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拾弍ノ劔
修行
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「ごめんなさい。もうしません。」
身体の節々が痛み、もう立てない。
彼女は俺の身体に呪いが発動するギリギリのところを突いて攻撃してきた。
そして、治癒が始まれば、同じ場所に同じ攻撃を入れてくる。
「いや、中々骨があるわね。感心したわ。」
彼女が手を差し出す。
俺が彼女に捕まると、凄まじい力で引っ張り上げられる。
"ちっ近いっ。"
「甘いッ。」
後頭部に彼女の肘が落ちて来る。
そのまま喉仏を地面にぶつける。
「がぁ。」
「まずその悪い癖を治しなさい。敵は必ずしも正面から向かって来るとは限らないわ。」
「痛い、痛い、もうやめて下さい。死ぬ死んじまう。」
「ハァ。」
彼女は振り返ると、手をヒラヒラ振ってアジトへと帰っていった。
「今日のところはおしまい。一応アルブさんのところに行って見てもらって来なさい。うまく神経を狙ったつもりだけど。」
「鬼ぃ、悪魔ッ。こんなのあんまりだ。」
「鬼ハッ。」
(世界の暗転)
「アンタでショウガッ。」
* * *
「おやおや派手にやられたね。」
アルブが俺の背中を薬品でポンポンする。
「痛ッ。怪我はしてないです。てか怪我したら治るんで。節々が痛いです。まるで全身に肩こりが回ったみたいだ。ちょっとアルブさん? 聞いてます。イギッ。フグッ。」
「ほうほう、鬼とは面白い体をしているなぁ。」
「僕はモルモットじゃないんで。早く治してくださいよぉ。」
「分かってる。あと五分我慢してくれたまえ、いや、すごいな君の身体は。」
「もう何回目何ですかそれ。痛いぃぃ。」
アルブは失望したように俺を見ている。
「君は何度死んだ? 死線をくぐり抜けてきたんだろ?痛みには慣れている筈だ。なぜ赤子のように泣き喚く。」
「……私に甘えたいのか? 」
もちのろん、そんな訳ではない。痛いから泣いているのだ。
今、全身を襲っているであろう迸る電撃は、腕がもげたり、足が飛んだりするとは比にならないほどのそれだった。
元より、首を飛ばされれば再生するまでは痛みを感じないのだが。
「違います。痛いんです。とっても。」
「そりゃそうだろうな。全身の神経が切れるスレスレのところまで痛みつけられている。内臓や筋肉には傷一つ付けられていないのに。」
「あの、僕の言葉通じていますか? 」
「ああ、君はしつこいな。私はなぁしつこい男は嫌いだ。私は一度冷めると、あきちゃうタイプだからな。それより、一般人なら重症だが、君なら大丈夫だろ? 君、腕が斬られても、すぐにトカゲみたいに生えてくるんだろ? なら問題ないじゃないか。」
「痛くても。」
「問題あります。もう…本当に死んじゃう。」
* * *
二日目。
俺はまたしても、彼女に完敗した。
「君? 本当に死ぬ気でやってる? 」
「極東の極秘情報を知った七宝は本気で貴方を殺しに来るわよ。」
「カーミラはあなたを本気で憎んでいる。我を忘れるぐらい。凛月無しの君に、代行者を倒せるかしら? 」
「そのうち、私たちの思惑に気がついたアスィールは、双薔からハムサを解放して、君を襲わせる。神族に指一本触れられなかったのに、どうやって彼女を退けるの? 」
「……その、何とかするよ。それより、昨日の痛みが頭から離れなくて、その、自分を守っちまうんだ。」
彼女は真っ直ぐ俺を見た。
「昨日の件、誤解があるならちゃんと説明しないといけないわね。」
「私が貴方にあんなことをした理由。それは、あなたが死に対しての恐怖をあまり感じていないことよ。」
「はじめの矢に等閑の心あり。あなたは命が幾つもあることを良いことに、何度も的に向けて矢を撃って、的を射抜くまで永遠とそれを続けている。」
「それじゃあなたは強くなれない。」
「今、貴方に必要なもの。」
「それは危機感よ。パルスが弾け、脳が加速するほどの恐怖。走馬灯って知ってるかしら。」
「私は貴方を虐めたくてこんなことをしているんじゃないの。」
俺はため息をついた。
「訓練兵自体に、教官の中に同じことを言う奴がいましたよ。暴力沙汰になって謹慎処分になりましたけどね。」
とは言ったものの、彼女のアドバイスは的を射ているかも知れない。
確かに俺は、今までに、戦闘で死を予感したことは無い。
いや、あった。最初にメリゴ大陸でドミニクと戦った時。
あの時、本気で死を予感した俺は、銃鬼と再契約し、時空壊が使えるようになった。
「分かりましたよ。思い出しました。確かに。」
「そうね、あの時はびっくりしたわよ。急に君が私と同じ呪術を使うんだもん。」
あの時、俺から凛月を引き剥がそうとしていた彼女も、俺と共闘することになるとは、思っても見なかっただろう。
「そういえば、あの時のお礼してなかったですね。」
「不本意だけど、貴方がやる気になってくれたなら、それで良いわ。行くわよ。今度は本当に殺しに行くから。」
「ここで死ぬようなら、誰にも勝てない。恥を晒す前に死になさい。それが嫌なら強くなりなさい。」
