神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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終わり。

裏切り者はどっちだ

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「隊長、ひとつ聞いて良いですか? 」
「なんだ? 時間稼ぎか? 良いだろう付き合ってやる。」
「隊長には母親がいますか? 」
 隊長は少し考えて答えた。
「いる…と思う。遺伝子上ではな。だが、俺の胎盤は、培養ポットだったから。女の股から生まれてきた訳じゃないよ。」
 彼は今度、俺に聞いてきた。
「そういうお前はどうなんだ? 」
「俺ですか。ええ、僕の母親はもちろん鬼なので、女の股と言われれば、語弊があるかも知れません。」
「……やっぱり、お前はここで殺しておく。後々厄介だからな。俺を殺せる存在は。」
「俺も不安ですよ。自分を殺せる存在に、今ここで出会うなんて。」
 彼の七振りの鞘から、鋭い刃が勢いよく引き抜かれ、彼を周り始める。
「鬼影? 聞こえているか? 」
---どうした兄弟? ---
「俺には武器がない。」
---がったよ。最高に良いものを用意してやる---
 俺は右手を前に翳した。
---裏斬レーヴァテイン---
 黒い塊に影が集約し、漆黒の刃が生成される。
「軽い。ちょっと捻っただけでも折れそうだ。」
---まぁそう文句言うなよ相棒。切れ味は一級品だぜ。あの凛月にも劣らないぐらいにな---
「銃鬼。行けるか? 」
---引き金を引くのじゃ慎二。さすれば、お前の望み、全てを叶えよう---
---時空壊クロック・アウト---
 俺が左腕の銃鬼で脳天をぶち抜くと共に、彼が最速の風の剣を飛ばしてきた。
 それを裏斬で弾く。
 かまいたちが、俺の頬を撫でて、紅の雫が舞う。
 火の剣。
 風の剣の影響かよく燃える。
 爆発を察知して、紙一重、爆発から免れる。
 飛び上がった先に
            殺意

 時の剣で時間を超越した七宝が俺の背後を取っていた。
 背中に熱い稲妻が走る。
「ぐっ。」
 無様。地面に転がった俺は彼を見上げる。
「人間とは儚い存在だな。俺の能力じゃ、時間を止めるので精一杯だ。どうしてもその先へは行けない。」
 このままじゃ奴には勝てないッ。
---燠見アウェイク---
 視界が赤と、その先のみの情報を拾う。
 奴の止まった時間も、剣たちひとつひとつの動きも確実に見える。左側から来る光の剣をジャンプで回避し、前から来る水の剣をバク転で回避する。
 そのまま壁へ向けて走り、そのまま壁を思いっきり蹴飛ばして、梁にブッ刺さる闇の剣を見た。
"全部把握しきれているのに、対応しきれない。"
 俺は二本目の刀を抜くことにした。
 奴の攻撃に対応しながら、銃鬼を指でくるくると回し、引き金を引く。
 引き金は俺の掌をぶち抜くと、それがそのまま刀を形成した。
---妄劔ー紅モウトウ・クレナイ---
 右手に裏斬、左手に妄劔。
 俺が刀を引き出したとほぼ同時に、七宝が急に俺の正面に現れて、風の剣を突き刺してくる。
 時空壊のお陰で何百倍にも引き伸ばされた俺の世界で、それを払うことは朝飯前だった。
 彼の攻撃をパリィし、反動で後ろに下がる。
 と同時に七宝の首に赤い筋が入り、頸が落ちた。
「終わった…のか? 」
 あまりにも呆気なさすぎる。彼がこうも簡単に死ぬなんて、そんなことはあり得ない。
 だって彼は俺の父親を殺して隊長に成り上がった男だぞ。
 七宝の首は、解像度が歪み、その場から消滅する。
"幻術か? それとも燠見による代償? "
 七宝の顔は何事もなかったかのように、彼の胴体の上に居座っている。
「慎二。抑止力って知っているか? 」
 俺は動揺していたのだろう。自分の声が震えていた。
「知りませんよそんなもの。なんで、普通の人間が、まざか俺の細胞を。」
 七宝は力無く笑った。
「そんな芸道俺にできたら苦労しないよ。」
「この世界ではな。神族以外は過去に干渉出来ないんだ。できてせいぜい、過去に今を置いていくことぐらいかな。」
 俺は槍馬の去刀を思い出した。
「この世界は、なんなんですか? 」
 言葉に出来ない違和感が、俺を襲う。
 それがどうやら形になって口から発せられたようだ。
 言葉に出来ないが、何かがおかしい。
 
 まるでこの世界は誰かに造られたような。
 俺たち生物が住むのに都合が良すぎるから?
 違う。
 神族や人間たちが同じことを繰り返し、グルグルと憎しみが渦巻いているから?
 違う。

 神族だけが時間を巻き戻せると言う事象だ。

 俺はこの身でセイ・ボイドの魔法術を受けた。
 あの時、確かに違和感を感じた。
 そもそもなぜ人間は過去に干渉することが出来ないのだ?
 神族と人間の差が力の差だけだと言うのなら、シャルル・アイシャはとっくに時間遡行を習得している。
 七宝が口を開いた。
「この世界は創られたのではない。造られた世界だ。」
 俺はその言葉の意味を理解できない。
「ドスッ。」
 気がつくと俺は背中から、闇の剣に心臓を貫かれていた。
 同時にユグドラシルの根へと接続を成功させた牡丹が俺の手を引いて、バックドアへと逃げ込む。
 意識が徐々に遠のいていく。
 身体の再生が遅れている。 
 どうやら闇の剣が、俺の鬼の呪いと再生力を、虚空の海へと吸い込んでいるようだ。
 牡丹の声も徐々に薄れていく。
 俺の背中に巨大な渦が出現し、俺を飲み込んでいく。
 目を閉じていく。
       ゆっくりと。
 やがて自分の存在すら分からなくなっていった。
 
 
 

 

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