神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
71 / 145
拾弍ノ劔

人工移動型神獣ユグドラシル

しおりを挟む
 俺は足を引き摺りながら、大樹を見上げる。
 木の根の階段を一歩ずつ、一歩ずつ登り、ついに木の根元へとたどり着いた。
「はじめまして桐生慎二、満身創痍のところ来てもらってすまない。」
「なら日を改めてはくれませんかね……」
「君は元気になれば、また聖剣探しに出掛けてしまうだろう? 」
「まずお礼を言わなくては。伊桜里を助けてくれてありがとう。」
 逆だろう。こっちが感謝したいぐらいだ。
「ありがとうなんて、みんな俺に巻き込まれただけっすよ。全部俺のせいだ。」
 彼女は首を振った。
「いいえ、コレはミシュマッシュの宿命です。いつかこうなる時が来る。そう考えて、M様は食料の手配に尽力されていました。」
「ハムサが神に成り代わると宣言したその日から。」
 改めて、Mの意志が伝わった。
 なら俺も彼の、彼らの気持ちに応えなければいけない。
「そろそろ帰るぞ。もうクタクタだ。ベットは……っとその前に風呂だな。亜星にまた怒られちまう。」
「慎二、また話をしましょう。」
「ああ、また来るぜ。お前、そこから動けないんだろ? 」

 俺は牡丹に風呂の場所を聞く。そして、風呂は動力源の近くにあると聞いて、根の扉を開き、ユグドラシルの中に入った。
 薄暗いが、よく見ると綺麗な字で看板が立っている。

  ←食堂

          大浴場→
         ※寝室は一度外に出て
          階段を登る。
          ドアに看板あり。

 俺は迷わず右に行く。
 浴場にはちゃんとタオルもあった。
 いい香りがする。
 そういえば、菜園には花もあったな。
 俺はタオルを持って、浴場に入った。
 極東製の頭皮洗浄剤に、グランディル産の石鹸。
 どうやら日用品も買いだめされていたらしい。
「こんな金どこから。」
「セル帝国と協力していた時、マスターがアスィールにお願いしていたんだ。」
 牡丹が風呂に入ってくる。
「ユグドラシル様、なんて? 」
「何にも。伊桜里のことやら、Mのことやら。」
「それ以外は? 」
「何にも? ホントに何にもだよ。まぁ俺も疲れてたし、身を案じてくれていたのかもな。」
「気をつけてね慎二、ユグドラシル様は。」
「ああ。」
「どうしたの慎二? 」
 牡丹に話しかけられて、自分が放心状態にあったことを自覚する。
「色々なことがありすぎてな。極東軍がアジトにやってきたり、カインズがやってきたり、アウラを七宝に取られちまったところとかも。」
「アウラを奪われたのかい? 」
 ギクッ、そうだ回収するはずのアウラを七宝に取られちまった。
 コレはMに早めに報告しないとやべえよな。
 みんな俺がアウラを持って帰ってきたと思っているし。
「大丈夫、僕からみんなに伝えておくよ。」
「いや、俺が行く。」
 俺はシャワーを浴びると、湯船に浸かることもなく、Mのいる場所を目指した。
 

  ←第一倉庫

              食料庫→


 どこだ、奴のいる場所は、


  ←動力室
   ※危険、立ち寄るべからず

            燃料保管庫→
            ※火気厳禁
             扉は必ず閉
             めること。

 亜星が備品のチェックをおこなっていた。
「アウラのことなら、マスターももう知っているよ。今日はもうお休み。」
「亜星たちはどうするんだ? 」
「私たちは、色々とやることがあるから。」
「ユグドラシルに住むなんて……テストでミーチャが一週間住んでいたことはあるんだけどね。なんせ初めてのことだらけだから。」
「そうか悪いな。」
「起きたらみんなで集まって作戦会議をしよう。早速、聖剣を取りに行って欲しいんだ。」
「奪いにだろ。」
「ああ、そうだね。あの剣たちも君の持つ闇の剣も君のものじゃ無い。元々管理人が、シド・ブレイクに授けたものだ。」
「じゃあな。」
「寝室の場所、分かる?」
「ああ、ここにくる途中に見つけたよ。俺の名前が書いているところ、そこで良いか? 」
「そうそう、そこが君の部屋だから。」
 俺は根の外に出ると、寝室を目指した。
 寝室は木の裏側にあった。
 入口からはだいぶ歩く。
 多分動力源から出来るだけ離すためにこの構造になったのだろう。
ドアを開けると、鬼影が騒ぐ。
---風情あるじゃねえか。なぁ兄弟---
---兄弟!? 慎二!!この鬼は、お前を喰らおうとしていたんだぞ---
---まぁ落ち着くのじゃ慎二郎さんよ---
 騒がしくなった。
「寝る。静かにしてくれ。」
 部屋は外壁側に窓が一つ。
 開け閉め出来る様になっている。
 当然だが、木造だ。
 木をそのままくり抜いたような作りであって、木目が浮き出ている。
 窓の取手を引くと、暖かい風が入ってくる。
 この世界には夜があるのだろうか。
 下では梓帆手が花の手入れをしていた。
 鬼が花を育てている。
 なんかシュールな絵面だ。
 梓帆手は俺に気付くと手を振ってきた。 
 俺も手を振りかえす。
「さてと。」
 俺は(ベットだが)床に着く。
 フカフカで暖かい。
 太陽の香りだ。
 俺の意識はそこで途切れた。

     

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...