63 / 145
はじまり。
アジトへ
しおりを挟む
「おっ目が覚めたか少年。おはよう。」
花の匂いと共に、暖かい風が俺の顔を撫でた。
そして白衣の女性を見て、次に白いベットに寝かされていた自分に気づく。
この窓から覗く風景には見覚えがあった。
「どうやら手間をかけさせたみたいだな。」
「そりゃもう。君に刺さっていた闇の剣、抜き取るのに丸々二日かかったんだぞ。」
「その後もポッカリ空いた穴が、塞がらなくて、傷口は血一滴も流れないし、化膿も壊疽も発生している兆しが無いから、回復神聖魔術を使いながら、つきっきりで面倒を見ていたのだよ。」
よく見ると彼女の目元にはクマがあった。
「少し仮眠を取らせてくれ。診察はその後でいい。どうせ綺麗さっぱり治ってるんだろ? 台与鬼子くん。」
そう言うと、女は俺の部屋から出て行った。
もう一度外を見る。
ミシュマッシュのアジトの庭には、菜園やら、おそらく魔術の触媒であろう花や薬草、その先には、熱帯に多く生息する背の高い木が生い茂っていた。
しばらくすると、あの時の少女が俺の部屋に入ってくる。
「おはよう。もう元気になった? 」
「お前が俺をここまで運んできてくれたのか? 」
彼女は恥ずかしそうに答える。
「……そうだよ。良かった。元気になって。」
「そうか、ありがとな。牢から連れ出してもらっただけじゃなくて、助けてもらってよ。大変だっただろ。俺をここまで運んでくるのは。」
「そんなことないよ。みんなが助けてくれたから。」
彼女の足元から、小さな木の妖精が現れる。
「それがお前の能力か。かわいいな。」
「でしょ。僕の友達なんだ。」
そしてもう一人。
「……ごめんなさいこんなことに巻き込んで。あなたの意志ももう少し尊重するべきだったわ。」
「謝るならするなよな。」
「そう、許してくれたみたいで良かったわ。コレでおあいこね。」
「お前なぁ。」
怒りを通り越して呆れる。
肩を下ろす俺に彼女は身を乗り出した。
「埋め合わせ。忘れた? 」
近い。
「俺、病み上がりなんですけどぉ。」
「すべこべ言わない。」
俺は亜星に連れられて、アジトを出た。
森を抜けて、小さな街へと赴く。
「おい、こんな目立つところにきて大丈夫なのか? 俺は極東だけじゃない。グランディルからも目をつけられている。」
「かったいなぁ。」
彼女は手を後ろで組んで俺の前を歩いている。
そして振り返り、俺の方を見た。
「なぁ亜星。牡丹の能力なんだが……」
「ふーん牡丹きゅんのことが気になるのかぁ。」
俺は彼女をまっすぐ、真剣な眼差しで見た。
「あーもうもう。分かったわよ。」
「人工移動型神獣ユグドラシル。それが彼女の契約している呪具。」
「彼女ね。極東で人体実験をされていたのよ。極東のポータルの技術、俺は彼女の呪具を作った時に出来た副産物。本当はね、極東は世界に『根』を繋ぎ、支配するつもりだったのよ。」
「ごめんな、聞いた俺が悪かったよ。聞けば聞くほど胸糞悪くなる話だな。」
「ふふふ。」
彼女は右手を口に当てて笑っている。
「何がおかしいんだよ。」
「もっとドライな人間だと思っていたから。意外。」
「さぁ買い出し♪買い出し♪」
そして俺たちは、野菜を売っている屋台の前に来た。
<君が話しかけて。>
"なんでテレパスなんだ? "
そう考えたところで俺は彼女が抱える重大な問題に気がついた。
「お前、声が。」
そうだ、俺は日常的に例田や、霧島、馬田などのテレパス使いと意思疎通をしていた。
その影響だろう。いつしか俺にはその「声」が、彼らの声帯から発せられたものなのか、それともテレパスによるものなのか分からなくなっていた。
<そう。私が呪具と契約した際に代償として取られたものは、私の声。>
「契約したのはいつだ? 」
「八歳の頃だったかな。突然、湖から出てきた呪具の意志に。」
「私ねその頃、周りの子たちと馴染めなくて……その声が特徴的だったから。」
「みんなね。私のテレパスを受け取ると、くすみあがっちゃうの。魔女狩りにあったこともあるんだから。」
