神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

復讐の復讐

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 カーミラは体が崩れる前に、空間転移をしたようである。
 俺も後を追い、窓から飛び出ると、磁力操作で木の壁を走り、彼に追いつく。
 牽制で放ってきた岩の刃が、枝から出現する。
 俺はサイドステップでそれを避ける。
 避けながら彼に迫る。
 彼は空間転移を繰り返しながら、ジゲンキリの衝撃波を放ってくる。
---燠見アウェイク---
 開眼し、次元の歪みを可視化させる。 
「ココダッ。」
 クラウソラスが次元の裂け目を斬った。
 カーミラはジゲンキリの能力を使うことが出来ないはず。
 カーミラもそれを理解していたようで、アルテマでそれを受け止める。
 辺りに光の破片が舞う。
 それがカーミラを灰化させる。
 ユグドラシルの枝に落ち、枝が痛む。
 俺は彼女がいる方を見た。
 ユグドラシルは無言で頷くと、俺もアイコンタクトを交わす。
---Gravity Timezグラビティー・タイムズ---
 カーミラが自分の身体にアルテマを突き刺す。
 俺の視界上下60°左右90°に無数の次元の裂け目が現れる。
 俺は加速した世界の中で、片っ端からそれを斬りまくった。
 だが、裂け目は減るどころかどんどん増えていく。
 俺の背後から加速したカーミラが出現する。
 では無い。
 同時に複数の吸血鬼が俺の身体に刃を立てようとしている。
 アルテマが妙に短い。
 いや、俺はアルテマでは無い。
 奴の呪具の短剣であった。
 俺は咄嗟にトライドランで防御を試みる。
 だがもう遅い。
 俺は彼に刺された。
 瞬間、視界が物凄い勢いで移り変わる。
 上下すら反転している。
 俺は自分が空間転移をしていることを今認識した。
 それも高速で。
 まるで受け身をとれる気がしない。
 無数に開いた次元の裂け目の中を行ったり来たりしている。
 振動で脳が逝きそうだ。
 頭の中でグチュグチュと脳ミソが音を立てる。
 そして、その音が鳴るたびに、視界が上を向き、意識が薄れていく。
 背中に岩の刃が突き刺さる。
 俺にはもう、それがなんなのか分からない。
 痛みすら薄れていった。
 気を失いかけたところで、何者かに、思いっきり顔面を殴られる。
 呪いで頭が再生する。
 痛覚が戻り、遅れて痛みがやって来る。
 鈍痛で倒れそうになる。
 だが、気合いで踏ん張ると、そのまま目の前の対象に右手の何かを突きつける。
 トライドランがカーミラの胸を貫く。
 彼が逃げようとしたので、すかさず左手のクラウソラスで右眼を抉る。
 トライドランを口で持ち替えると右手で銃鬼を握る。
 奴の憎しみのこもった左まなこに鉛玉をお見舞いする。
 奴がバックステップで下がろうとするとで、首でトライドランを振り払うと、銃鬼を投げ捨て、すぐさまそれを右手に持ち直す。
 両目が潰れている彼の背後に回り込み、空間転移を開始する前にはたき落とす。
 地面に落ちる前に追いつくと、そのまま回し蹴りを行い、ユグドラシルの幹に叩きつける。
 急なベクトル変動で、彼の四肢が明後日の方向に曲がる。
 クラウソラスで刺した方の右眼はまだ再生が追いついていない。
 俺は奴の右側に回り込むと、更なる追撃を開始しようとする。
 奴は辺りを見回し、俺を見つけると、呪具の短剣を強く握った。
「もう遅えんだよ。」
 俺は捨て身で突っ込んだ。
 光にも迫る速度。
 俺は自分の音を追い越した。
 ジゲンキリの力は使えない。
 空間転移は間に合わない。
 俺のクラウソラスが奴の心臓を貫こうとしていた。
