神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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拾弍ノ劔

俺の使命は極東のみんなを守ること

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 七宝に導かれるままに、巨大な木の中を探索した。
 螺旋階段を登る。
 これだけの階段を登っておきながらも、なお息切れを起こさない彼の背中を無言で追う。
「隊長、見つけましたよ。」
 相変わらず彼の隊長呼びのクセは直らない。
 今は違う。俺が隊長ではなく、彼が隊長のはずなのである。
 木のドアを開けると、そこは開けた屋上になっていた。
 足元一体に木の葉が広がっている。
 俺は右足で床が抜けることが無いか確認する。
「安全設計ですよ。元々人が住むように設計されたモノですから。」
 そうだ。ユグドラシルは極東が作った人工呪具、その詳細を七宝が知らされていない訳がなかった。
 向こうでは、グランディル人らしき黒ロープの青年が後ろのみんなを庇っていた。
「チッ。あの役立たずめ。何がしんがりだってんだよ。」
 すると七宝は彼らに宣告する。
「夜花伊桜里を差し出せ。そうすればお前らメンバーは生かして置いてやる。」
「お断りだな。」
 青年が右腕を振るうと、青年が一気に十人近く増えた。
 地面に足跡が付いている。質量がある証拠だ。
 七宝はアウラを旋回させると、少年たちを薙ぎ払った。
「クッ。」
「分身能力か。お前がドミートリィだな。親を殺し、法による裁きを受けることを拒み、逃亡先でテロリストの仲間入りを果たしたという。」
「俺はやってねえ。」
「お前が父親を殺したか、そうで無いかなど、どうでも良い。」
「お前が罪人であることは確かだ。『倫理から外れた人間か。』など聞いていない。」
「現に今、お前は倫理から外れた集団に属している。それだけで、グランディルに突き出す大義名分はある。」
 七宝は青年を踏みつけた。
「ふざけやがって!!この!! 極東の悪魔め!! 」
「悪魔でないのなら、なんだと思った? 人か? この俺が人に見えていたのか? おめでたい奴だ。」
「離せクソッタレ!! 」
 そこで伊桜里という女が叫んだ。
「ミーチャ!! 」
「伊桜里、逃げろ!! 」
「グシャン。」
 七宝は右足で彼の顔を踏みつけた。
「質問にだけ答えろ。お前をどうするかの選択権は俺が握っている。」
 俺の知っている七宝ではなかった。
 何か他のバケモノ、そうだ悪魔に取り憑かれたようである。
 何かに操られているような、そんな不気味な彼を俺は見ている。
 これが極東のやることか?
「伊桜里ぃ!! 」
 息を切らせた少年がユグドラシルの最上階へとやって来た。
 名前は確か……志築斥、重力使いの少年だ。
「伊桜里は極東の人間で、俺の幼馴染です。」
 ダメだやめろ!!
 と言おうとしたが、もう遅かった。
 今の冷酷な彼に、弱みを見せるとどうなるか?
 感情で揺さぶろうとするとどうなるか。
 答えはもう出ていた。
「ならお前が殺せ、志築斥上等兵。お前が責任を持って。彼女は国際テロリストミシマッシュの一員だ。闇から彼女を解放しろ。」
「その罪を濯ぐという名目で!! 」
「斥……なの? 」
 俺は二人をこんな形で巡り合わせてしまったことを悔やんだ。
「…来ませんよ。」
「なんだ聞こえない。上官の命令は絶対だぞ。」
「出来ませんよそんなこと。なんなんですか七宝隊長、いつもはそんなんじゃないのに、もっと明るくて優しくて……そうだ、今のあなたには人間味のある暖かさを感じない。」
「冷たく…冷酷だ。」
「どうやら、上官の命令が聞けないみたいだな。」
「軍法会議、楽しみにしていろ。」
 七宝は剣を構えている。
「部下の失態は、上司が責任を負わなならん。」
「なにを…しようとしているんですか? 」
 少年は七宝にしがみついた。
「嫌です。俺は殺されてもいい。軍規違反でもなんでも、極刑でも、死ねというなら今ここで死んでみせます。」
「でも伊桜里だけは……」
「村が聖に襲われた中、唯一生き残ったんです。僕にはもう彼女しか残っていないんですよ。」
「両親も、姉も、弟も、妹も、いつも朝挨拶をしてくれた近所の農家のおじさんも、りんごをくれた青果店のおばさんも、僕に釣りを教えてくれた姉の許嫁も……」

「もう全部無くなっちゃったんですよ。」

「姉は来月結婚する予定だった。極東軍がもう少し早く……」
「だがお前は逃げた。自分が生き残るために、幼馴染を捨てて。そして、その亡霊が今はテロリストをやっている。」

「全部お前のせいだ!! 」

「七宝隊長…あなたはとても正義感が強い人だ。」
「でも正義ってなんなんですか? 」
「弱者を痛ぶるのが正義なんですか? 」
「深いことは考えるな。俺もお前も、ただ極東の奸を払うことだけ考えていればいい。」
「やめろよ。」
「正義なんてクソ喰らえだ!!自分倫理から外れていることを認めたくないだけでしょう。」
「ならここで死ねぇ。極東の未来のためにッ。」


  「やめろヨォおおおおォォォォ。」

 気がつくと俺は七宝に斬りかかっていた。
 嫌いな凛月で。
「そうやってお前は、俺の息子を処刑しようとしたのだろう? 俺を、俺の妻を、邪魔な奴を、自分を正当化するために。」
「隊長。残念です。分かってくれると思っていた。貴方なら。私の気持ちが。」
 彼は泣いていた。
 ならなぜ彼は泣いているんだ?
 なぜ冷酷な七宝剣は泣いているんだ。
「なぜ私の邪魔をするんです隊長!! 」
 そんなこと言うまでもないことだろう。
「極東の人々を護るのが俺の役目だと言うのなら。」
この子たち斥たちを護るのが俺の仕事だッ!! 」
 俺は部下を守るために元部下を斬り捨てようとしている。
 だが
 妥協したから俺は死んだ。
 妻が死んだ。
 子供を歪めた。
 そして今、少年たちの人生を歪めようとしている。
 俺は護る、この子たちを、守るために切り捨てる。
 何があろうとも。

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