「だからね。一般人に話しかけることは、マスターに禁止されてるの。」
だが問題は別にあった。
「俺はここの地域の人の言葉が分かんねえんだ。」
翻訳プログラムは、端末ごと極東に没収された。
もとより、持っていたところで、電源を入れると電波が飛び、彼らに特定されてしまうのだが……
<大丈夫。私が代わりに翻訳してあげるから。少しずつ他国の言葉も覚えていこ。>
「……すみません。」
「へいらっしゃい。」
「そこの青ビートと、スケスケニンジン、レッドマスカットを下さい。」
「2546コピカね。」
それから男は、亜星の方を見ると、微笑んだ。
「やあ嬢ちゃん。またきてくれたのか。おやおや、また人の影に隠れちまって。」
「君は見ない顔だね。この子のお兄さんかい? 」
「いやちが……アイタタそうです。僕はこの子のお兄さんです。」
「いつもはお姉さんと一緒に来るんだけどね。その子、いっつも話してくれないからさ。」
俺は咄嗟に嘘をついた。
「そーなんですよ。コイツは人見知りなんです。」
「今日は姉が風邪をひいてしまって、おつかいを頼まれて。人見知りなんです妹は、親しい人としか話せなくて。」
* * *
俺たちは買い出しを終えると、アジトに戻ることにした。
「なーんだやれば出来るじゃない。これなら潜伏もできそうね。」
自分でもびっくりしたが、それよりも、亜星のサポート能力に驚かされた。
彼女のサポートがあったおかげで、自分が兄を演じられたと言っても過言ではない。
人けを燠見で確認してから、再び密林に入る。
アジトのドアを開けると、Mが迎えてくれた。
「お疲れ様。デートはどうだったかね? 」
「亜星の能力はだいたい分かりました。」
「どうだ? 私たちに協力者してくれる気にはなったかね? 」
「………」
まだ決断は出来ない。だが、他に行く当ても目的もないし、なんせコイツらには借りがある。
思えばこの八年間は両親に対する復讐心だけでひたすら前に進み、それ以外が見えていなかった。
その間、沢山の聖を殺し、カーミラから恨みを買った。
このままひっそりと暮らす人生も悪くない。
だが、極東、グランディル、セル帝国の三国の追手から逃げ続けることは不可能だろう。
「すまん、もう少し考えさせてくれ。後悔だけはしたくないんだ。もう。」
「慎二よー風呂が沸いた。入ると良い。」
奥で梓帆手の声がする。
俺は一週間風呂に入っていないことに気が付き、顔が熱くなった。
「そんな……買い出しに行く前に水浴びぐらいはしとくべきだった。」
「大丈夫。身体はアルブさんが毎日吹いてくれていたから。」
「なっ!! 」
「『ほうほう、これが鬼の身体か。この呪いを神聖中毒に使えないだろうか? 』とか。」
「なんだよ…それ。」
とにかく俺は風呂に入ることとした。
「慎二よ。身体はしっかり洗ってから湯船に浸かるのだぞ。俺とドミートリイも使うんだから。」
「あー。ありがとな梓帆手。」
アジトの浴場は凄かった。どうやらドミートリイという人間がカタログを片手に一人で完成させたものらしい。
俺は脱衣所で服を脱ぐと、真っ白に曇っている浴場の扉をガラリと開ける。
中から白い煙が溢れてきた。
暖かい蒸気がいい塩梅だ。
風呂椅子に乗っかっている桶を取ると、蛇口を捻る。
暖かい雨が俺の頭に降り掛かり、思わず飛び上がった。
「敵の攻撃か!! 」
バックステップで後退すると、その全容が明らかになる。
蛇のように伸びたゴムの配管の先には、蓮根が付いている。
蓮の根は、配管から吸い上げられた水を絶えず放出させており、首が長く伸びたカランであることに気がつく。
よく見ると、配管は二股に分かれていて、カランと蓮根、切替が可能ならしい。
ミシュマッシュ
寄せ集め。
そうだここは色々な地域の人間が集まって出来た組織。
文化が融合していてもおかしくはない。
改めて蓮根の雨を浴びると、気持ちいい。
これは極東で売りに出せば儲かるだろうなと考えたところで、自分が賞金首であることを思い出す。
「……なんでこんなことになってしまったんだ。」
「ガラッ。」
誰かが浴場に入ってくる。
湯気でよく分からないが、このシルエットは……小さいな。
「わっ!!牡丹。」
俺は慌てて大事なところを隠した。
「もう、慎二は恥ずかしがり屋さんだなぁ。男同士なんだし、そんなに気をつける必要なんてないでしょ。」
"男? 牡丹が? んなわけ。"
「アルブさんに言われたんだ。様子を見てきてくれって。」
俺は彼女の股間に、膨らみが無いことを見て、"やっぱり彼女は女の子なのでは。"
「見ないでッ!!」
今度は彼女が股を押さえた。
「みんな男の人は生えているんだけど……」
「僕もね生えてたんだ。今は無くなっちゃったけど。」
生えていた。
俺は一瞬、彼らが面白半分に去勢したのでは無いかと、怒りを覚えたが、あることに気がついて、正気を取り戻す。
そういえば、牡丹の呪具であるユグドラシルの代償は……
「契約した時に取られたんだな。」
俺は低い声で答えた。
「そ、そんなに怒らないで。確かに呪具と契約したのは僕の意思じゃなかったかもしれない。でも、その…×○×○を差し出したのは僕の意思だよ。それにアルブさんもその方が可愛いって言ってくれたし。」
極東の本当の闇を見せられた気分だ。
俺が彼らから受けた仕打ちなんて、まだマシな方だった。
それと同時に、彼らが本当に救いようのない組織で、その組織に協力していた自分に寒気がした。
「先に湯船、浸かってるぞ。」
俺は湯船に足を伸ばすと、そのまま身体まで一気に浸かった。
「ねえ慎二。このカランって奴。極東のお風呂屋さんにあるものなんだよね。僕ね、極東の街に出たことが無くて。」
「ああ、全部終わったら一緒に行こうぜ。案内してやるよ。」
実現性の薄い未来。
でもそれが、俺にとっても彼女にとっても、生きる希望になると、そう思っていた。
「案外。嘘も悪くないじゃないか。」
「慎二、嘘はダメだよ。」
「そうだな嘘はダメだ。『必ず』だ。」
俺たちは夕陽が密林に落ちていくのをじっと眺めた。
花の匂いと共に、暖かい風が俺の顔を撫でた。
そして白衣の女性を見て、次に白いベットに寝かされていた自分に気づく。
この窓から覗く風景には見覚えがあった。
「どうやら手間をかけさせたみたいだな。」
「そりゃもう。君に刺さっていた闇の剣、抜き取るのに丸々二日かかったんだぞ。」
「その後もポッカリ空いた穴が、塞がらなくて、傷口は血一滴も流れないし、化膿も壊疽も発生している兆しが無いから、回復神聖魔術を使いながら、つきっきりで面倒を見ていたのだよ。」
よく見ると彼女の目元にはクマがあった。
「少し仮眠を取らせてくれ。診察はその後でいい。どうせ綺麗さっぱり治ってるんだろ? 台与鬼子くん。」
そう言うと、女は俺の部屋から出て行った。
もう一度外を見る。
ミシュマッシュのアジトの庭には、菜園やら、おそらく魔術の触媒であろう花や薬草、その先には、熱帯に多く生息する背の高い木が生い茂っていた。
しばらくすると、あの時の少女が俺の部屋に入ってくる。
「おはよう。もう元気になった? 」
「お前が俺をここまで運んできてくれたのか? 」
彼女は恥ずかしそうに答える。
「……そうだよ。良かった。元気になって。」
「そうか、ありがとな。牢から連れ出してもらっただけじゃなくて、助けてもらってよ。大変だっただろ。俺をここまで運んでくるのは。」
「そんなことないよ。みんなが助けてくれたから。」
彼女の足元から、小さな木の妖精が現れる。
「それがお前の能力か。かわいいな。」
「でしょ。僕の友達なんだ。」
そしてもう一人。
「……ごめんなさいこんなことに巻き込んで。あなたの意志ももう少し尊重するべきだったわ。」
「謝るならするなよな。」
「そう、許してくれたみたいで良かったわ。コレでおあいこね。」
「お前なぁ。」
怒りを通り越して呆れる。
肩を下ろす俺に彼女は身を乗り出した。
「埋め合わせ。忘れた? 」
近い。
「俺、病み上がりなんですけどぉ。」
「すべこべ言わない。」
俺は亜星に連れられて、アジトを出た。
森を抜けて、小さな街へと赴く。
「おい、こんな目立つところにきて大丈夫なのか? 俺は極東だけじゃない。グランディルからも目をつけられている。」
「かったいなぁ。」
彼女は手を後ろで組んで俺の前を歩いている。
そして振り返り、俺の方を見た。
「なぁ亜星。牡丹の能力なんだが……」
「ふーん牡丹きゅんのことが気になるのかぁ。」
俺は彼女をまっすぐ、真剣な眼差しで見た。
「あーもうもう。分かったわよ。」
「人工移動型神獣ユグドラシル。それが彼女の契約している呪具。」
「彼女ね。極東で人体実験をされていたのよ。極東のポータルの技術、俺は彼女の呪具を作った時に出来た副産物。本当はね、極東は世界に『根』を繋ぎ、支配するつもりだったのよ。」
「ごめんな、聞いた俺が悪かったよ。聞けば聞くほど胸糞悪くなる話だな。」
「ふふふ。」
彼女は右手を口に当てて笑っている。
「何がおかしいんだよ。」
「もっとドライな人間だと思っていたから。意外。」
「さぁ買い出し♪買い出し♪」
そして俺たちは、野菜を売っている屋台の前に来た。
<君が話しかけて。>
"なんでテレパスなんだ? "
そう考えたところで俺は彼女が抱える重大な問題に気がついた。
「お前、声が。」
そうだ、俺は日常的に例田や、霧島、馬田などのテレパス使いと意思疎通をしていた。
その影響だろう。いつしか俺にはその「声」が、彼らの声帯から発せられたものなのか、それともテレパスによるものなのか分からなくなっていた。
<そう。私が呪具と契約した際に代償として取られたものは、私の声。>
「契約したのはいつだ? 」
「八歳の頃だったかな。突然、湖から出てきた呪具の意志に。」
「私ねその頃、周りの子たちと馴染めなくて……その声が特徴的だったから。」
「みんなね。私のテレパスを受け取ると、くすみあがっちゃうの。魔女狩りにあったこともあるんだから。」
「だからね。一般人に話しかけることは、マスターに禁止されてるの。」
だが問題は別にあった。
「俺はここの地域の人の言葉が分かんねえんだ。」
翻訳プログラムは、端末ごと極東に没収された。
もとより、持っていたところで、電源を入れると電波が飛び、彼らに特定されてしまうのだが……
<大丈夫。私が代わりに翻訳してあげるから。少しずつ他国の言葉も覚えていこ。>
「……すみません。」
「へいらっしゃい。」
「そこの青ビートと、スケスケニンジン、レッドマスカットを下さい。」
「2546コピカね。」
それから男は、亜星の方を見ると、微笑んだ。
「やあ嬢ちゃん。またきてくれたのか。おやおや、また人の影に隠れちまって。」
「君は見ない顔だね。この子のお兄さんかい? 」
「いやちが……アイタタそうです。僕はこの子のお兄さんです。」
「いつもはお姉さんと一緒に来るんだけどね。その子、いっつも話してくれないからさ。」
俺は咄嗟に嘘をついた。
「そーなんですよ。コイツは人見知りなんです。」
「今日は姉が風邪をひいてしまって、おつかいを頼まれて。人見知りなんです妹は、親しい人としか話せなくて。」
* * *
俺たちは買い出しを終えると、アジトに戻ることにした。
「なーんだやれば出来るじゃない。これなら潜伏もできそうね。」
自分でもびっくりしたが、それよりも、亜星のサポート能力に驚かされた。
彼女のサポートがあったおかげで、自分が兄を演じられたと言っても過言ではない。
人けを燠見で確認してから、再び密林に入る。
アジトのドアを開けると、Mが迎えてくれた。
「お疲れ様。デートはどうだったかね? 」
「亜星の能力はだいたい分かりました。」
「どうだ? 私たちに協力者してくれる気にはなったかね? 」
「………」
まだ決断は出来ない。だが、他に行く当ても目的もないし、なんせコイツらには借りがある。
思えばこの八年間は両親に対する復讐心だけでひたすら前に進み、それ以外が見えていなかった。
その間、沢山の聖を殺し、カーミラから恨みを買った。
このままひっそりと暮らす人生も悪くない。