 俺はその間際に彼の左手に握られているものがアルテマであることを見た。
 視界を奪われていたのは
 彼は自分の体で剣を持ち替えたことを隠していたのだ。
---hell barricadeヘル・バリケード---
 俺の身体に六芒星の十字架が突き刺さる。
「死ねぇぇぇ台与鬼子!! 」
 顔を歪めたカーミラが左手に持っていたモノは。
 聖者の灰。
 プラウドが持っていたモノとおそらく同じモノだ。
 彼は本気で俺を消すつもりなんだろう。
「悪いなカーミラ。」
---silver bulletシルヴァー・ブァレット---
 放り投げていた銃鬼が光る。
 俺が編み出した対吸血鬼用の神聖魔術。
 銀弾を生成して打ち出すと言うシンプルなモノであったが。
 銀弾は灰袋をカーミラごと貫いた。
 代行者だ。
 この程度じゃ死なないだろう。
 俺は脆くなった六芒星を自身の力で砕くと、破片を体から抜き取る。
 大動脈を何本かやられていたようで、そこから大量の血が噴き出す。
「……そうか。君は僕から全てを奪い取るつもりなんだね。」
「ああ。」
「母親を生き返らせるために。」
 カーミラは何か勘違いをしているようだ。
「カーミラ。消えた人間は元に戻すことは出来ない。」
「ギギッ。」
 彼はカゴに囚われた猛獣のような目で俺を睨んだ。
「たとえそれが神であっても。」
「消えた人間は生き返らないんだよ。」
 俺は身体の再生を終えると、二振の聖剣に手を伸ばした。
 ジゲンキリとアルテマ……
「そこまでよ!! 」
 アルテマに手を掛けたところで、何者かにカーミラを攫われる。
「シャルル・アイシャ!! 」
「カーミラをこんなんにして!! 私たちになんの恨みがあるって言うの? 」
 彼女はまだ何も分かっていないようだ。
「お前らは恨んでいない。恨む価値すら無いよ。」
「だが、お前らのソレは身から出た錆だろう? そうじゃ無いのか? 」
 「この卑しい鬼子ガッ。殺してやる。殺してやる。」
「……アイシャ、やめてくれ。」
「カーミラ……」
「兄さん…たち…は? 」
「大丈夫、言われた通りちゃんと看病していたから。だから良くなったよ。プラウドもカインズも!! 」
「そりゃ良かったな。」
 その言葉に答えたのは俺だった。
「お前は!! お前だけは!! 」
「絶対にコロス。」
 カーミラが開けた次元の穴から、彼らは帰っていった。
 俺は倒れ込み、補足前身で木の麓までくると、ユグドラシルへ話しかけた。
「おい、大丈夫か? お前ん中でだいぶ暴れちまったみたいだけど。」
 すると彼女は少し硬った笑顔で答えた。
「心配ありませんよ。」
「それより、みんなを守ってくれてありがとう。」
 そうだ、七宝と父さんが伊桜里たちの元に向かった。
 早く追いつかないと。
 奴は闇の剣の位置をもう把握しているはず!!
 俺は立ちあがろうとした。
 が、立ち上がることが出来ない。
「無理をしてはいけません慎二。」
「無理…を…しているのはお前の方じゃ無いのか? 」
 彼女も今回の件でだいぶ消耗している。
 早く止めなくては!!
 不意にクラウソラスが光った。
「クラウソラス、お前……」
---慎二、なんであんなこと言っちゃったの? ---
「悪かったよ。余裕が無かったんだ。ついカッとなっちまった。」
 身体が見る見るうちに回復していく。
「俺を助けてくれるのか? 」
---もうあんなこと言っちゃダメよ。お姉さん傷ついちゃうから---
「……分かりました。」
---すなおでよろしい---
 俺は立ち上がると、ユグドラシルを一瞥し、そのまま伊桜里たちの元へと走り出した。

 
 
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