「強く、速く、世界の法則の向こう側へ。」
俺は立ち上がり、再び彼女に飛びかかった。
身体の節々が痛み、もう立てない。
彼女は俺の身体に呪いが発動するギリギリのところを突いて攻撃してきた。
そして、治癒が始まれば、同じ場所に同じ攻撃を入れてくる。
「いや、中々骨があるわね。感心したわ。」
彼女が手を差し出す。
俺が彼女に捕まると、凄まじい力で引っ張り上げられる。
"ちっ近いっ。"
「甘いッ。」
後頭部に彼女の肘が落ちて来る。
そのまま喉仏を地面にぶつける。
「がぁ。」
「まずその悪い癖を治しなさい。敵は必ずしも正面から向かって来るとは限らないわ。」
「痛い、痛い、もうやめて下さい。死ぬ死んじまう。」
「ハァ。」
彼女は振り返ると、手をヒラヒラ振ってアジトへと帰っていった。
「今日のところはおしまい。一応アルブさんのところに行って見てもらって来なさい。うまく神経を狙ったつもりだけど。」
「鬼ぃ、悪魔ッ。こんなのあんまりだ。」
「鬼ハッ。」
(世界の暗転)
「アンタでショウガッ。」
* * *
「おやおや派手にやられたね。」
アルブが俺の背中を薬品でポンポンする。
「痛ッ。怪我はしてないです。てか怪我したら治るんで。節々が痛いです。まるで全身に肩こりが回ったみたいだ。ちょっとアルブさん? 聞いてます。イギッ。フグッ。」
「ほうほう、鬼とは面白い体をしているなぁ。」
「僕はモルモットじゃないんで。早く治してくださいよぉ。」
「分かってる。あと五分我慢してくれたまえ、いや、すごいな君の身体は。」
「もう何回目何ですかそれ。痛いぃぃ。」
アルブは失望したように俺を見ている。
「君は何度死んだ? 死線をくぐり抜けてきたんだろ?痛みには慣れている筈だ。なぜ赤子のように泣き喚く。」
「……私に甘えたいのか? 」
もちのろん、そんな訳ではない。痛いから泣いているのだ。
今、全身を襲っているであろう迸る電撃は、腕がもげたり、足が飛んだりするとは比にならないほどのそれだった。
元より、首を飛ばされれば再生するまでは痛みを感じないのだが。
「違います。痛いんです。とっても。」
「そりゃそうだろうな。全身の神経が切れるスレスレのところまで痛みつけられている。内臓や筋肉には傷一つ付けられていないのに。」
「あの、僕の言葉通じていますか? 」
「ああ、君はしつこいな。私はなぁしつこい男は嫌いだ。私は一度冷めると、あきちゃうタイプだからな。それより、一般人なら重症だが、君なら大丈夫だろ? 君、腕が斬られても、すぐにトカゲみたいに生えてくるんだろ? なら問題ないじゃないか。」
「痛くても。」
「問題あります。もう…本当に死んじゃう。」
* * *
二日目。
俺はまたしても、彼女に完敗した。
「君? 本当に死ぬ気でやってる? 」
「極東の極秘情報を知った七宝は本気で貴方を殺しに来るわよ。」
「カーミラはあなたを本気で憎んでいる。我を忘れるぐらい。凛月無しの君に、代行者を倒せるかしら? 」
「そのうち、私たちの思惑に気がついたアスィールは、双薔からハムサを解放して、君を襲わせる。神族に指一本触れられなかったのに、どうやって彼女を退けるの? 」
「……その、何とかするよ。それより、昨日の痛みが頭から離れなくて、その、自分を守っちまうんだ。」
彼女は真っ直ぐ俺を見た。
「昨日の件、誤解があるならちゃんと説明しないといけないわね。」
「私が貴方にあんなことをした理由。それは、あなたが死に対しての恐怖をあまり感じていないことよ。」
「はじめの矢に等閑の心あり。あなたは命が幾つもあることを良いことに、何度も的に向けて矢を撃って、的を射抜くまで永遠とそれを続けている。」
「それじゃあなたは強くなれない。」
「今、貴方に必要なもの。」
「それは危機感よ。パルスが弾け、脳が加速するほどの恐怖。走馬灯って知ってるかしら。」
「私は貴方を虐めたくてこんなことをしているんじゃないの。」
俺はため息をついた。
「訓練兵自体に、教官の中に同じことを言う奴がいましたよ。暴力沙汰になって謹慎処分になりましたけどね。」
とは言ったものの、彼女のアドバイスは的を射ているかも知れない。
確かに俺は、今までに、戦闘で死を予感したことは無い。
いや、あった。最初にメリゴ大陸でドミニクと戦った時。
あの時、本気で死を予感した俺は、銃鬼と再契約し、時空壊が使えるようになった。
「分かりましたよ。思い出しました。確かに。」
「そうね、あの時はびっくりしたわよ。急に君が私と同じ呪術を使うんだもん。」
あの時、俺から凛月を引き剥がそうとしていた彼女も、俺と共闘することになるとは、思っても見なかっただろう。
「そういえば、あの時のお礼してなかったですね。」
「不本意だけど、貴方がやる気になってくれたなら、それで良いわ。行くわよ。今度は本当に殺しに行くから。」
「ここで死ぬようなら、誰にも勝てない。恥を晒す前に死になさい。それが嫌なら強くなりなさい。」
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