神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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聖の国

継承

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 僕は灰になった身体で、ボロボロのアイシャへと足を引きずっていった。
「アイシャ……」
「カーミラ、私は大丈夫。それより、シド様が危ないわよ。」
 僕は父さんの方を見た。
 代償で命がつきようとしている。
 僕は改めて、セイが父さんの代償を肩代わりしていたことを知った。
 僕は父さんのところへと歩いていく。
 兄さんたちは、セイに力を取られて気を失っていた。
「父さん……」
 僕は父の震える手を両手で握る。
「私がお前を産んだ理由、分かるか? 」
 自分が吸血鬼と代行者の子供である理由、どうして兄たちは皆リエラ母さんから生まれてきて、自分が腹違いなのか、薄々気がついていた。
 今、その話をするということは……
「辞めてよ父さん……王位はドミニク兄さんが継ぐんだ。」
「……」
「そうだ……私はお前を子供と見ていなかった。もっとお前も父親として接してやるべきだった。」
 僕は首を横に振る。
「いいえ、父さんは、僕を兄たちと同じように公平に見てくださっていました。感謝の心しかありませんよ。」
 そういうと、父さんは虚な表情のまま、どこにいるかも分からないアイシャを呼んだ。
「アイシャ……」
 アイシャは足を引きずり、父さんの元にやってくる。
「なんでしょうか閣下。私に出来ることなら……」
「これより代行者継承の儀を行う。」
「……カーミラを代行者にするんですね。」
「……他に方法はあるまい。いま、セイ・ボイドは、代行者の力も得ている。あの鬼の少年でも、継承者の娘も、セイを下すことは出来ない。」
「だが……不死のお前ならこの力を使いこなすことが出来るだろう。」
「いやよ!! 」
 アイシャが叫んだ。
「カーミラが閣下見たいに冷たくなるのは嫌よ。」
 死にゆく人間にかける言葉では無い。僕はアイシャを怒った。
「アイシャ!! 」
「ハハハハ……この私を気遣ってくれるのか……お前は私と違って優しい奴だ。」
 アイシャは真剣な顔をして僕を見た。
「 カーミラはもし代行者になっても、そのままのカーミラでいてくれる?私を嫌いにならない。」
 僕は首を縦に振る。
「うん、アイシャは大事なお姉ちゃんだから。」
 アイシャは少しがっかりした様子であったが、同時に安心したようであった。
 それから彼女は改まって、両手を広げる。
「今から閣下と新代行者様のパブを繋ぎます。準備は良いですか? 」
「続けてくれ……」
 と代行者。
 僕も、
「いつでも良いよ。」
 と言葉を返す。
---Inheritance ceremony継承の儀---
 僕は父の世界に入った。
     
       ・
       ・
       ・
       ・
 気がつくと僕は寒い冬の炭鉱で坑夫をしていた。
 今は都市伝説とされている羽の生えた人たちや、背中に後光が差しているモノ、頭に光輪がある人間や、牛の顔をした人間までが、みんな揃いも揃って鞭を手に、人間たちを働かせている。
 どうやら彼らは、首都のグラン帝国にサンダルフォンとメタトロンの像を建設しようとしているらしい。
 その銅像の材料やら化石燃料やらが必要なため、人間たちは皆、ここの炭鉱に駆り出されているようだ。
 またある時は戦争だと言った、ある時は飢餓だと。
 時期によって、炭鉱の存在意義が変わるのである。
 ここで働いていた年配の男が言った。
 この作業は無意味な作業で、神族が人間たちを働かせるためにやっていることだと。
 僕はなぜそんなことをするのかと問うた。
 すると年配の男は「良いか若いの、ここでは余計なことを考えるな、心を無にして働くのが一番安全な方法だと。」
 僕はここで働くにつれて、これが父の記憶であることに気がついた。
 ある日僕は神族に身体をボロボロにされた、カーミラという女の人が看病をしてくれた。
 それが自分の母なんだろうということに気がついた。
 ある日、炭鉱が浸水した。
 僕は溺れ、遠のく意識の中で、あの神様から一度目の啓示を受けた。
 僕はの父はその日から代行者となった。
 それからは、父が民衆を先導し、グラン帝国に革命を起こした。
 貴族でも、王族からは遠い血筋にあった父は、リエラ母さんと政略結婚した。
 リエラ母さんは四人の子供を産んだ。
 
      * * *
 
 気がつくと、過去の父と今の自分が重なっていた。
 溢れんばかりの力、たった今、僕は契約者になったのだ。
 アイシャが父さんに転移魔術をかける。
「シド様、お許しください。またどこかで会えたら。記憶は……消去しておきます。その方が余生を幸せに暮らせるでしょう。どこか、物資が豊富で争いの少ない世界へ……」
 すると父さんは、少しばかり赤みの帯びた顔で答えた。
「すまない……最後までお前に迷惑をかけて、お前は人質だったというのに、良くやってくれた。」
「シド様も、人質の私に側近という役職を与えてくださり、嬉しい限りでした。」
「これからは息子たちを_____」
 そこで父の言葉は途切れた。
 そうだ
 これからは
 僕が代行者
 僕が国を背負い
 僕が民を導く
 僕が責任を背負い
 僕が誰も殺させない
 今そこで狂っているセイも
 僕が救う。

  
 
 
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