43 / 145
聖の国
継承
しおりを挟む
僕は灰になった身体で、ボロボロのアイシャへと足を引きずっていった。
「アイシャ……」
「カーミラ、私は大丈夫。それより、シド様が危ないわよ。」
僕は父さんの方を見た。
代償で命がつきようとしている。
僕は改めて、セイが父さんの代償を肩代わりしていたことを知った。
僕は父さんのところへと歩いていく。
兄さんたちは、セイに力を取られて気を失っていた。
「父さん……」
僕は父の震える手を両手で握る。
「私がお前を産んだ理由、分かるか? 」
自分が吸血鬼と代行者の子供である理由、どうして兄たちは皆リエラ母さんから生まれてきて、自分が腹違いなのか、薄々気がついていた。
今、その話をするということは……
「辞めてよ父さん……王位はドミニク兄さんが継ぐんだ。」
「……」
「そうだ……私はお前を子供と見ていなかった。もっとお前も父親として接してやるべきだった。」
僕は首を横に振る。
「いいえ、父さんは、僕を兄たちと同じように公平に見てくださっていました。感謝の心しかありませんよ。」
そういうと、父さんは虚な表情のまま、どこにいるかも分からないアイシャを呼んだ。
「アイシャ……」
アイシャは足を引きずり、父さんの元にやってくる。
「なんでしょうか閣下。私に出来ることなら……」
「これより代行者継承の儀を行う。」
「……カーミラを代行者にするんですね。」
「……他に方法はあるまい。いま、セイ・ボイドは、代行者の力も得ている。あの鬼の少年でも、継承者の娘も、セイを下すことは出来ない。」
「だが……不死のお前ならこの力を使いこなすことが出来るだろう。」
「いやよ!! 」
アイシャが叫んだ。
「カーミラが閣下見たいに冷たくなるのは嫌よ。」
死にゆく人間にかける言葉では無い。僕はアイシャを怒った。
「アイシャ!! 」
「ハハハハ……この私を気遣ってくれるのか……お前は私と違って優しい奴だ。」
アイシャは真剣な顔をして僕を見た。
「 カーミラはもし代行者になっても、そのままのカーミラでいてくれる?私を嫌いにならない。」
僕は首を縦に振る。
「うん、アイシャは大事なお姉ちゃんだから。」
アイシャは少しがっかりした様子であったが、同時に安心したようであった。
それから彼女は改まって、両手を広げる。
「今から閣下と新代行者様のパブを繋ぎます。準備は良いですか? 」
「続けてくれ……」
と代行者。
僕も、
「いつでも良いよ。」
と言葉を返す。
---Inheritance ceremony---
僕は父の世界に入った。
・
・
・
・
気がつくと僕は寒い冬の炭鉱で坑夫をしていた。
今は都市伝説とされている羽の生えた人たちや、背中に後光が差しているモノ、頭に光輪がある人間や、牛の顔をした人間までが、みんな揃いも揃って鞭を手に、人間たちを働かせている。
どうやら彼らは、首都のグラン帝国にサンダルフォンとメタトロンの像を建設しようとしているらしい。
その銅像の材料やら化石燃料やらが必要なため、人間たちは皆、ここの炭鉱に駆り出されているようだ。
またある時は戦争だと言った、ある時は飢餓だと。
時期によって、炭鉱の存在意義が変わるのである。
ここで働いていた年配の男が言った。
この作業は無意味な作業で、神族が人間たちを働かせるためにやっていることだと。
僕はなぜそんなことをするのかと問うた。
すると年配の男は「良いか若いの、ここでは余計なことを考えるな、心を無にして働くのが一番安全な方法だと。」
僕はここで働くにつれて、これが父の記憶であることに気がついた。
ある日僕は神族に身体をボロボロにされた、カーミラという女の人が看病をしてくれた。
それが自分の母なんだろうということに気がついた。
ある日、炭鉱が浸水した。
僕は溺れ、遠のく意識の中で、あの神様から一度目の啓示を受けた。
僕はの父はその日から代行者となった。
それからは、父が民衆を先導し、グラン帝国に革命を起こした。
貴族でも、王族からは遠い血筋にあった父は、リエラ母さんと政略結婚した。
リエラ母さんは四人の子供を産んだ。
* * *
気がつくと、過去の父と今の自分が重なっていた。
溢れんばかりの力、たった今、僕は契約者になったのだ。
アイシャが父さんに転移魔術をかける。
「シド様、お許しください。またどこかで会えたら。記憶は……消去しておきます。その方が余生を幸せに暮らせるでしょう。どこか、物資が豊富で争いの少ない世界へ……」
すると父さんは、少しばかり赤みの帯びた顔で答えた。
「すまない……最後までお前に迷惑をかけて、お前は人質だったというのに、良くやってくれた。」
「シド様も、人質の私に側近という役職を与えてくださり、嬉しい限りでした。」
「これからは息子たちを_____」
そこで父の言葉は途切れた。
そうだ
これからは
僕が代行者
僕が国を背負い
僕が民を導く
僕が責任を背負い
僕が誰も殺させない
今そこで狂っているセイも
僕が救う。
「アイシャ……」
「カーミラ、私は大丈夫。それより、シド様が危ないわよ。」
僕は父さんの方を見た。
代償で命がつきようとしている。
僕は改めて、セイが父さんの代償を肩代わりしていたことを知った。
僕は父さんのところへと歩いていく。
兄さんたちは、セイに力を取られて気を失っていた。
「父さん……」
僕は父の震える手を両手で握る。
「私がお前を産んだ理由、分かるか? 」
自分が吸血鬼と代行者の子供である理由、どうして兄たちは皆リエラ母さんから生まれてきて、自分が腹違いなのか、薄々気がついていた。
今、その話をするということは……
「辞めてよ父さん……王位はドミニク兄さんが継ぐんだ。」
「……」
「そうだ……私はお前を子供と見ていなかった。もっとお前も父親として接してやるべきだった。」
僕は首を横に振る。
「いいえ、父さんは、僕を兄たちと同じように公平に見てくださっていました。感謝の心しかありませんよ。」
そういうと、父さんは虚な表情のまま、どこにいるかも分からないアイシャを呼んだ。
「アイシャ……」
アイシャは足を引きずり、父さんの元にやってくる。
「なんでしょうか閣下。私に出来ることなら……」
「これより代行者継承の儀を行う。」
「……カーミラを代行者にするんですね。」
「……他に方法はあるまい。いま、セイ・ボイドは、代行者の力も得ている。あの鬼の少年でも、継承者の娘も、セイを下すことは出来ない。」
「だが……不死のお前ならこの力を使いこなすことが出来るだろう。」
「いやよ!! 」
アイシャが叫んだ。
「カーミラが閣下見たいに冷たくなるのは嫌よ。」
死にゆく人間にかける言葉では無い。僕はアイシャを怒った。
「アイシャ!! 」
「ハハハハ……この私を気遣ってくれるのか……お前は私と違って優しい奴だ。」
アイシャは真剣な顔をして僕を見た。
「 カーミラはもし代行者になっても、そのままのカーミラでいてくれる?私を嫌いにならない。」
僕は首を縦に振る。
「うん、アイシャは大事なお姉ちゃんだから。」
アイシャは少しがっかりした様子であったが、同時に安心したようであった。
それから彼女は改まって、両手を広げる。
「今から閣下と新代行者様のパブを繋ぎます。準備は良いですか? 」
「続けてくれ……」
と代行者。
僕も、
「いつでも良いよ。」
と言葉を返す。
---Inheritance ceremony---
僕は父の世界に入った。
・
・
・
・
気がつくと僕は寒い冬の炭鉱で坑夫をしていた。
今は都市伝説とされている羽の生えた人たちや、背中に後光が差しているモノ、頭に光輪がある人間や、牛の顔をした人間までが、みんな揃いも揃って鞭を手に、人間たちを働かせている。
どうやら彼らは、首都のグラン帝国にサンダルフォンとメタトロンの像を建設しようとしているらしい。
その銅像の材料やら化石燃料やらが必要なため、人間たちは皆、ここの炭鉱に駆り出されているようだ。
またある時は戦争だと言った、ある時は飢餓だと。
時期によって、炭鉱の存在意義が変わるのである。
ここで働いていた年配の男が言った。
この作業は無意味な作業で、神族が人間たちを働かせるためにやっていることだと。
僕はなぜそんなことをするのかと問うた。
すると年配の男は「良いか若いの、ここでは余計なことを考えるな、心を無にして働くのが一番安全な方法だと。」
僕はここで働くにつれて、これが父の記憶であることに気がついた。
ある日僕は神族に身体をボロボロにされた、カーミラという女の人が看病をしてくれた。
それが自分の母なんだろうということに気がついた。
ある日、炭鉱が浸水した。
僕は溺れ、遠のく意識の中で、あの神様から一度目の啓示を受けた。
僕はの父はその日から代行者となった。
それからは、父が民衆を先導し、グラン帝国に革命を起こした。
貴族でも、王族からは遠い血筋にあった父は、リエラ母さんと政略結婚した。
リエラ母さんは四人の子供を産んだ。
* * *
気がつくと、過去の父と今の自分が重なっていた。
溢れんばかりの力、たった今、僕は契約者になったのだ。
アイシャが父さんに転移魔術をかける。
「シド様、お許しください。またどこかで会えたら。記憶は……消去しておきます。その方が余生を幸せに暮らせるでしょう。どこか、物資が豊富で争いの少ない世界へ……」
すると父さんは、少しばかり赤みの帯びた顔で答えた。
「すまない……最後までお前に迷惑をかけて、お前は人質だったというのに、良くやってくれた。」
「シド様も、人質の私に側近という役職を与えてくださり、嬉しい限りでした。」
「これからは息子たちを_____」
そこで父の言葉は途切れた。
そうだ
これからは
僕が代行者
僕が国を背負い
僕が民を導く
僕が責任を背負い
僕が誰も殺させない
今そこで狂っているセイも
僕が救う。
0
あなたにおすすめの小説
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる