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拾弍ノ劔
クロック・ブレイク
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「ああ、やってやるよ。たとえ俺に父さんのような力が無くても、俺にしか出来ないって言うなら。」
「伊桜里、俺に呪術を教えてくれ。」
「ダメだ!! 」
答えたのはドミートリィだった。
「なんだオマエ焼いてんのか? 」
彼は亜星の方に振り返る。
「お前ッ、コイツになにも教えていなかったのか? 伊桜里の真似をしたやつが最後どうなるか? 」
彼女はドミートリィに微笑むと、もう一度伊桜里に頭を下げる。
「ねえ伊桜里ちゃん。もう良いじゃない。自分を許しても。伊桜里ちゃんを責めてるのは伊桜里ちゃんだけだよ。ミーチャもアルブさんも、みんな貴方のことなんて責めていない。アレは事故だから。」
「貴方はッそうやってッ、真実を隠して!! 私たちを危険な目に合わせて来たんでしょうがッ。」
伊桜里は立ち上がり、リビングを後にすると、ドアをバタンと閉める。
「おい、亜星。どう言うことだ。」
「食事は終わりにしよう。私と食後の散歩でも……どうかな。」
「後片付けは、ワシとアルブでやっておこう。」
梓帆手はそう言うと、空っぽになった皿を片づけ始めた。
* * *
「ここの星、綺麗だと思わない? 」
「そうだな、極東の夜は明るすぎる。見えてもせいぜい二等星ぐらいだったから。」
俺たちはアジトの外で宇宙を見上げていた。
「なぁ、伊桜里の件、話してくれないか? 」
彼女は少し悩んでいた。それから口を開いた。
「慎二は自分があとどれぐらい生きられるかって考えたこと……ある? 」
そんなことは無かった。だって腕を斬られても再生するし、首をもがれても、数秒後にはキッパリ治ってしまうのだ。
「ないな。俺は鬼だから。」
「ペースメーカーって知ってる? 私たちはね、心臓を動かすたびに、少しずつ死に血が付いて行っているの。」
「ペースメーカーの回数は全ての生物に皆平等に用意されていて、それが無くなると……」
「鳥やネズミの寿命が短いのはね。血液が体から出て、戻ってくるまでのスパンが短いからなの。」
「彼ら見たいな小動物の時間の流れは、私たち人間より、ずっと穏やかなのよ。」
「心拍数を上げて、体感時間を遅らせる。それが君の呪術、時空壊。」
「昔ね、伊桜里には弟子がいたの。アレクセイ、そう、ミーチャの弟。」
「彼はミーチャを連れて、この南メリゴ大陸までやって来たわ。」
「ミーチャはね、グランディルの東の辺境で親殺しの罪を着せられて、アリョーシャと一緒に逃げて来たの。」
俺はそこで訊いた。
「着せされた? 」
彼女は続ける。
「ミーチャの能力はね、分身すること。東がすぐローランド大陸だったから。気がついたら呪具と契約していたそうよ。」
「いくらなんでもメチャクチャだ。」
「話を戻すわ。」
「能力を持たないアリョーシャはね、兄の役に立つために、伊桜里に弟子入りしたの。兄を護りたいって。」
「それで……」
ここまで来ればもう分かった。
「俺は死なないぜ。俺は鬼だからな。」
俺は立ち上がった。
「どこへ行くの? 」
亜星の手が俺を引き止める。
「どこへって、修行だろ。伊桜里に稽古をつけてもらうんだ。」
「あの、私の話、聞いてた? 」
「お前らは世界のために、命張ってんだろ。なら俺がそうしないのは、野暮ってもんだぜ。」
「世界が変われば、貴方の鬼の呪いも消滅するかもしれない。そうするば貴方は……」
「こうする以外に道はない。そうだろ。」
「それに、今俺たちがやらなきゃ、そのアレクセイって奴も報われないから。」
彼女は涙を流していた。
「ごめんね、前を向かなきゃ。私も、伊桜里もミーチャも。」
「俺にそうさせたのはお前だろ亜星。」
そうだ。俺を過去の私怨から救い出してくれたのは彼らだ。
あのままでは、俺は永遠に過去に生かされ続け、生きる屍となって、その命尽きるまで聖を殺し続けていただろう。
「全部受け止めるさ。俺が聖を無差別に殺し続けていたことも、母さんや、伊桜里の村の人間が聖に惨殺されたことも。」
「そしてアレクセイの兄を思う気持ちも。」
「頑張って。貴方はみんなの希望。最後の光なんだから。」
「伊桜里、俺に呪術を教えてくれ。」
「ダメだ!! 」
答えたのはドミートリィだった。
「なんだオマエ焼いてんのか? 」
彼は亜星の方に振り返る。
「お前ッ、コイツになにも教えていなかったのか? 伊桜里の真似をしたやつが最後どうなるか? 」
彼女はドミートリィに微笑むと、もう一度伊桜里に頭を下げる。
「ねえ伊桜里ちゃん。もう良いじゃない。自分を許しても。伊桜里ちゃんを責めてるのは伊桜里ちゃんだけだよ。ミーチャもアルブさんも、みんな貴方のことなんて責めていない。アレは事故だから。」
「貴方はッそうやってッ、真実を隠して!! 私たちを危険な目に合わせて来たんでしょうがッ。」
伊桜里は立ち上がり、リビングを後にすると、ドアをバタンと閉める。
「おい、亜星。どう言うことだ。」
「食事は終わりにしよう。私と食後の散歩でも……どうかな。」
「後片付けは、ワシとアルブでやっておこう。」
梓帆手はそう言うと、空っぽになった皿を片づけ始めた。
* * *
「ここの星、綺麗だと思わない? 」
「そうだな、極東の夜は明るすぎる。見えてもせいぜい二等星ぐらいだったから。」
俺たちはアジトの外で宇宙を見上げていた。
「なぁ、伊桜里の件、話してくれないか? 」
彼女は少し悩んでいた。それから口を開いた。
「慎二は自分があとどれぐらい生きられるかって考えたこと……ある? 」
そんなことは無かった。だって腕を斬られても再生するし、首をもがれても、数秒後にはキッパリ治ってしまうのだ。
「ないな。俺は鬼だから。」
「ペースメーカーって知ってる? 私たちはね、心臓を動かすたびに、少しずつ死に血が付いて行っているの。」
「ペースメーカーの回数は全ての生物に皆平等に用意されていて、それが無くなると……」
「鳥やネズミの寿命が短いのはね。血液が体から出て、戻ってくるまでのスパンが短いからなの。」
「彼ら見たいな小動物の時間の流れは、私たち人間より、ずっと穏やかなのよ。」
「心拍数を上げて、体感時間を遅らせる。それが君の呪術、時空壊。」
「昔ね、伊桜里には弟子がいたの。アレクセイ、そう、ミーチャの弟。」
「彼はミーチャを連れて、この南メリゴ大陸までやって来たわ。」
「ミーチャはね、グランディルの東の辺境で親殺しの罪を着せられて、アリョーシャと一緒に逃げて来たの。」
俺はそこで訊いた。
「着せされた? 」
彼女は続ける。
「ミーチャの能力はね、分身すること。東がすぐローランド大陸だったから。気がついたら呪具と契約していたそうよ。」
「いくらなんでもメチャクチャだ。」
「話を戻すわ。」
「能力を持たないアリョーシャはね、兄の役に立つために、伊桜里に弟子入りしたの。兄を護りたいって。」
「それで……」
ここまで来ればもう分かった。
「俺は死なないぜ。俺は鬼だからな。」
俺は立ち上がった。
「どこへ行くの? 」
亜星の手が俺を引き止める。
「どこへって、修行だろ。伊桜里に稽古をつけてもらうんだ。」
「あの、私の話、聞いてた? 」
「お前らは世界のために、命張ってんだろ。なら俺がそうしないのは、野暮ってもんだぜ。」
「世界が変われば、貴方の鬼の呪いも消滅するかもしれない。そうするば貴方は……」
「こうする以外に道はない。そうだろ。」
「それに、今俺たちがやらなきゃ、そのアレクセイって奴も報われないから。」
彼女は涙を流していた。
「ごめんね、前を向かなきゃ。私も、伊桜里もミーチャも。」
「俺にそうさせたのはお前だろ亜星。」
そうだ。俺を過去の私怨から救い出してくれたのは彼らだ。
あのままでは、俺は永遠に過去に生かされ続け、生きる屍となって、その命尽きるまで聖を殺し続けていただろう。
「全部受け止めるさ。俺が聖を無差別に殺し続けていたことも、母さんや、伊桜里の村の人間が聖に惨殺されたことも。」
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「頑張って。貴方はみんなの希望。最後の光なんだから。」
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