だが、極東、グランディル、セル帝国の三国の追手から逃げ続けることは不可能だろう。
「すまん、もう少し考えさせてくれ。後悔だけはしたくないんだ。もう。」
「慎二よー風呂が沸いた。入ると良い。」
奥で梓帆手の声がする。
俺は一週間風呂に入っていないことに気が付き、顔が熱くなった。
「そんな……買い出しに行く前に水浴びぐらいはしとくべきだった。」
「大丈夫。身体はアルブさんが毎日吹いてくれていたから。」
「なっ!! 」
「『ほうほう、これが鬼の身体か。この呪いを神聖中毒に使えないだろうか? 』とか。」
「なんだよ…それ。」
とにかく俺は風呂に入ることとした。
「慎二よ。身体はしっかり洗ってから湯船に浸かるのだぞ。俺とドミートリイも使うんだから。」
「あー。ありがとな梓帆手。」
アジトの浴場は凄かった。どうやらドミートリイという人間がカタログを片手に一人で完成させたものらしい。
俺は脱衣所で服を脱ぐと、真っ白に曇っている浴場の扉をガラリと開ける。
中から白い煙が溢れてきた。
暖かい蒸気がいい塩梅だ。
風呂椅子に乗っかっている桶を取ると、蛇口を捻る。
暖かい雨が俺の頭に降り掛かり、思わず飛び上がった。
「敵の攻撃か!! 」
バックステップで後退すると、その全容が明らかになる。
蛇のように伸びたゴムの配管の先には、蓮根が付いている。
蓮の根は、配管から吸い上げられた水を絶えず放出させており、首が長く伸びたカランであることに気がつく。
よく見ると、配管は二股に分かれていて、カランと蓮根、切替が可能ならしい。
ミシュマッシュ
寄せ集め。
そうだここは色々な地域の人間が集まって出来た組織。
文化が融合していてもおかしくはない。
改めて蓮根の雨を浴びると、気持ちいい。
これは極東で売りに出せば儲かるだろうなと考えたところで、自分が賞金首であることを思い出す。
「……なんでこんなことになってしまったんだ。」
「ガラッ。」
誰かが浴場に入ってくる。
湯気でよく分からないが、このシルエットは……小さいな。
「わっ!!牡丹。」
俺は慌てて大事なところを隠した。
「もう、慎二は恥ずかしがり屋さんだなぁ。男同士なんだし、そんなに気をつける必要なんてないでしょ。」
"男? 牡丹が? んなわけ。"
「アルブさんに言われたんだ。様子を見てきてくれって。」
俺は彼女の股間に、膨らみが無いことを見て、"やっぱり彼女は女の子なのでは。"
「見ないでッ!!」
今度は彼女が股を押さえた。
「みんな男の人は生えているんだけど……」
「僕もね生えてたんだ。今は無くなっちゃったけど。」
生えていた。
俺は一瞬、彼らが面白半分に去勢したのでは無いかと、怒りを覚えたが、あることに気がついて、正気を取り戻す。
そういえば、牡丹の呪具であるユグドラシルの代償は……
「契約した時に取られたんだな。」
俺は低い声で答えた。
「そ、そんなに怒らないで。確かに呪具と契約したのは僕の意思じゃなかったかもしれない。でも、その…×○×○を差し出したのは僕の意思だよ。それにアルブさんもその方が可愛いって言ってくれたし。」
極東の本当の闇を見せられた気分だ。
俺が彼らから受けた仕打ちなんて、まだマシな方だった。
それと同時に、彼らが本当に救いようのない組織で、その組織に協力していた自分に寒気がした。
「先に湯船、浸かってるぞ。」
俺は湯船に足を伸ばすと、そのまま身体まで一気に浸かった。
「ねえ慎二。このカランって奴。極東のお風呂屋さんにあるものなんだよね。僕ね、極東の街に出たことが無くて。」
「ああ、全部終わったら一緒に行こうぜ。案内してやるよ。」
実現性の薄い未来。
でもそれが、俺にとっても彼女にとっても、生きる希望になると、そう思っていた。
「案外。嘘も悪くないじゃないか。」
「慎二、嘘はダメだよ。」
「そうだな嘘はダメだ。『必ず』だ。」
俺たちは夕陽が密林に落ちていくのをじっと眺めた。
0
あなたにおすすめの小説
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる