臓を弄れるようになったんだ。アスィール様の言うことは本当だったみたい。」
 そして、体からコードが引き抜かれる感覚に激痛を覚え、そこで俺の意識は途切れる。
 
 
 

 
 
 
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